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2009/02/17

霊界物語をメールで配信!(740)

霊界物語をメールで配信!第19巻(740)
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■第14章 声の在所《ありか》〔659〕 ■
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 谷丸《たにまる》、鬼丸《おにまる》、テルヂー、コロンボの四人は堺峠《さかひた
うげ》の天狗岩《てんぐいは》を後にしながら、山麓の老松《らうしょう》の根元を越
え、玉照彦《たまてるひこ》の幼児の隠し場所に走り着いた。谷丸は、目を丸くして、
此処彼処《ここかしこ》と探し回し、三人は吾一《われいち》の功名せむと、血眼にな
って、谷丸の行く後に従ひ、捜索を始めた。たちまち聞こゆる赤児の泣き声、谷丸は立
ち止まり、腕を組み、泣き声の何《いづ》れより来たるかを考へて居る。
谷丸『たしかにここに、お寝かせ申しておいたはずだ、それに形跡だに残ってゐないの
みならず、お声は聞こえて居るがトント方角が分らない。東に聞こえる様でもあるし、
西の様でもあるし、西かと思へば南に聞こえるし、南かと思へば、北に聞こえる様だし、
ハテナ、こいつは、狐の奴、玉照彦様を啣《くは》へて、そこら中をうろついて居やが
るのだな、オイ俺は東を探すから、鬼丸、貴様は西の方を探してくれ。そして、テルヂ
ー、コロンボ二人は、南、北に手分けして捜索して下さい。その代り誰が見付けても共
有だからそのお積もりで願ひますよ』
テルヂー『その約束は間違ひありませぬなア。イヤ面白い。さあコロンボ、貴様は南に
行け、俺は北の方を探してみる』
 不思議にも、幼児の泣声は、谷丸の耳には東に最も高く聞こえて来る。鬼丸には西の
方に聞こえる。コロンボの耳には南に聞こえる。テルヂーの耳にはたしかに北の方から
聞こえて来る。
 四人は東西南北に、慌《あはただ》しく、声を尋ねて駆け出した。四人の耳に聞こゆ
る猛烈な泣き声、各自前後左右より響いて来る。四人はその声に、耳を引っ張られる様
に、体をキリキリ舞ひさせ、目を回して四人とも、バタリと倒れた。一時《いっとき》
ばかり四人の呼ぶ声も、風の音も鎮まり閑寂《かんじゃく》の幕が下ろされた。夜はそ
ろそろと明け放れ、東の空の雲押し分けて昇り給ふ天津日の御影《みかげ》に照らされ、
おのおの一度に目を醒ませば、豈《あに》計らむや、四人は天狗岩の根元にヅブ濡れに
なって眠りゐたりき。
谷丸『アア何だ、夢見て居たのか、やっぱり天狗岩のそばだから鼻高《はなだか》の奴、
俺達をちょっとチョロマカしやがったのだな。それにしても、肝腎の、玉照彦様はどこ
にお出《い》でになったのだらう。アアここに御座った、有り難い有り難い、玉照彦様
どうぞ許して下さいませ。貴方《あなた》お一人をこんな岩の上に、御寝かし申し、わ
れわれは前後も知らず寝込んでしまひました』
と云ひつつそばに寄り、抱き上げむとしたるに、玉照彦の全身は冷え切って氷の如くに
冷たくなって居る。
谷丸『オイ鬼丸、玉照彦様は冷たくなって居らっしゃる、こりゃマアどうしたらよから
うかなア』
鬼丸『そりゃ夢の中に見た通り石ぢゃありませぬか』
谷丸『ヤアいかにも、こいつは夢の通りやっぱり石だった』
 テルヂー、コロンボ一度に、
テ、コ『アハハハハ、誠に誠に、御挨拶のしやうも御座いませぬ、もうこうなった以上
は何ほど泣いても悔んでも石が物云ふ例《ためし》は御座いませぬ、どうぞ鄭重《てい
