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小劇場演劇やダンス、パフォーマンスを取り上げるレビューマガジンです。内容はWEBサイトにも再掲しますが、マガジン版が先行するオリジナルを掲載します。

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2009/04/23

週刊マガジン・ワンダーランド 第136号



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.wonderlands.jp/

   マガジン・ワンダーランド(小劇場レビューマガジン)

   2009年 4月22日発行 第136号                          毎週水曜日発行

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆劇評を書くセミナー「座・高円寺」留学コース5月開講!
 http://www.wonderlands.jp/info/seminar09the.kohenji1.html

【目次】
◇◇リミニ・プロトコル「カール・マルクス:資本論、第一巻」
 「本人」が演じる「ウソ」と「本当」 演劇への根源的な問いかけ
 第二次谷杉(劇作家)
◇劇団印象「青鬼」(再演版)
 「妻の愛情物語」ではもったいない 跳びぬけた舞台になっけど
 西村博子
◇劇団印象「青鬼」(再演版)
 愛おしい存在を食べざるをえなくなるつらさ
 風間信孝

▽連載【レクチャー三昧】
 第36回 フランスは強いのなんのって
 高橋楓


■web wonderland から===================== http://www.wonderlands.jp/ 

◇パラドックス定数「インテレクチュアル・マスターベーション」
 「わくわくした。以上」から踏み出して「一抹の淋しさ」を考える
 川口典成(演出、劇団地上3mm主宰)
◇劇団サーカス劇場「カラス」
 抒情から喜劇へ 新生サーカス劇場の挑戦
 芦沢みどり(戯曲翻訳家)
◇劇団サーカス劇場「カラス」
 「友達」を探し求める物語 ガード下に漂う甘いにおい
 小畑明日香(学生)

◇マレビトの会「声紋都市―父への手紙」
 棲みついた〈坂〉と言葉 〈ノスタルジック〉な身体をめぐって
 森山直人(京都造形芸術大准教授)

◇ワンダーランド支援会員を募集中!
http://www.wonderlands.jp/info/members2009-1.html


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◇リミニ・プロトコル「カール・マルクス:資本論、第一巻」
 「本人」が演じる「ウソ」と「本当」 演劇への根源的な問いかけ
 第二次谷杉(劇作家)

●巧みなウソとぎこちない本当

 すばらしい風景を眼の前にして思わず「まるで絵のよう」と言った事はない
だろうか。あるいは「音楽が聞こえてきそう」だと思った事はないだろうか。
絵画や音楽、それは時として褒め言葉として使われる。
 では「芝居がかっている」「お芝居みたい」というのはどうだろう? ここ
には人が他者を演じる=演技に関するうさんくささ、不信が表われてはいない
だろうか?

 野球や格闘技を「筋書きのないドラマだ」という言葉で賞賛する事もある。
じゃ筋書きのあるドラマ=演劇はダメなのか? そんな事を『カール・マルク
ス:資本論、第一巻』(以下『Das Kapital』と略)を見て考えたワケです。

●『Das Kapital』とは

 グリーンスパン前米連邦準備理事会議長は今回の金融危機を100年に1度か2
度の出来事と言う。日本では派遣切りによる非正規労働者の失業は半年で15万
人を超えた。そんな時に『Das Kapital』である。カール・マルクスである。
タイムリーなのだ。『蟹工船』ブームである。日本共産党への新規入党者は1
万人を超えた。新書の『超訳『資本論』』も売れているという。やっぱりタイ
ムリーなのです。

 『Das Kapital』は3人からなるアートプロジェクト・ユニット、リミニ・プ
ロトコルの2人、ヘルガルド・ハウグとダニエル・ヴェツェルによる構成・演
出の作品である。(もう一人のメンバー、シュテファン・ケージは昨年『ムネ
モ・パーク』で好評を得た)。リミニ・プロトコルは公演の準備段階での調査
や登場人物の選定が作品創作の2/3を占めるという。現実を演劇的に描くので
はなく、ある現実をそのまま舞台上にあげるという手法を特徴とする。

