2009/03/26
霊界物語をメールで配信!(748)
霊界物語をメールで配信!第20巻(748) -------------------- ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■第3章 山河不尽《さんがふじん》〔665〕 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 留公《とめこう》はドンドンと地響きさせながら性凝りもなく芋畑の赤子を御丁寧に 再び蹂み躙《にじ》り、『エイ、この芋《いも》の野郎、俺に影響を及ぼしやがった、 芋だって油断のならぬものだ、エエもうかうなる上は善いも、悪いも、恐いも、可愛い も、難しいも、嬉しいも、悲しいもあったものかい、三度芋《さんどいも》の野郎、ど こまでも六本の指で蹂躙してやらう。アタいもいもしい』 と足に力を入れて心ゆくばかり踏み砕いて居る。そこへ走って来たのは真浦《まうら》 の宣伝使《せんでんし》、この態《てい》を見て、 真浦『留《とめ》さん、何をして居なさる』 留公『これはしたり、大変なとこを発見されました。しかしどうぞもう宣伝歌だけは許 して下さい、頭の数が幾つにも分家する様な心持ちがしますから……』 真浦『よしよし嫌とあれば沈黙しませう、しかし今お前の踏んで居るのは芋ではないか』 留公『ハイ、物価騰貴の今日、かう沢山に赤子が殖えては、第一国民が食糧に困ります。 三度芋と云って年に三度も子を生む奴ぢゃ、産児制限のためにサンガー夫人がやって来 て、今ここに大活動を開始したとこですよ。どうぞ大目に見て上陸を拒否せない様に願 ひます、アハハハハ』 真浦『そんなことしては困るぢゃないか、天津御空《あまつみそら》の星の数ほど人を 殖やし、浜の真砂《まさご》の数ほど赤子を生まねばならぬ神様のお道ぢゃ、生成化育 の大道を無視してその様な乱暴なことをして良いものか』 留公『私はこれが国家の経済上から見ても、人類共存上の学理から考へても最も神の意 志に適した良法だと確信して居ます。なにとぞ私の演説を一つ聞いてみなさい、よく徹 底して居ますよ』 真浦『演説は中止、否《いな》絶対に解散を命じます』 かかるところへ以前の男、鍬《くは》を担《かた》げながら怒髪《どはつ》天を衝《 つ》いて走り来たり、 男『こらこらまたしても大切の大切の赤子を殺すのか』 留公『オオ、バラモン教と取っ換へこしてまで、赤子を征伐する覚悟をきめたのだから、 何と云っても中止はせない。マアこれも前世の因縁だと諦めて鄭重に弔《とむら》ひで もしてやるが良からう』 男は怒り心頭に達し鍬《くは》を真向に翳《かざ》し留公の頭を目がけて打ち下ろし た。留公はヒラリと体《たい》を躱《かは》した機《はずみ》に、鍬《くは》は外《そ 》れて真浦の足の小指を斬り落とした。真浦は顔を顰《しか》め落ちた指を手早く拾っ て傷口にあてた。指はそのままに密着した。あまり慌てたと見えて小指の先は裏表に付 けてしまった。これまでは真浦に対し守彦《もりひこ》と云ふ名が付いて居たがここに 初めて真浦と云ふ名が出来たのである。 男『これはこれは失礼なことを致しました、どうぞ赦して下さいませ。勿体ない、宣伝 使の指を斬るなんて……私はどうしてこの罪を贖《あがな》うたらよろしいでせう、神 界に対して取り返しのならん不調法を致しました』 と泣き沈む。 