霊界物語をメールで配信!(667)
霊界物語をメールで配信!第16巻(667)
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■第1篇 神軍霊馬《しんぐんれいば》■
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■第1章 天橋立《あまのはしだて》〔591〕 ■
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葦原《あしはら》の瑞穂の国に名にしおふ
メソポタミヤの顕恩郷《けんおんきゃう》
ノアの子孫と生まれたる
ハムの一族|鬼雲彦《おにくもひこ》は
バラモン教を楯《たて》となし
霊主体従《れいしゅたいじう》を標榜し
現《うつつ》の世をば軽んじて
魂《たま》の行方の幽界《かくりよ》を
堅磐常磐《かきはときは》の住所《すみか》ぞと
教へ諭すはよけれども
名実共に叶《かな》はねば
醜《しこ》の曲事《まがごと》日に月に
潮《うしほ》の如く拡がりて
天《あめ》の下なる神人《しんじん》は
苦しみ悶え村肝《むらきも》の
心ねぢけて日に月に
世は常暗《とこやみ》と曇り行く
八岐大蛇《やまたをろち》や醜狐《しこぎつね》
醜神《しこがみ》率ゐる曲鬼《まがおに》を
言向和《ことむけやは》し豊かなる
神の御国《みくに》を樹《た》てむとて
恵みも広き瑞霊《みづみたま》
神素盞嗚《かむすさのを》の大神は
教《をしへ》を開く八乙女《やおとめ》の
珍《うづ》の御子《みこ》をば遣《つか》はして
鬼雲彦が身辺を
見守り給ひ曲神《まがかみ》の
醜《しこ》の健《たけ》びを鎮《しづ》めむと
三五教《あななひけう》の宣伝使《せんでんし》
肝太玉《きもふとだま》の命《みこと》をば
遣《つか》はし給ひ八乙女《やおとめ》と
心を併《あは》せ力《ちから》をば
一つになして顕恩郷
治め給ひし折柄に
雲を霞《かすみ》と逃げ去りし
バラモン教の大棟梁《だいとうりゃう》
鬼雲彦の一類は
フサの国をば打ち渡り
あちらこちらに教線《けうせん》を
布《し》きつつ進む魔の力
かかる時しも天教山《てんけうざん》の
高天原《たかあまはら》に大御神《おほみかみ》は
天《あま》の岩戸に隠《かく》ろひて
暗さは暗し烏羽玉《うばたま》の
闇《やみ》に徨《さまよ》ふ世の中の
人の憂《うれ》ひに付け入りて
時を得顔《えがほ》の曲神《まがかみ》は
ますます荒《すさ》び初《そ》めにけり
神素盞嗚《かむすさのを》の大神は
千座《ちくら》の置戸《おきど》を負《お》はせつつ
何処《いづく》を当《あて》と長《なが》の旅
姿隠して千万《ちよろづ》の
悩みに遭《あ》はせ給ひつつ
八千八声《はっせんやこゑ》の時鳥《ほととぎす》
血を吐く思ひの旅の空
遠き近きの隔てなく
八洲《やしま》の国を漂浪《さすらひ》の
御身《おんみ》の果てぞ憐《あはれ》なる
勢ひ猛《たけ》き竜神《たつがみ》も
時を得ざれば身を潜め
イモリ 蚯蚓《みみづ》と成り果てて
塵《ちり》や芥《あくた》に潜むごと
高天原《たかあまはら》に名も高き
皇大神《すめおほかみ》の弟と
生まれ出《い》でたる大神も
いと浅猿《あさま》しき罪神《つみがみ》の
怪しき御名《みな》に包まれて
心も曇る五月空《さつきぞら》
空行く雲の果てしなく
親に離れし雛鳥《ひなどり》の
愛《いと》しき五人の姫御子《ひめみこ》は
心|汚《きたな》き曲神《まがかみ》の
捕虜《とりこ》となりて痛《いた》はしく
塩《しほ》の八百路《やほぢ》の八潮路《やしほぢ》の
大海原《おほうなばら》に捨小船《すてをぶね》
波のまにまに漂《ただよ》ひつ
海路《うなぢ》も遠き竜宮《りうぐう》の
