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小劇場演劇やダンス、パフォーマンスを取り上げるレビューマガジンです。内容はWEBサイトにも再掲しますが、マガジン版が先行するオリジナルを掲載します。

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2009/03/04

週刊マガジン・ワンダーランド 第129号



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.wonderlands.jp/

   マガジン・ワンダーランド(小劇場レビューマガジン)

   2009年 3月04日発行 第129号                          毎週水曜日発行
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇特別セミナー「西村博子さんが語る アリスフェスティバルの26年」
(4月2日、3日、4日、池袋・あうるすぽっと)募集中!
http://www.wonderlands.jp/info/seminar09alicefestival26.html

【目次】
◇野田地図第14回公演「パイパー」
 美しいイメージの中に世界を投げ捨てる滅びのメルヘン
 芦沢みどり(戯曲翻訳家)
◇「劇王」イベントにM-1 化の兆し 実況中継「劇王VI」
 鳩羽風子(記者)

▽連載【レクチャー三昧】
 第29回 フランスは強い強い
 高橋楓


■web wonderland から===================== http://www.wonderlands.jp/ 

◇toi 「四色の色鉛筆があれば」(「ネクストジェネレーションvol.1」)
 先鋭なセンスと計算された構成力 練度の高い舞台作品を生む
 香取英敏
◇タテヨコ企画「アメフラシザンザカ〜宇宙ノ正体シリーズその5」
 清濁の境目に身を置いた定点観測 「宇宙ノ正体」の地図を描く
 長谷基弘(劇作家、演出家、劇団桃唄309代表)
◇Co.うつくしい雪「My space,のよう なので。」
 ことばとからだが生成する「幸福な空間」
 木俣冬(フリーライター)

◇桃唄309「おやすみ、おじさん3 - 草の子、見えずの雪ふる」
 「メタ関係性の演劇」の開拓 カット割り構造の舞台化も
 中西理(演劇・舞踊批評)

◇ワンダーランド支援会員を募集中!
http://www.wonderlands.jp/info/members2009-1.html


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◇野田地図第14回公演「パイパー」
 美しいイメージの中に世界を投げ捨てる滅びのメルヘン
 芦沢みどり(戯曲翻訳家)

 キャストがすごっ!松たか子、宮沢りえ、橋爪功、大倉孝二、北村有起哉…
と聞いただけで卒倒しそう。そこへもってきてダンス集団コンドルズまで加え
てしまって、殿、な、なにをなさるおつもりか???と、クエスチョンマーク
3ケ付き好奇心で出かけて行きました。もちろん劇場へ。

 時は今から1000年後。所は火星。松たか子と宮沢りえのスキンヘッドがつな
がっているチラシのグラフィックからてっきりETの話かと思いきや、そうでは
なくて移住を始めて900年たった火星に住む地球人のお話というのが真相でし
た。つまり今の地球人の末裔が火星人というわけ。これは火星歴で言えば十世
紀なので、歴史はさほど古くない。にもかかわらず火星はすでに荒廃し、食べ
るものにもこと欠く始末。いったいどうしてこうなった、という謎解きが姉妹
を軸に、火星の歴史を往還する形で展開する。遠い未来の過去と現在を行き来
する時間の流れを織物の縦糸にたとえるなら、物語の横糸はいくつかの歴史的
事件であり、最後に織り上がる布地の柄が謎の答えということになりましょう
か。

 オープニングは荒廃した火星の今。殺風景な建物にワタナベ(橋爪功)と二
人の娘が暮らしている。フォボス(宮沢りえ)とダイモス(松たか子)だ。一
度この家を出て最近戻って来たフォボスは、なぜか父親を嫌っている。この姉
妹は4歳しか年が違わないのに、姉は妹の知らない秘密を知っていて、それは
彼女の父親嫌いやこの星の荒廃とも深くかかわっているらしい。一方ワタナベ
は、よそから流れて来た天才少年キム(大倉孝二)に、火星の歴史を記憶させ
ようとしている。

