週刊マガジン・ワンダーランド 第89号
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週刊マガジン・ワンダーランド(Weekly Magazine Wonderland)
2008年4月09日発行 第89号 毎週水曜日発行
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【目次】
◆MONO「なるべく派手な服を着る」
「おひ!」
武田浩介(演芸作家・ライター)
◆「ヤン・リーピンのシャングリラ」
滅びゆくものは美しく、喪われたものだから懐かしい
文月菖蒲(古書・骨董研究家)
◆青年団リンク青☆組「うちのだりあの咲いた日に」
揺るがないリアリティ ぎっしり詰まった伏線が見事
小畑明日香(慶大生)
▼次号予告(第90号, 2008年4月16日発行)
Port B「東京/オリンピック」(村井華代)
岸井大輔(ポタライブ「元」主宰)インタビュー第1回、ほか。
■web wonderland から===================== http://www.wonderlands.jp/
◇五反田団「偉大なる生活の冒険」[特別寄稿]
◎「内部」に閉じる世界を躊躇なく肯定する 前田ワールドの特徴と凄さ
中西理(演劇・舞踊批評)
◇4月のクロスレビューはポツドール「顔よ」[ニュース&報告]
◇タレイアスカンパニー「レッドくんのもくようび」[特別寄稿]
◎何もないところから生まれるカラフルな世界
野宮安寿(劇作家)
◇劇団掘出者「チカクニイテトオク」[特別寄稿]
◎心の奥底から掘り出される言葉 劇作家の思いを越えて
因幡屋きよ子(因幡屋通信発行人)
◇背番号零「明るい部屋」
◎コトバの合間に肉の手触り 会話劇に挑戦した第一歩 [特別寄稿]
木俣冬(文筆自由労働者)
◇龍昇企画「モグラ町」
◎ダメな男たちが奏でる、ユルい漱石的シェイクスピア的日常 [特別寄稿]
高木 登(脚本家)
◇龍昇企画「モグラ町」
◎待ったなしで台詞が飛んでくる 「間」は徹底して削がれて [特別寄稿]
小畑明日香(慶応大生)
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◆MONO「なるべく派手な服を着る」
「おひ!」
武田浩介(演芸作家・ライター)
劇団MONOの第35回公演は、『なるべく派手な服を着る』。
まずは、このタイトル。特に難しい単語も使っていないし、非日常的な動作の
描写でもない。「なるべく派手な服を着る」。うん。服を着る。派手なね。派手
なのを着るわけね。分からないことは、一つもない。
それでも何だろう、この一文から醸し出されるイメージが、胸をくすぐってく
る。さらっと読み下せない。己の意識に寄り添ってきて、構ってほしげにソワソ
ワしている。「なるべく派手な服を着る」。てか、分かっている。その原因は、
「なるべく」にあるのだ。
飾っちゃうんだよな。取り繕っちゃうんだよな。で、そうゆうのに反発したり
してナチュラルさ万歳!ビバ自然体!とか声高に言ったりしたって、それも結局
自分をデコレートしていることには変わりないんだよな。自意識の葛藤。意識無
意識せめぎあい。結局、自分をちゃんと見て欲しくって、今日もやっぱり着るん
だよ。「なるべく」派手な服を。
ということで、お芝居について。
開幕、居間で2人の男が「新しいゲーム」をやっている。これってMONOの芝居
では何度か観たことのある光景だ。幾ら説明されてもルールが伝わり辛い、新し
いゲーム。作った方は「面白いんだって!」とノリノリだけど、付き合わされる
方は辟易している。ズレまくりのゲーム。ルールと関係性のパラドックス。まる
で、……すいません、のっけからちょっとこっ恥ずかしい文章を書いてしまいそ
うになってしまった。
それはともかく、舞台は地方の一軒家だ。
書道家の父が倒れ、この家の兄弟たちが久しぶりに集まり勢揃いっていう状況。
母親はとっくに亡くなっている。
まずこの家の構造が、ヘンだ。最初は普通の一軒家だったのだが、増築・改築
