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小劇場演劇やダンス、パフォーマンスを取り上げるレビューマガジンです。内容はWEBサイトにも再掲しますが、マガジン版が先行するオリジナルを掲載します。

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2009/09/17

週刊マガジン・ワンダーランド 第157号(前半)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.wonderlands.jp/

   マガジン・ワンダーランド(小劇場レビューマガジン)

   2009年 9月16日発行 第157号                          毎週水曜日発行

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【目次】
◇The Vagina Monologues (ヴァギナ モノローグス)
 「ヴァギナ・モノローグス」にみる社会と身体
 志賀信夫
◇インタビューランド第10回 平田オリザさん
(劇作家、演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)
◎100人の活動を2億円で支える アゴラ劇場と青年団の26年 (第2回)
 聞き手:北嶋孝(本誌編集長)+水牛健太郎(評論家)

◇連載「カトリ式小劇場の歩き方-10月」
 第10回 おい! 今なんどきだい? はい、今月も演劇の時間です。
 カトリヒデトシ
▽連載【レクチャー三昧】
 第57回 「劇場にはよくいらっしゃるの?」
 高橋楓

■web wonderland から===================== http://www.wonderlands.jp/ 

◇Bunkamura20周年企画「桜姫」
 新たな『桜姫』の世界を紡ぎ出す 現代版と歌舞伎版が共鳴して
 -コクーン歌舞伎15年目の挑戦-
 田中綾乃
◇The Vagina Monologues (ヴァギナ モノローグス)
 『ヴァギナ モノローグス』の御開帳
 杵渕里果

◇ワンダーランド支援会員を募集中!
http://www.wonderlands.jp/info/members2009-1.html


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◇The Vagina Monologues (ヴァギナ モノローグス)
 「ヴァギナ・モノローグス」にみる社会と身体
 志賀信夫

▽ヴァギナとフェミニズム

 70年代、フェミニズムの主張として、「女性はヴァギナで感じるのではない、
クリトリスだ」とするものがあった。それは男性がヴァギナを求めるのに対し
て、女性にとって自らコントロールできる性器はクリトリスであり、エクスタ
シーに達するのはクリトリスだという、男性のフロイト的?ヴァギナ幻想を打
ち破ろうという主張だったように思う。

 実際には、ヴァギナでもアヌスでもクリトリスでもエクスタシーに達するこ
とができるようなのだが、アフリカ社会などのクリストリス切除などの風習は、
性感帯としてのクリトリス優位性を実証しているようにも思える。
 ヴァギナが語るという『ヴァギナ・モノローグス』は、元々、性的好奇心か
ら見に行った。多少の情報で、それがフェミニズムの文脈の上に立っているら
しいことは知っていたが、かつてジェンダーの本も作っていたので、その点か
らも興味を惹かれた。

 この芝居は、作者イヴ・エンスラーがヴァギナについて、多くの女性にイン
タビューし、その結果に基づいて書かれたものだ。当初エンスラー自身が朗読
芝居として上演したが、次第に広がり数人で語るようになり、ジェーン・フォ
ンダ、ウィノナ・ライダーなど多くの有名女優たちも演じてきたという。世界
数十カ国で翻訳・上演され、日本では2006年に宮本亜門演出、東ちづる、内田
春菊などが出演して、上演されている。

 イヴ・エンスラーがインタビューした女性の数は200人以上。少女、老女、
主婦、娼婦、レズビアンなど、年齢や職業、背景もさまざまで、その体験も色
々である。そのため、語られる個々の体験はとても興味深い。暴行されたなど
の悲惨なものから、コミカルな話まで一杯に詰まっている。特に冒頭の夫が毛
を剃りたがるという話はロリコン趣味につながるのだろうが、マニアなネタで
インパクトがある。さらに最初のデートで車のソファを濡らして罵倒され、そ
れから男性と付き合えなくなった女性。鍋つかみをイメージしていた女性など、
ちょっとコミカルな話から、ボスニアのレイプの話、女性の心の叫びもリアル
に伝わる。

 そしてアクセントをつけるように、質問と回答が列挙される。「あなたのヴァ
ギナが着るなら」「口をきくなら」「匂いを例えると」など。「何を着せる」
という意図はどうもピンとこないが、列挙され文字で示されるイメージは多様
で面白い。

 また感じるときの声を並べて演じたり、さらに観客に「まんこ」と言わせた
りと、観客の意識に訴えるという意味で、サービス満点。ついつい笑いながら
も、ヴァギナと性のことを自然と考えていた。その意味で作者の意図は成功し
ている。

 この物語でも描かれているように、女性はヴァギナについて語ることは少な
い。「恥部」「陰部」という名が当てられ、陰に追いやられている。自分の性
器を見たことがない、恥ずかしいものだと親に教えられていたなど、社会的な
風習や倫理観から、女性の自分の性に対する意識は閉じられた部分がある。

 しかし実は男性もペニスについて、同様のところがある。親も「そんなとこ
ろ触るんじゃありません」といい、やはり「陰部」である。風呂に入っても、
丁寧に洗わずに恥ずかしいものとして扱う。積極的にきれいにするようになる
のは、性行為を意識してからではないか。これには当然、親や社会からの性に
対する価値観を反映しており、女性同様抑圧がある。

▽性と身体

 ところで、このようにある種のプロパガンダ的な意図を持って書かれた芝居
は、通常、面白くない。デモやシュプレヒコールと同様の社会運動ツールであ
り、それは一つのことしか主張しない。芸術表現は一つの感想や意識によって
受け取られるものではない。多様な視点を求めるからこそ芸術表現といえる。
反戦芝居や問題告発などの芝居が面白くないのはそのためだ。先日ある反戦イ
ベントに参加したが、フォークソンググループの歌が「憲法九条」とリフレイ
ンするのには呆れた。『花はどこへ行った』も『風に吹かれて』も反戦歌とさ
れるが、それを考えなくても惹き込まれる普遍性を獲得している。

