2009/10/29
だれでもハズレは観たくない#176 沈まぬ太陽
劇場公開中の新作・話題作からレンタル中の隠れた名作・おすすめ作品まで、 日本映画・アジア映画・洋画とジャンルにとらわれません。 1万本の映画の中から、とっておきをご紹介!! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 週刊映画レビュー『だれでもハズレは観たくない』 ~新旧映画紹介~ #176 2009.10.29号 主宰・発行者 slow ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆◆◆ 『沈まぬ太陽』 ■ ストーリー 国民航空の労働組合委員長・恩地(おんち・渡辺謙)は職場環境の 改善を訴え続けた結果、海外僻地への転勤を命じられる。 一方同じ労組で副委員長を務めていた行天(ぎょうてん・三浦友和)は、 着々とキャリアの道を駆け上がっていた。恩地は10年におよぶ惨めな 海外生活を終え、本社復帰を果たすも、ちょうどその時ジャンボ機 墜落事故が起きてしまう。遺族のお世話係となった彼は、愛するものを 奪われた人々のやり場のない悲しみと怒りを目の当たりにする。 そんなとき、組織を立て直すため就任した国見新会長(石坂浩二)が、 ともに会社を変えようと恩地に声をかける。 ■ レビュー 劇場の込みように驚きました。 原作ファンであろう中高年層が8割以上をしめており、館内は独特の 雰囲気がありました。上映時間3時間22分。途中休憩が間に10分 はいるため、苦痛ではありません。 むしろ、あれだけ中身の濃い内容に、この上映時間では足りず、 NHK連続ドラマくらいの尺が必要なのではと思うほどでした。 もちろん、この作品はドラマではなく映画でこそなしえた場面が多々 あります。最も印象的だったのは、前半、墜落事故現場から運ばれて きた遺体を入れた棺が、体育館いっぱいに並べられているシーンです。 実際にそうであったろうあの情景のすさまじさ。息が詰まりそうなほどの 圧倒的なシーンです。 主演の渡辺謙、本当にすばらしい役者だなあと心より感じました。 2006年『明日の記憶』で演じたアルツハイマーになるサラリーマン役で、 人の弱さと家族愛を一心に受ける男の幸福を体現していました。 そして本作では、会社の上層部に対抗する鋼の心、ゆるぎない正義 感と使命感、その合間に見せる、家族を不幸にしてしまっているという 戸惑いを迫真の演技で表現しています。なにより、それぞれの遺族たちに 接する恩地の姿、表情、言葉に胸がいっぱいになりました。 わたしは原作を読んでいません。大長編ということで、前半に凄惨な 事故が描かれているため、後半、会社内の権力闘争には、正直 嫌気がさすことでしょう。三浦友和演じる行天の、冷徹かつ巧妙な 裏工作は、いくら自分がのし上がるためとはいえ、今の自分には到底 理解できません。まあ、ただ、実際には、官庁や大企業のトップの座を 狙うとなると、ああいう考えもあるのかなとは思いました。 ストーリーについては、ラストでもっと大きなクライマックスを作ったり、 せめて恩地の境遇はよりわかりやすいハッピーエンドにしてもいいのでは と感じました。 役者さんの演技は、もう、これは凄すぎます。 日本アカデミー賞を総取りする可能性はあります。 テレビドラマに出るようなジャニーズもアイドルも芸人も出ていません。 主要登場人物は戸田恵梨香以外、皆30代以上のため、一つ一つの 何気ないシーンを見るにつけても言葉や表情の深みが違います。 途中、「王道」という言葉が出てきますが、この作品こそがまさに王道。 渡辺謙の男の中の男の生き様。強い信念と、時に感じる不器用さ。 時折見せるはかなさや涙にぐっときます。 極上の演技を堪能し続けられる、稀有な202分。 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ●あとがき 今月上旬にレンタルスタートになった『カフーを待ちわびて』。 本メルマガでも今年上半期のグランプリ作品に推すほど 印象に残った作品です。 しかしながら、レンタルでおかれていたDVDのジャケットの クオリティの低さにはがっかりです。あれじゃ、まるで、 この作品はコメディです!といってるようなもので、中身の 雰囲気と全くあっていません。 波打ち際にたたずむ主人公たちなど、俯瞰が似合う作品なのに。 未見の方、DVDのジャケットは残念ながらショボイですが、 内容はすばらしいです。ぜひ好きな人といっしょにご覧になってください。 きっと、沖縄に行きたくなります。 週刊映画レビュー『だれでもハズレは観たくない』 since July.8 2006 主宰・発行者 slow


