2009/03/12
霊界物語をメールで配信!(746)
霊界物語をメールで配信!第20巻(746) -------------------- □■■■■■■■■■■■■■■■■□ ■第1篇 宇都山郷《うづやまがう》■ □■■■■■■■■■■■■■■■■□ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■第1章 武志《たけし》の宮〔663〕 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 常世《とこよ》の暗《やみ》を晴らさむと 神の御稜威《みいづ》も高熊の 静《しづ》の岩窟《いはや》の奥深き 恵《めぐみ》の露《つゆ》の雨となり 雪ともなりて空蝉《うつせみ》の 醜世《しこよ》を洗ひ照らさむと 空に輝く旭子《あさひこ》の 光も強き玉照彦《たまてるひこ》の 伊豆《いづ》の命《みこと》を奉按《ほうあん》し 言照姫《ことてるひめ》の神霊や 数多《あまた》の神に送られて 五六七《みろく》の神代《みよ》を松姫が 心イソイソ山坂を 渉《わた》りて来たる玉鉾《たまぼこ》の 道も広らに世継王山《よつわうざん》 東表面《ひがしおもて》の峰続き 紅葉の色も照山《てらやま》の 麓に立てる仮の殿《との》 神の御言《みこと》を畏《かしこ》みて 悦子《よしこ》の姫が守りたる 珍《うづ》の宮居に木《こ》の花《はな》の 姫の命《みこと》の御水火《みいき》より 出《い》でし玉照彦の神 勇み進んで送り来る 天火水地《てんくわすゐち》と結びたる 紫姫や若彦は 喜び勇み彦神《ひこがみ》を 迎へ奉《まつ》りて玉照《たまてる》の 姫の命《みこと》の夫神《つまがみ》と 称《たた》へまつらむ真心の 限りを尽くし仕へ居る 神素盞嗚《かむすさのを》の大神は 英子《ひでこ》の姫を遣《つか》はして 五六七《みろく》の神代《みよ》の礎《いしずゑ》の 百《もも》の仕組《しぐみ》に仕へしめ 国治立《くにはるたち》の大神が 国武彦《くにたけひこ》と現れて 曇り果てたる末の世を 照らし清むる先駆と 姿隠して桶伏山《をけふせやま》 黄金《こがね》の玉と諸共に 御稜威《みいづ》は四方《よも》に輝きぬ 言依別《ことよりわけ》の宣伝使《せんでんし》 斎苑《いそ》の館を立ち出でて 雲路《くもぢ》押し分け遥々《はるばる》と 綾《あや》の聖地に着き玉ひ 心の空に玉照彦《たまてるひこ》の 神の命《みこと》や姫命《ひめみこと》 経《たて》と緯《よこ》との皇神《すめかみ》の 分《わけ》の御霊《みたま》と嬉しみて 三五教《あななひけう》を弥固《いやかた》に いや遠永《とほなが》に宣《の》り伝ふ。 言依別命《ことよりわけのみこと》は、神素盞嗚大神《かむすさのをのおほかみ》の 命《めい》を奉じ、照山《てらやま》と桶伏山《をけふせやま》の山間《やまあひ》に、 国治立《くにはるたち》の大神、豊国姫《とよくにひめ》の大神の、貴《うづ》の御舎 《みあらか》を仕へまつりて、その威霊を鎮祭し、玉照彦、玉照姫をして宮仕へとなし、 世界経綸の神業《しんげふ》の基礎を樹立せむとしたまひ、遠近《をちこち》の山野の 木を伐り、瑞《みづ》の御舎《みあらか》を仕へまつった。神人《しんじん》らの道を 思ひ、世を思ふ真心凝結して、荘厳無比の瑞《みづ》の御舎《みあらか》は瞬《またた 》くうちに建造された。称して錦《にしき》の宮と云ふ。玉照彦、玉照姫は幼時より数 多の神人《しんじん》に秀《ひい》で、神徳高く、神格|勝《すぐ》れ、神代《かみよ 》における救世主として、天下万民の尊敬を集めたまふに到りけり。 言依別命は、素盞嗚大神の命を奉じ、錦の宮を背景として、自転倒島《おのころじま 》における三五教の総統権を握り、コーカス山、斎苑《いそ》の館と相俟《あひま》っ て、天下修斎の神業を宇内に拡張し給ふこととなった。三五教の宣伝使は云ふも更なり、 ウラナイ教を樹て、瑞之御霊《みづのみたま》に極力反抗したる高姫、黒姫、松姫は、 夢の覚めたる如く心を翻《ひるがへ》し、身命《しんめい》を三五教に奉じ、自転倒島 を始め、海外諸国を跋渉して、神徳を拡充することとなった。