 舞台上には巨大な本棚(天地3間×左右7間/目測)が設置され、出演者の何
人かはその棚の中に収まっている。整然とした本棚ではなくお祭りの夜店のよ
うな照明もついており雑然とした印象だ。登場人物たちが次々と語り始める。
中央のレコードプレーヤーには古いLPがかけられ、全盲のDJが音楽を流す。と
きおりパチンコやスロットマシンの音がする。話にあわせ、棚に置かれたビデ
オカメラで写真や図版が撮影されモニターに映し出される。撮影位置がおかし
かったり写っている物がちがっていたりすると撮影している出演者に他の出演
者が指示していたりする。字幕も舞台上の出演者によって操作されており、シ
ーンによってはその場で文言がタイプされスクリーンに映し出される。このあ
たりのゆるいインタラクティブさはちょっと演劇的でおもしろい。文庫版の
『資本論』が出演者(と会場係)によって観客全員に配られる。指定されたペ
ージをみるとマーカーでチェックされている。

 出演者はマルクスの著書『資本論』に関するエキスパートたちである。専門
家と言っても『資本論』に関して無知な人や偏見を持っている人たちも含む。
つまり『資本論』的世界に実生活で関わった人という意味でのエキスパートで
ある。専門家然としたマルクス主義経済史家や『新マルクス=エンゲルス全集
』の編纂に関わった人もいるかと思えばギャンブル中毒で一度は身を持ち崩し
今はギャンブル依存症の自助グループの指導者をしている人や詐欺まがいの投
資コンサルタント、街頭で紙幣を燃やすパフォーマンスを撮影する映像作家も
いる。『資本論』を中心軸にしてその出演者たちが自分の人生を語るという形
で芝居は進行して行く。演技の専門家=役者はそこにはいない。これがドキュ
メンタリー演劇と言われる所以である。はて? ドキュメンタリー演劇? 「小
さな巨人」みたいな「クレタ人が全てのクレタ人は嘘つきと言った」ような…
。

●素人の演技が虚と実の壁を押す

 演技経験のない者を役者として舞台にあげるのは新しい事ではない。タデウ
シュ・カントルは『死の教室』で老人たちに思い出を語らせ、寺山修司は『ハ
イティーン詩集 書を捨てよ町へ出よう』で若者たちを舞台にあげた。

 『Das Kapital』では出演者の体験を本人が主にモノローグ形式でしゃべる
。役者同士の対話はほとんどない。同じ手法で制作された、前作の『選挙戦・
ヴァレンシュタイン』のメイキング映像(テレビ放送用に編集されたもの)に
よると、出演者が最初自分の言葉で語り、それを記録し再構成して戯曲化して
いるようだ。出演者はセリフをきっちり覚えなくても元々が自分の言葉であり
登場人物の「本物」なのである。スタニスラフスキー・システムも、鈴木忠志
の言う「個人史」も、唐十郎のいう「特権的肉体論」も一気に飛び越える可能
性のある演技態の導入である。コロンブスの卵のような演技法だ。

 近年現代演劇を語る時のキーワードの一つとなっているのが「身体性」であ
る。正直、私にはこの「身体性」ということの意味がよくわからない。わから
なかった。

 チェルフィッチュの岡田利規が早稲田大学での「60年代演劇再考」
(2008/10/17)のパネルディスカッションで「今自分が興味を持てるのはコン
クレートなものを見せる事だけだ」と言って会場およびディスカッションの同
席者たちを一瞬ポカン!? とさせた。岡田のいうところの「コンクレート」の
意味がそのディスカッションの文脈のなかでは唐突だったのでよく理解されな
かったようだ。後日「世田谷パブリックシアター上演作品レクチャー2008秋
『友達』」(2008/10/24)の時に岡田は「「具体」にしか興味がない。例えば
ここにゴッホのひまわりの絵があるとする。キャンバスの上に油絵具で描かれ
たひまわりは「具象」、厚塗りされ油絵具の重なったゴツゴツしたところが
「具体」」ということらしい。これって「身体性」のことじゃないの? と私
は勝手に理解した。つまり舞台における身体性とはその役者のもっている絵具
のゴツゴツ(あるいはツルツル、ベタベタ、ヌルヌル)がどれだけ出ているか
ということなのではないだろうか。