を重ねて、やたらと複雑な構造になってしまったという。舞台奥にある押入れは
台所につながっているのだが、その道筋は軽く迷路。台所にたどり着くのはある
程度の熟練を必要とする。舞台上手側には、花壇がある。かつてここは庭だった
のだ。それを増築したものだから、室内に花壇というシチュエーションになって
しまった。
そんな家で、父と共に暮らしているのは、長男。で、次男がいて、3男がいて、
4男がいて。
と、ここまでが4つ子という設定。
そして、その下に5男。
そのまた下には、兄弟中、唯一の養子である6男。
まず上の4つ子だけど。これがさっぱり似ていない。全然似ていない。ま、実
際演じる役者が実の4つ子ってことはまずありえないし、これも「演劇のウソ」っ
てやつ?それにしても…なんて思いながら、彼らの繰り広げる会話に耳を傾けて
いく。
4つ子たちは、養子の6男をちょっと過剰に溺愛しており、今日はその6男に逢
えるのを楽しみにしている様子だ。
と、そこに来客が。来たよ来たよ我らの6男って感じで、皆の心、浮き立つ。
すると、そこにやってきたのは5男。久しぶり、と笑顔の5男に対して、一同、落
胆の表情。あからさまに。
5男は、兄弟の中でもひときわ影が薄い。4つ子でもなければ、養子でもない。
これといったドラマも背負わず兄弟の中に存在する5男。実の兄弟なのに名前を
覚えてすらもらえない。かつて家族皆が一緒に暮らしていたときは、盛り上がる
皆から離れていつも1人でポツンといた。その影の薄さは、家の中だけでなく彼
本人の特性のようで、この日連れてきたガールフレンドからも、「存在感がない」
なんて言われる始末。
そんな5男だけど、彼の服装が、派手なのだ。いや特に変ちくりんっていうワ
ケではないんだけど、他の主演者に比べると、スカジャン姿の5男の服装は、劇
中人物の中でも派手さがあった。そう、「なるべく」な派手さが。
やがて6男もやってきて一族再会。あったかいほっこりした空気が充満するん
だけど、やっぱりどこかが妙だ。随所に笑いを交えたやり取りの中で、この家族
の様々な事情が浮かび上がってくる。
何十年も前に強盗殺人事件の容疑者として誤認逮捕された長男。地方都市の閉
塞感の中で、彼の心の拠り所は、この家の、皆が仲の良い、素晴らしい家族の長
男だということ。
そして常識人ぽい次男は、そんな長男スタンスに憧れている。表向きはおくび
にも出さないけど、ちょっと突けばドバドバ出てくる羨望と嫉妬。
カメラマンの3男は、それなりに世間で評価され、女にもモテるのに、何か実
感あるものに直面すると、そこから反射的に逃げてしまう。
不器用そうな4男と、彼に威張られることだけが自分の存在価値だと思い込ん
でいる妻の、共依存的な関係。
相方がいるのは、2男と4男。だけど2組とも内縁の夫婦関係で、籍を入れてい
ない。この家の男には、書類上の夫婦にはなれないというしきたりがあるのだ。
は?何それ?でも、彼らは疑わない。自然にそれを受け入れている。
そんな4つ子の兄弟、やっぱり6男を可愛がる。5男をすっ飛ばして、可愛がる。
そして6男も、憎たらしいほどに可愛がられる。愛情を全身で受けとめる。
突っ込みどころ満載の人間たち。うん。だったら突っ込んでみよう。「おい!」。
でも、これがどうも上手くいかない。
劇中、この家の6人兄弟も、ことあるごとに「おい」と言うセリフを発する。
なのに、彼らは揃って「おい」と言うところを、こう発音するのだ。
「おひ」。
何だよ「おひ」って。言いにくいし。
「おひ」と発音することで、緊張感の無さが漂ってくる。「おい!」とバッサ
リ切り込んでいきたくっても、間抜けさが先に立つ。そしてそれでいて、何だろ
う、妙に切実な響きもあったりするのだ。
この兄弟たちの、「何か」をスルーしているような生き様。ドタバタキャッキャ
楽しそうにしていても、どこか虚ろな感じ。それらが「おひ!」によって、より
確固たるボンヤリさと共に、観ている側に印象付けられてくる。
劇の終盤、彼らはスルーしていたものに直面させられる。
上の4つ子は、4つ子ではなかった。さらに実の兄弟ですらなく、それぞれバラ