 つまり、何らかの主張を持っていても、それ以上に多様にとらえられるもの、
その主張を超えたものがあれば、芸術表現といえる。この春、彩の国さいたま
芸術劇場で上演されたヤン・ファーブルの『寛容のオルギア』は、そういう作
品といえるだろう。ヤンの元々の動機は、ベルギーのアントワープが右傾化す
る流れに抵抗するというものだった。そして、資本主義、グローバリズムなど
の批判が展開する。しかし、オナニー場面や性というモチーフを驚くほど過剰
に使ったこと、さらにヤンの独自の美意識ゆえに、そこからはみ出し、身体の
存在と多様な意味が溢れる結果となっていた。

 この『ヴァギナ・モノローグス』にも似たところがある。というのは、性は
普遍的だからである。つまり、人間は性を離れては生きていけず、性は生と死
と同様に根源的なテーマだからだ。そして性に対するとらえ方は、個人として
も社会としても多様である。そのため、女性の社会的抑圧に対する主張があっ
ても、性はそこからはみ出して存在を主張する。この芝居にもそういう側面が
あるだろう。性というモチーフの本来持つ普遍性と多様性が、フェミニズム的
主張を超えている。

 また、この芝居はろう者とともに演じたことで、さらに別の様相を作り出し
た。演じつつ手話で語るろう者と言葉を語る役者。この二人一役は、劇団ク・
ナウカが語り手のスピーカーと演じ手のムーバーに分けて芝居を作ったことに
似ている。ク・ナウカは文楽的な構造で、言葉と身体の分離と解体、再構築を
行ったといえるが、今回の芝居ではろう者という存在による問題提起が重なる
ことで、別の次元の構造が重なった。このように分離した芝居の場合、演じ手
を見る場合、言葉を離れてその身体性により着目することになるだろう。ク・
ナウカでも、ムーバーを演じる美加理の身体性が輝き、他のムーバーの動きに
も舞踊性が感じられる場面が多かった。

 この芝居でも、ろう女優の忍足亜希子が、絞り出すように感情と表現を全身
で示すとき、そしてフランスのろう女優イザベル・ヴォワズ(国際視覚劇場所
属)が、独特の手話を含めた動きをするときに、そこに惹き込まれない観客は
いなかったろう。文字通り言葉に語れない部分で、身体表現が生きた。つまり
動き自体が独立して立ち上がり身体から来る魅力が表れた。

 つまり性と身体がフェミニズム的視点を超えて観客に与えるものがある。

 ただ、こういう社会的主張のある芝居にありがちなのだが、全体が緩い。場
面の間合いに謙虚なように、演劇、芝居として物語に引き込むための詰めが甘
い。活動自体に意味を見出すゆえに、芝居の完成度を引き換えにしているよう
に思えた。そこには、自分たちはマイノリティで正しいことを一所懸命やって
いる、という自己弁護と甘えがあるのではないか。

 女性たちが揃って編物をしている場面も、全体の緩さを助長している。女性
は編物というステレオタイプを批判しているようにも思えず、また優れた舞台
美術家である加藤ちかが担当したとは思えない散漫なセットは、自由さを象徴
することは推測されるが、舞台の弛緩を助長している。

 しかしそうはいいながらも、語られる女性と性の物語には心惹かれる部分が
多く、演じられる動きに引き込まれ、気がついたら性について考えていた。

▽「違い」の意味

 僕自身は、性は抑圧されているから、欲望を生み、性行動につながると、漠
然と考えている。しかしもちろん、その抑圧が、人間の基本的な権利や生活を
侵害するようなものについては、改善されるのが当然である。

 なぜ性は抑圧されるのか。性行為はなぜ恥ずかしいものなのか。沼正三の小
説『家畜人ヤプー』において、女主人は家畜人に対して恥ずかしいという感情
を持たない。
 性を抑圧しているものは、社会だと学者はいう。だが、その抑圧といっても
色々ある。例えば男性が挿入し女性が受け入れるという構造や、男性は日常的
に精子を生産し、女性は定期的ということ、生理的、生物学的に生じるものが
社会との関係で生む抑圧もあるだろう。この問題はここでは論じきれない。

 一方で、性を考えるときに、生物学的性と社会的性、セックスとジェンダー
という考えは普及した。しかし、この分類法は性の身体性を損なっているので
ないかとも思う。例えば性の商品化を考えても、商品化自体は社会的だが、そ
れを可能にしているものは、生物学的性と人間の性行為、性行動と性欲である。
単純に社会的性差をなくすというのではなく、性差を認識し、その差を生かし
た対応をすべきであろう。

 フェミニズムに限らず、社会的主張は時に過剰になる。例えば男女平等をい
うあまり、「男らしく」「女らしく」は差別だという時代もあった。男女は違
う、民族、宗教は違うといった違いを変えるのは無理がある。その違いをどう
生かすかということに、意味があると気づきはじめたのが現代だ。

 その意味でも、イヴ・エンスラーには、男性にインタビューして『ペニス・
モノローグス』を書いてほしい。そうして対比して差を見つめることで、この
作品はさらに意味をもってくるのだと思う。と書きつつ検索してみたら、男性
が作った『ペニス・モノローグス』があるらしい。では次は、ダイアローグ
(対話)か。『ヴァギナvsペニス・ダイアローグス』。あまり面白そうじゃな
い。やはりエンスラーの視点からのペニスの話、そんな芝居が見てみたい気が
する。