 この『Das Kapital』ではそのゴツゴツがよく見える。もともとひまわりを
描こう/演じようとしていないので全身ゴツゴツ、ベタベタである。本人ゆえ
の奇妙な迫力や素人ゆえのにじみ出る緊張感は観客に直接伝わる。「ああ、こ
の人はこんな風に生きて来たんだなぁ」と確かに思わせる立ち姿がそこにある
。とはいうものの劇中の役を演じてはいない(だってそれは自分自身だから)
が人前で自分自身をやはり演じているわけで、時として急に言葉が届かなくな
る瞬間があった。活動家のドイツ人青年、大学院でマルクス経済学を研究して
いる日本の青年が将来について語った時にそれを強く感じた。それに不満があ
るということではなく自己演出=自分の中のひまわりを含めての絵具のゴツゴ
ツなのだ。

●そして再び、巧みなウソとぎこちない本当

 見終わって劇場をあとにすると出口でチラシを手渡された。マルクス主義を
勉強する読書会のお知らせ。会場にも日頃劇場ではあまり見かけないタイプの
観客がたくさんいた。私は『資本論』は読んでいない。読んだのは宮沢章夫著
『『資本論』も読む 』と当日会場で読んだ『まんがで読破『資本論』』だけ
である。『Das Kapital』は講義や勉強会ではなく演劇である。劇全体として
は「資本論、素晴らしい」とも「マルキシズムは終わった」とも「今こそマル
クス再評価」とも言っていない。プロパガンダ臭はまったくない。また登場人
物の人生は語られるが、それに涙したりするような種類の芝居でもない。ここ
には極めて高度に編集・再構成されたモノ=具体がある。

 字義通りのノンフィクション演劇などあるはずがない。「事実に基づいた」
演劇も、本人が演じ語る事が本当のことであろうとも舞台に上がった時点でそ
れはウソになる。美術館の壁にゴッホの絵が掛けてある。そのすぐ下のプレー
トにはタイトルとちいさなキャプションがついている。「この絵は自殺の数時
間前に描かれた」あるいは「クリスティーズで30億円で落札しました」とか。
絵の芸術的な評価は変わらないかもしれないが明らかに鑑賞者の感じ方はかわ
るだろう。『Das Kapital』は巧みにつけられたキャプション込みで私たちの
前に提示されている。

 お芝居ががうまくて褒められるのは舞台にいる役者だけだ。その枠から逸脱
した演技者はいかがわしいものとなる。逆に演技が行われると了解されている
場所に入り込んだ現実=本人はどうだろう。よく考えてみると、きわめてあや
うい状態になってはいないだろうか。『Das Kapital』は演劇の根源的な問い
かけを含んだ刺激的な作品であった。
(文中敬称略。なお引用した岡田利規氏の発言の要約は私の記憶に基づいてい
ます。文責は私にあります。)

【筆者略歴】
 第二次谷杉(だいにじ・たにすぎ)
 演劇と関係ない生活を送っていたが2003年から病のように舞台を見始める。
直近作としては2009年4月pit北/区域で『腹腹ボレロ』公演、イタイ戯曲を書
き、イタイ目にあう。劇作家という肩書きが恥ずかしいダメダメな日々。2005
、2006年かながわ戯曲賞最終選考、2006年仙台劇のまち戯曲賞本選考候補、
2008年名古屋文化振興賞一次審査通過。でも結局受賞歴なし。生業はグラフィ
ックデザイナー(http://www.igusinats.com/)

【上演記録】
リミニ・プロトコル(Rimini Protokoll)「カール・マルクス:資本論、第一
巻」(Karl Marx: Capital, Volume One)−フェスティバル/トーキョー09参
加作品
http://festival-tokyo.jp/program/capital/
にしすがも創造舎(2009年2月26日-3月1日)

出演:
大谷禎之介(元大学教授、MEGA編集者)
トーマス・クチンスキー(統計学者、経済家)
クリスティアン・シュプレンベルク(コールセンター・エージェント)
佐々木隆治(大学院生)
フランツィスカ・ツヴェルク(翻訳家、通訳)
ヨヘン・ノート(経営コンサルタント、講師、中国・アジア専門)
萩原ヴァレントヴィッツ健(大学講師)
ウルフ・マイレンダー(作家、施設コンサルタント)
タリヴァルディス・マルゲーヴィッチ(歴史家、映画作家)
脇水哲郎(会社員)
サシャ・ワルネッケ(革命家、メディア業界のセールスマン)
ラルフ・ワルンホルツ(公共電気技師、元ギャンブラー)