バラに貰われてきた子どもだったのだ。
そんな重過ぎなカミングアウトを残して、死んでいく父親。
え?6男だけじゃなくって、俺たちも養子だったの?仲の良かった兄弟に、財
産分与とか女の取り合いとかナマナマしい問題が発生したこともあって、亀裂が
走ってくる。
全てが腑に落ちた。4つ子が全然似ていなかったことも。彼らが籍を入れられ
なかったことも。
6男に対してのベッタベタな愛情も減退。あの可愛がりっぷりは、自分達の根
源的な問題をスルーしてきた彼らの、無意識な気持ちの落としどころだったのか
もしれない。
そして追い討ちをかけるように、5男すらも母親が別の男と作った子どもだと
いうことが判明する。ハッキリと出自が分かるだけマシ?いやいや、そんなこと
はない。あの優しかった母さんが、他の男とだなんて…。
血のつながっていない人間の集合体。形だけの家族。だけど、思い返す記憶の
中の父と母は、とっても優しかった。兄弟全員、5男を置いてけぼりにしつつも、
とても仲が良かった。
でも、それは「なるべく派手に」家族を取り繕っていただけだったのだ。
幸せによる呪縛を、兄弟は知る。
呪縛っていうのは、不幸だけじゃなくって、幸せからもあるものなのだ。それっ
て余計タチ悪そうけど。
「僕たち仲の良い兄弟だったじゃない!」。いままでずっと愛され続けてきて、
急にその梯子を外されてしまった6男の叫びも、もう、兄たちの胸には響かない。
兄弟たちのそれぞれの人生が変化を見せ始めるが、5男の存在感は相変わらず
薄いまま。それだけは変わらない。
一周忌で皆が集まったとき、ふっと、そんな5男が、泣く。呪縛と分かってい
ながら、自分を縛り付けたものに対して涙を流す。血のつながりはなかったけど、
確かに、自分たちはつながっていたのだ。
誰からも見てもらえなかったけど、自分はここにいたのだ。
父も死に、取り壊されることが決定したこの家。いつだって1人でいた。楽し
そうにはしゃいでいる兄弟たちから離れて。なるべく派手な服を着たりしたけど、
気づいてもらえなくて。でも、いた。確かに、自分はいた。いたのだ。
その時間を思うと胸が張り裂けそうになる。だから、泣く。突き放されても裏
切られても、やっぱり捨てきれないもののために。自分が、いま、存在している
ということのために。
そんな彼の姿をみて、兄弟たちは、はじめて、5男の存在を実感と共に受け入れる。
ということで、父親の死によって、両親の呪縛はとりあえずなくなった。でも、
それで彼らがスパッと生まれ変われるなんてことはないだろうし、世間だって、
こんなにクセのある彼らをそう簡単に受け入れてくれたりはしないだろう。
でも、生きていく。それぞれがそれぞれなりの服を身につけて。
自分を見て欲しくて、分かって欲しくて。だから、なるべく派手な服を選んで。
そんな自分にまた照れて。
そんな彼らなりの人生。笑ったりバカにしたりなんて、できるわけがない。
けれでも、ちょっとは突っ込みたい。彼らの変わらないであろう間抜けっぷり
を、己にも返ってくると分かっていながら、やっぱり、突っ込んでみたい。
突っ込みセリフはもちろん、
「おひ!!!」
【筆者略歴】
武田浩介(たけだ・こうすけ)
1975年東京生まれ。演芸作家・ライター。97年ごろよりビデオ映画の脚本を執
筆。数年前より、落語やコントなどの演芸作品の台本も書きはじめる。
【上演記録】
MONO第35回公演『なるべく派手な服を着る』
http://www.c-mono.com/stage.htm
作・演出:土田英生
出演:水沼健 奥村泰彦 尾方宣久 金替康博 土田英生 亀井妙子(兵庫県立
ピッコロ劇団) 本多力(ヨーロッパ企画) 松田暢子(ヨーロッパ企画) 山本麻
貴(WANDERING PARTY)
舞台監督: 鈴木田竜二・米谷有理子
舞台美術: 柴田隆弘
照明: 葛西健一
音響: 堂岡俊弘
衣裳: 權田真弓・ 大野知英 [iroNic ediHt DESIGN ORCHESTRA]
演出助手: 磯村令子
イラストレーション: 新山景子
宣伝美術: 西山英和[PROPELLER.]