【筆者紹介】
 志賀信夫(しが・のぶお)
 舞踊批評家、演劇、美術、文学についても書く。編集者、ライター。『ダン
サート』『ダンスカフェ』『インビテーション』『バッカス』『TH(トーキン
グヘッズ)叢書』誌など。身体表現批評誌『Corpus コルプス』編集委員代表。
舞踊批評家協会世話人。舞踏新人シリーズ、『ダンスがみたい』実行委員など。

【上演記録】
The Vagina Monologues (ヴァギナ モノローグス)
http://www.sapazn.net/TVM.html
東京・六本木 俳優座劇場(2009年8月17日-23日)
作 イヴ・エンスラー
出演
〈手話〉
イザベル・ヴォワズ(IVT・フランスろう女優)
忍足亜希子(Milk It Inc)
大橋ひろえ(サイン アート プロジェクト.アジアン)
〈朗読〉
西田夏奈子
足立由夏(InnocentSphere)
大窪みこえ(WAHAHA本舗)
スタッフ
演出 平松れい子
翻訳 小澤英実
舞台監督 酒井詠理佳
舞台監督助手 坂野早織
舞台美術 加藤ちか
照明 大野道乃
音響 荒木まや
衣装 さとうみちよ
宣伝美術 京
手話通訳 柿本恵美子、井出敬子
日本ーフランス手話通訳 永井弓子
協賛 KDDI株式会社/株式会社セドナ/ナップエンタープライズ株式会社/株式
会社サティスホーム
後援 在日フランス大使館/全日本ろう者演劇会議
助成 芸術文化振興基金vmonologuesma-kku.jpg
協力 IVT、WAHAHA本舗、株式会社ミルキット、ナゴヤプレーヤーズ、
ステージオフィス、世田谷福祉専門学校・手話通訳学科、Queens
制作 廣川麻子(日本ろう者劇団)、田中真実、福島悠佳
制作協力 社会福祉法人トット基金日本ろう者劇団
企画・製作  サイン アート プロジェクト.アジアン
入場料 前売4500円 当日5000円 プレビュー3500円(8月17日・前売のみ)
トークショー・ゲスト:
8月18日(火)19:00 早瀬憲太郎 (映画監督/脚本「ゆずり葉」)
8月20日(木)14:00  喰始(たべはじめ) (WAHAHA本舗 主宰・演出)
8月20日(木)19:00 斉藤里恵(筆談ホステス)
8月22日(土)14:00 ピーコ (ファッションジャーナリスト)
8月22日(土)19:00 尾辻かな子(前大阪府議会議員、レズビアンアクティ
ビスト)
8月23日(日)14:00 オールキャスト


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◇インタビューランド第10回 平田オリザさん
(劇作家、演出家、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授)
◎100人の活動を2億円で支える アゴラ劇場と青年団の26年(第2回)
 聞き手:北嶋孝(本誌編集長)+水牛健太郎(評論家)

▽「天皇制社会主義」-青年団の求心力

-これまでアゴラ劇場の話をうかがいました。次に青年団の話に移りましょう。
先に挙げたセゾン財団のニュースレター掲載の文章(注1)によると、青年団
の40人定員制、年1回の全体ミーティング、集団を腐敗させるヒエラルキー解
消の手だてなどが取り上げられていました。13年前の原稿ですが、いまも変わっ
ていませんか。
平田 定員は少し増えました。演出部ができたので俳優の定員は50人、実質は
55人ぐらいです。

-演出部は何人ぐらいいますか。
平田 何人になるかなあ(笑)。今年新人がだいぶ入って、演出部は出入りが
激しいからつかめないことがあるんです。俳優と違って演出家は選抜のしよう
がないので、希望すれば一応入ってもらって、半年ぐらいしてから実質的に選
抜するということになりますね。

-演出部の話はまた後でお尋ねします。その50人あまりの団員と平田さんの間
の関係はどうなるのでしょうか。個別の契約、劇団と団員との契約になります
か。
平田 一応契約の形式をとります。

-それぞれ自分のやりたいこと、計画を挙げて個別に話し合って合意するので
しょうか。
平田 それほど大げさではないですけどね。時系列で言うと、4月に全体ミー
ティングという劇団の総会があって、そこでぼくが所信表明を2時間ぐらいし
ます。経営状況の説明もします。それから各自にちょっと一言二言、1年を振
り返ってとか抱負とか、もちろん私への質問もしてもらいます。特別の議題が
あるときは、例えばギャラの問題とかでは選択肢をいくつか示して希望を聞く
こともあります。私の劇団運営に関して、厳しい意見が出るときもあります。
 それが終わって5月6月に個人面接があって、一人ずつ話す時間を取ります。
そこで結構しゃべる人もいれば、今年もよろしくお願いします、と1分で終わ
る場合もあります。それぞれです。ここでもまた経済状態の話をする場合もあ
ります。
 7月8月は年代別のミーティングに入ります。つまり古くからいる団員と新人
とでは要求が違いますから。若い人たちは出来るだけ出演の機会を多く作って
ほしいと言いますし、古くからいる人はやっぱりギャラを上げてほしいという
場合がありますね。それぞれ団体交渉の場を設けるわけです。全体になると、
若手は気を遣って意見を言いにくかったり、個別にぼくと1対1だと萎縮するか
もしれない。いまは全体を6世代に分け、それに演出部と制作部だから計8回。
毎週1回ぐらいの割合で年代別ミーティングを開きます。それでだいたい年間
の方針が決まる。必要があれば年末にもう1回ぐらい全体ミーティングを開き
ます。