コンセブト・演出:ヘルガルド・ハウグ、ダニェル・ヴェツェル
リサーチ・演出助手:セバスティアン・ブリュンガー
舞台美術:ヘルガルド・ハウグ、ダニェル・ヴェツェル、ダニエル・シュルツ
ドラマトゥルグ:アンドレア・シュヴィーター、イマヌエル・シッパー
照明:コンスタンティーン・ソネソン
音響:フランク・ベーレ
ビデオ・アシスタント:ミハエル・コッホ
製作:デュッセルドルフ市立劇場
共同製作:ベルリンHAU劇場、チューリッヒ市立劇場、フランクフルト市立劇場

【東京公演日本側スタッフ】
技術監督:寅川英司+鴉屋
照明:佐々木真喜子(ファクター)
音響:相川晶(サウンド・ウィーズ)
技術監督アシスタント:佐藤恵
美術:大津英輔+鴉屋
舞台監督:中原和彦
小道具・演出部:栗山佳代子
ピンスポット操作:岡本沙知恵(ファクターs)
にしすがも創造舎劇場スタッフ:弘光哲也
翻訳・字幕操作・通訳:萩原ヴァレントヴィッツ健
字幕アドバイザー:幕内覚
通訳:石井園子
舞台写真:石川鈍【F/Tスタッフ】
制作:クラウトハイム・ウルリケ、辻奈都子
F/Tクルー:榎本有希子、竹中香子、砂川史織、ピア・シュミット、羅苓寧
特別協力・助成:ドイツ文化センター
特別協力:株式会社大月書店
協力:日本点字図書館
後援:ドイツ大使館
主催:フェスティバル/トーキョー

ポスト・パフォーマンストーク−2月27日 演出家と出演者
チケット:一般4,500円/学生3,000円、高校生以下1,000円 自由席


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◇劇団印象「青鬼」(再演版)
 「妻の愛情物語」ではもったいない 跳びぬけた舞台になっけど
 西村博子

 この4月2日、ある劇評セミナーの帰り、途中まで地下鉄をごいっしょした
劇団印象の制作まつながかよこさん。あの日「愛の物語になっちゃったね」と
ひとこと言って私は帰ったという。横浜相鉄本多劇場の「青鬼」を見せてもら
った日のことである(2009年3月21日所見)。その作・演出鈴木厚人さんもい
っしょだったので自称び探検隊長の私はヤッホー!(二本の指でV字作って)の
ご満悦だった。

 が、それはともかくとして、思い出してみると今度の「青鬼」再演。たしか
に、俳優はこれまでの劇団印象よりずっとずっと魅力的になり、演出も、時が
過去に戻るのをビデオの巻き戻し法で表現したり、不思議空間だと示そうとし
てか、それまでドアやタクシーの座席などいろいろに使ってきた椅子を最後に
天井高くスッーと舞い上がらせたりの工夫が随所にあったし、(舞台が部屋で
あり水槽であることを示そうとしてか)細い角材で取り囲んだ装置も、演出に
対して十分挑戦的で快かったし、舞台の仕上がりとしてはこれまでの劇団印象
を一段も二段も上に跳びあがった。もうどこへ出しても遜色ない出来ばえであ
った。

 が、再び「が」で恐縮だが、劇の中心がタイニイアリスでの初演に比べても
ぐっと妻のほうに傾いてしまっていたのが、私には残念だった。それが相鉄で
のさよならのひとことになったのらしい。

 あいだに、夫が食用にと飼っていたイルカが進化して両足で歩き回り、その
イルカが妻を愛するようになったり、一方夫も、人間に戻るためには人間を食
べるしかないと妻や同僚を食べようと思ったり、その同僚が逆に襲ってきたり
…と、さまざまな展開は確かにあった。あったが、劇の大筋は妻のほうにあっ
たと言わなければならない。妻は、愛する夫を青鬼にしてしまったのはそもそ
も新婚旅行のとき、自分のグルメ嗜好のせいだったと悔い、しかし夫への愛の
ために、これまた自分への愛のために自ら命を絶ってくれたイルカを、夫とと
もに食べてしまうのだ。舞台は、妻が食卓を間に挟んで夫をみつめ、静かに静
かに対座しているところで終わった。妻の、愛を巡る物語だと思った。へーえ
、彼女はきっと愛するということはどういうことか、ほんとの愛を知ったのだ
。素敵な女性だなあ、羨ましいなあ、と思った。