 この火星の歴史をひもとくために野田が考案したのが、「死者のおはじき」。
ほら、ガラスでできた直径1センチくらいの昭和の玩具があるでしょう。あれ
です。火星に移住した移民は、新天地で生まれた子供の鎖骨におはじきを埋め
込んだ。そこに子供の一生が記録され、死んでから取り出されたという。後世
の人間がそれを自分の鎖骨に当てると、あーら不思議。骨伝導で過去の人間の
一生が映像として見られる仕掛けになっている。この荒唐無稽を子供騙しと言
うなかれ。おはじきの透明感と昔懐かしいイメージは、劇の基調になっている
のだから。

 大過去、過去、現在完了という3つの過去が現在と交錯しながら綴られてゆ
く火星の歴史を、時系列的に早回しするとこうなる。

 900年前に移民第一陣が火星に到着。この時、パイパー(コンドルズの面々)
とパイパー値が導入された。まずパイパーというのは全身が蛇腹で(だからパ
イパーか)、人間に奉仕するために作られたロボット仕様のロボット風存在で、
掃除機みたいに暴力を吸い取ってくれる。ゆえに火星は争いのない平和な理想
郷になるはずだった。またパイパー値というのは移民の幸福度を測る数値で、
温度計よろしく人間の幸福度がひと目でわかるスグレモノ(?)のはずだった。
ところが移民の中にビオラン(北村有起哉)というおっそろしく暴力的な男が
いて、火星へやって来る宇宙船の中で暴力沙汰を起こしていた。そこで移民を
統括するゲネラール(野田秀樹)は、彼を地球へ強制送還しようとする。が、
ビオランはゲネラールを殺して火星の果てへ逃げて行く。これが火星で起きた
最初の殺人事件、「火星婦は見た」である。(このパロディーは台本のパクリ)。

 それから500年後。ビオランの子孫が火星の権力者になり上がっている。と
ころが最初の殺人が人肉食を誘発していたことが発覚。(時間かかり過ぎ!)
それまで人間の暴力をひたすら吸い込んできたパイパーが、ビオランに襲いか
かる。この時以来、パイパーは人間を襲いはしないものの、幸福に奉仕する存
在ではなくなる。

 そして30年前。地球から補給船が来なくなって早や300年。食料が乏しくな
りつつある火星に、金星移民の助け舟がやって来る。地球はとっくの昔に人の
住む星ではなくなっていると知った火星人は、その大半が金星に移住して行く。
ダイモスがお腹にいた母親は、火星に残る決意をする。彼女は4歳のフォボス
の手を引いて赤土の荒野をさまよい、ワタナベのストアに辿り着く。食べ物を
乞う母親にワタナベがくれたものを、彼女はどうしても口に入れることができ
なかった。それは人間の死体から取った肉だったからだ。彼女は幼いフォボス
にはそれを食べさせ、ダイモスを産み、死んでゆく。

 ダイモスが知らないフォボスの秘密とは、火星のカニバリズムの歴史と、そ
れを体験した人間だけが知る絶望だった。ワタナベは姉妹の父親ではなく育て
の親で、彼は歴史から汚点を消し、それを天才少年に記憶させようとしていた
のだ。だが、そんなことをしてももう手遅れだ。この星はもうおしまいなのだ
から。そういう雰囲気が劇場中を支配している中で、人生の絶望を知らないダ
イモスが、終わろうとしている世界になお希望を持って生きて行こうとする。
行方知れずになっていたフォボスの恋人が戻って来る。おまけに不毛の大地だっ
た火星に花が咲いて…終わりよければ問題なし?