制作助手: 田平有佳
制作: 垣脇純子・本郷麻衣
企画・製作・主催:キューカンバー・MONO
大阪公演:HEP HALL(2008年2月22日-3月2日)
:一般 3,500円 学生 2,500円 (当日券は各300円UP)
東京公演:ザ・スズナリ(2008年3月6日-16日)
:一般 3,800円 学生 2,800円 (当日券は各200円UP)
助成: 平成 19 年度文化庁芸術創造活動重点支援事業
協力: 株式会社オポス 兵庫県立ピッコロ劇団 ヨーロッパ企画 WANDERING
PARTY radio mono
京都芸術センター制作支援事業
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◆「ヤン・リーピンのシャングリラ」
滅びゆくものは美しく、喪われたものだから懐かしい
文月菖蒲(古書・骨董研究家)
東京渋谷のBunkamuraで『ヤン・リーピンのシャングリラ』は喝采をもって迎
えられた。同時期、チベットでは2008年3月10日から始まったデブン寺の僧によ
るデモを発端として大規模な暴動が発生し、中国政府への抗議活動と中国政府に
よる鎮圧行動が続いている。華やかな祭典、北京オリンピックを目前に控え、中
国における少数民族のあり方が改めて注目されている。それは中国が大国だから
こそ人道的であるべきだという理論よりも、アメリカを中心とした近代感覚が無
意識に抱いている、文化・歴史への強い憧憬に近い。
中国雲南省には25の少数民族があるという。ヤン・リーピンは中国雲南省西部
の少数民族ペー族出身のダンサーで、2000年から約15ヶ月を費やし、当地の歌舞
を調査・収集した上で、2003年に『シャングリラ』(中国では『雲南映像』英語
では『Dynamic Ynnuan』)という1本の作品に仕上げた。パフォーマーがすべて
当地の少数民族出身の素人であること、少数民族がもつ独自の踊りや歌にほとん
ど手を加えていないことが特徴である。
作品は非常にユニークだ。維新派が「舞台を祭りにした」ものだとすると、シャ
ングリラは「祭りを舞台に乗せた」もので、博覧会を覗いているような心持ちだっ
た。ナマハゲや御柱祭を舞台上でみている感じ。それでも祭りの様式というのは
凄い。様式を行うだけでそこから若い男女の応酬、性的な解放、女性の強さ、神
への畏敬など、祭りのもつテーマは沸き起こる。観客にフェイクの祭りを覗いて
いる感覚はない。昔から繰り返されてきた人間の営の疑似体験に近い。
プロローグ「創世記」から始まり、「太陽」、「大地」、「故郷」、「聖地巡
礼」、エピローグ「孔雀の精霊」と続く。音楽に合わせ太鼓・銅鑼・拍子木が独
特のリズムを奏で、各民族の祭りが万華鏡のように繰り広げられる。
忘れがたいのは“腰歌舞”(フアヤオイ族歌舞)。刺繍の映える赤い衣装を身
にまとった数十名の少女たちが歌い、踊る。高く澄み切った声は力強く、ただ生
きる喜びに満ちている。単調なリズムは段々早くなり、彼女たちはひたすらエネ
ルギーを増していく。この力が都会にはない。生きている美しさに満ちている素
朴な女たち。イメージの中にしかいない、強くて若い女たちだ。
手のひらに目を描いて、菅笠で顔を隠して踊る“女儿国”(女性の国)も凄い。
「太陽は休んでもいい、つきも休んでもいい。でも女は休まない。
もし女が休んだら、かまどの火が消える。」(“女儿国”(女性の国)より抜
粋)
動物や太陽を模した道具、ぼろきれのように大地に打ち付けられる肉体、風に
はためく旗、昆虫の交尾を模した動き、経文の書かれた経典の筒。踊りの中には
地、水、生物、風、火、神と彼らの生活に根付く全てが盛り込まれている。私た
ちは彼らの核を目視し、感嘆する。連綿と連なってきた民族の核。大地への愛情
と少数民族という明確なルーツ。唄では彼らの理想郷すら語られる。