魔神《まがみ》の猛《たけ》ぶ一つ島《じま》
自転倒島《おのころじま》や錫蘭《しろ》の島
常世《とこよ》の国や智利《てる》の国
波のまにまに流されて
ここに姉妹《おとどひ》五柱《いつはしら》
詮術《せんすべ》さへも浪《なみ》の上
涙の雨にうるほひつ
雨《あめ》風《かぜ》霜《しも》に打たれつつ
漂泊《さすら》ひ給ふぞ苛《いぢら》しき
神素盞嗚《かむすさのを》の大神の
霊《みたま》に生《あ》れます八柱《やはしら》の
乙女《おとめ》の中にも秀《ひい》でたる
姿|優《やさ》しき英子姫《ひでこひめ》
容《みめ》も貌《かたち》も悦子姫《よしこひめ》の
待女《じぢょ》を引きつれ朽ち果てし
危《あやふ》き生命《いのち》の捨小船《すてをぶね》
いつの間にやら日数《ひかず》を重ね
年《とし》も二八《にはち》の若狭湾《わかさわん》
身の行先はどうなりと
成生《なりふ》の岬を後にして
昨日や経ケ岬《きゃうがみさき》をば
右手《めて》に眺めて宮津湾《みやづわん》
神伊弉諾《かむいざなぎ》の大神の
いねますうちに倒れしと
言ひ伝へたる波の上
長く浮かべる橋立《はしだて》の
切り戸《ど》を越えて成相《なりあひ》の
山の嵐に吹かれつつ
やうやく心地も与謝《よさ》の海
波も柔《やはら》ぐ竜灯《りうとう》の
松の根元《ねもと》に着きにける。
二人は舟を棄てて、竜灯松《りうとうまつ》の根元《ねもと》にやうやく上陸し
たり。折柄の烈風海面を撫で、峰吹き渡る松風の音は、一層《ひとしほ》寂寥《せ
きれう》の感を与へたり。寒さ身に沁《し》む夕暮の空、ねぐら求めて立ち帰る烏
《からす》の群《むれ》幾千羽、カワイカワイと啼き立てながら、大江山《おほえ
やま》の方面指して翔《かけ》り行く。雲の衣《ころも》は破れて、ところどころ
より天書《ほし》の光|瞬《またた》き始めける。二人は路傍に腰を下ろし、来《
こ》し方《かた》行末の身を案じ煩ひつつ、ヒソビソ物語る。
悦子姫『英子姫《ひでこひめ》様、メソポタミヤの顕恩郷《けんおんきゃう》を立
ち出でましてより、情無《つれな》き魔神《まがみ》の為に、朽ち果てたる舟に乗
せられ、押し流された時のことを思へば、夢の様で御座いますなア。それにしても、
君子姫《きみこひめ》様始め、四人の姫様は、どうなられましたでせう、……|貴
女《あなた》の御無事にここへお着きになったに就いて、四柱《よはしら》の姫君
様《ひめぎみさま》の御身《おみ》の上、心にかかる冬の空、情《つれ》無き凩《
こがらし》に吹き捲くられ、冷たき人のさいなみに、心を砕かせ給ふやも計り難し。
しかしながらここもやっぱり鬼雲彦《おにくもひこ》が繩張の内、ウカウカすれば、
またもやいかなる憂目にあはされむも計られませぬ。一時も早く森林に身を忍び、
一夜を明かし、山越《やまごし》に聖地を指して参りませうか』
英子姫『アさうだな、長居は恐れ、何とかせなくてはなりますまい。それについて
も姉妹《きゃうだい》四人の身の上、今頃は何処《いづく》の果てに悩み煩ふなら
むか』
と首を傾け、しばし涙に沈む。しばしあって英子姫は頭《かうべ》をあげ、
『アア思ふまい思ふまい、何事も刹那心《せつなしん》、惟神《かむながら》に任
すより途《みち》はない、サア悦子姫《よしこひめ》、急ぎませう』
と立ち上がらむとする所へ、近付き来たる四五人の男の声、ハッと驚き逃げむとす
る時しも如何《いかが》はしけむ、英子姫はその場にピタリと倒れたり。悦子姫は
探り探りて磯端《いそばた》の水を手に掬《すく》ひ口に含み、英子姫の面部を目
がけて伊吹《いぶき》の狭霧《さぎり》を吹きかけたるに、英子姫はやうやくにし
て顔をあげ、