留公『世界を救ける生神《いきがみ》の宣伝使様だ。指の一本や手の半本くらゐ取れた とて、そんなことで弱《こた》へる様では宣伝使ぢゃない。それよりも貴様のとこの赤 子の生命《いのち》、随分無残なことになったものだのう』 男『これだけ丹精を凝らして作った芋種《いもだね》を台なしにしておきながら、まだ 業託《ごふたく》を吐《ほざ》きやがるか。エーもう堪忍袋の緒がきれた、覚悟をせよ』 とまたもや鍬《くは》を振り翳し留公《とめこう》に迫る。宣伝使はこの鍬の柄《え》 を確《しか》と受け止め、 真浦『マアマアお待ちなさい、短気は損気だ。芋も大切だが人の生命《いのち》も大切 だ』 男『朝から晩まで自分の産んだ子も同然に肥料《こえ》を掛けたり、草を引いたり、色 々と世話をして来た可愛い芋の子、それをムザムザ踏み潰されて……育ての親がどうし て黙って居れませう。芋は芋だけの精霊が宿って居る。きっと苦しんで居るでせう。可 哀相に……この赤子は誰にこの無念を訴へることが出来ませう、私が怒《いか》ってや らねばこの赤子はよう浮かびますまい……アア芋の子よ、可憐相な者だが、もうかうな っては仕方が無い、俺がこれからお前の冥福を祈ってやるから心残さずに幽冥界に旅立 して安楽に暮らしてくれ、アンアン』 と態《わざ》と男泣きに泣き立てる。 留公『アハハハハ、それだから田吾作、貴様は馬鹿だと云ふのだよ、それほど可愛い芋 なら大きうなった奴を何故|釜煎《かまいり》にしたり庖丁にかけて喰ふのだ。そんな 矛盾《ほことん》なことを云ふからキ印《じるし》だと云はれるのだ。モシ宣伝使さま、 ちっと理屈が合はぬぢゃありませぬか』 としたり顔に云ふ。 田吾作『それはそうだけれど……何だか可憐相で仕方が無いわい、西も東も知らぬ弱い 赤子を無残にもこんなに虐殺すると云ふことがあるものか、芋は芋としての寿命がある はずだ。秋が来て蔓《つる》が枯れた時は寿命の尽きた時だ、そこで喰ふのなら芋も得 心するであらう、折角お前も生まれて来て不運な奴だのう』 とまたも涙含《なみだぐ》む。 留公『オイ田吾作、貴様は人の命が大切か、芋の子が大切か、どちらを主とするのだ』 田吾作『きまったことよ、貴様は芋で譬《たとへ》たら良い喰らひ頃だ。この世に最早 用の無い代物だから別に惜しくも無ければ、国家の損失でも無い。かへって社会の塵埃 《ごもく》掃除が出来た様なものだい』 真浦『アハハハハ、随分面白い芋論《いもろん》を聞かして貰ひました、しかしながら 万物一切|皆《みんな》神様の霊が宿ってゐるのだから、貴賤《きせん》老幼|草木《 さうもく》器具の区別なくそれ相当の霊魂《みたま》がある。万有一切は総て神様の大 切なる御霊《おんみたま》が宿ってるから、木の葉一枚だって粗末にしてはなりませぬ ぞや』 田吾作『そら見たか、留州《とめしう》、キ印の阿呆の云ったことでもやっぱり天地の 真理に適《かな》って居るのが、ちと妙ではないか』 留公は首を傾け手を組んで青芝の上に端坐し何事かしきりに考へて居る。やうやくに して顔を上げ、 留公『ヤ、何事も氷解しました。田吾作どの、どうぞ怺《こら》へてくれ、これからは 決してもうこんなことはせないから……』 田吾作『何と云ってもかうなった以上は仕方は無い、今後は気をつけてくれ。芋ばっか りぢゃないよ、豆だって麦だって皆その通りだからなア』 留公『ハイ承知致しました、ちっと心得ます』 と以前に変って丁寧に挨拶する。 