 舞台は装置、照明、衣裳・・・すべてが透明感に包まれていた。特に衣裳は、
羽化したばかりの昆虫の翅を思わせる素材と色遣いが斬新。キャストも豪華な
だけでなく、重々しい存在感を消去して、軽いたたずまいで舞台にいることが
できる俳優、という選択だということも分かった。むしろコンドルズ演じるパ
イパーが、不気味ではあるけれど、全身蛇腹の衣裳が邪魔をして動きが抑えら
れ、本領を発揮できないでいるように見えた。総勢50名ちかいアンサンブルも、
重力があるかないか分らない地球外での存在を絶妙に体現して見せていた。

 でも、でも、でも。このSFメルヘン、ちょっと美しすぎるのではないかとい
う気もする。織物のアナロジーに戻ると、織り上がった美しい布地の柄はカニ
バリズムでしょ。これをどう受け止めたらいいのか、途方にくれる。野田は
「赤鬼」でもカニバリズムのタブーを扱っている。それと知らずにタブーを犯
した「あの女」は自ら命を絶ったけれど、この作品ではそれほど深く考えられ、
悩まれているとは思えない。俳優の演技のことを言っているのではない。作者
の手つきのことだ。<だっておとぎ話だからね。おとぎ話はいつだって怖いさ
>。そう言う作者の声が聞こえて来そうだが、じつは怖くなかったことが問題
なのだ。この作品でカニバリズムはあくまでも美しい織物の柄でしかなかった。
ぎょっとしたり、ぞっとしないおとぎ話は、結局のところ退屈だ。

 それと、タイトルになっているパイパーは不気味な存在だからいいとして、
分かりにくいのはパイパー値。株価の乱高下や幸福の数値に翻弄される現代人
をパロディーとして描いたと日経新聞は伝えているけれど(2009年1月8日付
「文化往来」)、どこか取ってつけたような消化不良感が残った。

 おはじきやパイパーなどの奇想アイデア満載のこの寓意劇は、遠い未来の火
星の歴史の中に現代人の焦りと不安を描いて見せるが、イメージが盛りだくさ
ん過ぎて、美しすぎて、おもちゃ箱がひっくり返されただけのような印象だっ
た。あ、それが野田秀樹の狙い?

【筆者略歴】
 芦沢みどり(あしざわ・みどり)
 1945年9月中国・天津市生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒。1982年から主
としてイギリス現代劇の戯曲翻訳を始める。主な舞台「リタの教育」(ウィリー
・ラッセル)、「マイシスター・イン・ディス・ハウス」(ウェンディー・ケッ
セルマン)、「ビューティークイーン・オブ・リーナン」および「ロンサム・
ウェスト」(マーティン・マクドナー)、「フェイドラの恋」(サラ・ケイン)
ほか。2006年から演劇集団・円所属。
・wonderland掲載劇評一覧 :http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=20

【上演記録】
 野田地図第14回公演「パイパー」
 シアター・コクーン(2009年1月4日-28日)
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_09_pyper.html
http://www.nodamap.com/site/play/35

作・演出:野田秀樹
出演:
松たか子
宮沢りえ
橋爪 功
大倉孝二
北村有起哉
小松和重
田中哲司
佐藤江梨子
コンドルズ
野田秀樹

スタッフ:
美術	堀尾 幸男
照明	小川 幾雄
衣装	ひびの こづえ
選曲・効果	高都 幸男
振付	近藤 良平
ヘアメイク	宮森 隆行

料金 S\9,500 A\7,500 コクーンシート\5,500(税込)


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◇日本劇作家協会東海支部プロデュース 「劇王VI」
 「劇王」イベントにM-1 化の兆し 実況中継「劇王VI」
 鳩羽風子(記者)

 若手戯曲家の天下一を決する「演劇界のM−1グランプリ」、「Jr.ライ
ト級チャンピオンタイトルマッチ 劇王VI」が2月7、8日の両日、秀吉と家
康が覇を競った愛知・長久手の地で開かれ、鹿目由紀第5代劇王が防衛に成功
した。