 なるほど夫も、イルカを食べずにいられずうろうろイルカを捜し求めたり、
気づけば手先からイルカに変っていたり、イルカの代わりに妻を、あるいは同
僚を食べようと思ったり、結局妻とともにイルカを食べてしまったり、いろい
ろあった。食材のイルカもイルカで食べられないようにペットになろうとした
り、逃げ回るうちに飼い主の妻を愛してしまったり、その妻のために命を絶っ
たり、いろいろあった。が、それらは筋としての変化だった。劇としての必然
がなかった。

 女性を描く男性作家は映画、小説に多いし劇作にも少なくないから、もちろ
ん鈴木厚人が女性を描いても別に問題ない、と言えば言える。けれども、青イ
ルカを食べた人間は青イルカ(鬼)になっちゃう、あるいは、青イルカは青イル
カを喰っちゃうという、鈴木厚人そもそもの奇想天外が、妻の愛情物語にすり
替わってしまっていたのがいかにも勿体なかった。一度食べておいしいと思っ
たらもう食べないではいられない、豚を食べたら豚になる、牛を食べたら牛に
なる−作者のもともとの発想は、書いてる作家自身を、見ている私を、アナロ
ジカルに撃つ可能性を十二分に秘めていた、と私には思われてならないからで
ある。

 おどおど?しながらなぜか青イルカ(鬼)になってしまった夫−妻もイルカを
食べたはず。なぜ彼女はイルカにならなかった、のかな?−高圧的だが(いち
ど、角材セットのこちら側とあちら側で夫と同じ動きをしたことによって)ど
うも夫と同じ人間、ないしは夫の一側面であるらしいことが暗示されていた同
僚、そしてもしも必要ならだけれど、何とかペットとして生き延びようとし、
しかし妻を愛してしまったため自ら熱湯をかぶり、刺身になってしまったイル
カ…この三人(匹)を、みんな鈴木厚人の内なる可能性としてもっともっと凝視
(みつ)め、劇の中心に据えてくれたら、腹を抱えて笑いながら、え、これ単な
る絵空事??? グルメ全盛の今をつく傑作だったのになあ、であった。

 題名は「青鬼」。要は青鬼の妻でなく、青鬼そのものがもっと見たかった、
知りたかったということである。人間がイルカを食べるだけでなく、イルカが
人間を食べる。あるいは人間が人間を食べようとする−なんて、考えるだけで
スリリング。ワクワクではないか。そこが見たかった、知りたかった、という
ことである。

 今のようにイルカを別に出さないで、いっそ、イルカを食べた夫が舞台でみ
るみるイルカになっていったら?と思った。そしたら、毎日、いろんな生きも
の食べてる私は大丈夫かしら? 私も自分の体をそっと眺め廻したかも知れな
いではないか。

 真面目な顔して可笑しなことばかり考えているらしい鈴木厚人が私は大好き
だ。三演を期待しよう。

【筆者略歴】
 西村博子(にしむら・ひろこ)
 NPO ARC(同時代演劇の研究と創造を結ぶアクティビティ)理事長。小劇場
タイニイアリス代表取締役、アリスフェスティバル・プロデューサー。日本近
代演劇史研究会(日本演劇学会分科)代表。早稲田大学文学博士。著書は『実
存への旅立ち−三好十郎のドラマトゥルギー』、『蚕娘の繊絲−日本近代劇の
ドラマトゥルギー』I, II など−とは、実は世を忍ぶ仮の姿。その実体は自称
「美少年探検隊長」。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=4

【上演記録】
劇団 印象-indian elephant-第11回公演「青鬼(あおおに)」−横浜SAAC 
「再演支援プロジェクト」 リバイバルチャレンジ#2
http://www.inzou.com/aooni09/index.html
横浜・相鉄本多劇場(2009年3月19日-22日)