真浦『アアこれですべての解決がついた、芋の死骸で最早平和克復だ。サアこれからバ ラモン教の友彦さんにお目にかかってお話を承《うけたまは》りませうか』 と行かむとするを留公は引き留《とど》め、 留公『モシ、宣伝使様、ちょっと待って下さい、貴方ただ一人でお出《い》でになって は大変です、私たちは勝手をよく覚えて居ますが、私の離れ座敷に宣伝使がおいてある、 そこに神様も祀ってあります。しかしながら家の周囲《まはり》に広い深い溝が掘って あってうっかり跨《また》げようものなら……それこそ大変……|生命《いのち》が無 くなりますぜ』 真浦『それは本当の話か』 留公『本当ですとも、現在私の家ですもの、何間違ったことを云ひませう。軒下《のき した》を貸して母屋を取られると云ふ譬《たとへ》の通り、初め乞食の様な態をしてや って来た友彦の宣伝使が、今では大変な勢ひで私の座敷や本宅をわが物顔に振る舞ひ、 私は丁稚役、主客顛倒もこれくらゐ甚《はなはだ》しいことはありませぬ。私は初めの 頃は実に立派な宣伝使だと思って現《うつつ》を抜かし、云ふがままにして居りました が、この頃の宣伝使の言行《げんかう》の一致せないこと、実にお話になりませぬ。け れども私が率先して村中の者に勧《すす》め回ったと云ふ廉《かど》があるので、今さ ら責任上この宣伝使は喰はせ者だったと云って告白する訳にもゆかず、本当に困り抜い て居った所ですが、最前松鷹彦の宅《うち》へ使ひに行った時、奥の間《ま》に何百人 とも知れぬ人声で宣伝歌が聞こえて来た。その声の恐ろしさ、実に無限の威力が備はっ て居ました。私はバラモン教は愛想がつき三五教へ入信したいので御座いますが、あの 様な頭の割れる宣伝歌を謡はれては困るなり、どうしたら良いでせうかなア』 真浦『宣伝歌は聞けば聞くほど気分が良くなって来るものだ。お前に憑依して居る副守 護神が嫌ふのだ、それさへ体内より放逐してしまへば何でも無いのだ。さうしてあの小 さい家に百人も居るはずがない、その実は私一人より居らなかったのだ』 留公『イエイエそれでも沢山なお声でした。年寄の声、若い者の声、鈴の様な綺麗な女 の声も聞こえましたがなア』 真浦『そら、そうだらう、沢山な神様が集まって宣伝歌を合唱遊ばすことが始終あるか らだ。そりゃお前の神徳の頂《いただ》け口《ぐち》だ、天耳通《てんじつう》の開け かけだから安心してわれわれの唱ふるお道へ入るがよからう』 留公『そんなら私を入信させて下さいますか』 真浦『アアよろしいよろしい、どうぞ入信して下さい』 留公『これは有り難い、もうかうなる上は百人力だ。オイ田吾作、お前も仲直りをした 以上は、俺と同様にこの方に従って三五教《あななひけう》を信仰しようぢゃないか』 田吾作『ウンそうだ、さうなればこの村も天下泰平だ。毎日日にち血を見る残酷な行《 ぎゃう》を強圧的にさせられる心配も要らず、定めて女子供が喜ぶことだらう』 真浦『しかし私《わし》がお前の宅《うち》へ出張すれば、友彦の宣伝使が随分妙な顔 をするだらうなア』 留公『そりゃ致しませうとも、今までは無鳥郷《むてうきゃう》の蝙蝠《へんぷく》気 取りで随分威張って居ましたが、上には上があるからいつまでも世は持ちきりにはなり ますまい、これが良い切り替へ時でせう。サアサア世の立て替立て直しはこれからだ、 天の岩戸の開け口だ』 と雀躍しながら先に立ち二人を伴ひわが家を指して帰り行く。 