霊界物語をメールで配信!(681)
霊界物語をメールで配信!第16巻(681)
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■第15章 谷間《たにま》の祈《いのり》〔605〕 ■
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亀彦《かめひこ》、英子姫《ひでこひめ》、悦子姫《よしこひめ》の三人は、由良《ゆ
ら》の流れを遡《さかのぼ》り河守駅《かうもりえき》に辿り着き、路傍の石に腰打ち掛
け息を休めゐる。右も左も鬱蒼たる老樹《らうじゅ》繁茂し、昼なほ暗き谷の底、蟻《あ
り》の甘きにつくが如く絡繹《らくえき》として数多の老若男女は山奥目がけて進み往く。
亀彦はその中の一人を捉《とら》へ、
『かう沢山に人が北へ北へと行列を組みて往くのは、何か変はったことがあるのか。様子
を聞きたいものだナア』
男『ハイハイ何だか知りませぬが、二三日以前から大江山《おほえやま》の麓の剣尖山《
けんさきやま》の谷間《たにあひ》に結構な神様が現はれたと云ふことで、いづれも病気
平癒や、商売繁昌などの御願ひで参拝を致すものでございます。私も別に願ひとては無い
けれども、あんまり沢山の人が詣るなり、偉い評判だから、ドンナ者か一つ見がてらに参
る所です』
亀彦『それは一体何と云ふ神様だ』
男『ナンデも裏とか、表とか云ふ名の付いた畳屋の様な神さまぢゃさうです。さうして青
彦とか、青蛙《あをがへる》とか、青畳《あをだたみ》とか、ナンデも青《あを》の付く
名の御取次《おとりつぎ》が居って、樹の枝をもって参拝者を一々しばくと、それで病気
が立所に癒ったり、願望が成就したりするとか云って、それはそれは偉い人気でございま
す。流行神《はやりがみ》さまは、何でも早う参らねば御神徳が無いと、皆|剣尖山《け
んさきやま》の麓へ指して弁当持ちで参拝するのです。マアお前さまも妙な風をしてござ
るが、大方、神さまの取次ではありますまいか』
亀彦『さうぢゃ、われわれも神の道の取次ぢゃ』
男『ヤア貴方《あなた》は取次と云っても、生臭《なまぐさ》取次ぢゃろ。この奥の谷川
に現はれた青い名の付く御取次は、精進潔斎、女などは傍《そば》にも寄せつけぬと云ふ、
それはそれは偉い行者ぢゃさうな。それにお前は鶏《にはとり》か何ぞの様に三羽番《さ
んばつがひ》で、誰がお前の言ふことを聞くものか、笑ふに定《きま》っとるワ。アハハ
ハハ』
亀彦『決して決して女房でも何でもござらぬ。各自《めいめい》一個独立の教《をしへ》
の道の宣伝使《せんでんし》だ。お前達は男と女と歩いて居れば、直ぐにそれだから困る。
凡夫《ぼんぶ》と云ふ者は浅猿《あさま》しいものだ』
男『ヘエ、うまいことおっしゃいますワイ。凡夫の中にも聖人があり、聖人らしう見せて
も凡夫がある世の中ぢゃ。あんまりボンボン言って貰ふまいかい。ボンくら凡夫のボンボ
ン宣伝使めが。マアゆっくりと路傍《みちばた》で三羽番《さんばつがひ》、羽巻《はね
まき》でもしていちゃついたがよからう。アーア、コンナ偽宣伝使にかかり合って、伴《
つれ》の奴はモーどこか先へ往ってしまひやがった』
と一目散に駆け出し、奥へ奥へと進み行く。
亀彦『英子姫さま、今の男の話によって考へて見ると、どうやらウラナイ教の青彦のこと
らしい様に思はれます。またもやウラナイ教を弘めて世人《せじん》を迷はし、害毒を流
す様なことがあっては神界へ対し、われわれ宣伝使の役が済みませぬから、これから一つ
実場調査に参りませうか』
英子姫『さうですなア、別に急ぐ旅でも無し、調べて見ませうか。これも何かの神様の御
仕組《おしぐみ》かも知れませぬ』
悦子姫『それは面白うございませう。先日よりあんまり沈黙を守って居ましたので、口に
虫が湧く様で不快で堪《たま》りませぬ。どうぞ今度は一つ妾《わらは》に交渉をさせて
下さい。言霊《ことたま》のあらむ限り奮闘してお目にかけます』
英子姫『アーそれも面白からう』
亀彦『サアサア参りませう。悦子姫さまの雄弁振り、奮戦振りを拝見さして貰ひませう』
