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2009/09/17

週刊マガジン・ワンダーランド 第157号(後半)

以下、第157号の後半です。

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◇連載「カトリ式小劇場の歩き方-10月」
 第10回 おい! 今なんどきだい? はい、今月も演劇の時間です。
 カトリヒデトシ

 本編の前に今月末のダンスを一つ。
 ダンスカンパニー高襟(ハイカラ)「ミルク・ミルク・ミルク」(9/29~30,
日暮里d倉庫。http://haikara2001.com/)カワムラアツノリの初期型でのダ
ンスを見て、すごく感心した。主宰深見章代の伊藤キムからカワムラへという
軌跡は、ダンス音痴の私にもかなり変なのだとは想像できる。女だけの「かわ
いいの乱」というキャッチ、扇情的なチラシ。うーむ、行きたい。

 さて、今月の演劇(笑)。

 落語は「笑い」ではない。
 というと、またまた韜晦かよ、と言われるかも。
 けれど、コントや漫才にも風刺やペーソスが現れるのだから、落語が「笑い」
だけではなく、「人間」の表出であることはご理解願えるだろう。
 では何か。答えとして、立川談志家元の『あなたも落語家になれる』(85年
三一書房)で有名になった、「落語とは、人の業の肯定である」という答えが
用意されている。八つぁんも熊さんも、若旦那もご隠居も、みな市井の人であ
り、それぞれが喜怒哀楽の中を行ったり来たりして暮らしている。落語は、日
常での「生」の苦しみ、葛藤と、それでも人生は続いていくという「現実」
(=業)を切り取るものであろう。だから「落語は辛い「生」の現実を笑いの
めし普遍に突きあたる」と言い直そう。
 そういう笑いと哀感の「ないまぜ」こそ、日々の生活の実感だし、演劇の目
指すべき方向性の一つのだと感じる。
 私が舞台の向こうに「ああ、これも落語だ」と感じる4本を紹介したい。
 北京蝶々「呪われたバブルの塔」(10/1(木)~12(月)、下北沢OFF・OFF
シアター。http://pekinchocho.com/)。早稲田劇研出身の伸び盛りな若手団
体。鈴木麻美や森田祐吏(一度見たら忘れない顔)という魅力メンバーに、大
好き小林タクシー(ZOKKY。今年は役者業がとてもよい)、競泳水着細野今日
子などが客演。ビフォーサイドとアフターサイドの2本立て。
 大塩世界は真面目に現代社会の様相に迫ろうとする。真摯なあまりちょい痛
々しいほどである。軽さを失わず、この世界の「業」に向きあう姿勢を高く評
価する。
 shelf「私たち死んだものが目覚めたら」(10/2(金)~4(日)、七ツ寺共
同スタジオ(名古屋)。10/9(金)~18(日)、アトリエ春風舎(東京)。
10/23(金)~25(日)、アトリエ劇研(京都)。
http://theatre-shelf.org/main.htm)。看板女優の川渕優子は昨年の利賀演
劇人コンクール2008での最優秀演劇人賞を受賞(その後、名古屋市民芸術祭
2008で審査員特別賞も)。今回も昨年の「エイヨルフ」に続く、イプセンの最
後の作品を上演。
 「エイヨルフ」はショートバージョンを見たために、「あそび」が少なくて、
かなり息苦しい思いをカトリはしたが、その真摯な構成演出はさすがに「利賀
仕込み」(こう書くと日本酒であるな)の実力。みんなもっと利賀系を見てほ
しいなぁ。と、しみじみする。東京演劇ばかりじゃないぞ、すごいのは。
 どうも矢野さん(靖人。構成演出)には、その真面目さとその苦闘ぶりに、
先代(八代目)文楽の造形した一八という幇間(たいこもち)を思い出してし
まう。
 一八ものでも至芸の「つるつる」という噺は、一八という幇間が求愛が実り、
結婚にオッケーがでたが、誠意を現すために一晩の禁酒を誓わされる。お座敷
で我慢に我慢を重ねるが、恩ある旦那の強引な勧めに結局酒をのんでしまい、
生涯一度の求婚をしくじるという筋である。
 「芸(芸術)」のために自分の人生やその幸福を犠牲にしてしまう「芸人
(芸術家)」の峻烈な厳しさというものを、彼には感じてしまう。芸術家って
その二つが両立しないものなんだなぁ。
 なんて見てるだけの人間は気楽で、無責任なんだろうと思う。それなのに見
にいくと、感謝されたりする。ほんと申し訳ないっす。タニマチになれるわけ
もないが、創作者に対する畏怖と尊敬の念だけは持ち続け、ずっと立ち会って
いきたいと思うのである。
 「おもしろうてやがてかなしき」なのは、「五反田団」が筆頭だろう。カト
リが紹介するまでもないビッグなカンパニーだが、10月は岸田賞受賞作の再演
「生きてるものはいないのか」と新作「生きてるものか」の2本同時上演
(10/17(土)~11/1(日)、東京芸術劇場小ホール1。フェスティバル/トー
キョー参加作。http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/)。「人はいつか、
必ず死ぬ」という旧作と「「死」から眺めるこの世、再び」(F/Tチラシより)
という2本立て。興奮の舞台。
 グズグズでゆるゆるで、しょーもなくて、あははと笑いながら、最後に戦慄
が待ち受けるのが、前田司郎世界の特徴。
 それは「粗忽長屋」にカトリの中では重なる。アニキに「お前が観音様の前
で行き倒れになってる」と連れてこられた熊五郎。段々アニキの話を信じ、最
後には、死体を抱きかかえ「オレってぇやつはなんて間抜けなんだ、こんなと
ころで死んじまいやがって」と周りがあきれる中泣き崩れた後、ふと「アニキ、
死んでんのは確かにオレだが、抱きかかえているのはいったいだれなんだろう」
とオチる噺。
 ダメな、くだらない行動をとる前田世界の人々をのんきに笑っているうちに
カトリは最後に八五郎の気分を味わうのである。
 もうひとつ、どうしても紹介したいのが、大川興業、暗闇演劇(登録商標。
演出手段は特許出願中)「OTOなOTO」(10/2(金)~5(月)、下北沢ザ・ス
ズナリ。http://www.okw.co.jp/schedule/10.html#d02)である。どうも演劇
好きな人にもあまり知られていないようで、ここは是非にと押しておきたい。
カトリ的には10月必見のベスト。
 幕開きから終演まで一切が闇の中である。声だけで芝居になるなら、ラジオ
ドラマじゃないか、と思われるだろう。しかし、ワンアイディアではない。
 歌舞伎に「だんまり」という暗闇を表現する手法がある。暗闇ゆえにすぐ傍
を通ってもわからないとか、手探りで触ったものを確認するという演技を、多
くはスローモーションとオーバーアクションで表現し観客にそれと分からせる
わけである。しかし大川興業はほんとに真っ暗闇である。鼻をつままれてもわ
からないってやつである。
 気分が悪くなる人や盗難やけしからぬ振る舞いをするものに備えて、暗視ゴー
グルをした団員達が客席を注視している(さすが特許出願中)。そこまで万全
にケアした上で…、くだらないことが始まる(笑)。
 しかしそれは、観劇にとって必須なはずの視覚を封じられ、他の感覚が異常
なまでに研ぎ澄まされる経験である。
 毎年ものすごい企みがある。一昨年は料理をした。鮭バターの香りが劇場中
に漂う(笑)。そこにあるものを醤油と間違って投入し、だれも嗅いだことが
ない、恐ろしい臭いが充満する。嗅覚は頭の中では構成できない。嗅いだこと
ないにおいは説明不能。だからこそあの珍妙な臭いは一生忘れないものになる
(笑)。
 去年は360°の光に包まれる身体というのを作り出した。美しかった。暗闇
にいるためにわずかな光がこの世のものとは思えないほど、美しく心に染みる
のである。
 演技ははっきりいって上手くはない、音量の調節が利かず、耳が痛くなった
りすることもある(それだけ聴覚も敏感になっているわけね)。でも、何が起
こるかほんとに分からないワクワク感、手探り感(文字通り。笑)が最後まで
持続できる希有な舞台である。
 今年はタイトルどおり「音」にこだわるとしたら…、興味はつきないなぁ。

