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2009/12/01

アルテミス女装子マガジン ★第159号★

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 ・女装小説 : L’oiseau bleu 幕間1-1

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              L’oiseau bleu 幕間 一

                                作:カゴメ

▼連載 幕間1-1

『信じていたものを疑う行為に、勇気は必要ありません。人類がその数百万年の歴
史のなかで蓄積した知識とは猜疑心(さいぎしん)の副産物に過ぎないからです。そ
の最もわかりやすい例を挙げるなら、食物でしょう。原初の時代から生命活動と密
着しているだけにその研究には膨大な時間と多数の労力が費やされてきました。味
の良し悪しもさることながら、毒物の調査には犠牲さえ払われたことでしょう。見
た目を、味を、予後を疑うことで今日我々の食生活は当然のもののようにあるので
す。
ともあれ人間はある事象を認知し、理解すると同時に新たな疑念を持つことが自然
に組み込まれた生物で、それはさながら血液が全身を循環することで身体機能を活
性化させる仕組みのようなものです。
ところがその思考の巡りにも、停滞が訪れることはあります。人はときに、自分が
他人に比べて劣っている、あるいは価値が低いと感じることがあります。限界のあ
る能力を最大まで引き出して、なおかつそれが意味を成さなかったとき、状況に埋
没し、流されることを選ぶのもまた人です。それを一律に弱さ故と断じてしまうこ
とは容易いですが、劣等感から反発力を生成することもまた時間の経過に伴う自分
自身への疑いと理解の繰り返しが成せるのです。
人の活力はこのように上昇と下降を繰り返すもので、表面上にはその人の性格や環
境の変化にしか表れません。だから、人は変わるものだから敬意を持つことが出来
ない、とは非常に愚かで寂しい考え方だと僕は思います。
対象を肯定するためにも、否定するためにも継続的な理解が必要なのです。

個人が生命体として完成しているのみでは、そこに世界は存在し得ません。そのこ
とは以前君にも長々と話したとおりですが(あの時、僕が酒に酔っていたせいです)
個人の思考は他人の価値観という不定形なものに対し優先されるべきなのか、ある
いは竿を立てずに流されることで均一を図るべきなのか、僕には未だ結論づけられ
ません。状況との兼ね合い、バランスなどという便利な言葉では自分を納得させら
れませんでしたし、それほど器用だとも思えません。
しかし僕は、他者という存在が必ずしも自分にとって善を成すものとは言い切れな
い以上否定する行為もまた必要だと思います。愛情がそうであるように、憎しみも
また他者とのつながりを持つ手段の一つなのですから』



                幕間 一



かつて戦争があった。
といっても、新聞や歴史の教科書に載るような国同士の大掛かりなものではなく、
私のごく身近に起こった銃も爆弾も使われることのない戦争だった。けれどその時
私が受けた傷は休火山のように今なお再発の恐れを抱え、悲しみや怒り、畏怖(いふ)
の記憶は頭の中よりも指先やつま先、髪の毛の先に至るまで全身に刻みこまれてい
る。私がそれをあえて戦争と呼んでいる理由は後々まで残る、治りにくい傷跡と将
来に渡って支払わなければならない破壊の対価にほかならない。そして何より性質
の悪いことだが、発生にいたるまでの過程が複雑でどちらが正しく、どちらに非が
あるのかを一概に言うことができないのだ。