留公《とめこう》は矢庭に友彦の割拠せる離れ座敷に躍《をど》り入り、 留公『サア友彦、今日からちょっと都合があるのでこの家を開けて貰ひたいのだ。わし も今まではバラモン教のお世話係をやって来たが、お前さんから除名されてからはいつ までもこの家を貸す訳にはゆかない。これから三五教の宣伝をしようとするのだから、 未練残さずトットと帰っておくれ』 友彦は怪訝な顔して、 友彦『オイ留公、そりゃ何を云ふのだ。貴様、初めに何と云った、……私の家はお粗末 ながら一切神様にお供へします。……と大勢の前に立派に誓ったぢゃないか』 留公『そりゃ誓ひました、否《いや》違ひました。しかし神様に上げるも上げぬもない、 世界中皆神様のものだ。たとへ上げると云った所でお前に上げたのぢゃない、天地の元 の大神様に奉《たてまつ》ったものだから、どうぞ出てくれやがれ』 友彦『左様な不都合なことを申すと神罰は立ち所に当たるぞ、それでもよいか、この友 彦だって天地の大神様、ことに大国別《おほくにわけ》の神様の生宮《いきみや》だ、 神様の生宮が神様の家に居るのだ、貴様の様な四つ足の容器《いれもの》とは違ふぞ、 エエ穢《けが》らはしい、トット出てゆけ。左様な無体なことを申すと神様はともかく として村中の信者が承知致すまいぞ』 と信者をバックに落日の孤城を固守せむとする。 留公『何といっても、もう駄目だよ。零落《おち》ぶれて袖に涙のかかる時、人の心の 奥ぞ知らるると云ってな、除名された俺は村中の除外者《はねのけもの》になり、どこ へ頼る所もなし、自暴自棄となって田吾作の芋畑に駆け込み、ことの起こりはこいつぢ ゃと芋《いも》の赤子を片っ端から踏み殺す最中に、一人で百人の声を出すと云ふ立派 な三五教《あななひけう》の宣伝使がそこに忽然として現れ給ひ、この留公《とめこう 》の頭を、膝《ひざ》に上った猫でも撫でる様な調子で可愛がり、一の乾児《こぶん》 にして下さったのだ。サアサア早く出立《しゅったつ》致さぬと表に三五教の御大将《 おんたいしゃう》が見張って御座るぞ』 友彦『何、三五教の宣伝使が見張って居るとな、大方|武志《たけし》の宮の神主の宅 《うち》に去年の冬から潜伏して居た守彦《もりひこ》と云ふ弱腰宣伝使だらう。バラ モン教の友彦が威勢に恐れて今まで蟄伏《ちっぷく》して居た蛙《かわづ》の様な代物 だ、そんな者がたとへ千匹万匹やって来たとて驚くものかい。万々一この場へ進んで来 ようものなら、それこそ神界の御仕組《おしぐみ》の陥穽《おとしあな》に真っ逆様に 顛倒し生命《いのち》を捨つるは目の当たりだ。心配致すな、貴様も今日限り除名処分 を取り消すから安心せい』 留公『何を吐《ほざ》きやがるのだ、取消も何もあったものかい、三五教の宣伝使は俺 の詳細なる報告によって陥穽《おとしあな》の箇所は全部承知して御座るのだ。さうし て俺は案内役だから滅多に別条は無い、わが身の一大事が迫って来て居るのにお前、人 の疝気《せんき》を頭痛に病む様な馬鹿な真似はなさいますなや。大きに御心配……有 り難う』 と長い舌を出し、両手を鳶《とんび》が羽翼《はね》を拡げた様な風にして二三遍虚空 を掻き、尻をニュッと突き出して舞うて見せる。 友彦は祭壇の前に額《ぬかづ》き祈願の詞《ことば》を奏上し、言霊戦《ことたませ ん》をもって真浦の宣伝を撃退せむと、声張り上げて謡ひ初めたり。 