ちょう》に弔《とむら》うて上げて下さい。さあコロンボ、夢のところへ行くのだ』
と駆け出す。谷丸、鬼丸も続いて駆け出したり。
 坂の中程まで下り来たる折しも、水の滴《したた》る如き一人の美人、玉照彦を抱い
て上り来たるに出会った。
テルヂー『モシモシ、貴方は言照姫様では御座いませぬか』
美人『ハイ左様で御座います。今、玉照彦の神様を保護してここまで参りました』
テルヂー『変なことを申しますが、どうぞウラル教の神様として大切に致しますから、
われわれに下さいますまいか』
言照姫『ハイどなたかに貰って貰はねばならないのですから、お望みとあれば、どうと
も致しませう』
 かかるところへ、谷丸、鬼丸は追っかけ来たり、
谷、鬼『ヤア玉照彦様で御座いましたか、大変にお慕ひ申し探して居りました。サアサ
アどうぞ谷丸へお越し下さいませ。私が抱いて上げませう』
言照姫『お前は、谷丸さまぢゃないか。私の不在中に、岩窟《いはや》の中から盗み出
し、大切にすることか、あのやうな茨室《いばらむろ》へ蓑《みの》を敷いて、捨子《
すてご》同様にしておきなさったぢゃないか。どうして貴方に、この尊い玉照彦様を安
心してお預け申すことが出来ませうか』
谷丸『イヤ誠に済みませぬ。何を云っても、ウラル教のテルヂーが狙って居るのですか
ら、取られちゃ大変と、茨の中とは知らず、朧月夜《おぼろづきよ》のこととて間違ひ、
お寝かせ申したのです。どうぞ私に下さいませ』
言照姫『かう両方から懇望されては、一方を立てれば一方に済まず、処置に困ります。
そんならかう致しませう。玉照彦様は御生まれ遊ばしてからまだ百日にもなりませぬが、
ちょいちょい物もおっしゃる、立ち歩みもなさいますから、ウラル教のテルヂーとバラ
モン教の谷丸とお二人で両方の手を握って、玉照彦様を引っ張り合ひして下さい。引っ
張って勝つ方に上げませう』
 四人一度に、
『さう願へば公平で結構です』
 言照姫《ことてるひめ》は玉照彦を坂道の真ん中に下ろした。玉照彦は左右の手を両
方に差し延ばし、
玉照彦『サア坊《ぼん》の手を引っ張って下さい。勝ったお方の方へ参ります。しかし
ソッと引いて下さいや』
『承知致しました』
と谷丸、テルヂーの二人は、左右に立ち現れ、腰をかがめて、背の低い玉照彦の手をグ
ット握り力を極めて、
『サア玉照彦様、私の方へ来て下さい』
と、一生懸命、腕が抜けるほど引っ張る。
玉照彦『アア痛い痛い、痛いわいなア』
と顔を顰《しか》め泣き出す。テルヂーはこの声に驚いて、思はず手を離した。
谷丸『サアいよいよこちらの物ぢゃ。玉照彦様、御苦労ながら、今日から、バラモン教
の神様になって下さい』
 玉照彦、首《かぶり》を振り、
玉照彦『イヤイヤ テルヂーの方に御世話になります』
谷丸『そりゃあ約束が違ふぢゃありませぬか』
玉照彦『貴方は、私が悲鳴を上げて痛がって居るのに、構はずに引っ張ったぢゃありま
せぬか、あの時にテルヂーが放して下さらなかったら、私の体は二つに千切れて居るの
です。愛情の深いテルヂーに御世話になります』
谷丸『小難《こむつ》かしいことをおっしゃいますなア、チトくらゐ辛抱して下さって
もよいぢゃありませぬか。モシモシ言照姫様、どうぞ生みの御母様《おかあさま》の貴
方からよく云って下さいな』
と振り向き見れば、こはいかに、言照姫《ことてるひめ》の姿は最早影も形もない。
玉照彦『私はもうこうなる以上は、どちらへも参ることは止めませう。今ウラナイ教の
松姫さまが、お迎へに来て下さるから、そちらへ行きます』
 この時トボトボと坂を登って来る一人の女《をんな》がありしが、玉照彦《たまてる
ひこ》は嬉《うれ》しさうに、
『ヤア、そなたは松姫か、よう迎へに来てくれた。サアサア連れて行っておくれ』