と三人は群集に紛れて昼なほ暗き山道を、北へ北へと進み行く。
一行は群集に紛れやうやく剣尖山《けんさきやま》の麓を流るる谷川の畔《ほとり》に
着きぬ。この谷川の岩壁には産釜《うぶがま》、産盥《うぶだらひ》と云ふ美《うる》は
しき水を湛《たた》へた天然の水壺《みづつぼ》あり。ウラナイ教の宣伝使青彦は厳《い
かめし》き白装束のまま、この滝壺の側《そば》に立ち、谷川の水を杓《しゃく》で汲み
上げ柴の枝に吹きかけ、数多の老若男女に向って病を癒し、或ひはいろいろの神占《うら
なひ》を為し、数多の男女を誑惑《けうわく》しつつありける。悦子姫《よしこひめ》は
亀彦、英子姫《ひでこひめ》に向ひ、
『サア御約束の通り、これから妾が一人舞台、貴方がたは日の暮れたを幸ひ、木陰に潜み
妾の活動振りを御覧下さい』
と云ひ棄てどこともなく深林の中に姿を隠したり。青彦は厳然として水壺の側《そば》に
立ち、数多の人々に対して教訓を施し居る。
甲は拍手しながら、恐る恐る青彦の前にしゃがみ、
『生神様《いきがみさま》に一つ御願ひがございます。私は疝《せん》の病に、年《ねん
》が年中《ねんぢう》苦しみてゐます。ナントか御神徳をもって御助け下さいませ。薬で
治ることなら何薬《なにぐすり》がよいか。これも御指図願ひたうございます』
青彦『疝《せん》でも何でも治らぬことは無い。それはお前の改心次第ぢゃ。一時も早く
この頃|流行《はや》る三五教《あななひけう》を放《ほか》して、ウラナイ教の神様の
信者になれ。その日から疝《せん》の病気は嘘を吐《つ》いた様に全快間違ひなしぢゃ』
甲『ハイハイ有り難うございます。疝《せん》の治ることなら、いつでもウラナイ教にな
ります』
後ろの方より疳高《かんだか》き女の声、
『ウラナイ教を見切って三五教に誠に尽くせ、疝気《せんき》の虫は三五教の神力《しん
りき》に怖れて滅びてしまふぞ。こいつは金毛九尾《きんまうきうび》の狐に使はれて居
る曲津《まがつ》の容器《いれもの》だ。ホホホホ』
甲『モシモシ生神様、男の声を出したり、女の声を出したりなさいまして、先におっしゃ
ったことと後からおっしゃったこととは全然|裏表《うらおもて》ぢゃありませぬか』
青彦『この方は誠の道の宣伝使だ。決して決して二言は申さぬ』
甲『それでも今妙な声を出してござったぢゃありませぬか』
またもや暗黒《くらがり》より女の声、
『妾《わらは》こそは天上より降り来たれる天照大神《あまてらすおほかみ》の御使《お
んつかひ》、瑞《みづ》の御魂《みたま》の教へ給へる三五教の生神なるぞ。青彦の如き
体主霊従《たいしゅれいじう》の教《をしへ》を耳に入れるな』
青彦『ヤアこれは怪《け》しからぬ。何者とも知れず空中に声を出して、某《それがし》
が宣伝を妨害致す魔神《まがみ》現はれたりと覚ゆ。コラコラ悪神の奴、この青彦が言霊
の威力をもって、汝が正体を現はしくれむ』
と拍手し、言霊濁れる神言《かみごと》を奏上し始めたり。またもや暗黒《くらがり》の
中より女の声、
『ホホホホ、面白い面白い、あの青彦の青い顔わいな』
青彦『エーまたしてもまたしても曲津神《まがつかみ》が出て来よって。コラコラ今に往
生さしてやるぞ』
と汗みどろになり、一生懸命に天津祝詞を何回となく奏上する。後方《うしろ》の山の小
高き暗中より、またもや女の声、
『オホホホホ、青彦、汝は秋山彦の館において三五教の宣伝使亀彦に悩まされ、生命《い
のち》辛々《からがら》ここまで遁《に》げ延び、またもや悪逆無道の継続事業を開始し
てゐるのか。よい加減に改心致さぬと汝が霊魂《みたま》を引き抜き、根の国、底の国に
落としてやらうか』
青彦『ナンダ、誠の道の妨害致す悪魔ども、容赦は致さぬ。今青彦が神徳無限のウラナイ
教の言霊をもって、汝が身魂《みたま》を破滅せしめむ。速《すみや》かに退散致さばよ
し、愚図々々致さば容赦はならぬぞ』
とぶるぶる慄ひながら空元気《からげんき》を付けて怒鳴りゐる。暗中より、またもや女
の声、