「連山の真ん中に金色の峰が聳え立っていて
その金色の峰の中に金色の湖があり
その金色の湖のはたに金色の一本の木が立ち
その金色の木の上に金色の鳥が羽を休め
その金色の鳥からしあわせの歌が聞こえてくる」(“童謡”より)
私が感じたのは圧倒的な懐かしさと、既に喪われてしまったものの匂いだ。
アイデンティティーが個人で形成されるというのは米国式の考え方である。1
人一つずつPCをもち、「私は●●です」とアカウントを取得する時代の考え方。
しかし、旧来は人種、民族、国、宗教、イデオロギーがアイデンティティーの根っ
ことして存在していた。自分が何のために存在するかというよりは、自分はどう
やって死んでいくかということに古来から決まった答えがあり、指針があり、安
心して生きていた。死に方が決まっているからこそ、生きている間にやるべきこ
とや、限界が明確になる。限界があるからエネルギーを放出させるための祭りや、
縁を結ぶためや宗教のための儀式がうまれ、それが文化となる。アメリカが先導
する近代感覚をもつ人々はその制限にこそ羨ましさを感じ、希少価値を感じるの
である。
皮肉なことに近代感覚が憧憬するアイデンティティーはまさに近代化によって
喪われた。
調査からはや8年、少数民族には近代化され、ジーパンを履き、1年かけて美し
い刺繍を施すことや祭りそのものを止めたものも多いという。この美しく荒々し
い祭りの中で、もはや舞台の上にしか残っていないものがあるのだ。演者の中に
は年に一度しかたたかない銅鑼をステージ毎に叩くことに、躊躇するものもいた
という。同様の違和感は先に述べた「博覧会を覗いているような心持ち」として
観客にもある。古き祭りを1点、1点眺める。もちろんそれが、興行的に少し改編
されていること、農村で働いていた演じ手を都会に連れ出してきてしまったヤン
・リーピンに対して、文化を損なうという考え方もあるだろう。
だが実際には中国の紅く、乾いた大地でこの祭りは行われていない。生活が変
化するということは、旧来の形式が変容し、喪われていくことである。ヤン・リー
ピンが世界を巡り、彼らを舞台に上げたことによって、加工されてはいるものの、
踊りと歌自体は残った。そしてそれは美しいのだ。滅びゆくものだからこそ、羨
ましく、喪われたものだからこそ、観客にとって懐かしい。そのことをすら、ヤ
ン・リーピンは計算していたのではないかと、私は考えてしまう。
この時期に少数民族の存在を世界に触発したこと、そして結果的にサンプルと
してその歌舞を保存することになったこと。ヤン・リーピンの功績は、大きい。
チャン・イーモウ監督の素晴らしいプロモーション映像があるので興味のある
方は是非ご覧頂きたい。
http://www.bunkamura.co.jp/broadband/movielist/movie_orchard.html#o_liping
【筆者略歴】
文月菖蒲(ふづき・あやめ)
古書・骨董研究家。バイヤーの嗅覚をベースに本・漫画・演劇・ダンス・歌舞
伎の分野をたゆたう。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=47
【上演記録】
▽東京公演
芸術監督・構成・主演:ヤン・リーピン(楊麗萍)
出演:雲南映像集団
Bunkamuraオーチャードホール(2008年3月14日-22日)
http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/08_y_liping/index.html
http://www.tbs.co.jp/event/ylp2008.html
・全席指定S席10,500円/A席8,400円/B席5,250円
主催:TBS、Bunkamura、(株)アルバックス
後援:中国大使館
【参考情報】