松姫『これはこれは玉照彦様、焦《こが》れ慕うて参りました。サア私が御負《おんぶ
》して進ぜませう』
と背中を突き出す。四人は目と目を見合せながら、松姫を前後左右より取り巻き、鉄拳
をもって擲《たた》きつけ、悲鳴を上げて倒れるのを見済まし、玉照彦を引っ攫《さら
》へ、四人は林の茂みに姿を隠したり。
 松姫は暴漢に乱打されたちまち気絶して坂道に倒れ居たりしが、その日の夕暮頃フト
息を吹き返し、四辺《あたり》を見れば、麗《うるは》しき二柱《ふたはしら》の女神、
厳然としてその前に立ち給ふ。
女神一『汝《そなた》は高城山《たかしろやま》の松姫であらう。サア、妾《わらは》
に従ってこれより、高熊山《たかくまやま》の岩窟《いはや》に参りませう』
松姫『いづれの神様か存じませぬが、ようマア助けて下さいました。私は悪者に虐《し
ひた》げられ気絶をして、遠い遠いあの世の旅行をやって居ました。ところが二人の女
神様が現れて、コレ松姫、ここは何と心得て居る、幽界の入口であるぞや。汝はまだま
だ幽界に出て来る時でない、サアサア妾が送ってやるから、とおっしゃったと思へば気
が付きました。見れば幽界で見た女神様と、寸分も間違ひのない御二方様《おふたかた
さま》、お蔭で命を助けて戴きました』
と手を合はせ感謝の涙にくれて居る。
女神二『サア松姫どの、高熊山の玉照彦様をお迎へに行きませう』
松姫『あの玉照彦様はたった今、悪者に攫《さら》はれて行かれました。最早、高熊山
には居らっしゃいますまい』
女神一『オホホホホ、今朝ウラル教とバラモン教の宣伝使が来たでせう。彼らは貪欲心
《どんよくしん》に絡まれ、眼《まなこ》暗み、石くれを玉照彦様と思ひ違へ、喜んで
逃げ帰ったのです。サアこれから、貴女《あなた》は気を取り直し、単身岩窟に進み、
言照姫にお逢ひなされて、玉照彦様をお連れ申してお帰りなさい。妾は来勿止《くなど
め》まで送ってあげませう。それから奥は貴女一人のお働きです。妾たち二柱、お手伝
ひ申すは易きことながら、それでは貴女の御手柄にはなりませぬから、心丈夫にもって
お出でなさいませ』
松姫『何から何まで、有り難う御座います。お言葉にあまへて来勿止《くなどめ》まで
送って頂きませうか。さうして、貴女様の御神名《ごしんめい》は何と申します』
 二人の女神はニコリと笑ひ、
『いづれ分る時節が参りませう。ここではちょっと申し上げ兼ねます』
と先き立ち、足早に、山奥指して進み給ふ。松姫は、二女神《にぢょしん》の後に従ひ、
心いそいそ歩み出したり。
二女神『もう二三丁先が、来勿止《くなどめ》の関所で御座います。われわれはここで
お別れ致します。いづれ改めてお目にかかることが御座いませう。左様なら』
と云ふかと思へば二女神の姿はたちまちかき消す如く見えなくなりぬ。松姫は盲人《め
くら》が杖を失った如く、暗夜《あんや》に提灯取られた如き心地して、重き足を、希
望の車に乗せられ、引き摺って行く。日は既に黄昏れ、十七夜の月はまだ昇り給はざる
一の暗み時、来勿止《くなどめ》の神の関所に着いた。ここは厳格な関門が築かれてあ
る。
松姫『モシモシ私は霊山《れいざん》へ詣る者で御座います。なにとぞ、この門お通し
下さいませ』
 門番の一人甲は、横門を押し開け出《い》で来たり、
甲『どなたか知りませぬが、この一の暗《やみ》に、この門あけいと云ふ者はろくな者
ぢゃありませぬ。いつもいつも狐や狸に誑《なぶ》られて、馬鹿を見通しだから、今日
は何と云っても開けませぬ、否《いや》通過させませぬ。出直して明日の朝お出でなさ
い』
松姫『左様では御座いませうが、決して怪しい者では御座いませぬ。どうぞ通して下さ