 劇王とは、「上演時間20分・役者3人以内・数分で舞台転換可能」という
条件のもと、作品を上演して、観客や審査員の厳正な投票で優勝者が決まるイ
ベント。ほとんどが書き下ろしの新作で、上演機会は多くてもたったの2回し
かない。それなのにご褒美は佃典彦・日本劇作家協会東海支部長が手作りした
チャンピオンベルトだけ。伊達と酔狂、そしてかいま見える演劇魂が、多くの
芝居好きを引きつける。

 6回目の今回も、新人戯曲賞の受賞者や地元東海勢の演劇人ら計9人が参戦
し、劇的なガチンコ勝負を繰り広げた。最終日の決勝巴戦には、前日の予選で
挑戦者Aプログラム(4作品)とBプログラム(4作品)を勝ち抜いた2作品
が進出、タイトル保持者との史上初の女性だけの戦いとなった。その模様を、
「タイトルマッチ」と銘打ったイベントにちなみ、古館的実況でお送りしよう。

1、どこまでやるの?−「どっきり地蔵」

 まずリングに上がったのは、挑戦者Aプログラムを勝ち上がった黒川陽子の
作品「どっきり地獄」。東京から初めて馳せ参じた黒川は第13回日本劇作家
協会新人戯曲賞受賞者だ。

 登場人物は「M−1グランプリ」を獲得した漫才コンビ。まさか劇王で本歌
取りをやろうというのか。しかし、居酒屋で向かい合っているコンビは、どう
みても笑いをとるような雰囲気にはない。ピンでも引っ張りだこで勢いに乗る
男はあぐらで、対座する相方の男は意味ありげに居住まいを正している。おも
むろに正座の男が解散話を切り出した。解散したい、したくないの会話を、役
者が座ったままの状態で続ける。あぐらや片膝をつく、正座など、座り方のバ
リエーションで気持ちの微妙な変化を表現しているようだが、往年の欽ちゃん
のテレビ番組のようだ。一体、どこまでやるの? じれる寸前にビデオカメラ
を持った第3の男が姿を現して、「ドッキリ大成功」と書かれた紙を広げた。
それからは怒濤のドッキリ攻撃だ。抑えられていた動きが一気にスパークした。

 解散話も「ドッキリ」なら、解散話に驚いて泣いてしまう相方も「ドッキリ」、
実は冠番組の演出の「ドッキリ」で…。一体、どこまでやるの? そう思って
いると、漫才コンビやピン芸人の男の設定自体も「ドッキリ」で、父母と芸人
志望の男子生徒に。いや、実は犬と豚とニワトリで…。正体は朝だった−とい
うラストだった。

 弛緩した前半と、どんでん返しの連続の後半はメリハリがきいていて面白い。
お笑い芸人を力演した役者たちは、いかにも実在しそう。
 「おまえは朝だろう」と舞台上で言われれば、観客は受け入れざるを得ない。
そんな演劇のごっこ遊びも楽しんだ。

 「ドッキリでした」で引き起こされる設定転換のオンパレード。10回近く
はあっただろうか。付き合わされた観客の方は頭がこんがらがったかもしれな
い。数多く繰り出されたネタに対するオチを期待して観ていた。まだかな、ま
だかなと思っているうちに終わってしまった。

2、峠の道行き−「喉仏マロンす」

 Bプログラムの勝者、市瀬佳子の「喉仏マロンす」は、暗がりに響く吹雪の
ような音の中で始まった。やがて明るくなった舞台には、鳥瞰図のような紙が、
紅葉した山並みをかたどるように天井を飾る。自転車がひっくり返り、バスケッ
トや紙袋、果物や野菜などが散らばっている。せりふが発せられる前に、音や
セットだけで舞台の世界へ一気に引き込む手練れは、新人離れをしている。パ
ンフレットに目をやると、「演出:小熊ヒデジ(てんぷくプロ)」とあった。
あの大人気だった二人芝居「真夜中の弥次さん喜多さん」の出演者のうちの一
人だ。