・少数民族の日常舞う ヤン・リーピン主演「シャングリラ」(asahi.com 2008
年03月10日14時50分)
http://www.asahi.com/culture/stage/theater/TKY200803100179.html
・Dynamic Yunnan ヤン・リーピンの『シャングリラ』日本公演 制作発表(シ
アターガイド 2007.10.04)
http://www.theaterguide.co.jp/pressnews/2007/10/04.html
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◆青年団リンク青☆組「うちのだりあの咲いた日に」
揺るがないリアリティ ぎっしり詰まった伏線が見事
小畑明日香(慶大生)
処女作の五年ぶりの再演、であり、執筆当時の自分の意向をも演出家の立場から
よく汲み取っていたと思う。
脚本家コンクール入賞作家の、演出家としての力量も充分に感じさせてくれた。
あ、若手演出家コンクールで賞とっている人でした。失礼しました。
柱時計と、二方向に縁側のある日本家屋の居間が舞台になる。
客席に面した二方向が縁側なので居間がなかば庭にせり出す造りになっていて、
開演前には縁台に座布団が並べて干してある。
客入れの最中に役者の一人が、潮風にさらされたらしいその座布団を咳き込みな
がらはたいて取り込み、去っていく。ふと見ると客席の足元まで庭で、白い細か
い砂が敷き詰められている。
これから取り込まれたその座布団に、出演者全員が座ることになる。
リアルに作りこんでいくと思えばそうでもなかった。庭の上手隅にある白い小さ
な砂山の周りには、何種類かの花が小さく咲いていることになっている。海の近
くであるが波の音を絶えず流すわけでもない。
途中にお経をあげるシーンがあるが、これもなかなかぶっ飛んでいて意表を突か
れた。上演中なので詳しいことは書かない。書かないけど、コメディが好きな人、
特に映画の「お葬式」が好きな人はあのお経のシーンだけでも見に行こう。そし
て読経が聞こえてきたら腹筋に力を入れてください。私は途中で噴いた。
住職が来るあたりまでの展開は完全にシチュエーションコメディである。家を出
た長女・次女と彼女達の関係者、それに隣家の夫婦が飛び入り参加して住職が来
るまでの算段を整えようとするとき、いくつもの「びみょーな間」が起こる。び
みょー、の原因は隣家の奥さんの手作りクッキーだったり「アンパンマン」での
ジェネレーションギャップだったりする。
つつがなく場を収めようとしているときに、「なんでうなぎパイって夜のお菓子
なの?」って発言が飛び出してしまったりする。さあお鮨でも食べよう!って段
になって次女が自分の彼氏に絶望して泣き出してしまう一コマもあり、客席も静
まり返ったこのシーンで私は一人にやにやしてしまった。ああ、いる、いる、こ
ういう子。気持ちは分かるけど何も今泣くなよ、って子。
作品の話からはずれるけど、青年団役者の小林亮子さんが演じた次女・江美子は
個人的に一番ツボにはまった。決定している次回公演が12月のようで待ち遠し
い。
それと、同じく青年団役者で「ライフ・レント」「五月の桜」とコミカルなノリ
の役どころだった天明留理子さんは、チョコチップの代わりにコーヒー豆入れて
クッキー作っちゃう役どころながら、雰囲気が全く変わっていて、ラストでは大
人のしんみりした悲しさを見せてくれた。プロだ。
さて、「うちのだりあの咲いた日に」はコメディとしても心温まるドラマとして
も終わらない。
居間での団欒の雰囲気をしばしばぶち壊す一人に、長女の、高校生になる娘であ
る。制服の感じといい高校生っぽさが出ていて名キャスティングだったと思う。
とても印象に残っています。
完全なコメディなら、この高校生は最後まで爆弾発言を繰り返すキャラクターだっ