『アア悦子姫どの、またもやわが身を襲ふ持病の癪《しゃく》、モウかうなっては
一足《ひとあし》も歩かれませぬ、敵に捉《とら》はれては一大事、そなたは妾《
わらは》に構はず疾《と》くこの場を落ち延びなさい。サア早く早く』
と苦しき息の下より急《せ》き立つるを、悦子姫《よしこひめ》は涙を揮《ふる》
ひながら、
『姫君様、何と仰せられます。大切な主人の危難を見棄てて、どうしてこれが逃げ
られませうか、たとへいかなる運命に陥《おちい》るとも、主従|死生《しせい》
を共にし、未来は必ず一蓮托生《いちれんたくしゃう》と詔《の》らせ給ひしお詞
《ことば》は、妾が胸に深く刻み込まれ、一日片時《ひとひかたとき》も忘れた暇
とては御座いませぬ。どうぞ妾に介抱させて下さいませ』
と泣き伏しにければ、英子姫は、
『エエ聞き分けのない悦子姫、妾は病身の体、たとへこの場を無事に遁《のが》る
ればとて、再び繊弱《かよわ》き女の身の、いつ病に犯され、悪神《あくがみ》の
為に捉《とら》はるるやも計り難し、汝は一刻も早くこの場を立ち去り、聖地をさ
して進み行かれよ』
悦子姫《よしこひめ》は首を振り、
『イエイエ、何と仰《おほ》せられても、この場を去ることは忍ばれませぬ』
『エエ聞き分けのない、主人の言葉を汝は背《そむ》くか。妾《わらは》は今より
主従の縁を切るぞゑ』
『姫君様、縁を切るとはお情け無いそのお言葉……』
と云ふより早く、暗《やみ》に閃《ひらめ》く両刃《もろは》の短刀、英子姫は、
病に苦しむ身を打ち忘れ、手早く悦子姫の腕を、力限りに握り締め、涙声、
『逸《はや》まるな悦子姫《よしこひめ》、其方《そなた》は壮健なる身の上、一
日《ひとひ》も永く生き長らへて、わが父に巡り会ひ、妾|姉妹《おとどひ》が消
息を伝へてくれねばならぬ。サアどうぞ気を取り直し、一刻も早くこの場を立って
下さい、………アレあの通り間近く聞こえる人々の声、見付けられては一大事、早
く早く……』
と急《せ》き立て玉へば、
『ぢゃと申してこれが、どうして見逃せませう。たとへ主従の縁は切られても、こ
れが見棄てて行けませうか』
『主人が一生の頼みぢゃ、どうぞこの場を立ち去って下さい。こういふうちにも人
の足音サア早く早く』
と小声に急《せ》き立てる。悦子姫《よしこひめ》は後ろ髪引かるる心地して、こ
の場を見棄てかね、心二つに身は一つ、胸を砕く時こそあれ、四五人の荒男《あら
をとこ》進み来たり、やや酒気《しゅき》を帯びたる銅羅声《どらごゑ》にて、
『ナナ何だ、早くこの場を立ち去れとは、それゃ誰に吐《ぬ》かすのだい、立ち去
るも、立ち去らぬ、もあったものかい、俺は今|大江山《おほえやま》の御大将《
おんたいしよう》の命令を受けて、ここへ漂着して来るはずの、二人の女《あま》
っちょを捉《とら》まへようと思って、立ち現はれた所だ。立ち去れも糞《くそ》
もあったものかい、………ヘン、人を馬鹿にするない、石熊《いしくま》の野郎め、
貴様はいつも暗《くら》がりになると怪っ体の悪い、女の泣声を出しよって………
チット男らしうせないかい』
と云ひつつ拳骨《げんこつ》を固めて、一人の男の横っ面をポカンと打ったり。
石熊は、
『アイタタ、コラ鬼虎《おにとら》の奴、馬鹿にしやがるない』
とまたもや、石熊は、
『サア返礼だ』
と云ふより早く、鬼虎の横っ面を続け打ちに、腕の折れるほど擲《なぐ》り付ける。
その機《はづみ》に鬼虎はヨロヨロとヨロめいて、二人の娘の上にドサンと倒れ、
鬼虎は、
『ワアー、恐ろしい、……ヤイヤイ出やがった、毛の長い……色の青い、冷い奴ぢ
ゃ。コラ皆の奴、俺を伴《つ》れて逃げぬかい』
石熊は、暗がりより、
『アハハハハ、ざまア見やがれ、臆病者めが……オイオイ皆の連中、あいつア、酒