【作・演出】鈴木厚人
【出演】
 山田英美
 岸宗太郎
 澁谷友基
 前田雅洋(B・I・A)
 岡田梨那
 片方良子
 きたのあやこ
 江花渉(真空劇団)
 最所裕樹

【料金】
 前売2800円・当日3300円(全席自由席)初日特別料金(前売当日共)2,500円
 学割…受付にて学生証提示で-300円


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◇劇団印象「青鬼」(再演版)
 愛おしい存在を食べざるをえなくなるつらさ
 風間信孝

 劇が始まって、イルカの着ぐるみを着た俳優が登場したときは、「この舞台
は、安手の三流芝居か、バラエティ番組のワンコーナーかよ!?」と思ったが
、杞憂に終わった。最後には、主人公とその夫が追い詰められて、これは未遂
に終わるのだが、共食いにいたりそうになったり、遂には愛おしい存在を食べ
ざるをえなくなるという重いテーマを、観客に問いかける作品だった。

 ハネムーンで訪れたアラスカで、ホッキョクヒメイルカの肉を食べてしまっ
た猫宮亜乃と猫宮亮平。亮平はイルカの肉の虜になってしまった。そのため亮
平は、イルカの肉を月に1回密輸入し、しまいには自宅にイルカのための水槽
さえつくってしまった。飼われたイルカもイルカで、その水槽の中で進化し、
二足歩行で言葉を話すようになり、食べられまいとして、水槽から逃げ出した。

 そしてそのイルカ、その可愛さのあまり、猫宮家の本当のペットになり、名
前もプーチン・ピチルブールクとなる。一方亮平も亮平でプーチンがペットに
なってから、ベジタリアンに変わる。すると、亮平は少しずつイルカになり、
プーチンは少しずつ人間になっていった。

 イルカを食べてイルカになったのだから、人間に戻るためには人間を食べる
しかないのだろうか? 冗談とはいえ、イルカになった亮平はその後、妻の亜
乃を食べると言い出す。さらに亮平は、会社の同僚である井ノ口を食べるほう
がまだ許されると考えを変える。

 ところがその、亮平に自分のことを食べろと言った井ノ口が今度は攻守逆転
、亮平を襲ってくる。亮平と亜乃はお互いをかばいあいながら、二人は、井ノ
口に自分のことを食べるように言う。井ノ口もまた狂ったかのように亮平を食
べることにこだわる。

 そんななかでプーチンは、亜乃のことが好きになったことを打ち明ける。し
かし亜乃は、プーチンの気持ちを知ってしまったにもかかわらず、イルカを食
べ続けないとイルカになってしまうという罰を受けている夫・亮平のために、
自分もプーチンを食べると決意する。自分のことを愛おしいと思ってくれる愛
おしい存在を食べてでも、夫を生かしたい亜乃。緊張感が舞台を支配した。

 武田泰淳の『ひかりごけ』では、人間の肉を喰った人間には首の後ろに光の
輪が出る。プーチンを食べる猫宮夫妻も最後に、『ひかりごけ』の光の輪のよ
うな光に包み込まれたから、きっとこの『青鬼』は、猫宮夫妻にとってプーチ
ンはイルカという別の種ではなく、種を超えた家族の一員、人間だった−とい
う劇だったのだろう。

 イスを使った演出が巧みだった。イスはイスでも、あるときはレストランの
イス。別の場面ではタクシーの座席。あるときはバスやクローゼットの引き戸、
黒毛和牛専門店の引き戸、マンションのオートロックにもなった。何の変哲も
ない手法と言えば言えるのかもしれないが、イスを運ぶパフォーマーの流れる
ような動きのせいか、演出がお洒落に見えた。

 評者は、演劇でダンスのシーンがあるといつも、どうしてか分からないが観
ている自分が恥ずかしくなってしまうタチなのだが、黒毛和牛専門店員のタン
ゴは全然鼻につかず、観ていて心地よかった。

 テンポの良いセリフのやりとりで、俳優たちは皆いい演技をしていた。飄々
さで観客から笑いを誘ったプーチン役の前田雅洋と、密輸業者・タクシーの運
転手・医者1役の岡田梨那の演技が、特に印象に残った。