 それでは、10月も劇場でお会いしましょう。


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 連載【レクチャー三昧】第57回 「劇場にはよくいらっしゃるの?」

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 友人が過日、コクーンで隣り合わせた上品な老婦人とちょっと言葉を交わし
た際、こう言われたそうです。
「劇場にはよくいらっしゃるの?こんな風に、月いっぺんとか?」
 ・・・<よく>、ねえ。月いっぺんだと年に12本、60年で720本<し
か>観られない勘定になりますねえ。(年400本観てる友人、彼女だったら
2年でクリアしてるなあ。)生涯にそれしか観られないとしたら、もう、自分
にとって保証されている出し物にしか行く気がしなくなるでしょうねえ。しか
し、このせりふを聞いて大笑いしていたわたし達のほうが、圧倒的マイノリティ
なのかもしれませんが。(高橋楓)

*無料でも予約が必要なことがございます。必ずウェブサイトでご確認下さい。
*各情報の真偽・変更・取消・思想信条背景等につき一切の責任を負いません。
各自ご確認の上お越しください。
*【レクチャー三昧】カレンダー版(ウェブサイト)もご活用下さい。
ただし、当「マガジン・ワンダーランド」でお知らせした催しが全て転載され
ているわけではありません。
http://www.wonderlands.jp/info/lectures.html


▽日本におけるメイエルホリドの(非)受容と日本近代演劇の挫折
2009年9月26日 (土) 17:30~19:30
早稲田大学早稲田キャンパス6号館3階318教室(レクチャールーム)
無料、要申込
講師は鴻英良氏(演劇批評家)、司会は松井憲太郎氏(演劇評論家、演劇博物
館GCOE芸術文化環境研究コース客員講師)
http://www.enpaku.jp/event/host/event20090926.html