 今大会の参戦者9人のうち、作・演出を兼ねていないのは彼女だけ。実は演
劇専門誌『せりふの時代』と連動して創設された新企画で、第1回短編戯曲1
等賞を受賞して、彼女は劇王への挑戦権を得た。

 劇作家同士のバトルなので、演出の効果を除外して戯曲の力量を見極めるべ
きか、演出も加味した芝居全体を評価すべきなのか、判断が難しいところだ。

 既に折り紙付きの戯曲は、よそから来た少年と地元の餅屋の娘が峠を越えよ
うとする道行きで始まる。少年は長身で細身の女性が演じている。餅屋を継い
で将来を考えようという少年に対し、娘は盗癖や、二股をかけたりする血筋で
あることを告白。娘自身も他の男と馴染んでいることを知り、少年は別れを告
げる。

 シリアスな場面のはずだが、娘は舌っ足らずな口跡で方言を交えてあっけら
かんと話すので、何ともゆる〜い空気。それが一変するのは、立ち去ろうとす
る少年の背に向かって、喉仏をさらす男を襲うという喉仏峠の松姫の因縁話を、
娘が語って聞かせる中盤から。

 いつの間にか松姫が憑依した娘は、声色も豹変。「夏は川面に揺れる夕日、
山を覆う呉羽紅葉に、薄雪を溶かす椿の冬」。詞章のようなせりふに導かれて、
鮮明な映像が脳裏をかすめた。男を待ちわびて鬼になり果てた松姫が、少年の
首に巻かれたスカーフを締める場面や、舞台全体が照明で赤く染まり、猛吹雪
の音の中で暗転する場面には、ぞくりとする美があった。

 終盤には少年が去り、娘は頭上から大量に落ちてくる栗を拾い続ける。いが
が刺さり、血のにじんだ指先を見て、「血だもんでな」とぽつり。そして幕が
下りた。

 「変身」を見せた娘に対して、始終苛立っていた少年はどこか一本調子。演
じていたのが女性だったせいもあるだろうが、血が通っていないようだった。

 道行きや峠という設定、夢幻能のように挿入された松姫伝説のくだりに、時
空を一瞬で超える演劇独特の奥行きや質感、想像力を喚起する余白を感じた。
巧みな演出術に助けられている部分も大きいが、確かな力を持つ劇作家だと思っ
た。

 3、コント赤信号−「信号の虫」

 さあ、いよいよ満を持して、タイトル保持者、鹿目由紀の「信号の虫」の初
披露だ。幕が開いた瞬間、持って行かれた。
 舞台上手から、赤、黄、緑色の箱が横一線に並び、その上には男、女、男が
乗っている。箱の信号の色と3人の心理がシンクロしている仕掛けだ。結婚に
前向きな男が青信号で、後ろ向きな男が赤信号、そして二人の男の間で揺れる
女が黄色信号というように。

 まず、この設定が問答無用の面白さ。そして鹿目流お得意の速射砲のような
せりふが降ってくる。
 青信号は「進め」ではなくて、「進むことができる」。黄信号は、「注意し
て進め」ではなくて、「停止位置から先へ進んではいけない。安全に停止でき
ない場合はそのまま進むことができる」−。一般の認識と道路交通法の規定の
ずれを軽妙に突くとともに、台の上の男女の心理も解き明かす。踏み台昇降の
ような動きを見せながら、「結婚します、男ですから」、「進みたくても進め
ない」。

 黄色の点滅信号では、周りの交通事情に注意して進んでよいという規定をや
ゆして、安全だと判断できなければ、永遠に一時停止しているの?と、ジャン
プを繰り返すなど、笑いのつぼも心得ている。劇王の余裕すら感じられる。

 もし上演時間の条件が3分以内だったら、鹿目由紀は無敵なのではないだろ
うか。それほど、出だしのインパクトは強烈だった。

 その後は、思い悩む女の心模様を反映して、箱が七変化。色の配列を入れ替
えたり、箱の面をひっくり返して3個全部の箱が緑一色になったり、黄色一色
になったり。

 色で決めつける短絡的思考の信号から決別しようと、女は、私の色で歩いて
いくと宣言。箱の色は虹色となり、マーブル模様にもなった。それでも女はど
うしよう、どうしようと悩み続ける。最初の箱の色と配置にも戻った。