-いまは年代別ミーティングの真っ最中ですね。
平田 そうです。年代別ミーティングは、お酒も入ってざっくばらんな感じで
す。そのため、この季節は飲み過ぎになります。

-先の文章では、劇団員の年俸制を目標にしていましたが、10年あまり経って
いかがですか。
平田 まだそこまで行ってません。まだまだですね。半分までいかないかな、
四分の一ぐらいの俳優がアゴラ劇場で働いているので、彼ら彼女らは青年団の
出演料とアゴラで働いたアルバイト収入で食べています。もうちょっとすると
劇団員全員50人は無理でも、30人ぐらいなら食べていけるかな。制作と技術ス
タッフは15名くらい、うちで雇用して、どうにか食べています。

-食べていけるというのはどれぐらいの収入を指しているんですか。
平田 最低限です。手取り月収15万円ぐらい。いまはフルタイムで働いて13万
円ぐらいですかね。あとは他で、アルバイトもしてもらう。

-劇団の出演料は時間給制度になっていますよね。これも個人差があるんです
か。
平田 それほど細かな区別はしていませんが、新人だけ少し低めになっていま
す。
 劇団の全体収入と必要経費は決まっているので、それ以外は全部ギャラに回
しますよ、というのがうちの基本的な考え方です。おおざっぱに言うとそれを
総労働時間数で割ると、時給500円ぐらいになります。稽古の時間はもちろん、
劇団内でオーディションを受けている時間、チラシの折り込み作業の時間、ミー
ティングに参加している時間も全部勤務時間に付けます。そのトータルが毎月
支払われる。こういうシステムです。よく支払いが遅れるんですけどね。
 これは古い保管用の資料ですが(と見せながら)、「B指定」とあるのは特
殊な仕事、例えば翻訳ですが、時給800円です。ほかより高いけど、外部に出
すよりは安いという設定ですね。「F指定」というのは、キラリ☆ふじみ勤務
です(注5)。
 基本給は、年齢ではなくて、出演舞台数で4段階に分かれて、新人は時給300
円、これはホントに見習い期間の時給ですね。あとは400円、450円、500円と
分かれている。劇団員の大部分は、時給500円です。あとは職種別に、標準が
A、特殊がB、ふじみ勤務がF、いまS指定といって超特殊技能や拘束時間が
長い勤務もあります。

-それの格差や職種はどうやって決めますか。
平田 決め方は特殊で、ぼくが統計資料を基にシミュレーションを出して、ほ
ぼ隔月に発行している「青年団だより」に掲載して説明します。全体ミーティ
ングのほか個別、世代別のミーティングで意見を聞いて、最終的にはぼくが決
めます。
 パイは決まっているわけですから、あとは配分の仕方を、みんなの意見を聞
いて、私が裁断するという流れですね。

-平田さんはアゴラ劇場の支配人、青年団の作・演出家で主宰、(有)アゴラ
企画の少し前まで代表取締役でいま役員。すべてを平田さんが決めるのですね。
平田 そうです。天皇制社会主義ですね(笑)。万民の意見を聞きつつ、ですね。
(注1)「劇団に運営戦略はあり得るか 青年団の軌跡を通じて」。初出:セ
ゾン文化財団ニュースレター「view point」No.1 1996年10月。『都市に祝祭
はいらない』(晩聲社、1997年)収録。
(注5)平田さんは2002年-2007年、キラリ☆ふじみ(埼玉県富士見市民文化会
館)初代芸術監督(当初は契約プロデューサー)を務めた。「『キラリ☆ふじ
み』の冒険」(「芸術情報アートエクスプレス」No.20、社団法人 全国公立
文化施設協会、2005年)参照。
http://www.zenkoubun.jp/print/geijyutu/art20/P20-21.pdf

▽演出家は俳優によって選ばれる

-以前は俳優が制作を兼ねていたと思いますが、いま制作部は別建てになって
いますか。
平田 さすがにそこは分けてます。ただ俳優がやる部分がないわけでなくて、
助成金関連の仕事のトップは俳優が全部担当しています。書類を書くのも、俳
優たちがプロジェクトチームを組んで取り組みます。計算などの単純作業も多
いので。
 会計も俳優が担当しています。会計はコンピュータ化されていて、レシート
を打ち込むだけだから、向き不向きはありますが、誰でもできるんですよ。こ
こもほかの小劇場の劇団と違う点でしょうね。会計と企画が完全に分かれてい
る。うちの制作は、演劇の制作としてみたら不完全といえば不完全で、会計処
理ができないのでほかに行って通用しないかもしれません。他の小劇場の劇団
は企画と会計を一緒にやらなければいけないですから。でも普通の会社は分か
れてるでしょう。

-青年団のラインナップはどう決まるのですか。
平田 「青年団だより」にアンケートがあって、やりたい演目は何かという欄
があります。ここに書き込んでもらったものを参考にして、あと制作の意見も
あるので、それらを聞いて、でもやっぱりぼくが決めます。

-公演の企画が決まります。そのあと出演する俳優、つまり配役はどのように
決まるのですか。
平田 いまの同じアンケートに、すでに上演が決まっている演目も書かれてい
て、俳優がどの公演に出演したいかを記入する欄があります。「ぜひ参加した
い」「参加してもいい」「参加したくない」「その他」があって、これに丸印
を付けます。新作も再演も基本的には同じですが、新作に関してはオーディショ
ンがないので、希望者の中からぼくがキャスティングします。
 再演の場合は、役のノミネートを割り振って、オーディション概要を発表し
ます。これが上演の1年ぐらい前です。俳優も自分が希望する役を追加できる
ようになっていて、それで調整した上で1ヵ月後ぐらいに、劇団内オーディショ
ンを実施します。そこで再演のキャスティングが決まるという仕組みです。
 若手自主企画や青年団リンクの場合は、演出家が企画書をぼくに持ってくる。
たまに俳優や制作者が企画する場合もあります。その段階で企画書がきちんと
している、予算組がしっかりしている、キャスト・スタッフの8割が劇団員の
中から決まっている、などが条件です。だから若手自主企画は、俳優たちの賛
同がなければ実施できません。これはぼくが選んでいるのではなくて、実は俳
優が企画を選んでいるんです。