ここに元照彦《もとてる ひこ》の御霊《みたま》の再来、天《あめ》の真浦《まうら》は、大台ケ原の山麓に生 まれ、木樵《きこり》を業《わざ》となしその日を送り居たるが、綾の高天《たかま》 に錦の宮の建造され、神徳四方に光り輝くと聞きて、樵夫《きこり》の業《わざ》を廃 し、はるばる聖地《ここ》に訪ね来たり、言依別命に謁し、新たに宣伝使となることを 得た。天の真浦は大いに喜び、昼夜の区引なく宣伝歌を謡ひながら、先づ自転倒島《お のころじま》に向かって、神徳宣布の神業《しんげふ》を試みむとし、聖地を後にただ 一人、霧《きり》の海原《うなばら》押し分けて風のまにまに、人の尾峠の西麓に着い た。道行く人も見えぬばかりの粉雪、滝の如くに降り来たり、見る見る一尺ばかりも地 上に積もり、日は黄昏れて、道いよいよ遠く、真浦は行手に迷ひ、進みもならず、退き もならず、蓑笠《みのかさ》を着けたるまま、路上に佇立《ちょりつ》して、声低《こ ゑびく》に天津祝詞《あまつのりと》を幾度となく繰り返しつつあった。怪しき獣《け だもの》の影幾十となく隊をなして、山上より降《くだ》り来る。されど真浦《まうら 》は滝と降り来る雪に眼を遮《さへぎ》られ、足許に進み来るまで知らざりき。ただ何 となく雪踏み砕く何者かの足音、追々近づく声のみ耳に入《い》る。真浦《まうら》は 独り言、 『今まで暖かい国に育ち、この様な深雪《ふかゆき》は見たことがなかった。始めて神 様のお道に入《い》り、百日百夜の修行を積み、やうやく許されて今ここに宣伝使補《 せんでんしほ》となり、足に任せて進みて来たが……アアゆき詰まったものだ。言依別 命《ことよりわけのみこと》様より「汝はこれより人の尾峠を越え、河水《かはみづ》 清き宇都《うづ》の郷《さと》に初宣伝を試みよ」と仰せられた。しかしながら、かう 降り積もる大雪、まして樹木茂れるこの谷間《たにあひ》、日は暮れかかる……アーア 宣伝使も辛いものだ。追々積もる雪の量《かさ》、罷《まか》り違へばわが身は雪に埋 《うづ》まって、冷たくなってしまうであらう。進退|惟谷《これきは》まるとはこの ことだなア』 と心細げにつぶやく折しも、最前の足音追々近づき来たる。見れば数十頭の熊の群、真 浦《まうら》が足許を勢ひ込んで走り行く。真浦は驚いて雪の中に路《みち》を避けた。 熊の群は何の遠慮もなくスタスタと列を組んで、西方さして走り行く。 真浦はホッと息をつき、 『アア、有り難い、沢山の熊が現れて雪路を踏み分けて、立派な通路を開いてくれた。 これも全く神様の御神徳であらう…………有り難し有り難し』 と感謝しながら、熊の足跡を踏み分け上り行く。道の傍《かたは》らに一軒の茅屋《あ ばらや》があることが目に付いた。屋内には幽《かす》かな火影《ほかげ》が瞬《また た》いて居る。風が持て来る雪しばきますます烈しく、熊の折角開いてくれた雪の新道 《しんだう》も、瞬《またた》くうちに閉塞してしまった。屋内には気楽さうに笑ひさ ざめく声。真浦はこの愉快気に笑ふ声を聞き、 『ホンに羨《うらや》ましいことだなア。われは神命とは言ひながら、この雪路に悩み、 玉の緒さへも切れなむとする極寒の苦しみ、血管を流るる血潮も凝結せむとする辛さに 引き替へ、この家《や》の内《うち》の面白さうな笑ひ声、…………実に人の境遇くら ゐ運否《うんぷ》のあるものはない。しかしながらわれも神の道を伝ふる宣伝使の初陣、 かくの如き雪に恐れ、人の家に入って、一夜の宿を請《こ》はんとするも、何となくウ ラ恥づかしい、アアいかにせむか』 と躊躇《ためら》ふ折しも、屋内より男の声、 男『オイ、どこの乞食だか知らぬが、この雪の降るのに、何を愚図々々して居るのだ。 チッと俺の宅《うち》へでも入って休んだらどうだ。あったかい湯も沸いてある。沢山 な火も焚いてあるぞ』 真浦『ハイ有り難う御座います。しかしながら私はどうしてもこの峠を越さねばなりま せぬ。御志《おこころざし》は有り難う御座いますが……』 男『ナニ、俺の宅《うち》で休むのは厭《いや》だと云ふのか、馬鹿な奴だなア。俺は この辺の杣人《そまびと》だ。少しの雪はチッとも苦にならない男だが、さすが山猿の 俺でさへも、一歩も今日の雪には歩むことは出来ない。どうしてこの坂が登れると思ふ のか。マアそんな馬鹿なことを言はずに旅は道連れ世は情けだ。