いませ。玉照彦様の御誕生地へ至急詣らねばなりませぬから』
 乙この声を聞いて、
乙『オイ勝公、この暗がりに、アタいやらしい、そんな白い装束を着た女を相手に何を
揶揄《からか》って居るのか、早く入らぬか、また例の奴に定《きま》って居るぞ』
勝公『そうだと云ってこの方《かた》が是非玉照彦様に参拝したいから、通過させてく
れと、懇願なさるのだもの、無情《むげ》に断る訳にもゆかぬぢゃないか』
乙『何だ、また貴様、日の暮れ紛れに、女を掴まへて、愚図々々云って居やがるのだな、
余程、勝手な奴だ。男が尋ねて来ると、いつも、慳《けん》もほろろに、木で鼻こすっ
た様な応待をするクセに、今日は言葉付きまで、優しく出やがって、貴様の面ったら、
大方崩壊して居るのだらう。暗夜《やみよ》でマア仕合《しあは》せだ。昼であって見
よ、よい化け者だぞ』
勝公『俺の顔が化け者なら、貴様の顔は何だい。鯰《なまづ》が沸茶《にえちゃ》を浴
《か》ぶせられた様な面《つら》をしやがって、人さんの御面相まで、批評すると云ふ
資格がどこにあるかい』
乙『何と云っても貴様は女にかけては五月蝿《うるさ》い奴だ、俺が来なんだら、優し
い声を出しやがって何々を、何々する、何々だったらう。エライ邪魔物が飛び出しまし
て済みませぬなア、アハハハハ』
松姫『モシモシお二人さん、今日は特別の御憐愍《ごれんびん》をもってお通し下さい
ませ。どうしても今晩のうちに参拝致さねばなりませぬから』
乙『大胆《だいたん》至極《しごく》な、女の分際としてこの山奥にただ一人踏み込み
来たり、この怖ろしい岩窟《いはや》へ参詣しやうなんて、そんな大野心を起こしても
駄目ですよ。きっと途中で、狼にバリバリとやられてしまふのは請け合ひだ。この門|
潜《くぐ》るや否《いな》や、地獄の八丁目だから、悪いことは云はぬ。お前の身の為
ぢゃ。いつまでも絶対通さないとは申さぬから、明日来て下さい』
松姫『御注意は有り難う御座いますが、私は神様に何事もお任せ申した身の上、命なん
かどうなってもよろしいから、どうぞ心よう通して下さいませ』
乙『イヤイヤ、命が惜しくない様な、ド転婆《てんば》を通すことはいよいよもってな
りませぬわい、来勿止《くなどめ》の神様にまたどんなお小言を頂戴するか知れやしな
い。この頃はこの門番も失策だらけで、さっぱり鼻べちゃで威勢が上がらない。それと
云ふのも、勝公が心の締《しま》りがないものだから、いつでも俺達が巻添へを食ふの
だ。オイ勝公、サアこんな命知らずの強者《したたかもの》を相手にせずと、トットと
奥へ入ってそれから門を閉めて、警戒を厳重にせなくちゃならぬぞ。サア入らう入らう』
勝公『それだと云ってこれほど熱心に、お頼みなさるのに、どうして刎《は》ね付ける
訳にゆくものか。貴様入りたければ、勝手に入って勝手に閉めたがよからう。俺は仕方
がないから、日頃覚えた、ぬけ道を伝うてこの御方《おかた》を背中に背負ってあげる
のだ』
乙『とうとう尻尾を現はしやがったな、アハハハハ、随分女にかけては腰抜けなものだ』
勝公『エエ竹公の唐変木《たうへんぼく》め、貴様に女が分ってたまるかい。女で苦労
して来た者でないと女人《にょにん》心理は解らないぞ。さう毒々しく無情なことを云
ふものぢゃないワ。人間は堅いばかりが能ぢゃない。砕ける時は砕けて、世の中の人々
の為に便利を計るのが人間の務めだ。ましてこの館に泊めてくれとおっしゃるのでもな
し、通してさへあげればよいのぢゃないか』
竹公『貴様が何と云っても、一旦男の口から、通さぬと云ったら通さぬのだ』
勝公『モシモシお女中、今お聞きの通り同僚役《あひぼうやく》があの通りの頑固者で