-なるほど。演出家はそこで選ばれるわけですね。
平田 その通りです。そういう合理的なシステムを構築したつもりです。
 ぼくは、演出家の大きな資質の一つは俳優から信頼されることだと思ってい
るので、そこは神の見えざる手が働く。信頼というのは人間的な信頼といった
生やさしいものだけではなく、俳優はホントに正直な生き物なので、自分をよ
く見せてくれる演出家についていく。ちょっと嫌なやつでも、作品が素晴らし
ければついていく(笑)。俳優が一人で、演出家の優劣を決めるのは無理でも、
30人も40人も俳優がいると、その中で必ず調整機能が働きます。これは、ほぼ
間違いなく機能します。取りこぼしは多分、ないはずです。
 ですから、うちの演出家は入団したらワークショップをしたり、劇作家なら
リーディングしたり俳優に対していろいろアピールをします。これも日本の小
劇場にない部分ではないでしょうか。要するに、日本の小劇場の場合はどうし
ても、演出家や制作者の方が権力性が強くて、俳優は使ってもらう立場になる。
うちの場合は、俳優の賛同を得られないと上演ができないので、演出家が一生
懸命、自分の仕事を説明するようになります。
 いまセゾン文化財団のフェローの対象が十数名いますが、うちの出身者が中
野さん(中野成樹)を入れて4名います。今年の新規助成3名のうち2名、松井
君(松井周・サンプル)と多田君(多田淳之介・東京デスロック)は青年団で
す。セゾンの方に聞くと、うちの出身者は圧倒的に説明能力が高いそうです。
ぼくは俳優にはあまり怒らないんですが、演出家には厳しく辛く当たる。ダメ
な企画書を放り投げてしまうこともあります。予算も細かくチェックします。
演出家の企画力や予算作成能力を鍛えてくれる場は日本で青年団しかないでしょ
う。作品の中身がいいのは前提ですが、同じレベルなら、それはうちの連中が
勝つに決まってます。

▽青年団リンクが生まれたわけ

-演出家絡みでお尋ねしますが、青年団リンクという形態があります。組織的
にはどういう位置づけなんでしょうか。これまでの小劇場で演出家が作家を兼
ねて主宰するのが圧倒的に多かったのはご存知の通りです。たまに座付き作家
と演出家が別のケースもあります。作家が複数の場合もある。ただそういう関
係はたいていの場合、しっくりいかなかった。幸せな関係を築けたのは少数だ
と思います。そうでなくても、なにもかにも兼ねたオールマイティーが存在す
る多くの場合は人間関係がこじれたり、特に異性関係が引き金になったりして、
劇団が分裂したり解散したりするケースは少なくありません。劇団の中でどう
いう形で運営されているのでしょう。規約を作ったりしているのですか。
平田 規約はあります。メーリングリスト上にあるので変わるし、どんどん付
け加えられていきます。

-その基本は何でしょう。
平田 うーん。青年団は、ぼくの芝居を上演する集団、ということです。俳優
たちは基本的に、ぼくの芝居をしたいから入ってくる。まずそれが基本です。
で、しかし、50人も60人もいて、ずっとぼくと一緒にはできないので、彼らの
出演の機会を作らなければいけなくて、演出部ができた。演出部の人たちには
公言していますが、演出部はぼくにとって「どうでもいい」存在です。演出家
を育てる仕事は、劇場の公的な使命としてはあるけれど、ぼくの個人的な欲求
としてはまったくない。子分を作りたいとも思わない。だから厳しく当たるん
ですけど、演出部は基本的にほったらかしです。その代わり俳優に課せられて
いる作業ノルマは、演出部にはありません。まったく自由放任です。せいぜい、
私の演出助手につくぐらいですね、学ぶ場としては。
 青年団はぼくと俳優たちの集団です。技術スタッフにも、アゴラと青年団を
使ってやりたいことをやりたい人だけが入ってきてくださいとずっと言ってき
た。それは演出部も同じことで、青年団はそういう場なのだということです。
ここには質の高い俳優が数十人いて、能力のあるスタッフもそろっていて、劇
場もある。ここでやりたいことのある人は入ってきて何年間かここにいて、そ
してできれば速やかに出て行ってください、というスタンスです。他に細かい
決まり事や、要求される忠誠心はない。その緩さが成功の原因だと思います。