 パキパキした動き、歯切れのいいせりふ、心理状態を端的に示す箱の仕掛け。
とても分かりやすいし、面白い。登場人物の名前は出てこない。個人が背負う
人生や生活が提示されることはない。ウルトラクイズの早押しのような、ゲー
ム感覚のコントのようだった。

 4、審査

 3作品の上演が終わり、いよいよ審査へ。ここでその仕組みについて説明し
よう。審査は1人1点の観客票(計約200点)と、各50点を持つ崔洋一、
岩松了、一尾直樹、安住恭子の4氏による審査員票の合計点で争われた。進行
役は第4代劇王の柴幸男。昨年の大会で鹿目に連覇を阻まれた結果、落ち武者
の格好をした「合戦くん」として司会を務める羽目になったのだ。手間取る集
計の間、必死につないでいた。

 さて、集計結果は、黒川陽子の「どっきり地獄」には、観客票36、崔18、
岩松15、一尾5、安住10の計84点。市瀬佳子の「喉仏マロンす」は、観
客票51、崔10、岩松18、一尾25、安住10の計114点だった。そし
て、鹿目由紀の「信号の虫」は、観客票がダントツの111、審査員票でも崔
22、岩松17、一尾20、安住30とまんべんなく支持を集め、計200点
で圧勝した。

 劇王となった鹿目はソファ、2位の市瀬は丸いす、そして3位の黒川は座布
団に座る。戦国時代の古戦場跡で開かれているのに、下克上ではない。

 審査員の講評も、簡単に紹介しておこう。
 まず、黒川作品に対して。安住評は「昨日見たとき、面白かった。今日は昨
日の新鮮さがあまり感じられなかったが、よくできていた」。岩松評は「ドッ
キリを繰り返すのはあまり良くないと思う。繰り返しの果てに別のものがみえ
てくるものはあった。でも際だつものではない」。崔評は「どんどん変身する
のはカフカっぽい。積み上げてきたうそが崩れた先に何も見えなかった」。一
尾評は「メタフィクションの類型。構造に目がいってしまうから、演劇的な衝
撃は起こりづらい」。

 市瀬作品について安住評は「美術照明が凝っていてよくできていた。ドラマ
には物足りなさ。少年と少女は一体いくつなのか」、岩松評は「峠というシチュ
エーションをちゃんと選んでいる。男は受け身で同じ生理。違う光の当て方が
あってもよかった」。崔評は「女からの問わず語り」。一尾評は「正直よく分
からなかったが、期待を抱かせた」。

 劇王となった鹿目作品に対する安住評は「面白いつくり。本当によくはまっ
ている」。岩松評は「抽象性が面白い。感情に流し込むのとは違う。切り離さ
れている」。崔評は「幕が上がった瞬間の20秒は、ある種の衝撃があった」。
一尾評は「後半が今ひとつ。選べない女と信号機は紋切り型。結局、何ら進展
していない」。

 劇王の決勝巴戦を2年連続で観戦した。昨年と比べて感じたのは、劇王のM
−1化だ。観客も審査に参加する以上、受け狙いをするのが「天下布武」への
戦略なのかもしれない。分かりやすさ、面白さも、良くも悪くも今の社会を映
している。でも、既存の演劇観を揺さぶるような実験精神にあふれた作品も、
もっと観てみたい。
 長篠の戦いで伝統の騎馬戦に臨んだ武田軍に対して、鉄砲で挑んだ信長のよ
うな作品こそ、「劇王」にふさわしいのではないだろうか。


【筆者略歴】
 鳩羽風子(はとば・ふうこ)
 横浜出身。日本女子大学人間社会学部文化学科卒。新聞記者の傍ら、劇評を
「シアターアーツ」に発表している。AICT(国際演劇評論家協会)日本セ
ンター会員。