『常世《とこよ》の国を守ります 大国彦《おほくにひこ》の大神の 珍《うづ》の御裔《みすゑ》と現《あ》れませる 大国別《おほくにわけ》の大神は 仁慈無限の救世主《すくひぬし》 常世の国より遥々《はるばる》と イホの国まで渡りまし 霊主体従《れいしゅたいじう》の御教《みをしへ》を 開かむ為に霊幸《たまちは》ふ 神に等しき鬼雲《おにくも》の 彦の命《みこと》や鬼熊別《おにくまわけ》や その他|数多《あまた》の神々を 豊葦原《とよあしはら》の中津国《なかつくに》 メソポタミヤの顕恩郷《けんおんきゃう》 果実《このみ》豊かな楽園に 本拠を定《さだ》めフサの国 ツキの国まで教線を 拡め給ひて自転倒《おのころ》の 島にまたもや下りまし 大江《おほえ》の山を中心に 神の光を三岳山《みたけやま》 鬼をも拉《ひし》ぐ鬼ケ城《おにがじゃう》 伊吹の山まで開きまし 世人《よびと》を救ひ助けむと 心を尽くし魂《たま》を錬り この世を乱す悪神《あくがみ》の 神素盞嗚《かむすさのを》の枉津見《まがつみ》が 下に仕ふる悦子姫《よしこひめ》 鬼武彦《おにたけひこ》や高倉や 旭、月日《つきひ》の白狐らが 悪逆無道の振る舞ひに 時を得ずして本国へ 一先《ひとま》づ退却し給へど 必ず捲土重来《けんどぢうらい》の 時こそ今に近づきて コーカス山《さん》やウブスナの 山《やま》に建ったる斎苑館《いそやかた》 黄金山《わうごんざん》はまだおろか 自転倒島《おのころじま》の中心地 世継王《よつわう》の山の辺傍《かたほとり》 錦《にしき》の宮をたちまちに 手の掌《ひら》翻《かへ》すその如く 土崩瓦解《どほうぐわかい》は目の当たり 先の見えたる三五《あななひ》の 神の教《をしへ》は風前の 灯火の如く日に月に 危険ますます迫り行く 実に憐れなその教義《をしへ》 それをも知らぬ守彦《もりひこ》が 天《あめ》の使ひと名乗りつつ 図々しくもバラモンの 神の使ひの友彦が 館を指して来たるとは 飛んで火に入る夏の虫 それに従ふ留公《とめこう》や 田吾作《たごさく》野郎の蚯蚓《みみず》きり 蛙《かはづ》もきれぬ分際で 神徳高き友彦に 刃向ひ来るとは何事ぞ 身のほど知らぬもほどがある 天が地となり地が天と 変るこの世が来るとても 三五教に迷ふなよ 霊主体従のこの教義《をしへ》 誠一つの神界の 深き経綸《しぐみ》は三五《あななひ》の 浅き教《をしへ》ぢゃ分らない 飯守彦《めしもりひこ》の宣伝使 留公《とめこう》田吾作《たごさく》諸共に 今から心を立て直し バラモン教の神徳を 受けて身魂《みたま》を研き上げ 神世《かみよ》を来たす神業《しんげふ》に 心を尽くし身を尽くし 天地に代る功績《いさをし》を 千代《ちよ》万代《よろづよ》に樹てよかし これ友彦が詐《いつは》らぬ 誠一つの言葉ぞや 言霊|幸《さち》はふ世の中に 善ぢゃ悪ぢゃと何のこと 朝日が照るとか曇るとか 月が盈《み》つとか虧《か》くるとか 大地が泥に沈むとか 世人《よびと》欺《あざむ》くコケ嚇《おど》し そんな馬鹿げた言霊を これだけ開《ひら》けた世の中の 人がどうして聞くものか 馬鹿を尽くすもほどがある 一時も早く目を覚ませ 神の心は皆一つ 世界の氏子を助けむと 大国別《おほくにわけ》の御言《みこと》もて 憂瀬《うきせ》に沈む民草《たみくさ》を 救はせ給ふ有り難さ 一度は喰って味はへよ 喰はず嫌ひはしやうがない 苦けりゃ吐き出せうまければ 遠慮は要らぬドシドシと 心ゆくまで喰ふがよい 