-でも平田さんのこれまで言い続けてきた考え方では、劇場が劇団を抱えてい
るのなら、青年団リンクは劇場に所属するはずではないですか。劇場が演出部
を持って、そこにリンクがあるのではないでしょうか。いまのお話をうかがう
と、青年団という劇団が内部的な必要があってリンクという組織を作り出して
いるという逆の形態になっていますね。
平田 そこは全部を計画的にやっているわけではなくて、初めにも言ったよう
に、私の中に理念はあるけれども、あらかじめすべて計画があったわけではな
い。たまたまそうなった、ということが一つあります。演出部はもともとは、
ぼくの記憶では、いま「タテヨコ企画」を主宰している横田修君が俳優で入っ
てきて始めた。あと、「地点」の三浦基君も前後して入ってきた。それで、や
りたいならやってみるか、といって始まったんです。そんなにきっちり、最初
から詰めた話ではない。
 ゆくゆくは、いまおっしゃったように、アゴラの下に平等にある形ができる
かもしれませんが、現状では天皇制社会主義の形をとってますし、私の個性で、
かろうじて成り立っているところがある。また、演出部にもやっぱり青年団員
だという誇りもある。アゴラ劇場ではその求心力はまだまだ薄い。
 私には、個人的な欲望はあまりないし権力欲もない。猜疑心や嫉妬心でもの
を決めることも、ほとんどない。経理も含めて、情報はすべて、さまざまなレ
ンジで公開している。そのことを劇団員全員が信頼してくれているので、かろ
うじて成り立っているシステムです。私なしに、アゴラ劇場でこれをやろうと
したら、もっと経済的な保証をしっかりしない限りできない。

▽劇団が生き残るには

-演劇に集団性は付きものですが、それが劇団という形を必ずとらなければい
けないともかぎらない。少なくとも現状はそうなっています。平田さんがプロ
デュース制ではなく、劇団という組織形態を選択した理由をあらためて話して
いただけますか。
平田 もう何遍も言ってきましたが、演劇で何か新しいことを持続して行おう
とすると劇団という組織が必要です。フランスでも二極分化していて、真ん中
に公共ホールがあり、劇団として本当の意味で機能しているのは太陽劇団とピー
ター・ブルックの劇団の二つくらいでしょう。ピーター・ブルックの劇団も活
動停止のようですが。あとは商業的な劇団です。
 ただ日本の小劇場のような存在、活動がないかといえばそうではなくて、す
ごくあるんです。アヴィ二オン演劇祭のフリンジに参加するような集団です。
でも、これは、日本と同じでほとんど食べていけない。
 日本もいずれ劇団の再編が必要になってくるでしょうね。例えばそれは、演
劇鑑賞会の解体とともに起こるかもしれないし、助成金制度の組み替えによっ
て起こるかもしれない。劇場法ができて公共ホールが整備されると、それがきっ
かけになるかもしれない。結局、どうしても劇団でなければいけないところし
か生き残っていかないと思います。

-そこをもう少し。どういう条件がないと生き残らないのですか。
平田 やはり、ぼくの体験からすれば、基本は作品だと思います。常に優れた
作品を生み出すことが必要だと思います。それしか、劇団の求心力はない。俳
優たちはさっきも述べたように、すごく直感的動物的に動きますから、魅力あ
るところに人は集まる。それと、この演出家ならどうにかしてくれるんじゃな
いかという信頼感でしょうね。それでしか俳優は動きません。昔みたいに、いっ
たん入団したら、俳優を囲い込むような状況なら、多少ヘンな劇団でも生き残
れましたが、普通にワークショップが行われるようになり、大学の演劇科が整
備され、情報も流通するようになってくると、もうごまかしは効かなくなりま
す。人材の流動性も激しくなるでしょうし、劇団の淘汰が始まるんじゃないで
しょうか。

-青年団は団活動以外のアルバイトは可能なんですか。
平田 もちろんです。映像関係は俳優たちが別会社を作って独自に活動してい
ます。ぼくは一切タッチしてません。基本的には他劇団への客演は一応許可制
ですけど、だめと言ったことは一度もない。相談に乗ったことはもちろんあり
ますよ。それはやめておいたほうがいいじゃないかなあ、とか(笑)。

-俳優の新規採用も平田さんが決めるのですか。
平田 そうです。

-新陳代謝というか、そろそろ入れ替えた方がいいという判断、その基準も平
田さんが決めるわけですね。
平田 俳優の新規募集は2年に1回です。ただ今年は募集しなかったので次回は
3年間隔になります。俳優は200人ぐらい受験して、選抜された15人から20人ぐ
らいが3ヵ月一緒に活動して、そこで半分ぐらいになります。一年後に、もう
一度選抜があって、だいたい落ち着く感じですね。

-毎年おやめになる方は何人ぐらいになりますか。
平田 家庭の事情とかの自然減もあるし、休団とか海外研修に出てたり、いろ
んなことがあります。自分からやめる俳優は、ほとんどいないんですけど。現
状は3年間に7人減って10人入るみたいな感じですね。少しずつ増えている。

-演出部は放し飼い状態と言うことでしたが、財政的にもあまり予算をかけて
いないのですか。
平田 企画が通れば、アゴラ劇場でもアトリエ春風舎でも劇場費は無料になり
ます。春風舎なら1ヵ月くらいの稽古期間も劇場を使えます。光熱費も無料。
さらに制作支援金が20万円から80万円ぐらい出るので、合わせると真水の補助
が劇団から100万円~200万円出ます。それ以外に輪転機を使ったり宣伝・広報
のデータを使ったりオンラインチケットのシステムを使ったり、無形のサービ
スもあります。自分たちで独立してやったらおそらく200万円~300万円ぐらい
かかる経費分は劇団から恩恵を受けている。多田や松井が独立して、30万円、
40万円の助成金を得るのがどれだけ大変か、劇団を出て初めて分かったと言う
んですけどね。その助成金獲得のための努力を劇団の中で競争させる、疑似競
争させるわけです。

▽拠点劇場と劇場法成立のために

-それぞれの年間予算はどれほどなんでしょう。
平田 それぞれというのは?