一樹《いちじゅ》の陰 の雨宿り、一河《いちが》の流れを汲む人も、深い縁《えにし》のあるものだ。サア遠 慮は要らぬ、入って休息したがいい』 真浦《まうら》はその言葉にやや心動き、 『どなたか知りませぬが、御親切に有り難う御座います。左様ならばしばらく休息をさ せて頂きませう』 男『アアそれが良い。サアサアお入りなさい』 と真浦の手を取り引き入れ、斜《はすかひ》に歪んだ雨戸をピシャッと閉めた。 男『大変な大雪で、倒《こ》けかかった家がますます怪しくなって来た。愚図々々して 居ると雪の重みで、この家も平太《へた》ってしまふかも知れないぞ。………オイ駒公、 お客さまだ。どっさりと薪木《たきぎ》を燻《く》べて御馳走するのだぞ。寒い時には 火が一番御馳走だ』 駒公『馬鹿言ふな。どこの馬の骨か、鹿の骨か分りもせぬ代物を、物好きにも駒さんの 承諾も得ず、引き摺り込みやがって、火を焚けもあったものかい。貴様は何でも取り込 むことばっかり考へて居やがる。チッと執着心を脱却せぬかい。取り込むことなら犬の 葬式でも喜んで引っ張り込むと云ふ代物だから困ってしまふ。そんなことでこの立派な 家が、どうして立って行くと思ふのか、秋公の不経済家には俺も本当にアキが来た。寒 い時ににはかに体を火に近づけると、かへって凍傷を起こすものだ。どこの奴か知らぬ が、赤裸《まっぱだか》にして頭から冷水でも、ドッサリ御馳走してやるのだなア。貴 様と二人かうして雪に閉《とざ》されて居っても、チッとも面白味がない。こいつの衣 服万端を奪ひ取り、その上|赤裸《まっぱだか》にして水をかけ、それを肴《さかな》 に一杯やったら面白からう』 真浦『なんだ、その方らは甘言をもってこの方をひっぱり込み、泥棒を致すのか』 秋彦『アハハハハ、いい頓馬だなア。そんなことを尋ねるのが馬鹿だ。俺も今日が泥棒 の初陣だ。この家は実はわれわれの物ではない。老爺《ぢい》と婆アとが居ったのだが、 凄い文句を並べてやった所、昨日の日の暮頃、どっかへ逃げて行きよった。あいつは雪 爺《ゆきぢい》に雪婆《ゆきばば》だったと見えてにはかにこんな大雪が降って来た。 サア皮を剥いてやらう』 と真浦の身に着けたる衣服を剥奪せむとする。 真浦『それは、あまりぢゃ。ちょっと待ってくれ』 秋彦『松も檜《ひのき》も有ったものか。袋の鼠、どうしたって剥かねばおかぬ』 真浦『この家《や》を立ち去る時に脱ぎませう。それまでこの衣服を私に貸して下さい ませぬか』 駒彦『オイ秋公、仕方がない、貸してやれ。……オイ何程《なんぼ》借賃《かりちん》 を出す? それから約束しておかねば喰ひ逃げされては、泥棒商売も棒が折れるからな ア。ワハハハハ』 真浦『自分の着物に利息をつけて貸して貰ふとは、また妙な規則の出来たものですなア』 駒彦『愚図々々言ふない。郷に入っては郷に従へだ。これが泥棒社会の規則だ』 真浦『貴様たちはまるでバラモン教みたやうな奴だなア』 駒彦『きまったことだ。鬼雲彦様の乾児だよ。秋《あき》、駒《こま》と云ったら、そ れは本当に翔つ鳥も落とすやうなバラモン教の有名な宣伝使だぞ。貴様は三五教の宣伝 使、無抵抗主義を標榜して居る腰抜教《こしぬけけう》の奴だから、指一本俺に触《さ 》へても、抗言《くちごたへ》一つ致しても、抵抗したことになる。頭をカチ割られよ うが、黙って辛抱するのだぞ』 真浦『アーア困ったことになったもんだワイ。三五教には噂に聞けば、もとは馬、鹿と 云ふ紫姫様の家来があって、それが高城山《たかしろやま》の松姫さまを帰順させ、駒 彦、秋彦と云ふ名を貰ったさうだが、お前の名は秋と云ひ、駒と云ひ、よく似て居る。 何か因縁の糸が結ばれて居る様だ。もしや三五教の駒彦、秋彦ではなからうかなア』 秋彦『そんな腰抜けの秋彦や、駒彦とはチト相場が違ふのだぞ。俺は三五教の宣伝使| 真浦《まうら》と云ふ新米者が宇都山《うづやま》の郷《さと》へ初陣に往くので、言 依別《ことよりわけ》の神様から……』 駒彦『オイ秋公、何を言ふのだ。ウッカリしたことを言ふものでないぞ』 真浦『アハハハハ、大方そんなことだと思った。言依別の神様が俺の信仰力を試す為に、 貴様をここへ回しおき、そうしてこの道を通れとおっしゃったのだなア……オイ秋彦、 駒彦、モウ駄目だぞ。