 鴻上尚史は、俳優の仕事とは、「作者の言葉を、観客や視聴者に伝えること
」としているが、俳優たちは、作・演出の鈴木厚人が表現した、愛おしい存在
を食べざるをえなくなるつらさを、観客に伝えた、と評者は確信している。

【筆者略歴】
 風間信孝(かざま・のぶたか)
 1977年8月生まれ。岩手県盛岡市出身。東京大学文学部行動文化学科社会学
専修課程卒業。2008年春季、劇評を書くセミナー「舞台を読む、舞台を書く」
の受講をきっかけに、劇評を書きはじめる。

【上演記録】
劇団 印象-indian elephant-第11回公演「青鬼(あおおに)」−横浜SAAC 
「再演支援プロジェクト」 リバイバルチャレンジ#2
http://www.inzou.com/aooni09/index.html
横浜・相鉄本多劇場(2009年3月19日-22日)

【作・演出】鈴木厚人
【出演】 山田英美
 岸宗太郎
 澁谷友基
 前田雅洋(B・I・A)
 岡田梨那
 片方良子
 きたのあやこ
 江花渉(真空劇団)
 最所裕樹
【料金】前売2800円・当日3300円(全席自由席)初日特別料金(前売当日共)
2,500円  学割…受付にて学生証提示で-300円


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 連載【レクチャー三昧】第36回 フランスは強いのなんのって

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 過日も「フランスは強い強い」とて日仏学院・日仏会館による催しの充実さ
をご紹介しましたが、ご覧下さいこの度のラインナップ。再び賛辞を送らずに
はいられません。さぁて、静岡、行きますか。(高橋楓)

*無料でも予約が必要なことがございます。必ずウェブサイトでご確認下さい。
*各情報の真偽・変更・取消・思想信条背景等につき一切の責任を負いません。
各自ご確認の上お越しください。
*【レクチャー三昧】カレンダー版(ウェブサイト)もご活用下さい。
http://www.wonderlands.jp/info/lectures.html


▽デジタル世代の文化と無償性:2009年におけるカルチャー経済
(インターネット会議)
2009年6月13日(土) 18時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語&日本語(同時通訳付) 
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1414

▽暴力と演劇:サラ・ケインの『ブラスティッド』をめぐって
 2009年06月16日(火)19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語&日本語(同時通訳付) 
SPACでのサラ・ケイン作品上演を記念した講演・朗読会
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1425

▽対談:ミシェル・ヴィナヴェール、アルノー・ムニエ
2009年06月17日(水) 19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語(日本語同時通訳付)
無料
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1422

▽マルグリット・デュラスと演劇
2009年06月22日(月)19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語(日本語同時通訳付)
無料
講師はロール・アドレル氏(作家、ジャーナリスト)
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1432

▽対談:演劇とは何か?
−クリスチャン・ビエとクリストフ・トリオー著
『演劇学の教科書』邦訳出版記念
2009年06月23日(火)19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語&日本語(同時通訳付) 
無料
佐伯隆幸氏監修による邦訳出版記念対談
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1431

▽アヴィニョン演劇祭の60年:ベルナール・フェーヴル=ダルシエを迎えて
 2009年06月24日(水)18時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ
フランス語(日本語同時通訳付)
無料
ドキュメンタリー上映と講演会
講師はベルナール・フェーヴル・ダルシエ氏(元アヴィニョン演劇祭ディレク
ター)
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1424

▽磁場 Les Champs Magnetiques
(国際舞踏ワーク・イン・プログレス)
2009年5月28日(木)ダンス映像上映 16:00〜/公演19:00〜
慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎イベントテラス
無料、申込不要
出演は室伏鴻、ボリス・シャルマッツ、ベルナルド・モンテの諸氏
http://www.art-c.keio.ac.jp/event/log/304.html

▽地域に残すための劇場・音楽堂を育てる−公設から公共へ
2009年5月14日(木)19時〜21時、5月19日(火)19時〜21時 
世田谷文化生活情報センターワークショップルームA  
3000円(全2回)、要申込、先着順40名
講師は草加叔也氏(劇場コンサルタント/空間創造研究所代表)
http://setagaya-pt.jp/workshop/2009/05/post_84.html