『オホホホホ、可笑《をか》しいわい。汝が力と思ふ高姫は今フサの国に遁《に》げ帰り、
黒姫は行方不明となりし今日《こんにち》、何ほど汝、力味《りきみ》返るとも、かくの
如き誠の神の使ひ現はれし上は最早汝が運の尽き、一刻も早くこの場を退却致せよ』
青彦『エーナント云っても一旦思ひ立った拙者《それがし》が宣伝、たとへこの身は八裂
《やつざき》に遭はうとも、いつかないつかな心を飜《ひるがへ》すやうな腰抜けではな
いぞ。いづれの魔神か知らねども、人を見損ふにもほどがある。サア正体をここに現はせ。
誠の道を説いて聞かして改心させてやらうほどに』
暗中より『オホホホホ』
乙は拍手《かしはで》を打ち、
『モシモシ生神様、ナンダか貴方がおっしゃいますと、後ろの中空《ちうくう》の方に妙
な声が聞こえます、ナンデも貴方様に反対の神様らしうございます。この暗いのに神様が
喧嘩遊ばしてわれわれなにも知らぬものが側杖《そばづゑ》を喰らひまして誠に迷惑。ど
うぞこの声を止めて下さいませぬか』
またもや女の声、
『オホホホホ、止めて止まらぬ声の道、道は二筋《ふたすぢ》善と悪、善に服《まつ》ら
ふか、悪に従ふか、いづれも今ここでハッキリと返答を致せよ』
青彦『いづれの神かは知らねども、拙者《それがし》が宣伝を妨害致す曲者《くせもの》、
了見致さぬぞ』
暗中より、またもや、
『オホホホホ、あのマア青彦の空威張り』
青彦『ヤア何とはなしに聞き覚えのある声だ。その方《はう》は三五教の女宣伝使《をん
なせんでんし》であらう。後ろの山に潜み、拙者が宣伝を妨害致すと覚えたり。今に正体
現はしくれむ』
と火打を取り出しカチカチと火を打ち四辺《あたり》の枯柴《かれしば》を集めて盛ンに
火を焚《た》きつけたり。
一同の顔は昼の如く照らされたれど、木の茂みに隠れたる悦子姫《よしこひめ》の姿は
見えざりける。悦子姫は尚も屈せず、
『オホホホホ、ウラナイ教の阿呆彦《あはうひこ》の宣伝使、畏《おそ》れ多くも昔|天
照大御神《あまてらすおほみかみ》様の御生まれ遊ばした時に、産湯を取らせ給うた産釜
《うぶがま》、産盥《うぶだらひ》の側《そば》に立ち宣伝を致すとは、僣越至極《せん
ゑつしごく》の汝が振る舞ひ、今に数多の蜂、現はれ来たって汝が眼《まなこ》を潰すで
あらう。オホホホホ』
焚火《たきび》の光に驚いて傍《かたは》らに巣を喰ってゐた雀蜂の群、火焔の舌に巣
を嘗《な》められ堪りかね、青彦の底光りのする目玉を目がけて、一生懸命幾百千ともな
く襲撃し始めたるにぞ、青彦は、
『アイター』
とその場に倒れける。蜂の群は青彦の身体一面に空地《あきぢ》もなく噛み付きける。
数多の参詣人《さんけいにん》は蜂に光った目を刺され、苦しむもの彼方《あなた》此
方《こなた》に現はれ、泣くもの、喚《わめ》くもの、たちまち阿鼻叫喚《あびけうくわ
ん》の巷《ちまた》となりぬ。またもや暗中より、
『ヤアヤアここに集まる老若男女、穢《けが》らはしき肉体を持ちながら、この聖場《せ
いぢゃう》を汚すこと不届千万《ふとどきせんばん》な、一時も早く神界に謝罪をせよ。
三五教の宣伝歌を唱へ奉《たてまつ》り、蜂の災禍《わざはひ》を払ひ与へむ。惟神霊幸
倍坐世《かむながらたまちはへませ》』
と唱ふる声につれ、一同は一生懸命になりて、
『惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』
と唱へ始めける。
この声は四辺の山岳をも揺がすばかりなり。暗中より、
『ヤアヤ、汝ら蜂に刺された目は、これで全快したであらう。聖場を汚してはならないか
ら、一刻も早くこの場を立ち去り、綾《あや》の高天《たかま》へ御礼のために時を移さ
ず参詣致せよ。夢々《ゆめゆめ》疑ふな。惟神霊幸倍坐世』
一同はこの声に驚き、かつ歓び、声する方《かた》に向って拍手しながら、長居は恐れ
と一目散に河伝ひに帰り往く。アア青彦の運命は如何《いかん》。
(大正11年4月15日 旧3月19日 外山豊二録)
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