東京高専 浅野敬一准教授寄稿2■起業家支援エンジェルIAIJがベンチャー道奥義伝授(第42号)■「技術教育と技術者倫理」
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IAIジャパンメールマガジン
■ 起業家支援エンジェルIAIJがベンチャー道奥義伝授 (第42号)■
東京高専・浅野敬一准教授よりの寄稿
【第2回】「価値づくり」と「価値の最大化」
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【第2回】「価値づくり」と「価値の最大化」
東京工業高等専門学校・現代企業論担当 浅野敬一 准教授
「価値づくり」の現場をみる―「地域産業論」の授業―
「価値づくり」に貢献できる技術者の教育と言っても、その方法は難しいものがあります。
そもそも、価値がつくり出される場所は、できあがったモノからはなかなか気付きません。
たとえば、みなさんがこれを読んでいるパソコンをとってみても、価値の源泉をたどるこ
とは容易ではないでしょう。もちろん、CPU、ハードディスク、メモリー等々、パソコン
を構成する部品の製造がパソコンの価値を生むことくらいはすぐにわかります。しかし、
部品の製造には、製造や開発の装置、さらにそれらの装置を構成する部品の加工等々が必
要になります。つまり、モノの価値の源泉はとても深く、またそこで生まれた価値がいく
つかの環をなし最終的なモノになる過程も複雑です。講義や実験だけでは、こうした
「価値づくり」の実際を理解することは、きわめて困難なのです。
ところが、「価値づくり」の現場は、実は本校の身近なところにありました。
きっかけは、別の教員を介して、ある会社の社長さんと出会ったことです。社長さんは、
地域企業としての貢献や将来の人材確保といった観点から、本校の学生との接点を望んで
おり、他にも魅力的な数社や八王子市の協力を得られるとのことでした。
早速、各社を訪問すると…、すごい!ナノレベルの加工・計測機器の開発、ジェット機や
F1マシンの部品加工、超精密な金型製作、短納期・高付加価値の試作品製作、携帯電話や
PHSの基幹技術の開発等々。
たしかに、目の前のモノからは気付かない、学生が知る機会も少ない、しかし、八王子市
を中心とする多摩地域は、まさに日本の製造業を支える価値づくりの現場だったのです。
こうして、夏休みの1週間、筆者の講義は最小限に、学生が各社の社長さんから直接話を
聞き、研究、開発、製造等の現場を直接訪問する授業、「地域産業論」がはじまりました。
受講生10名程度に対して、各社の社長さんをそれぞれ半日から1日拘束してしまう、何とも
贅沢な授業ですが、筆者は、価値づくりの現場を知ることに加え、次のような効果も期待
しています。
第一は、学生の視野を広げることです。価値の源泉を知ることは、技術者としての活躍
の場を知ることでもあり、将来の職業選択の幅も広がるはずです。
第二に、学生が価値づくりの場としての企業を理解することです。授業では、社長さん
自身が、質疑応答を含めて会社を説明しますが、実はみなさん技術系の出身です。技術を
出発点としながらも、狭義の製造、ものづくりではなく、人事、財務、販売、さらに取引
先との関係等々、価値づくりに必要な仕事全般を知ることができます(前回お話しした、
チャンドラーの”learning base”を目の当たりにできるわけです。)。
さらに、第三に、学生が企業と地域の関係を考えるきっかけにすることです。各社は、
地域全体で優れた技術者を育成するという理念を有しており、教育の機会と場を提供いた
だいています。授業に参加することで、地域への責任を実践する企業のあり方を、学生に
実感して欲しいと考えています。
「正味の価値」を考える
高専は、地域の協力も得ながら、価値づくりの能力を備えた技術者の育成に努めていま
すが、同時に、「正味の価値」を最大化するための教育にも取り組んでいます。
科学技術(technology)とは、科学的知識に基づき自然現象を世の中のために利用すること
であり、技術者(engineer)はその特殊な能力を備えた者です。
しかし、自然現象の利用には何らかの危険や害悪が伴うもので、もし、これらが便益を
上回れば、技術が生む正味の価値はなくなります。たとえば、便益10と危険性2、つまり
正味の価値8を提供する製品があるとします。このとき、便益10のままでも、危険性1に
できれば、正味の価値は9に増大します。逆に、便益を11にしても、危険性が4になっては、
正味の価値は減少するわけです。
このように、技術に伴う危険や害悪を最小化し、正味の価値を最大化する試みとして、
最近、本校を含む多くの高専や大学工学部は、「技術者倫理」の教育に取り組み始めて
います。
たしかに、プラス要素の積み上げではなく、マイナス要素をつぶしていくことは、一見
すると地味かもしれません。しかし、筆者のように特殊な能力を持たない一市民としては、
危険や弊害を削減し、正味の価値が最大化されるよう、技術者に対して要請したいのです。
また、危険や弊害を削減すれば、従来は利用困難であった自然現象を新たに利用できる
可能性もあります。
技術者倫理とは、技術の進歩を抑制するのではなく、より積極的に、ただし「正味の価値」
が最大化されるように、技術を発展させるものなのです。
次回は、東京高専の例を中心に、技術者倫理教育について具体的にお話ししましょう。
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