              ※   ※   ※

「つまり、読解に語学力なんか必要無いのよ。大切なのは一を聞いて十を知るフィ
ーリング、それに書き手の心理状態を再現する想像力。自分なら、どんなことを考
えながらその文章を書くのかってね」
学食の窓から照りつける五月も終わりの爽やかな陽光は、岡崎さんの周囲にだけ暖
かく降り注いでいるように見える。彼女は昨年までOLをしていたらしい聴講生だ。
一輪挿しの花のように高くスタイルの良い容姿は学内の女性の羨望と相反する嫉妬
を一身に集めている。もっとも私は、お昼休みにクラスメイトに誘われるまま甘口
のカツカレーを美味しそうに食べる彼女が嫌いではない。彼女の対面、すなわち私
のふたつ右隣に座っている石田君などは熱烈なファンを仲間内だけではあるが公言
しており、近代文の授業の続きのような話におもちゃの水飲み鳥のようにうなずき
ながら聞き入っている。
「ははは、そこまで出来たら俺でも作家とかになれそうですね」
「そうね。良かったら石田君、何か書いてみたら? 確かサークル入ってるんでし
ょう?」
「無理ですって、岡崎さん。『エウレカ』は文芸サーとは名ばかりの、コンパとゲ
ーム大会ばっかりのお遊び処なんですから」
石田君のさらに隣の中条が負けじと横槍を入れる。顔を決して見合わせようとしな
い二人の間には、剣呑な空気が漂っている。彼らは目の前に並べたおそらく学食メ
ニューで最も安く、そして味も不味い醤油ラーメンの温いスープの味もわかってい
ないだろう。
彼らの話から蚊帳の外になってしまったので、ハムとレタスのサンドイッチを食べ
終えてぼんやりと窓の外を眺めた。大学のキャンパスにいわゆる校庭が無いことを
知って驚いたのは三年前の秋口、学校見学に来たときのことだった。その頃は、早
く一人暮らしを始めて自由になることしか考えられなかった。結果、一年間の予備
校生活を経てもなお、滑り止めで受けたこの大学しか合格できなかったのだ。もっ
とも今は、そのこと自体後悔も反省もしていないが。
「シズカ、何ぼんやりしてるの?」
向かいの席の茜(あかね)が声を掛けてきて、私は現実に引き戻された。同級生だが
一歳年下の彼女と初めて知り合ったときも、私はこんな風に教室の窓からキャンパ
スを見下ろしてフラッシュバックするあの日を思い返していた。その様子が彼女に
は面白かったらしく、以降次第に話をする仲になっていた。
「ううん、ちょっとね。家に心理学のノート忘れてきたの思い出しただけ」
気だるさがこみ上げて、適当な嘘をつく。
「あら、だったら私の使う?」そう言って割り込んできたのは岡崎さんだった。
「今日、これから予定あるから早退するつもりだったの。良かったら使って?」
まとめ下手で有効活用できていないとはいえ、社会学と併用のノートはちゃんとカ
バンに収められている。返事に戸惑う私に、岡崎さんはその大人の女性の柔らかな
笑顔で一冊のノートを取り出してくれた。
「いえっ、でも……あの」アイボリーの表紙のそれを目の前に差し出されると、す
ぐ隣の男二人の視線が痛々しいほどに突き刺さってくる。下手な断り方をすれば私
が悪者にされるような雰囲気だ。「……すいません、ありがとうございます」受け
取ってしまったのは居心地の悪さを払拭するためだったのだが、必要もないものを
わざわざ借りたことで、後ろめたさは形を変えてのしかかって来るのだった。
中身を数ページめくってみると、確かに自分でまとめたものより丁寧な字で見やす
く、かつわかり易い。
その学食からの帰り、岡崎さんと別れたあとですぐ隣を歩く茜の機嫌がなにやらよ
さそうなことに気がついた。
「今日、藤村君たちと飲み会なの」
「あれ、先週もじゃなかった? ハードスケジュールだね」
「そうでもないよ、でも女子が一人足りないんだよねえ」あえて私を誘おうとはし
ない。彼女に限らず、私はクラスの間では男嫌いで通っているようだ。それがかえ
って助かっているところもある。
校門を出て、キャンパスに隣接されている大きな市立公園へと足を運ぶ。入り口脇
にはスケボーのバンクがあり、Tシャツにショートパンツの男の子たちが代わる代
わる飛び跳ねていた。おもにうちの大学の学生なのだが、ファッションと日焼けし
た顔つきのせいで少し年齢が低く見える。連なっている木々の間を通る、車でも入
っていける道の途中にある陽当たりの良いベンチで飲み物を飲んだり、話をしたり
しながら時間をつぶすのがこのところの昼休みの過ごし方だ。
茜はコンビニで買ったアップルティーのパックを開けた。
「それにしても、空が高いねぇ」のどかな表情でそう言う彼女に続いて、私は大き
く伸びをするように雲ひとつない晴天を見上げた。目を閉じても視界に残る赤と黄
色と、緑の入り混じった光はとても遠くにあるようで、けれどその存在感は押しつ
ぶされそうに大きい。ベンチの背もたれの傾斜に沿って背筋を伸ばし、両手を広げ
るだけで飛んでいけそうなほどの清々しさはこの季節の特典だ。
「空の高さなんて、下から見てるだけじゃわからないよ」
鳥のざわめきに混じるように、不意にそんな声がして私も茜も慌てて正面に目をや
った。

そこにいたのはTシャツに薄手のパーカーを重ね着して、ジッパーがいくつもつい
ている立体裁断のジーンズを履いた男の子だった。レイヤーを入れて一見乱れた髪
から、コバルトブルーの瞳がこちらを覗く。背はさほど高くなく、ぱっと見でも私
より少しあるくらいだ。
暗い。それが私の第一印象だった。
「何よ、君になんか何も言ってないでしょ?」茜は野良猫を追い払うような手つき
で抗議する。彼の視線は茜を無視して、私のほうに向いている。
「空を、歩いたことはある?」予想外に明瞭な声で、そう尋ねてきた。それはあま
りにも突拍子のない内容で答えられるはずもなく、目が点になる。
「……僕はあるよ」少年は小さな声でそんな言葉を残して、すぐにその場からいな
くなった。
「何だったの、今の」茜のほうを振り向くと、彼女は肩でため息をついている。
「あいつ、一之瀬(いちのせ)だよ。経済学部の」
「知り合いなの?」
「別に。サークルが同じだったから、顔と名前くらいは知ってるだけ。話なんかも
全然したことないよ」
同じサークルといっても、彼は一年の中ごろ、夏休み前くらいに脱退しているよう
だった。彼女や、石田君も所属している『エウレカ』というサークルは名目上文芸、
ようするに小説や詩、短歌などの創作や批評をメインとしているが学食での話の通
り実際には遊びがメインだと、茜からも聞かされていた。今日の合コンらしき集ま
りも、その一環らしい。
「あいつには、合わなかったんじゃない? さっきの見たでしょ? ノリも悪いし、
何考えてるんだかわからないし。大体経済やってるならウチのサークルになんか入
らなきゃいいのに」
「でも文芸サークルって、ああいうタイプの人ひとりはいそうだけど。ほら、昔の
小説家とか、あんなイメージじゃん。ちょっと陰があって、何考えてるかわからな
い感じ」
「酒で体壊してそうな? あはは、それ偏見。今何年だと思ってるの?」確かに日
本文学科の学生としては不穏当な自分の発言に、笑いがこぼれる。