泥棒でも、バラモンでも、ベラボウでもない、貴様の襟《えり》 の印は何だ』 駒、秋『アハハハハ、到頭陰謀発覚したか。エエ仕方がない。そんなら事実をスッカリ 白状致して遣《つか》はす』 真浦『イヤもう沢山だ。何も承《うけたまは》る必要はありませぬワイ』 駒公『先づ宣伝使の点数六十五点だ。速かに言依別の神様に成績表を書留郵便で送って おかう。夜が明けるまで三人|鼎坐《ていざ》してお神酒《みき》を戴いて御日待《お ひまち》をしようではないか』 真浦『またそんなこと言って、点数を減らすのではないか』 秋彦『心配するな。一旦認めた以上は減点は決してしない。その代り俺のこともよく報 告するのだぞ』 真浦『よく報告してやらう。コンミッションとしてモウ四十五点あげてくれ』 秋彦『六十五点に四十五点を加へると満点以上になってしまふ。それでは試験官として 報告の仕方がないワ』 真浦『俺の改心は百点以上だ。その代り貴様は百八十点に俺から報告してやらう。しか し二人合計してだから……』 と他愛なき雑談に一夜を明かしたりける。 天《あめ》の真浦《まうら》の宣伝使 秋彦 駒彦 諸共に 神の教《をしへ》を伝へむと 人《ひと》の尾峠《をたうげ》の急坂を 雪かき分けて登り行く 地は一面の銀世界 金烏《きんう》の光りキラキラと またたき初《そ》めて大空は 拭ふが如く晴れ渡り ここに三人《みたり》は勇ましく 谷の流れに沿ひながら 足踏みなづみ進み行く 旭輝く雪は照る 神の恵《めぐみ》も白妙《しらたへ》の 雪に包まる宇都《うづ》の郷《さと》 武志《たけし》の宮を祀りたる 浮木《うきき》の里に辿り着く またもや降り来る雪しばき ここに三人《みたり》は大宮の 脇に建ちたる社務所《ながとこ》に 雪を凌《しの》いで車座に なって暖《だん》をば採りながら 携へ持てる握り飯 ムシャリムシャリと平らげて 四方《よも》の話に耽る折 雪かき分けて登り来る 怪しの翁《おきな》ただ一人 覚束《おぼつか》無げに杖を突き 宮の階段登り来る 真浦 秋彦 駒彦は 眼《まなこ》を据ゑて眺むれば 怪しの翁《おきな》は神前に やうやう近づき拍手《かしはで》の 音も涼しく太祝詞《ふとのりと》 称ふる声の麗《うるは》しく 三人《みたり》の耳に透きとほる 神の使ひか真人《しんじん》か 但しは悪魔の化身かと 怪しみながら秋彦は この場を立ちてザクザクと 雪踏み鳴らし神前に 額《ぬか》づく翁《おきな》に打ち向かひ 汝《なれ》は何処《いづく》の何人《なにびと》ぞ 人里離れしこの森に 雪を冒して参来《まゐき》たり 祈願《ねぎごと》するは何故《なにゆゑ》ぞ 聞かまほしやと尋ぬれば 翁《おきな》はやうやく顔を上げ 胸に垂れたる白鬚を 二つの手にて撫でながら 四辺《あたり》キョロキョロ見回して 武志《たけし》の宮の神司《かんづかさ》 朝な夕なに真心を 尽くして仕へ奉《たてまつ》る われは松鷹彦《まつたかひこ》の司《かみ》 汝《いまし》は何処《いづく》の何人《なにびと》ぞ 訝《いぶ》かしさよと問ひ返す その容貌のどことなく 得も言はれざる気高さに 秋彦思はず手を突いて 三五教の宣伝使 心の色も紅葉《もみぢば》の 錦の宮に仕へたる 秋彦 駒彦 二人連れ 天の真浦も諸共に 宇都山郷《うづやまがう》に現れし バラモン教の曲神《まがかみ》を 言向《ことむ》け和《やは》す鹿島立ち 雪を冒してやうやうに ここまで進み来たりしぞ 雪に埋《うづ》まる山里の 家並《やなみ》も見えぬ淋しさに 武志《たけし》の宮の社務所《ながとこ》を 借りて休らひ居たりけり 綾の高天《たかま》に現れし 玉照彦《たまてるひこ》や玉照姫《たまてるひめ》の 宇豆《うづ》の命《みこと》の仕へます 三五教の司神《つかさがみ》 言依別《ことよりわけ》の御言《みこと》もて あもり来たりし三人《みたり》連れ 汝《なんぢ》松鷹彦の司《かみ》 われら三人《みたり》を宇都山《うづやま》の バラモン館《やかた》に伴ひて 太しき功績《いさを》を建てませよ 応答《いらへ》如何《いかん》と詰め寄れば 松鷹彦は畏《かしこ》みて 老《おい》の歩みもトボトボと 雪の階段降りつつ 天の真浦や駒彦が 前に現れ会釈なし 先頭に立たむと誘《いざな》へば 三人《みたり》は勇み喜びつ 翁《おきな》の後に従ひて 武志の宮に一礼し 東を指して進み行く。 