週刊マガジン・ワンダーランド 第94号
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週刊マガジン・ワンダーランド(Weekly Magazine Wonderland)
2008年5月14日発行 第94号 毎週水曜日発行
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【目次】
◆タカハ劇団「プール」
特殊な状況に内包される、現代の心の普遍
小林重幸(放送エンジニア)
▼次号予告(第95号, 2008年5月21日発行)
「千秋残日抄」ほか。
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◇5月のクロスレビューは阿佐ヶ谷スパイダース公演 [ニュース&報告]
◇ONEOR8 「莫逆の犬」[特別寄稿]
◎「羊のナイフ」−劇作家の覚悟が生まれた瞬間
徳永京子(演劇ライター)
◇時間堂「三人姉妹」[特別寄稿]
◎リボンをほどいて進み出る 「絶望に酔わず、希望に溺れず」の覚悟
鈴木励滋(舞台表現批評)
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◆タカハ劇団「プール」
特殊な状況に内包される、現代の心の普遍
小林重幸(放送エンジニア)
開幕時から漂う、この「気味の悪さ」は何であろう。薄暗い地下の詰所、どぶ
さらいにでも使うようなゴムの防護服、そして「高額時給」を謳うビラ。全てが
『死体洗い』のアルバイトを連想させる。何の話なのか言葉で語る前から、既に
薄気味悪さ満載である。さらに舞台上に水道があって本当に水が流れたり、消毒
用とおぼしき液体を霧吹きで噴いたりと、そこで行われる作業は、なんとなく湿っ
た感じがする。その高い湿度感からか、得も言われぬいやな臭いが漂ってくるよ
うである。ひどく気持ち悪い情景の舞台というのは間々あるが、本当には存在し
ない臭いが、意識の中に立ち込めてくる舞台というのは特筆に価する。
にもかかわらず、冒頭その詰所にいる人たちは妙に明るい。これが不気味さを
さらに増幅する。こういう「違和感」が芝居全編を通して常時醸し出されている
のだ。このため観客は、常にすっきりしない不安定感に苛まれる。なんとも不気
味な空間で腰が落ち着かないのである。否が応でも想像は、不安な方向、不気味
な方向へ向かわざるを得ない。物語を語る前提として、観客の心をネガティブな
方向に向けておくことに成功していると言えよう。これは、ホラーなストーリー
を展開する上で、最も必要かつ最も効果的な状況作りである。とても手際良く設
えられた、手練な演出である。
そこで展開されるストーリーは、謎かけと、その答えの提示方法が非常に巧み
である。暗転を繰り返すことで同じ場所での日時の経過を表していくが、各々の
シーンで、その特異な場所の「新事実」を提示するとともに、それがきっかけと
なって、また新たな謎を呼ぶ仕掛けとなっている。その死体はどこへ行くのか、
何でここにあるのか、ここにいる人たちは何者なのか、本当は何をやっているの
か。一つの驚くべき事実の背後には、別の驚くべき事実がある。この連鎖が芝居
全編を貫き通す。次々と明らかになる事実は、事態が常軌を逸したものとなって
いることを繰り返し告げる。ただの気持ち悪さにはすぐ慣れてしまう観客も、波
状攻撃で積み重ねられる想像を超えた状況に、飽きることなく舞台の世界に吸い
寄せられることとなるのだ。
ここまでであれば、気持ち悪さを上手に提示しているの過ぎない。ある意味、
お化け屋敷と同じだ。この物語が大きくハンドルを切るのは、終盤近く、登場人
物自らが「怖さ」を語りだすあたりから。彼らは言う。「死体は怖くない」と。
「怖いのは、死体が怖くない自分だ」と。ここにおいて、物語の視点は、今、眼
前で起きている不気味極まりない事態そのものから、その不気味な事態に居合わ
せる人物へと、焦点を大幅に移動する。
この焦点の移動は重要である。そこに居合わせる登場人物は、やってみたら
「死体は案外怖くない」からそのバイトをやっているし、おそらく、その感覚の
延長で、そこで展開される様々な「ビジネス」に手を出していったのだろう。こ
のような「やってみたら案外大丈夫」という感覚で、ちょっとした悪事やら、ギャ
ンブルやら、犯罪やらに手を出して抜けられなくなるという事例は、実世界でも
一般的なことだろう。描かれる人物の「心の弱さ」には誰しも思い当たる節があ
るはずである。「闇へ続く階段を下り始めた」と芝居中で語られるが、その心の
闇は誰もが持っていて、そこへ続く階段を下り始める可能性は誰にでもある。そ
う思うと、表面的な「ホラー」とは別の意味で、この奇怪極まりない世界の中に
人間の心のリアルを見たようで、ゾクッとする恐ろしさを感じさせられるのであ
る。
つまり、ふと、登場人物の心に共感してしまえば、これまで、ある意味自分と
は関係ない世界の出来事に思えていたこの怪奇な状況が、観客にとっても、自分
とどこか関係ありうる世界、と現実感を帯びたものに見えてきたのではあるまい
か。この芝居の尋常ならざる状況は、世の中に数多ある「怪しげな状況」がフラ
クタル的に縮約されたものであって、この物語は地下の死体が浮かぶ「プール」
のことを描いているのではなく、世にある「いかがわしい事態」全般を描く、普
遍性あるものなのではないか。その普遍性によって、物語の説得力が強く湧き上
がっているのではないだろうか。
芝居のストーリーは、最後に「なぜこの場所を誰も知らないのか」という最初
の謎を明かす事件により、全てがつながって完結する。そのラストで、舞台には
高額時給を謳う「ビラ」が散らばっていた。そう、この芝居の主人公は、このビ