善の中にも悪がある 悪の中にも善がある 三五教は表向き 善と雖《いへど》も内実は 悪鬼悪魔の囈言《たはごと》ぞ バラモン教は表から 眺めて見ても善である 裏から見てもまた善ぢゃ その内実は殊更《ことさら》に 善一筋で固めたる 昔の元の神の道 こんな結構な御教《みをしへ》を 調べもせずに一口に 悪の雅号で葬りて この世を潰さうと企《たく》む奴 憎さも憎い三五教 一時も早く留公よ 飯守彦《めしもりひこ》と云ふ奴の うまい言葉にのせられて お尻の毛まで抜かれなよ 憐れみ深い友彦が 真心籠めて気をつける 大国別《おほくにわけ》の神様よ 彼らが心に生命《せいめい》を 与えて再びバラモンの 神の教に救ひませ ああ惟神《かむながら》々々 御霊《みたま》幸《さち》はひ坐《まし》ませよ ああ惟神々々 御霊幸はひ坐ませよ』 と口から出任せに汗をブルブル流しながら怒鳴り立てて居る。留公はこの歌を聞いて躍 起となり、 『オイ、バラモン教の御大将《おんたいしゃう》、随分立派な言霊だのう。雲烟模糊《 うんえんもこ》として捕捉すべからず、支離滅裂《しりめつれつ》、聞くに堪へざる亡 国の悲歌《ひか》、そんなことを囀《さへづ》ると天地が暗くなってしまふわい。サア これからこの留公が十一七番《じふいちしちばん》の宣伝歌を謡ってやらう、耳を浚《 さら》へて謹聴せい』 と長々と前置してエヘンと一つ咳払ひ、鷹《たか》が翼を拡げた様な手付で腰を屈《か が》め足を踏ん張り、右や左へ身体《からだ》を揺すぶりながら奇声怪音を放って揺ひ 出した。 『ここは名に負ふ秘密郷《ひみつきゃう》 四面|深山《みやま》に包まれて 中を流るる宇都《うづ》の川 流れも清く澄み渡る 武志《たけし》の宮の御住家《おんすみか》 大江の山を破壊《ばら》されて 逃げて出て来たバラモンの 言霊《ことたま》濁る ども彦が 鳥なき里の蝙蝠《かうもり》か 蛇なき里の青蛙《あをかはづ》 威張り散らして村人《むらびと》を 何ぢゃかんぢゃとチョロまかし 霊主体従を標榜し 利己一片の強欲心 最極端に発揮して 宇都山村《うづやまむら》の婆《ばば》、嬶《かか》を 有難涙《ありがたなみだ》に咽《むせ》ばせつ 遂に進んでわれわれも 慣用手段の口の先 ちょっとうまうま乗って見た さはさりながらつくづくと 胸に手を当て真夜中に 臥《ふ》せりもやらず窺《うかが》へば 表面《うはべ》を包む金鍍金《きんメッキ》 いよいよ色は剥げかけた 時しもあれや三五《あななひ》の 誠一つの宣伝使 天《あめ》の使ひの守彦《もりひこ》が 雲路を分けて下りまし 武志の宮の御前《おんまへ》に 現れました雪の道 雪より清い神心《かみごころ》 松鷹彦《まつたかひこ》の住む家に 去年の冬から出《い》でまして 世界の立て替へ立て直し 天地《あめつち》百《もも》の神たちを 宇都《うづ》の川辺に呼び集め 神徳ここに備はって バラモン教の枉神《まがかみ》を 言向《ことむ》け和《やは》しどうしても 往生致さな是非はない 神の定めの根の国や も一つ違うたら底の国 万劫末代《まんごふまつだい》上がれない 根底《ねそこ》の底のまだ底の 真っ黒暗のドン底へ 落としてやらうかこりゃどうぢゃ この世でさへもきりがある 早く心をきり替へて 瓦落多教《ぐわらくたけう》に暇くれて 誠の神の開《ひら》きたる 三五教に帰順せよ 俺も長らく友彦を 師匠と仰いで来た誼《よしみ》 別れに際して親切に 