松鷹彦は雪路を杖を突きながら先頭に立ちて、バラモン教の宣伝使と聞こえたる友彦 館《ともひこやかた》に案内すべく進み行く。真浦は翁《おきな》の後に七八尺遅れて、 一歩一歩《ひとあしひとあし》深雪《ふかゆき》の中の足跡《あしがた》を目標《めあ て》に進む折しも、秋彦、駒彦は物をも云はず、真浦を引っ抱へ、数丈の崖下に突き落 とした。突き落とされた真浦は何の負傷もせず、高く積もれる雪の上にニコニコと安坐 して三人の姿を仰ぎ見て居る。 秋彦『モシ真浦さま、どうだ、御気分はよろしいかな。どこもお怪我は御座いませぬか』 真浦『ハイ有り難う、無事着陸致しました』 駒彦『サア六十五点に三十五点を加へて百点だ。肉体は高所から落第したが、御霊《み たま》はいよいよ立派な宣伝使に及第したのだから喜び給へ』 松鷹彦、目を円くし、 松鷹彦『コレコレお前達は何と云ふ乱暴なことをするのだい。世界の人民を助けて天国 へ救ふ役でありながら、地獄のやうな断崖から突き落とすと云ふことがあるものか、グ ヅグヅして居るとこの老人《としより》まで、どんなことをするか分ったものぢゃない』 秋彦『お爺さま御心配下さいますな。身魂《みたま》調べの為に、われわれ両人は言依 別《ことよりわけ》様の御命令によりて、あの男の修業をさせに来たのです。ここで腹 を立てる様なことでは、宣伝使の資格がないのだから、いはばわれわれは宣伝使の試験 委員だ。これであの男も立派な宣伝使になりました』 松鷹彦『こんな絶壁から落とされては、どうすることも出来ない。何とか工夫をしてこ こまで救ひ上げて来なさらねばなりますまい』 秋彦『何も御心配は要りませぬよ。獅子は児を産んで三日目に谷底へ棄て、上がって来 た奴をまた突き落とし、三遍目に上がった奴を、始めて自分の子にすると云ふことだ。 こんなとこから一遍や二遍突き落とされて屁古垂れる様な者なら、到底駄目だ。悪魔の 栄ゆる世の中の宣伝使にはなれませぬ。上がって来よったら、また突き落とすつもりで す』 松鷹彦『それだと言って、それはあまり残酷ぢゃないか。早く助けてお上げなさい』 秋彦『そんな宋襄《そうじゃう》の仁《じん》はかへってあの男を憎む様なものだ。可 愛いからこの断崕から突き落としてやったのです』 松鷹彦『なんと妙な可愛がり様も有ったものだなア。わしもこの年をして居るが、そん な愛は聞いたことが無い』 と不思議さうに覗き込んで居る。 駒彦『お爺さま、お前も一つ可愛がってあげようか』 松鷹彦『イヤもう結構々々、お前らに可愛がられようものなら、生命《いのち》も何も 無くなってしまふ。若い者はともかくも、この老人《としより》がどうなるものか。恐 ろしい人達だなア』 と蒼惶《さうくわう》として走り去る。 駒彦『アハハハハ、到頭|老爺《ぢい》さま肝《きも》を潰して逃げてしまひよった。 サア秋彦、モウ用が済んだ。これから各自《めいめい》手分けをして、命ぜられた方面 へ行くことにしょう。…コレコレ真浦さま、マアゆっくりと雪の上でお鎮魂でもなさい ませ。これでお暇《いとま》致します。その代りに百点だよ』 と両手を拡げて見せ、雪路を一生懸命に何処《いづく》ともなく左右に別れて走り行く。 真浦は苦心惨憺の結果、やうやく回り路を見出《みいだ》して、元の所に駆け上がり、 四辺《あたり》をキョロキョロ見回しながら、 真浦『アア誰も彼も皆どっかへ埋没してしまった。エエ仕方がない、足型を便りに後追 っかけよう』 と独語《どくご》しつつ雪に印《いん》した草鞋の跡を、犬が鋭利な嗅覚で猪《しし》 の後を逐ふ様な調子で進んで行く。雪は鵞毛《がまう》と降りしきり、足跡の窪みはほ とんど埋没してしまった。見渡す限りの白雪の野を、一歩々々《ひとあしひとあし》探 る様にして、遂には大川の畔《ほとり》に辿り着いた。河の堤《つつみ》に細い烟《け ぶり》の破風口《はふぐち》より立ち昇る小さき茅屋《ばうをく》が淋しげに立って居 る。真浦は『御免』と押戸を開けて入《い》り見れば以前の老爺《ぢい》が、婆アと二 人茶を啜《すす》って居る。 松鷹彦『ヤアお前は最前の宣伝使だったなア。よう来て下さった。随分乱暴な男もあっ たものだ。あれは大方バラモンの残党であらう。