ラを見たことから「心の闇へ続く階段」を下り始めてしまったのだ。こういう細
かな作りこみからも、この芝居が舞台上の情景を越えて描こうとしていた物語が
伝わってくる。それを観客に印象付けようとする演出の細かさ、的確さと同時に。
きわめて細かな芝居創りをしつつも、現代の、現実の人間が持つ心のリアリティ
を的確に捕らえるメタ的視点がストーリーの中に常に存在する。そのため、ほと
んど地下の狭い場所のみを描きつつも、その場所の外部には日常のリアルな現実
世界が広がっているように見えてくるのである。この構造が、この物語世界を魅
力的で「リアリティ」のあるものとして成立させている最大の要因と言えないか。
単なるホラーと考えると、序盤からあまりに多くの情報を提示し続けているた
め、ラストは「さもありなん」な結末と言えなくもない。しかし、その納得し得
る結末に至る過程において、特殊なことをしている登場人物たちが、実は誰でも
持っている心の隙間にハマっているだけ、という人の心の共通点を捉えた描写と
なっている点が、この芝居を現実感のある物語にしていると思うのである。
【筆者略歴】
小林重幸(こばやし・しげゆき)
1966年埼玉県生まれ。早稲田大学理工学部電気工学科卒。東京メトロポリタン
テレビジョン技術部勤務。デジタル放送設備開発の傍ら、年間200ステージ近い
舞台へ足を運ぶ観劇人。
・wonderland寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=40
【上演記録】
タカハ劇団第4回公演「プール」
http://takaha-gekidan.com/
http://takaha4th-poor.seesaa.net/category/4869293-1.html
王子小劇場(2008年5月2日-6日)
脚本・演出 高羽 彩
CAST
石澤 彩美
井手 豊(安心くり太郎)
猪瀬 早紀子
浦井 大輔(コマツ企画)
岡本 篤(劇団チョコレートケーキ)
兼枡 綾
久我 真希人(ヒンドゥー五千回)
鈴木 ハルニ(劇団コーヒー牛乳)
高羽 彩
永山 智啓(elePHANTMoon)
西尾 友樹
(五十音順)
STAFF
脚本・演出 高羽 彩
舞台監督 藤田 有紀彦
舞台美術 稲田 美智子
照明 吉村 愛子 (Fantasista?ish.)
音響 角張 正雄(SoundCube)
小道具 木下 早紀
衣装 佐藤 愛
フライヤーデザイン サノアヤコ
演出助手 目崎 剛
制作助手 小林 由梨亜(the Square of y)
制作 安田 裕美(the Square of y)/
製作 タカハ劇団
TICKET(自由席・日時指定)
前売 2,000円/ペア 3,800円
当日 2,300円
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◇5月のクロスレビューは阿佐ヶ谷スパイダース公演 [ニュース&報告]
5月のクロスレビューは、阿佐ヶ谷スパイダースの新作公演「失われた時間を
求めて」を取り上げます。雑誌のインタビューで「これまでのスパイダースファ
ンが見たら戸惑うだろう」と自ら語っている「不条理劇」だそうです(「シアター
ガイド」6月号)。また「今秋から1年間日本を離れる」と話しているので、劇団
の新作公演はしばらく見られないようです。
作・演出は長塚圭史。出演するのは中山祐一朗、伊達 暁、長塚圭史のメンバー
に、奥菜恵が加わります。ベニサン・ピットで5月8日から始まり27日までのロン
グランです。
クロスレビューの応募応募要領は以下の通りです。
名前と肩書きを明記。
評価:★印による5段階評価。
コメント:400字。
締め切り:5月28日(水)。
住所、連絡先をお知らせください。採用分に薄謝を差し上げます。
宛先と問い合わせは、wonderlands@northisland.jp まで。
前売りは全公演とも一般発売後即日完売。相変わらずの人気です。
事務所に尋ねたところ、当日券を用意するようです。開演1時間前に来てくれ
れば補助席も動員して座席をできる限り確保すると言っていました。
・公演情報:http://asagayaspiders.net/modules/bulletin/article.php?storyid=424
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【編集日誌】
☆タカハ劇団「プール」公演を見たとき、大江健三郎の初期作品「死者の奢り」
を思い浮かべました。大江作品とは違って、こちらはホラー描写が一転、登場人
物の「内部」に視線が向けられ、さらに「われわれ」との共通項がせり上がって
くるという仕掛けです。これからが期待できそうですね。
☆5月のクロスレビューは阿佐ヶ谷スパーダース新作公演「失われた時間を求め
て」です。ふるってご応募ください。
☆「千秋残日抄」は連載と言いながら、昨年4月の第8回「なぞのYAWARA は未体
験」(2007年4月11日発行 第37号)で滞っていました。次号から再開します。
(北嶋)
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編集長 北嶋孝
制作・発行 ノースアイランド舎/(有)ノースアイランド
〒202-0002 東京都西東京市ひばりが丘北4-1-9 Tel& Fax: 042-422-5219
問い合わせ wonderlands@northisland.jp
webサイト http://www.wonderlands.jp
(C) 2006-07 northisland
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