すから、無理にお通し申しても、後でどんな難題をわれわれ両人にふきかけるやら分り
ませぬ。さうすればお互ひの迷惑ですから、どうぞ貴方も折角ここまでお出でになった
のですから、お気の毒でたまりませぬが、今晩は一旦、引き返して下さいませぬか』
松姫『どうぞ、方角だけなっと教へて下さいませ。送って貰っては大変な、貴方の御迷
惑になっては済みませぬから』
勝公『実のところは、これだけ厳しく門番も今までは云はなかったのですが、二三日前
に、バラモン教の、谷とか鬼とか云ふ奴がやって来て、来勿止神《くなどめのかみ》様
を始め、われわれをチョロまかし、トウトウ大切な、玉照彦様を盗んで帰ったものです
から、その後と云ふものは大変に警戒が厳しくなって、暮六つ下がれば、老若男女にか
かはらず、一切通してはならぬと云ふ、来勿止神《くなどめのかみ》様の厳しき御命令
で御座います。それ故、今の男があんな無情なことを云うたのですが、しかしああ見え
てもあいつは極めて平常《ふだん》から親切な男ですよ。言葉つきこそ、穢《きたな》
ふ御座いますが、それはそれは心の美しい男ですよ。きっと腹の中では涙をこぼして居
たに違ひありませぬ。どうぞ、竹公は無情な奴だと恨んでやっては下さいますな』
松姫『イエイエ決して決して何の恨みませう。お役目大切にお守りなさるところを、私
が御無理を申しますのですから、何とおっしゃられても是非はありませぬ。しかし今貴
方のお言葉によれば、玉照彦様はバラモン教の方《かた》が盗んで帰ったとおっしゃい
ましたが、それは事実ですか』
勝公『盗んで帰ったのは事実ですが、しかしながら御神徳高き高熊の霊山、不思議なこ
とには盗まれたと思った玉照彦様は、依然として御機嫌|麗《うる》はしく、言照姫《
ことてるひめ》様に抱かれて居られます。本当に妙なことがあったものです』
松姫『それ聞いて安心致しました。私にも成程と諾《うなづ》かれる点が御座います』
 かく話す折しも石の本門はガラリと開いた。灯火《ともしび》をとぼし、現れ来たる、
白髪異様の老人の姿が、松明《たいまつ》に照らされて、明瞭《はっきり》と松姫の目
に映った。
 松姫は思はず、ハッと地に平伏した。
勝公『これはこれは来勿止神《くなどめのかみ》様、どこへお出ましになります』
来勿止神『ヤアお前は勝《かつ》ぢゃなア。ここへ一人の女が来るはずぢゃ。未だ出て
来ないかな』
勝公『ハイ、それは何と云ふ方ですか。松姫ぢゃ御座いませぬか』
来勿止神『アアさうぢゃ、その松姫が来るはずだ。二時《ふたとき》ばかり以前に、玉
照彦様よりお使が見えて、ここへ松姫と云ふ女が一人来るはずだから、夜分《やぶん》
でも構はぬ故、通してやってくれとの御命令であった』
勝公『その方なら、今ここに居られます。サア松姫様、御心配なさいますな。今お聞き
の通りですから』
 松姫|頭《かしら》を上げ、
松姫『勝さまとやら、御親切有り難う御座いました。して貴方が来勿止神《くなどめの
かみ》様で御座いましたか。罪深き妾なれど、どうぞこの御門《ごもん》を通して下さ
いませ』
来勿止神『サアサア遠慮は要りませぬ、ズッとお通り下さいませ。貴女《あなた》のお
登りを、岩窟《いはや》の大神様が大変に御待ち遊ばして居られます。サアサアこちら
へ』
と松姫の手を把《と》り門内に導き入れたり。
(大正11年5月9日 旧4月13日 藤津久子録)
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(741)に続く
http://onisavulo.web.fc2.com/
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