お前気を付けないと、どんな目に遭は されるか知れませぬぞや』 真浦『ハイ有り難う御座います。実は人の尾峠の西麓において、盗賊に出会ひました。 それからその盗賊さまに武志《たけし》の宮まで送って頂いたのです』 松鷹彦『何か盗られましたかなア』 真浦『イエ別に……盗られるどころか結構な物を沢山頂戴致しました。盗難品はただの 一点も無く、貰ったものは前後二回で百点ばかりです。実に結構な御神徳《おかげ》を 頂きました。最前もアノ絶壁から突き落とされ、その時にも三十五点くれましたよ』 松鷹彦『ハテ合点のゆかぬことをおっしゃる。その代物はどこに御所持なさるかなア』 真浦『ハイ残らず私の腹の中にしまってあります。要するに無形の宝ですよ』 松鷹彦、両手を拍《う》ち、打ち諾づきながら、 松鷹彦『ハハハハ、年を老《と》って、わしも余程|耄碌《まうろく》したと見えるワ イ、ホンにそうだ。わしもお前さまから宝を四五十点頂戴した。実に忍耐と云ふ宝は結 構なものだ。さうでなくては誠の道は拡まりますまい。バラモン教は随分荒行を致しま すが……わしも元は三五教を奉じて居りました。それから三五教の宣伝使の行方《やり かた》があまり脱線だらけで、愛想が尽き、同じことなら大勢の者の信ずるバラモン教 の方が処世上の便利だと思ひ、一旦は入信しましたが、これまたどうしてもわしの腑《 ふ》に落ちない点が沢山ある。そうかうして居るうちにバラモン教の一部を採り、ウラ ル教のある点を加味し、三五教を加へて、新たに起こったウラナイ教と云ふ新しき教《 をしへ》が出て来たので、またもやウラナイ教に間男《まをとこ》をしました。そうし て神様を武志の宮にお祀りしたところが、その夕《ゆふべ》から夫婦の者がにはかに病 気付き大変な発熱で、幾度も死ぬ様な目に遭ひ……コリャやっぱり元の神様にすがらね ばなるまい……と夫婦の者が三五教の大神に謝罪《おわび》をしたところ、不思議にも その時より熱が段々に降《さが》り、婆アは二三日の後ケロリと嘘をついた様に全快し てしまった。わしはこれから一里ばかりある下の村の者から選まれて、武志の宮の神主 をして居る者だが、村人にさう幾度も幾度も神様を出したり入れたりすると思はれては、 信用がないから、ソッとウラナイ教の高姫さまが祀ってくれた御神号を河に流し、今で は三五教の神様をお祀りしたいのだが、一旦御神号を流してしまったので、戴く訳にも ゆかず、空《から》の宮を……今日も今日とて謝罪《おわび》かたがた拝みに行きまし た。今日でこの雪路を三七廿一日、毎日通ひましたが、不思議なことには、あなた方に 宮様の前でお目にかかったのは、全く神様の御引き合はせで御座いませう。しかし詳し い教理は存じませぬが、三五教の宣伝使はみな貴方の様に忍耐が強い方ばかりですか』 真浦『昔の三五教は随分乱暴な宣伝使もあり脱線者も沢山出たさうです。しかしこの頃 は玉照彦、玉照姫と云ふ立派な神様の生まれ替はりが、聖地に現れ玉うてより、誰も彼 も、緊張気分になり、忍耐を第一として天下に宣伝を始めて居ります。恥づかしながら 私は大台ケ原山麓の暖かい所に生まれ、楽に育って来た報いで、この雪国へ始めて宣伝 に参り、余程苦しみました。さうして今日が宣伝の初陣です。わづかの時日《じじつ》、 神様の教を聞かして頂き、言依別の教主様から許されて、宣伝に参った者ですから、詳 細《くは》しいことはまだ存じませぬ』 松鷹彦『さうすると、あなたは今日が始めてですか。それはそれは本当に結構です。宣 伝使は分らぬうちこそかへって神徳もあり、人徳も備はるものだ。少し物が分ると知ら ず識《し》らずに慢心が出て、つひには信仰に苔が生え、また元の邪道に逆転するもの だ。わしもさう云ふ初心《うぶ》な宣伝使に一度会ひたいと思うて居った。どうぞ貴方 はこれからわしの茅屋《あばらや》に逗留し、武志の宮の御神体を斎《まつ》って下さ い。さうして村の者にも教《をしへ》を伝へ、バラモン教を改めさせたいものです』 真浦『神様を祀ると云っても、私の様なものでは、到底それだけの資格がありませぬ。 時を得て聖地にあなたも参拝し、言依別命様に面会して、御神体を奉迎してお帰りなさ いませ。それが何より結構でせう。