▽スティーヴ・パクストン氏によるレクチャー/デモンストレーション
2009年5月21日(木)18:00〜21:00 
早稲田大学早稲田キャンパス国際会議場第2会議室 
無料、要申込、定員100名
レクチャー&DVD映像を交えながら行うデモンストレーション
講師はスティーヴ・パクストン氏(ダンサー/振付家)
ディスカッサントは石井達朗氏(グローバルCOE客員講師)
http://www.enpaku.jp/event/host/20090521event.html

▽ロミオとジュリエット
2009年5月18日(月)開場16:10開演16:40
早稲田大学大隈講堂
無料、申込不要、先着順自由席
インターナショナル・ シアターカンパニー・ロンドン (ITCL)による公演
http://www.waseda.jp/icc/EVENTS_J/ComingEvents_J/2009-1/RomeoJuliet_J.html

▽矢内原忠雄と植民地研究
2009年5月16日(土)13:30〜17:00
東京大学駒場Iキャンパス18号館ホール
無料、予約不要
http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/exihibition.html#yanaihara

▽レベッカ・ブラウン講演・朗読会
2009年5月17日(日)15時〜16時30分
東京大学本郷キャンパス法文2号館2階1番大教室
無料、予約不要、定員220名
司会・通訳は柴田元幸氏
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/report.cgi?mode=2&id=197

▽江戸東京の町とたてもの1
2回セット受講料1,600円
講師は米山勇氏(助教授)
▽▽江戸の町とたてもの
2009年5月16日(土)14:00〜15:30 
江戸東京博物館1階会議室 
1,000 円、要申込、定員130名、申込締切4月29日(水) 
▽▽江戸時代の名建築-現存建物を中心に-
2009年6月27日(土)14:00〜15:30 
江戸東京博物館1階会議室 
1,000 円、要申込、定員130名、申込締切 6月10日(水)  
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/event/culture/09haru/culture09haru.html#kenchiku

▽ロボット工学時代の身体と外科:人類学的アプローチ
2009年05月19日(火)18:00 
日仏会館601会議室 
使用言語フランス語 (通訳付) 
無料、申込不要
講師はマリー=クリスティーヌ・プシェル氏(フランス国立科学研究センター) 
http://www.mfj.gr.jp/agenda/2009/05/index_ja.php#anchor_914

▽インタビューという行為とライフストーリー―自己の語られ方と相互作用―
2009年5月22日(金)17:00〜19:00  
お茶の水女子大学
非会員500円、要申込(先着順)、申込締切2009年5月14日(木)  
講師は桜井厚氏(立教大学教授)
http://www.ocha.ac.jp/information/20090407.html
http://jsl2.li.ocha.ac.jp/genbun/kouen09.pdf

▽ユダヤ人がユダヤ人である理由−古代ユダヤ人の<民>意識 
 2009年5月30日(土)15:00〜
早稲田大学文学学術院戸山キャンパス39号館6階 第7会議室 
無料、来聴歓迎
講師は上村静氏
 http://www.waseda.jp/bun/activities/lecture/index.html

▽高度経済成長と生活変化
2009年6月20日(土)13時00分〜17時00分 
一橋記念講堂
国立歴史民俗博物館主催
無料、要申込、定員500名(先着順) 
http://www.rekihaku.ac.jp/events/forum/next.html

▽駒澤大学日曜講座(座禅と講義)
毎週日曜日午前9時〜11時
駒澤大学駒沢キャンパス禅研究館
会費月額1,500円、各回申込不要
座禅のみ、講義のみの受講も可能
詳細ウェブサイトで
http://www.komazawa-u.ac.jp/cms/nichiyokoza/


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【編集日誌】
☆本日午前中はいくつかのwebサイトをメンテナンス。メールに返信。執筆依
頼。午後は某劇団の公演を見に都内へ。夜は会社時代の同僚らと飲み会。帰宅
してマガジンの編集作業を続けています。毎日小劇場巡りに専念できる環境で
はありませんが、時間をやり繰りして発行を続けるつもりです。
☆劇評を書くセミナー「座・高円寺」留学コース(全8回)を5月からはじめま
す。セミナーの詳細は次のページをご覧ください。読者の参加を歓迎します。
http://www.wonderlands.jp/info/seminar09the.kohenji1.html
(北嶋)
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Tel& Fax: 042-422-5219  info(アットマーク)wonderlands.jp
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