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★ベストセラーでなくても、素敵な本は多いもの。そんな良書を紹介します。★「この本のここがいい!」というところを具体的に挙げながら、愛情をこめて作品の魅力に迫っていきます。

  • 発行周期 良い本を自分なりに消化したころ、発行します。
  • 最新号 2009/12/17
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2009/12/17

■ biblioUK*よみもの通信 「夫婦茶碗」



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   biblioUK*よみもの通信  


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   音楽を聴くように 本をよむ




2009年もあと少しで終わり。

今年も良い本との出合いがたくさんありました。

また、
「biblioUK*よみもの通信」を読んでくださっている方々、
どうもありがとうございます。

来年も引き続き、ご愛読いただけるならば
これに勝る喜びはありません。

素敵なクリスマスと新年をお迎えください。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



   ●○● 今日のよみもの ●○●



  「ちゃわおっしゃー」「ちゃわおっしゃー」


    ■ 「夫婦茶碗」 ■

      町田 康/著
      新潮社/発行(新潮文庫)
      『夫婦茶碗』より



新潮文庫の『夫婦茶碗』(めおとぢゃわん)は
2篇の短篇から成っている。

  ひとつが「夫婦茶碗」
  もうひとつが「人間の屑」

という。

「人間の屑」は、まさに「屑」だなあと思える人物が主人公で、
もうタイトルどおり、フォローのしようがないので、
各自お読みいただくこととして。

今回は、「夫婦茶碗」を取り上げようと思う。


===


定職を持たない夫と、その妻とのお話。

どちらも働かないでいるのだから、当然ながらお金がない。

食べる物にも困るありさまだ。
おや、妻がほうれん草みたいなものを持って帰ったな、と
思ったら、それはたんぽぽの葉。
「てんぷらにするとおいしい」からといって、妻が摘んできたのだ。

陽のさしこむ部屋で、夫は考える。

そうだ、茶碗洗いの仕事をしよう! と。

1軒につき1000円、いや3000円は稼げるだろう。
午前3軒、午後5軒で、いちにちに8軒。

  3000円×8軒=2万4000円

雑費を差し引いても、いちにち2万円は稼げる!

月2日だけ仕事を休むとして、

  2万円×29日=58万円


なんと、茶碗洗いでひとつき58万円も稼げるではないか!

こうして、夫は「茶碗ウォッシャー」としての仕事を始めるべく
タワシやら何やらを鞄につめて家を出たのだが……


 ******************************************************

  住宅の立ち並ぶ一角。このあたりでよろしかろうと見当をつけた
 わたしは、力強く、「ちゃわおっしゃーっ、ちゃわおっしゃー」と
 絶叫した。わたしの予想では、すかさず、「ちょっとウォッシュ屋
 さん。お願いね」と呼ぶ声がするはずだった。ところが、、洗濯物が
 物干しにへんぽんと翻るあたりの住宅は静まり返り、まるで
 答える者がないのである。いったいどうなっとるんだ。声が小さい
 のか、と、今度は、喉が破れるくらいの大声で、「ちゃわおっしゃー」
 「ちゃわおっしゃー」「ちゃわおっしゃー」と叫んだにもかかわらず、
 どの主婦もわたしを呼ばぬ。

 ******************************************************



…………夢は破れた。


===


その後の彼は、旧友のつてでペンキ塗りの仕事にありつく。
ところが、やっぱりというか、長続きしない。


 ******************************************************

  わたしは嫌になった。なにが。そう。ペンキ。なんでぇ、馬鹿らしい、
 くる日もくる日も阿呆面をして、見知らぬ他人の家の壁やトタン屋根を
 塗っている、まるで奴隷の生活である。大体においてわたしは、もっと
 なんというかこう、自分の才能を生かすような、クリエイティブな
 仕事がしたかったのだ。

 ******************************************************


仕事にクリエイティビティを求める夫が次に決心したのは、
「メルヘン作家になる」ことだった!


私は、読者としては、
・茶碗ウォッシャー
・ペンキ塗り
までは「まあ、ついていけるな」と思いながら読んでいた。

ついていける、というのは、
「定職につかなかった人が職業と出合う道筋として、まあ
妥当な線を歩んでいるんだろうな、この人は」
という同情のような気持ちである。

確かに「ちゃわおっしゃー」絶叫には、笑ってしまったけれども。

それが今度は「メルヘン作家」になる、という。
これはちょっと無謀すぎるよ、と思う。

案の定、「なる」と決心しただけで、夫は何も書くことが
できない。

こんな夫は本当に「メルヘン作家」になれるのか。
夫とその妻の行く末はいかに……。



===


小説というものに、「視線の高さ・低さ」があるとしたら、
「夫婦茶碗」は「視線の低さ」で見た世界を描き出していると
思う。

世渡りが下手な夫の、社会的弱者としての視線。
彼は常に低姿勢だけれど、
下手な冗談を言うのを忘れない。
自分のできる範囲で、明るく振る舞っている。
たんぽぽを食べるなんて、
客観的に考えると状況は絶望的なはずだが。

そんな中でも、どうにか生きていっている彼ら夫婦の姿が
けなげで、
ちょっと笑えて、
少しペーソスを感じさせる。

私のシンパシーを呼び起こす
この辺りが、「夫婦茶碗」の大きな魅力なんだと思う。






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■あとがき■

□小熊のゾルバ

・「メルヘン作家になる」と決めた夫が
 考え出した主人公です。
 「踊りの好きな小熊のゾルバ、いいね、どうも。」と
 夫は自画自賛するのです。

・私はこの辺りから、この人のやってることに共感が
 持てなくなりました。
 逆に言うと、茶碗ウォッシャーやペンキ塗りに励む夫は
 応援したいけれど、
 メルヘン作家になるのは止めてあげたい気分です。

・町田康らしさ、というか、
 文体に勢いがあって、生きがよく、ぴちぴちしています。
 寒く冷たい世間に対峙する、夫の下手な冗談も
 笑ってやりたくなりました。


 今年の読書の締めくくりに、いかがでしょう。
 「ふふっ」と笑いながらも、、
 「現実は厳しい」としみじみ考えてしまう。

 師走の寒風に似合う小説だという気がします。







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