われわれは宣伝をするばかりの役、神様の御神体を 扱ふことは出来ませぬ』 松鷹彦『いかにも、さう聞けばさうです。物品か何かの様に軽々しう扱ふことは出来ま すまい。時機をみて御願ひすることに致しませう。さうして三五教の教の樹《た》て方 は、大体どう云ふことが眼目になって居りますか』 真浦『あなたは最前も、三五教に入信《はい》って居たとおっしゃった。私よりは、い はば古参者、よくお分りでせう』 松鷹彦『ただただ世界統一の神様だと信じ、この曇った世の中を早う安楽な、潔白に世 にしたいばかりに信仰を続けて居たのみで、言はば徹底せない信仰でありました。それ 故あちらこちらとうろついてみたのだが、どうしても三五教が斎る神様に御神力《ごし んりき》がある様だ。何とはなしに恋しくなって来ました』 真浦『私が知って居ることの大体だけを簡単に申しますれば、……世界を神の慈愛の教 《をしへ》によりて、道義的に統一し、世の立て替へ立て直しを断行すること。能《あ た》ふ限り神様の道を宣揚し、体主霊従の物質的|教《をしへ》に心酔せざる様教ふる こと。いかなることも神様にお任せ申し、自分の我《が》を出さずに能《あた》ふ限り 道によりて力を尽くすこと。天地神明の鴻恩《こうおん》を悟り、造次にも顛沛《てん ぱい》にも、感謝祈願の道を忘れざること。常に謙譲の徳を養ふこと。いかなる難儀に 遇うとも、誠の道の為ならば少しも恐れず、誠をもって切り抜けること。社会の為に全 力を尽くし、天下救済の神業に奉仕することなぞをもって、われわれは宣伝使の尽くす べき職務と確信して居ります。しかしながら、なかなか思った様に行ひが出来ないので、 神様に対していつも恥ぢ入って居る次第で御座います』 松鷹彦『オウ、それで大体の御主意が分りました。今までの三五教の宣伝使は、三五教 には退却の二字は無いと云って、随分乱暴な喧嘩もしたものです。然るに今日《こんに ち》あなたの御説の通り、三五教自身に立て替へが出来た以上は、最早天下何者をか恐 れむやである。その実行さへ出来れば、この宇都山《うづやま》の里人《さとびと》も 残らず帰順するでせう。どうぞ武志《たけし》の宮の社務所《ながとこ》にお止《とど 》まり下さって、不言実行の手本を見せて下さい。それが第一の宣伝です』 真浦『有り難う御座います。何分よろしく御願ひ致します。私の初陣として、あなたの 御病気の全快を神様に祈らして下さいませぬか』 松鷹彦『それは是非とも頼まねばならぬ。しかしながら不言実行だ。お前さまがわしの 宅《うち》へ来て間もなく、わしの病気が知らぬ間に癒る様になさらぬか。願はしてく れ……なぞとおっしゃるのが間違って居る。まだお前さまはチッとばかり名誉欲の魔が 憑いて居ますな』 真浦『ハイ恐れ入りました。それならモウ決して祈りませぬ。あなたの病気には無関係 ですから、さう思って下さい』 松鷹彦『ハイハイ分った分った。御互ひに神様の御子ぢゃ。右の手より施す物を左の手 が、知らぬ様にするのが、誠の不言実行、三五《あななひ》の教《をしへ》だ』 真浦『あなたは何もかもよく知って居て、私を実地教育して下さるのだなア。有り難う 御座います。アア神様は人の口を藉《か》って、イロイロと修業をさして下さるか、思 へば思へば有り難い、勿体ない』 と涙を袖に拭ふ。 松鷹彦『わしは何にも知らない。ただお前さまと話をして居る際、にはかに体が変にな って、あんな失礼なことを言ひました。どうぞ気に止めて下さるな……アア有り難い、 今までヅキヅキとウヅいて居ったわしの足が、いつの間にかスッカリ癒ってしまった』 と拍手再拝、真浦を神の如くに手を合はして拝み立てる。 雪に閉《とざ》され四五日|真浦《まうら》は、老夫婦の親切にほだされて、教話《 けうわ》を説きながら冬の日を消した。 松鷹彦『ここは御存じの通り、山と山とに囲まれて不便の土地、御馳走も一度あげたい と思へども、かう雪に閉《とざ》されては、どうすることも出来ぬ。幸ひこの川の淵に は、沢山な小魚が居って、ついそこの淵には、冬の寒さで一所《ひととこ》に籠って居 る。これを掬《すく》うて来て、お前さまの御馳走にしてあげませう』 真浦『ア、それは有り難う』 と言ひつつ、後は小声で、 真浦『不言実行が肝腎だなかったかなア』 と幽《かす》かに呟《つぶや》いた。