【上演記録】
 日本劇作家協会東海支部プロデュース Jr.ライト級チャンピオンタイトルマッ
チ「劇王VI」(長久手演劇王国Vol.9)
 愛知県・長久手町文化の家(2月7日-8日)
http://www.town.nagakute.aichi.jp/kouhounagakute/salon/documents/20/koho200811.pdf(「広報 長久手」p.25)
http://www.town.nagakute.aichi.jp/bunka/bunka/bunka/jisyu-schedule/2008jisyu/gekioukekka.html

▽決勝巴戦
Aプログラム勝者 「どっきり地獄」
作・演出:黒川陽子
出演:五十嵐雅史、佐々木拓也(パセリス)、森きゅーり

Bプログラム勝者 「喉仏マロンす」
作:市瀬佳子、演出:小熊ヒデジ(てんぷくプロ)
出演:東方るい(フリー)、中島由紀子(avec ビーズ)

第5代劇王 「信号の虫」
作、演出:鹿目由紀
出演:松井真人、山中崇敬、手嶋仁美(いずれも劇団あおきりみかん)
作・演出:鹿目由紀

上演:長久手町文化の家 風のホール(2009年2月7日−8日)
プロデュース:日本劇作家協会東海支部
入場券:1公演券 一般1,500円 フレンズ1,200円 3公演通し券
3,000円
主催:愛知県長久手町教育委員会

【「劇王」メモ】
挑戦者(決勝巴戦進出者以外):刈馬カオス、久川徳明、赤井俊哉、渡山博崇、
瀬辺千尋、サカイヒロト

・劇王VI番外編「劇王再び〜歴代劇王 夢の競演」
 長久手文化の家(1月22日-23日)
http://www.town.nagakute.aichi.jp/bunka/bunka/bunka/jisyu-schedule/2008jisyu/gekiou-bangai-puro.html


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  連載【レクチャー三昧】第29回 フランスは強い強い

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 大学の無料講座開催が閑散としている中、気を吐いているのがフランス系の
催しです。そもそも当【レクチャー三昧】連載は、筆者自身が興味ある講座を
検索し、ついでにその情報を複数の友人に送りつけるようになったのが「ワン
ダーランド」編集長のお目にとまったのがきっかけでしたが、筆者が必ずチェッ
クするウェブサイトのひとつは日仏学院(飯田橋)です。また、日仏会館(恵
比寿)も文化系の催しをしばしば行っています。しかもそれらの講座は殆どが
無料です。フランス文化の底力、ならびにその宣伝普及にかける情熱と予算を
肌で感じます。
(高橋楓)

*無料でも予約が必要なことがございます。必ずウェブサイトでご確認ください。
*各講座情報の真偽・変更・取消・思想信条背景等につき一切の責任を負いま
せん。各自ご確認の上お越しください。
*近日開催の講座紹介は、バックナンバーに載っている可能性がございます。
http://archive.mag2.com/0000201899/index.htmlをご覧ください。

▽ロン・ポワン劇場シンポジウム―劇作家が運営する劇場
2009年03月07日(土) 14:00 
阿波おどりホール (座・高円寺)
500円、要申込(先着順)
座・高円寺プレイヴェントのひとつ。講師は、ジャン=ダニエル・マニヤン
(ロン・ポワン劇場事務局長)、坂手洋二(劇作家・演出家、日本劇作家協会
会長)佐藤信(劇作家・演出家 座・高円寺芸術監督)、佐藤康(翻訳者)の
諸氏
http://za-koenji.jp/detail/index.php?id=1

▽コメディー・フランセーズ今昔
 2009年04月20日(月)18:00 
日仏会館1階ホール 
同時通訳付き
無料、申込不要
講師は、ピエール・ノット(コメディー・フランセーズ事務局長)、鈴木康司
(中央大学名誉教授,元同大学学長)の諸氏
http://www.mfj.gr.jp/agenda/2009/04/20/index_ja.php#888