たかもしれないが、吉田小夏さんは彼女の内面をほうっておかない。住職が帰っ
てひと段落した後は、この娘を含めた長女の家族を中心に話が展開する。娘が気
持ちをほどいたことで、長女と長女の夫もわだかまりを解く。
そしてヒューマンストーリーなら、それぞれにわだかまりに決着をつけた長女・
次女・長男の三人が集うシーンで話は終わっていただろう。
しかし、一つの命を弔ったこの家は同時に、刻々と容態の変化する、寝たきりの
祖母を抱えている。物語はその現実をラストにきてざっくりと見せて終わる。
「うちのだりあ」が咲いた日も時間は止まらない。ぎっしり詰まった伏線が見事
に処理されている。
シアトルに20年ぶりに雪が降った5月、のある日の話である。
社会情勢に大変疎いので、誠に恥ずかしながら実際の出来事だったかどうかは自
信が無い。が、遠く離れたシアトルの天気が舞台となる湘南の一家族の法事に微
妙に影響し、状況を変えている。
物語のほとんどはシアトルなんか関係なく進むが、長女の家族が遊びに行く海は
世界とつながっている。途中途中で大胆に遊びを入れたぐらいでは揺るがないリ
アリティがあった。
【筆者略歴】
小畑明日香(おばた・あすか)
1987年横浜市生。慶大文学部在学中、国文学専攻。売文屋、役者。『中学校創
作脚本集 (2)』(晩成書房)に脚本収録。2007年10月Uフィールド+テアトルフォ
ンテ主催『孤独な老婦人に気をつけて−砂漠・愛・国境−』(マテイ・ヴィスニ
ユック作)に出演。wonderland執筆メンバー。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=18
【上演記録】
青年団リンク青☆組「うちのだりあの咲いた日に」
こまばアゴラ劇場(2008年4月5日-13日)
作・演出 吉田小夏
キャスト:
足立誠 小笠原大 藤一平 陽茂弥(ねねむ) 藤原進一朗 小林亮子 福寿奈
央 天明留理子 林竜三 堀夏子 荒井志郎 岡崎貴弘(アンティークス) 郡
司直樹 長井明日美
スタッフ:
舞台監督 喜久田吉蔵
美術 濱崎賢二
照明 伊藤泰行
音響 泉田勇太
振り付け 本居蓮
宣伝美術 空
制作 宮永琢生+中嶋秀樹
総合プロデューサー 平田オリザ
企画制作 青年団リンク 青☆組 (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
主催 (有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
協力 ZuQnZ/スターダス21/青年団/(株)融合事務所/(有)レトル
(50音順)
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【編集日誌】
☆MONO「なるべく派手な服を着る」評を書いた武田浩介さんは今回初登場で
す。ざっくばらんな筆致が読み手の気持ちを解きほぐしてくれます。また登場し
てもらいたいと思います。
☆日ごろの行いがよくないせいでしょうか、ひどい風邪に悩まされています。く
しゃみ、鼻水、鼻づまりの三大症状のほか、微熱が続いてこのマガジン発行も遅
れてしまいました。すみません。症状が重くなると、気持ちまで鬱々としてしま
いますね。心身一如とはよく言ったものです。はい。
(北嶋)
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発行 ワンダーランド
〒202-0002 東京都西東京市ひばりが丘北4-1-9 (有)ノースアイランド
Tel& Fax: 042-422-5219 wonderlands@northisland.jp
webサイト http://www.wonderlands.jp
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