-青年団とアゴラ劇場それぞれという意味ですが。
平田 それはどんぶり勘定です(笑)。ただ全体を運営しているのが有限会社
なので、最終的な決算はもちろん出ます。売り上げが約2億円です。助成収入
がいくら、チケット収入がいくら、海外公演からいくら、地方公演からいくら
という形で出て来るので、翌年度の予算はこれを基に立てます。
 支出もどんぶり勘定で、残った分をギャラとして分けます。

-『芸術立国論』のなかで、助成の年額が4000~5000万円となっていましたが、
現状はもっと増えているのでしょうか。
平田 増えています。いろいろ集めると総額1億円ぐらいになります。

-芸術拠点助成事業からはいくら出ているんですか。
平田 年度によって小屋によって違いますが、アゴラ劇場でだいたい6000万円
から8000万円です。

-世田谷パブリックシアターや彩の国さいたま劇場などはもっと高額でしょう。
平田 おそらく億単位でしょうね。ただ公共ホールでも、もっと少ないところ
もたくさんあるんです。
 それから拠点助成は赤字補填なんです。だから規模の大きい劇場ほど高額の
助成がもらいやすい。逆に言うと、赤字に耐えられる小屋しか受けられない仕
組みになっている。いずれこれは変えなければいけないし、政府にも働きかけ
てはいます。ただ、私学助成も憲法に抵触するんじゃないかという法律議論が
あるぐらいなので、団体助成の問題はなかなか難しい。
 ここは国の考え方を変えていかなければいけない。芸術振興は公共事業なん
だと転換しなければならないと思いますね。だって、公共事業の道路建設で赤
字補填なんてことはないでしょう。公共の作品を創造しているのだと認識して
もらって、新国立劇場と同じ地平で芸術振興をしてもらいたい。根本を変えな
い限り、現状は変わらないですよ。

-2001年に文化芸術振興基本法が成立しました。その後、平田さんが考えてい
るのはやはり、劇場法でしょうか。
平田 そうですね。

-指定管理者制度によって劇場運営が変わったと言われてますが、それだけに
矛盾も表面化しています。劇場法の成立で、その問題をきちんとできるのでしょ
うか。
平田 きちんとできるかどうかは分かりません。図書館法があっても図書館に
も指定管理者が入っているし、問題がクリアされているわけでないのと同じで
はないでしょうか。ただ劇場法ができれば、そこに定められた「特殊な施設」
と言う理由で、自治体が指定管理者制度を拒否する根拠法にはなる。いまは劇
場を守る法律がまったくない状態です。ともかく、これを変えたい。

平田 「join」の最新号(注6)にも載りますが、ぼくと高萩さんがある年、
地域創造の理事長レクチャーに呼ばれ、日本の演劇の問題点は何かと尋ねられ
たことがあります。そのときの答えは、劇場の数が多すぎる、劇団も多すぎる、
制作者がいない-。打ち合わせなしでしたが、二人ともまったく同じ答えでし
た。
 その中で劇場は幾つあればいいのかと聞かれたとき、ぼくは100、高萩さん
は30と答えた。その根拠は、フランスには劇場(国立劇場)が約50、人口が
6500万人だから、日本の人口はフランスの約2倍なので、ぼくは劇場の数を2倍
して100と答えた。高萩さんは日本の面積はフランスの三分の二だから30(笑)。
でも感覚としては、ぼくも高萩さんも同じなんです。要するに拠点劇場は30か
ら100でいいんです。それはものを作る劇場です。クリエーションする劇場が
それぐらいあればいい。いまは北九州、静岡などなど全国で10個所ぐらいです。
これが30になると全然違う。各劇場を回せるようになる。そうなると東京を頼
らなくて済む。アーチストは東京にいても、制作と技術のスタッフが各地の劇
場にいたら、年間10本ぐらいのプログラムを作って、お互いに回せるようにな
る。そうすると、地方都市で世界的な作品を創造できるようになります。いま
は静岡でも北九州でも単独でやっているから大変なんです。そのシステムを作
るためには、その根拠法となる劇場法がどうしても必要なんです。芸術監督や
プロデューサーのいるところを劇場と定める、とするわけです。できれば設置
義務を入れてほしいけれど、そこは難しいようです。
(注6)検証座談会「税金を使って演劇をつくる正当性について」。社団法人
日本劇団協議会機関誌「join」65号掲載。
http://www.gekidankyo.or.jp/sys/book.php?com=joinList&id_i=53

▽芸術政策の転換を

-文化芸術政策に熱心なのは民主党ですか。
平田 いや、表に出ている政策としては、民主党がだめダメなんです。ご承知
のように、二大政党制になると、中間政党の方が文化政策に熱心になる傾向が
どの国にもあって、日本でもいちばん勉強しているのは公明党と共産党です。
そこの議員がいちばん勉強している。それと、文化政策は、政局の取引材料に
しやすい。二大政党制になったときに中間政党が取引材料として教育とか文化
とか、自分の党の機関誌の見出しに、成果として誇れるような項目を出す。要
するに外交とか経済の大きなイッシューはどうしても二大政党のガチンコ勝負
になっちゃうから、そこで、小さな専門的な議案を取引材料で通すのが、ヨー
ロッパのある意味健全な議会のあり方なんです。日本もやっと、これから、そ
ういうことが戦略的にできる国になるってことじゃないですか。