誠心《まことごころ》で気をつける 気をつけられたそのうちに 聞かねば後は知らぬぞよ 神の心を取り違へ 留公さまの真心を 無にするならばするがよい 皆《みんな》お前の身の上に かかって来たることばかり 俺はもう早や三五の 神の教に帰順した バラモン教に用は無い とは言ふものの人は皆 同じ御神《みかみ》の分霊《わけみたま》 世界同胞の誼《よしみ》もて 一度は忠告|仕《つかまつ》る 早く改心してくれよ 決して俺に損得の 一つも関はることぢゃない みんなお前が可愛《かはい》から お前が改心するなれば 宇都山村《うづやまむら》の神村《かみむら》も 天下泰平無事安穏 五穀成就|目《ま》のあたり 改心せなけりゃ是非も無い 留《とめ》の腕には骨がある 天地の神になり代り 貴様の雁首《がんくび》引き抜こか 眼玉を抜こか舌抜こか 地獄の鬼ぢゃなけれども 止むに止まれぬ大和魂《やまとだま》 とめてとまらぬ留公が 思ひ詰めたる善の道 道に迷うた里人《さとびと》を 助けにゃならぬこの場合 先づ第一に友彦が 改心すれば三五の 神の司と手を引いて 元は一つの神の道 腹を合はして仲好くし お道を開く気はないか 早く薫《かんば》しい返事せよ 返事がなければ是非が無い 芋《いも》の赤子を潰す様に 片っ端から踏みにじり 鬼の餌食にしてやろか サアサア早うサア早う お返事なされよ三五の 誠一つの宣伝使 言霊戦《ことたません》を開いたら とても敵《かな》はぬ尻に帆を 掛けて走らにゃなるまいぞ そんなみっとも無いことを するより早く我《が》を折って 改心なされ改心を すればたちまちその日から 喜び勇んで神界の 御用がきっと出来ますぞ 三五教が善なるか また悪なるか俺ゃ知らぬ 俺の感じた動機こそ 不言実行の誠のみ バラモン教は善《ぜん》の道 善ぢゃ善ぢゃと謡へども 言心行《げんしんかう》が一致せぬ 一致を欠いだ御教《みをしへ》は 半善半悪|雑種教《ざっしゅけう》 こんな教《をしへ》が世の中に もしも拡まるものならば 世界の人はことごとく みんな不具者《かたわ》になってしまふ 生血に飢ゑたる枉神《まがかみ》の 醜《しこ》の企みと知らないか お前も天地の御徳《みとく》にて 生まれ出でたる神の宮 悪魔の巣くふ破れ屋と なって天地の神々に どうして言ひ訳立つものか 早く改心しておくれ 留公さまが一生の 誠尽くしのお願ひぢゃ これほど誠で頼むのに 首を左右に振るならば もう是非なしと諦《あきら》めて 直接行動にとりかかる 返答聞かせ友彦よ 朝日は照るとも曇るとも 月は盈《み》つとも虧《か》くるとも たとへ大地は沈むとも お前一人はどうしても 改心させねば措かないぞ ああ惟神《かむながら》々々 御霊《みたま》幸《さち》はひ坐《ま》しまして 頑固|一途《いちづ》の友彦が 心を照らさせ給へかし 身魂《みたま》を光らせ給へかし』 と敵やら味方やら訳の分らぬ歌を謡ひ首をすくめ、糞垂《ばばた》れ腰《ごし》になっ て、左右の手を胸の四辺《あたり》に【かまきり】がすくんだ様な手付きし、ピリピリ 慄ひながら左右の足を一所《いっしょ》にキチンと合はせ待って居る。その可笑しさに 友彦も、ついて来た田吾作も、思はず声を上げて笑ひ転《こ》けたり。 (大正11年5月12日 旧4月16日 北村隆光録) -------------------- (749)に続く http://onisavulo.web.fc2.com/


