2007/03/30
樋口正登の「犯罪・Watch!」第31号
☆☆☆樋口正登の「犯罪・Watch!」第31号☆☆☆
2007.03.30発行
皆さん、今日は。
世の中、相変わらず物騒な事件が多いようです。放火事件あり、強盗事件
あり、殺人及び死体遺棄事件あり・・・で、「日本は安全な国」という神話
は、大きく崩れようとしているのかもしれません。
殺人事件の場合には、「絞殺」や「毒殺」という手段が使われる一方で、
古い時代で考えると「わら人形に五寸釘を!」という方法も採られる可能性
があります。
刑法には、「行為者の主観においては犯罪の実行に着手したつもりであっ
ても、現実には結果の発生が不可能!であれば、不可罰とする」という思考
回路があります。このことを「不能犯」といいます。逆に、結果が発生する
可能性があれば、「未遂犯」となります。この「不能犯」と「未遂犯」の区
別というのは、刑法を勉強したことがある方からすれば、基本中の「き」と
も言えますが、今回は、あえて取り上げることとしました。
第31号は、「不能犯」と「未遂犯」に関する事案です。
★★★青酸カリは、臭気を放っているから不能犯?★★★
最高裁昭24.1.20、昭23(れ)1251号
■事件の概要■
本事例は、殺人の意図で、被害者宅の炊飯釜に「大型梅干大の青酸カリを
一片」入れて、毒殺を図ったものです。
実際には、臭気を放っていたことからこれを食べた者はいません。殺害と
いう結果の発生が不可能であったのか(不能犯)?それとも、その可能性は
あったのか(未遂犯)?が問題となりました。
■考察■
今回の事例では、被告人は殺人の意図で青酸カリを入れています。殺意は
あったとして、人が死亡する可能性があったのかどうかが争点ですが、結論
の前に、「学説の言い分」をご紹介しておきます。
不能犯学説は細かく分かれていますが、今回は、「純粋主観説」と「抽象
的危険説」についてコメントをしますね。まず、「純粋主観説」では、その
名のとおり本人の主観を基準として考えます。たとえば、20gの砂糖で人
を殺せると思って、実際に飲ませた場合・・・そんなものでは100%人は
死なないのですが、主観を尊重して殺人未遂とします。一方、「抽象的危険
説」では、一般人を基準として考えますので、不能犯として処理します。
では、上記の「わら人形に五寸釘を!」の事例ではどうでしょうか。この
場合(いわゆる迷信犯です)には、「純粋主観説」においても不能犯とされ
ています。これは「純粋主観説における矛盾点」と言われますが、さすがに
「わら人形に五寸釘を!」では、人は死にません。もちろん、「抽象的危険
説」においても不能犯です。
■判決■
今回の判決では、殺人の意図で、被害者宅の炊飯釜に「大型梅干大の青酸
カリを一片」入れたという点について、殺人の未遂犯としています。確かに、
臭気を放っていたことから食べないのが通常ではあるけれども、「何人も食
べることは絶対にないとは断定できない!」ことから、不能犯とはされませ
んでした。
■編集後記■
今回の事件では、殺人未遂とされましたが、似たような判例が複数個出さ
れています。最高裁昭27.8.5では、青酸カリが致死量に達していなく
ても、死亡の危険性があるため未遂犯とされ、最高裁昭37.3.23では、
殺人の意図で被害者の静脈内に空気を注入した事案について、空気の量が致
死量以下でも、被害者の身体的条件などによっては死という結果の発生が絶
対にないとは言えないことから未遂犯とされています。不能犯というのは、
なかなか成立が認められません。
ちなみに、特定の人間に対して殺意を抱くというのは、どういった精神状
態なのでしょう。個人的には、経験がないので(あったら、大変ですが)、
机上の空論になってしまうかもしれませんが、たとえば、幼児期に虐待など
によって大変な思いをしてきたような場合・・・「社会に復讐する」という
意識を持つことがあるのかもしれません。あくまでも一般論ですが、何不自
由なく育った子よりも、逆境に耐えて育ってきた子の方が、犯罪を犯す危険
性が高いとも思われます。であるとすると、今ようやく?問題になっている
「いじめ」についても、被害者を救済することが後手に回ると、その中から
犯罪者が出てしまうことにもなりかねません。被害者が加害者(それも、重
大な犯罪の被告人)となるというジレンマは、避けなければなりません。
■お知らせ■
次回(第32号)は、4月27日(金)に配信予定です。引き続き、ご愛
顧のほど、よろしくお願いいたします。
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■発行者プロフィール■
90年司法書士試験合格、東京司法書士会会員。資格の学校で、法律科目
を教えております。
樋口正登の「犯罪・Watch!」
発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000197593.html