-高萩さんにしても平田さんにしても、モデルはフランスなんですか。フラン
スははっきり「ソフトで食べよう」というスローガンを政策の基本にしている
国じゃないですか。確かに航空宇宙産業とか軍事産業とか多少目立つ部門はあ
りますが、産業の中心は農業で、最も外貨を稼ぐのが観光業でしょう。フラン
スの人口は6400万人ぐらいですが、外国からの観光客はそれより多くて約7500
万人。日本の人口は1億2000万人で海外観光客が800万人ちょっと。これは大違
いです。芸術が国内の需要を満たすということだけじゃなくて、『芸術立国論』
に書かれたような発想の大転換を伴わないと、フランス式のやり方もうまく機
能しないのではないでしょうか。
平田 ただ産業構造の転換にあたって、第三次産業、サービス業を下支えする、
ぼくの理屈は、まあ最初は詭弁だったかもしれないけど、芸術っていうのは、
先端研究であり基礎研究であるということを粘り強く言ってきた。第二次産業
を支えるのが科学であり、技術。それに年間4兆円、5年計画で20兆円出してい
る国がですよ、どう見たって第三次産業中心の国になっていかざるを得ないの
に、芸術文化に対して1000億円とか2000億円のオーダーでしかお金を出してい
ないのは、施策としてバランスを欠くんじゃないか。これを、この10年ずっと
愚直に言ってきた。それは、少しずつ説得力を持つようになっていると思いま
すし、ぼくは可能性はあると思っています。

-文化庁の予算はこのところ1000億円余りで推移してますね。
平田 しかも日本の場合には、文化財保護が非常に大きな割合を占めている。
4兆とは言わないけど、文化財保護も入れて1兆円はないと、ちょっときつい。
まあ、どこまで入れるかによるんですけど、芸術教育とか国際文化交流なんか
も入れて、文化関連予算全体で1兆円でいいと思う。

-さっき公明党と共産党が熱心だっておっしゃいましたけど、おそらく政権交
代起きますよね。(民主党との間で)芸術文化政策どうするかというアプロー
チもあるし、平田さんの方からのアプローチもあると思うんですけど、そのあ
たりはどうでしょう。
平田 年齢が近いこともあって、民主党の若手の議員とは非常に親しいです。
時々、お酒も飲んだりしますが、私の方から何かアプローチをするということ
はありません。

-今年の2月、国会だったでしょうか、「ヤルタ会談」の舞台を見せたそうで
すが、あれはどういういきさつですか。
平田 これも、民主党を中心に親しい議員がいて、彼らが企画して憲政記念館
でやりました。

-国会議員の有志がやったという形ですか。
平田 ええ、超党派で。共産党から自民党まで、公明党は斉藤環境大臣、あと
小池百合子さんとか、小渕優子大臣とか。

-何人ぐらい、どんな構成で。
平田 発起人の議員は30名くらいです。ただ、そのとき国会がいろいろもめて
て大変な時期だったんで、実際に見に来た国会議員は30人ぐらい。お客さんは、
全部で150人ぐらい来ました。マスコミの方もたくさん来ましたね。

-そういう話は聞いたことないですね。国会議員らを直接巻き込んでデモンス
トレーションするのは。
平田 去年は民主党の勉強会で、これ多分、憲政史上初なんですけど、議員会
館で演劇のワークショップを開いた。民主党の議員15人ぐらいに、演劇ワーク
ショップを体験してもらいました。実際に参加してもらうとね、ワークショッ
プがどれほど子どもに役に立つか、別に無理矢理台本持たせて演劇やらせるわ
けではないということを理解してもらえる。演劇とか演劇教育には、ものすご
く固定したイメージがあるわけですよ。だからやってもらって理解してもらえ
る。民主党のネクストキャビネットの文部科学大臣の小宮山さん(小宮山洋子)
は成城学園の出身です。成城は小学校3年から演劇の授業があるので、演劇教
育には熱心です。民主党のマニフェストにも、「コミュニケーション教育」と
いう形で入れてもらった。だから、これは意外にすっと通る可能性があります。
なんだかんだ言って文化行政って全体から見れば小さいから、意外と、政権交
代のどさくさ紛れに通ったりする。だからこそ、繰り返し、普段から言ってお
かないと。

-芸術政策関連の話になりますが、新国立劇場の芸術監督交代問題、平田さん
は今回あまり表に出なかったですね。
平田 連名へのお誘いは受けましたけど、あの内容では全面的には賛同できな
いとお伝えしました。永井愛さんは、人間的には大変信頼していますし、おっ
しゃっていることは多分、すべて本当のことだと思います。ただ、それと、官
僚、今回は、もう官僚だけじゃなくて、政官学ですから、それが一体となった
時に、そこと闘うっていうのはまったく別のことなんです。そこには戦略とか
戦術がないといけない。

-演劇関係者の記者会見や関係者の集会に参加して主張を聞きましたが、ちょっ
と心許ない気がしました。向こうは巨大な組織で、それに生活をかけて動いて
いる。彼らと闘うには本当に、こちらが壊れるぐらい働かないとかなわない。
結局交代人事は通ってしまいましたね。

平田 やはり闘うときには、こちらも命がけでですね、総力戦でやらないとい
けない。私は私のやり方で闘いたいと思っています。そのことは、直接永井さ
んにもお伝えしました。
(以下次号)


第1回(第156号)
▽アゴラ劇場、青年団、アゴラ企画
▽借金は「現象」である-小劇場の台所
▽追随したくなる新企画を-劇場プロデュース方式への決断
▽モデルのない支援会員制度づくり

第2回(本号=第157号)
▽「天皇制社会主義」です-青年団の求心力
▽演出家は俳優によって選ばれる
▽演出部と青年団リンク
▽劇団が生き残るには
▽拠点劇場と劇場法成立のために
▽芸術政策の転換を

第3回(第158号予定)
▽桜美林から阪大へ
▽認知心理学とロボット演劇
▽2010年代演劇のイニシアチブ
▽真善美からの撤退-現代演劇の新しい芽と可能性
▽現代口語演劇の行方
▽セクハラ・パワハラで処分も-厳しい基準と劇団規約
▽近代演劇の到達点とその先へ

(以上、前半)
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