老爺《ぢい》さまは玉網《たまあみ》を担《かた 》げ、雪掻き分けて川縁《かはぶち》に行った。そうして玉網を淵に突っ込み、しきり に骨を折って居る。この家《や》の座敷からよく見える距離である。婆アさまと真浦は、 爺さんの川漁《かはれう》を面白げに眺めて居た。松鷹彦はどうした動機《はずみ》か、 誤ってドブンと川に落ち込み、チッとも浮いて来ない。婆アさまは素知らぬ顔して眺め て居る。真浦は驚いて、 真浦『ヤアお爺さまが川へ落ち込んだ。助けてあげねばなるまい』 と立ちあがる。婆アさまは初めて口を開き、 婆『不言実行だ』 真浦『恐れ入りました。これから私もお前さまに代ってあの青淵目がけて、バサンと飛 び込み、ヂイさまを救はう』 婆『お手並拝見の後、御礼を申しませう。何はともあれ不言実行ですからなあ』 真浦は尻ひっからげ雪の中を倒《こ》けつ転《まろ》びつ飛んで行く。爺イはこのと き柳の木に取り付き、ムクムクと上がって来た。 真浦『お爺さま、結構でした。よう助かって下さった。実は私もビックリして助けに来 たのだ』 松鷹彦『あなたは有言不実行《いうげんふじっかう》だ、アハハハハ』 真浦は黙って老爺《ぢい》さまの着物を搾《しぼ》りかけた。 松鷹彦『自分の着物は自分が絞る。モッと忘れたものがあるだらう』 真浦は黙って引き返し、矢庭に座敷の中をキョロキョロ見ながら、おやぢさまの着替 を見付け、小脇に抱へて飛び出した。婆アは、 婆『コレコレお前さま、それはおやぢの着物だ。老爺《おやじ》の陥《はま》ったのを 幸ひ、大切な着替を不言実行して、どこへ浚《さら》へて行くのだ。……ホンにホンに 油断のならぬ人だなア、オホホホホ』 真浦『エー夫の危難を前に見ながら、一言《ひとこと》も頼みもせず、不言実行だなん テ、謎をかけやがって、おまけに俺を盗人《ぬすびと》扱ひにしてしゃれて居やがる。 こいつア普通《ひととほり》の狐……オットドッコイ女ぢゃあるまい。……早く行かぬ と、爺《ぢい》が凍《い》ててしまふ』 と裏口を跨《また》げかける。婆アは、 婆『真浦さま、早く早く、不言実行だ』 真浦は物をも言はず、爺《ぢい》の所に走り着いた。老爺《ぢい》は赤裸《まっぱだ か》となりて真浦の持って来た着物を、手早く身に着け『大きに』とも、『御苦労』と も言はず、黙ってスゴスゴとわが家《や》に帰る。真浦は濡れた着物や網を引っ抱へ、 真浦《まうら》『アア本当に不言実行歩《ふげんじっかうほう》と出よったな。油断の ならぬ化物爺《ばけものぢい》だ。モウこれからは暫時《しばらく》唖《おし》の修業 だ』 と独《ひとり》ごちつつ、爺の家に帰って来た。 婆『さすが三五教の宣伝使ぢゃ。よう気が付いた。これでお前もまた一点ほど点数が増 えましたデ、ホホホホホ』 松鷹彦『アイタタタ、またしても痛くなった。こいつア病気が撥ね返るのではあるまい か。非常な激痛だ』 と顔を顰《しか》め、 松鷹彦『不言実行 不言実行』 と怒鳴って居る。婆アは、 『折角御神徳を戴きながら……|爺《おやぢ》さま、お前は二口目には不言実行とおっ しゃるが、取らぬ狸の皮算用をする様に、棚の牡丹餅をおろして喰ふ様に、慢心して、 真浦さんに御馳走をしてあげようかなんテ、おっしゃるものだから、たちまち神様の御 戒めを食って、有言不実行になり、そんな土産を頂戴して苦しむのだよ。チッと神様に 謝罪《おわび》をなさらぬか』 松鷹彦『俺は神様に対して不言実行、暗祈黙祷をやって居るのだ。どっかそこらに不言 実行者が、モウ出さうなものだ。アイタタタ』 真浦は赤裸《まっぱだか》となり、裏の川にザンブと飛び込み、御禊《みそぎ》をな し、一生懸命で何事か祈願し始めた。爺イの足の痛みは不思議にもピタリと止まった。 松鷹彦『真浦様、有り難う。御神徳《おかげ》を頂きました。サアどうぞこちらへ来て 下さい。火を焚《た》いてあたらしてあげませう』 真浦は川より這ひ上がり、身体《からだ》の露《つゆ》を拭ひながら、 真浦『お老爺《ぢい》さま、火を焚くのもヤッパリ不言実行だ、アハハハハ』 (大正11年5月12日 旧4月16日 松村真澄録) -------------------- (747)に続く http://onisavulo.web.fc2.com/