待ち合わせの四時ちょうどに、私はS駅から少し離れた所にあるゲームセンターで
姉と合流した。が、対戦格闘ゲームで八連勝ほどしていたところを捨ててしまうの
は惜しかったので、その後手抜きをして負けるまで十分ほど待たせてしまった。
「相変わらず強いんだねえ、あんた。あたしもよくボコられたしな。おかげでキッ
クボクサーは見るとトラウマになるよ」
地下駐車場にとめてあったセダンの助手席でシートベルトをきつめに締める。姉の
運転は上手いほうだが、スピードを出しすぎる傾向があるのでこうしておかないと
不安になるのだ。急勾配の坂を上って地上に出ると、ラジオに耳を傾けていた姉が
舌打ちをした。
「二十六号線で玉突き事故だと。回り道するから、遅くなるよ」

「結局どいつもこいつも、考えることは同じだな」
姉の言葉通り、市街から中央道へ抜ける大通りは事故を回避して流入した車の群れ
で渋滞になっていた。幸いこの季節で日が長くなったことが今のところ私には幸い
している。
夜の帳よ、まだ街を包むな。
緊張から舐めていた飴を氷のように噛み砕く。
「急ぐなら、駅で降ろすけど?」こちらを振り返らずに、私以上にいらだった様子
で姉は言う。
「ううん、大丈夫。これで電車も遅れたりしたら、それこそ困るから」
座席にもたれかかり、少しずつ動いてゆく車の群れに目をやる。吸ったことなど無
いが、煙草が欲しくなるのはこのような時だろう。
いまだに私は、乗り越えることが出来ないらしい。動かすことのできない事実と体
験は、闇に対する拭い去ることの出来ない恐れを与え続けているままだ。徐々に進
み続けている車の速度が家路へと続く中央道に入るとともにあがってゆく。夕暮れ
が少しずつ空を薄紅く染めてゆくなかで、ラジオから数年前にヒットしたユニット
の曲が流れる。ボーカルがパンキッシュな女装をしていたユニークな二人組だった
ので、その名前と曲は覚えている。

青空の高さを知るように、誰もが自分が何者かを知っている
海原の広さを知るように、誰もが自分の感情を知っている
渇することの無い欲望を、誰も満たそうとは試みず
とめどなく溢れる欲求を、誰も抑え続けてはいられない

知ることとは、さらに無数の知らないことを増大させる
空に手が届かぬように、海を手に収めることが出来ないように

そんな歌詞を聴いているうちに、昼間出会った一之瀬の、不思議な言葉が蘇った。
『空を、歩いたことはある? ……僕はあるよ』寂しげな、けれど他人の介入を拒
むような口調。彼はいったい、何を伝えたかったのだろう。それは少なくとも茜に
向けられたものではないようだった。だとしたら、私?
ただの一度も話したことも、まして存在さえ知らなかった相手が?
どうにか明るいうちに家にたどり着いた頃には、すっかり思考が混乱していた。
「ほら、早く夕食にするよ。今晩はカレー! あんた、大好きでしょ」
母親のはつらつとした声に、昼間岡崎さんが食べていた学食のカレーが思い起こさ
れる。
ノートはお陰で大変役に立ちました、そう伝えよう。


                                …つづく

■L’oiseau bleu
http://www.arutemisu.com/2005/Column/novel/L-oiseau-bleu/0.html

■その他の女装小説はこちらのページにございます。
http://www.arutemisu.com/2005/Column/novel/top.html

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             [楓のちょこっとコラム]

田舎の父から趣味の園芸で作ったリンゴを沢山もらいました。
私はリンゴをそのままで頂くよりも、料理済みの方が好みです☆
特にアップルパイは大好物です。

といっても、今までパイ生地つくりを成功した記憶が…皆無です(TOT)
冷凍パイシートなる便利なアイテムがあるようですので、早速スーパーでチェッ
クをしてみることにします♪
パイ生地は何とかなりそうですが、煮リンゴの作り方が分かりません(^_^;)
前途多難ですが、父リンゴで何が何でもアップルパイを食べたいので頑張ってみ
ることにします☆


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■女装フォトスタジオ★アルテミス★
http://www.arutemisu.com/2005/Salon/salon%20top.html
■女装用品販売★アルテミスショップ★
http://www.arutemisu.com/2005/shop/hp/index.html

発行者:美寿羽 楓
All rights reserved,copyright (C) ARTEMIS

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