▽浅草見世物 奥山の風景
2009年10月4日13:00~17:00、開演14:00
台東区生涯学習センター ミレニアムホール
無料、要申込
講演と実演
国際浅草学プロジェクト実行委員会(台東区・明治大学)主催
http://www.meiji.ac.jp/osri/asakusa/activity/2009/act_1004.html

▽アイヌと北米先住民のダンス・ワークショップ&レクチャー
2009年10月7日(水) 18:00~21:00開場17:30予定
早稲田大学早稲田キャンパス国際会議場3階第一会議室
無料、要申込
講師は酒井美直氏(Ainu Rebels (アイヌ・レブルズ)代表)、ローザリー・
ジョーンズ氏(デイスター:コンテンポラリー・ダンス-ドラマ・オブ・イン
ディアンアメリカ芸術監督)
http://www.enpaku.jp/event/host/event20091007.html

▽新派の芸と作品
2009年11月10日(火) 16:30~18:30(16時開場)
早稲田大学大隈小講堂
無料、予約不要
一部変更可能性有
講師は水谷八重子氏、大笹吉雄氏(演劇評論家)、児玉竜一氏(日本女子大学准
教授)予定
http://www.waseda.jp/enpaku/event/index.html#20070421

▽ミシェル・ノワレ(ダンサー・振付家)を迎えて
2009年9月21日(月)13:00~16:00(終了予定) 
早稲田大学戸山キャンパス36号館 演劇映像実習室 
日本語逐次通訳付
無料、要申込
映像上映とレクチャー
講師はミシェル・ノワレ氏(振付家・ダンサー)、藤井慎太郎氏(GCOE事業推
進担当者、早稲田大学文学学術院准教授)
http://www.enpaku.jp/event/host/event20090921.html

▽彫刻家、パトリック・フルリー講演会
2009年09月18日(金) 19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語日本語同時通訳付
無料
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1552

▽日本における心理学の受容と発展日時 
2009年9月19日(土)15:00~17:00 
立教大学池袋キャンパス12号館第3・4会議室 
無料、申込不要
講師は 大山正氏(元日本大学教授/東京大学教授)、司会は辻敬一郎氏 (名古
屋大学名誉教授) 
http://www.rikkyo.ac.jp/events/2009/09/5763/

▽フランス共和国は変則的か
2009年9月28日(月)18:00
日仏会館601会議室
フランス語 (通訳付) 
講師は ピエール・セルナ氏 (フランス革命史研究所所長、パリ第1大学教授) 
http://www.mfj.gr.jp/agenda/2009/09/28/index_ja.php

▽ジャン=クリスチャン・ブーヴィエ講演会
2009年10月05日(月) 19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
日本語 
無料
「世界のCMフェスティバル」関連イベント
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1557

▽忘れられた幻想文学の作品を発掘する
2009年10月8日16:20~17:50
明治大学和泉キャンパス
要申込
講師は 東雅夫氏
http://www.meiji.ac.jp/koho/hus/html/1252554271.pdf

▽子どもの遊び・学びの進化と深化 ~文化・社会・歴史の制約を解き明かす~
2009年10月17日(土)13:00~17:00  
お茶の水女子大学共通講義棟2号館2階201教室  
無料、要申込、当日参加可
http://www.ocha.ac.jp/information/20090908.html

▽明治学院コンサート・シリーズ 第17回≪ヴィオラの魅力≫ 
2009年 10月17日 (土) 15:00開演 (14:30開場) 
明治学院大学 白金キャンパス アートホール
無料 
http://www.meijigakuin.ac.jp/event/archive/2009-09-06.html

▽とにかく落語を楽しもう 
2009年11月14日 (土)13:30~15:00 (開場 13:00) 
東洋大学白山キャンパス
無料、要申込、先着順600名
講師は林家時蔵氏、入船亭遊一氏、中山尚夫氏(東洋大学文学部教授)
http://www.toyo.ac.jp/manabi/koza/bunkakoen/2009fbuh01_j.html

▽建築構造の未来と課題
2009年11月7日 (土)13時30分 ~ 17時30分
明治大学駿河台校舎リバティタワー1022
無料、予約不要
http://www.meiji.ac.jp/koho/hus/html/dtl_0004715.html


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【編集日誌】
☆今週は、2本目の「ヴァギナ・モノローグス」評と、平田オリザインタビュー
の第2回、連載「小劇場の歩き方」「レクチャー三昧」を掲載しました。特に
平田インタビューでは今回、劇団の運営に関して詳細に語ってもらいました。
演劇の身体性や演出方法に関して饒舌な演出家・劇作家は多いと思いますが、
劇団内部の運営方法をここまで明らかにできる主宰がどれほどいるか心許ない
限りです。多くの方に読んでもらいたいと思います。(北嶋)

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