▽フランス人アーティスト、クロード・レヴェックとの出会い
−やなぎみわ、北川フラムを迎えて
 2009年03月16日(月) 19時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語&日本語(同時通訳付き)
無料 
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1345

 ▽ケ・ブランリ美術館をめぐって
2009年04月23日(木) 19時00分-21時00分 
東京日仏学院エスパス・イマージュ 
フランス語、日本語同時通訳付き
無料 
講師はアンドレ・デルプエシュ氏
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1334

▽ポエトリー・アクション/セルジュ・ペイ&キアラ・ムラス 日本ツアー
2009年04月10日(金) 19時00分 
東京日仏学院 
フランス語&日本語 
無料
http://www.institut.jp/agenda/evenement.php?evt_id=1333

▽J-F・リオタール、思考の現場とその地平
2009年3月14日(土)18:15 
日仏会館601会議室 
日本語
無料、申込不要
講師は本間邦雄氏 (駿河台大学,日仏哲学会) 
http://www.mfj.gr.jp/agenda/2009/03/14/index_ja.php#883

▽真のスポーツジャーナリズムとは何か?
〜五輪、W杯、メジャーリーグ、そして朝青龍まで〜 
2009年3月19日(木)14:00〜16:00(予定) 
早稲田大学早稲田キャンパス小野記念講堂
無料、申込不要
講師は海老沢勝二氏(前横綱審議委員会委員長、元日本放送協会会長)
http://www.kikou.waseda.ac.jp/waseda_open/WSD312_open.php?KikoId=01&NewsId=140&kbn=0

▽国語研究のうえでの宮古方言の有用性
2009年3月7日(土)14:00〜16:00  
法政大学市ケ谷キャンパス外濠校舎S306教室 
講師 は新里博氏(渋谷書言大学主任講師) 
無料、申込不要 
懇親会あり(希望者のみ、有料)
http://www.hosei.ac.jp/news/shosai/news_1015.html

▽異文化を理解するために 
2009年3月14日(土) 14:00〜15:30 
羽村市生涯学習センターゆとろぎ 
無料、申込不要 
講師は本田弘之氏(杏林大学外国語学部教授)
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/society/opened/univ_20.html

▽創造する脳 −能楽と脳の奏でる情景−
2009年3月25日(水)13:00〜16:45 
セルリアンタワー能楽堂 
新作現代能公演、座談会等
無料、要申込、定員200名(先着順)
http://www.neurocreative.org/indexJ.php?%A5%D5%A5%A9%A1%BC%A5%E9%A5%E0
http://www.neurocreative.org/indexJ.php?plugin=attach&refer=%A5%D5%A5%A9%A1%BC%A5%E9%A5%E0&openfile=%A5%D7%A5%ED%A5%B0%A5%E9%A5%E0%CC%CC.pdf


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【編集日誌】
☆今週は野田地図公演と日本劇作家協会東海支部プロデュースの「劇王」イベ
ントを取り上げました。前者の1ヵ月公演による観客動員、後者の観客票を審
査に取り込む方式に共通の流れはないのでしょうか。野田の場合は1ヵ月公演
など珍しくないのだから強いて言挙げするまでもないかもしれません。観客審
査も珍しくありません。ただ観客が多くなれば、観客が多様な分、それが新た
な枠組みになります。大勢の見方が演劇の中身にも形式にも自ずから反映され
てくるのでしょう。「劇王」の「受け狙いのM1化」傾向にも同じコトが言え
そうです。いまはその流れの方向や速さを見失わないようにしたいと思います。
☆ワンダーランドの記事数が先週、1000本を超えました。スタートから4年6ヵ
月経ちましたから週約4本のペースです。早いの遅いのか分かりませんが、積
み重ねると数字は残ります。しかし残したいのが数字でないことだけは確かで
す。心したいと思います。
(北嶋)

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