に喰らひ酔って、あんな夢を見やがったのだ、ウッカリそばへ行かうものなら、暗
がりに握拳《にぎりこぶし》を振り回されて、目玉が飛んで出るような目に遇はさ
れるぞ。……行くな行くな、まあジッと酔ひの醒めるまで、容子《ようす》を見て
居らうぢゃないか……アーア俺も大分に酔《ゑひ》がまはった、どうやら足が隠居
した様だワイ』
一人の男大声で、
『一体汝ら、何の為に沢山の手当を貰って偵察に歩いて居るのだい……その足は何
だ、肝腎要の正念場になって、足を取られるといふことがあるものかい、チッとし
っかりせないか』
石熊『有るとも有るとも、俺やアル中《ちう》だ』
男『アルチウと云っても、歩いて居らぬぢゃないか』
『アルコール中毒だ、邪魔臭いから、アル中と云ったのだい、………アーア、もう
一足《ひとあし》もアル中ことが出来ぬ様になったワイ………。コラ熊鷹《くまた
か》の野郎、貴様は何だ、他人《ひと》にばっかり偉相《えらさう》に云ひよって
……貴様も足が変テコぢゃないか』
熊鷹『チチチッと、なんだ、何して……居るものだから、いまこそは、千鳥《ちど
り》にあらめノチハ、ナトリニアラムヲ、イノチハ、ナシセタマヘソ、イシトウヤ、
アマハセヅカイ、アマノハシダテ、二人の女を見失ひ、鬼雲彦様に、コトノカタリ
ゴトモコウバだ、アハハハハ。アヲヤマニ、ヒガカクラバ、ヌバタマノヨハイデナ
ン、アサヒノ、エミサカヘキテ、タクヅヌノ、シロキタダムキ、アワユキノ、ワカ
ヤルムネヲ、ソダタキ、タタキマナガリ、マタマデタマデ、サシマキ、モモナガニ、
イヲシナセ、トヨミキタテマツラセ……てなことを宅《うち》の山の神様めがおっ
しゃりまして、ついトヨミキをアカニノホに飲《きこ》し召したのだ。神酒《みき
》は甕瓶《みかのへ》高しり、甕《みか》のはら満て並べて、海河山野《うみかは
やまぬの》種々《くさぐさ》の珍物《うましもの》を横山の如く、うまらに、つば
らに飲食《きこしめ》し、大海原《おほうなばら》に船|充《み》ち続けて、陸《
くが》より行く路《みち》を、荷の緒《を》結《ゆひ》かため、駒の蹄《つめ》の
至り止《とど》まる限り、………熊鷹の爪は、随分長いぞ。愚図々々|吐《ぬ》か
すと、石熊の菊石面《あばたづら》を抓《つめ》ってやらう、イヤサ掻きむしらう
かい、ウーンウン アハハハハ』
石熊『何を吐《ぬか》すのだい、お役目大切に致さぬかい、コンナところへ、暗《
くら》まぎれに、二人の娘がやって来よったら、貴様どうするつもりだ。あいつア、
なかなか女に似合はぬ腕利《うでき》きと云ふことだ、経ケ岬《きょうがみさき》
の虎彦が急報によって、鬼雲彦より火急《くわきふ》の御命令、しっかり致さぬと、
反対《あべこべ》にやられてしまふぞ。アーッ、エーッ、ガ、ガアー、ガラガラガ
ラガラ』
熊鷹は、
『アア臭いワイ、酒や飯の混合した滝を、人の顔の上へ流しよって、……胸の悪い
……エエ、アどうやら俺もへへへへ、へどが出さうな。オイコラ、おとら……ヲヲ
桶《をけ》を持て来い、………|背《せなか》を叩け、ガアアアアガラガラガラガ
ラ』
鬼虎は震ひ声で、
『オオオイ、貴様は何を愚図々々《ぐづぐづ》して居るのだ、早く来《こ》ぬかい、
俺をかたげて逃げてくれ、何だか怪体《けたい》な、ババ化州《ばけしう》が出や
がったゾ』
石熊は、
『エーやかまし吐《ぬか》すない、……俺の口《くち》から大洪水が出て、人家《
じんか》ほとんど流失、死傷|算《さん》なしと云ふ惨状だ、貴様を助けるどころ
かい、非常組《ひじゃうぐみ》でも繰り出して救援に向かはぬかい、ガラガラガラ
ガラ』
熊鷹『エー怪っ体の悪い、合点の往かぬ夜《よ》さだナア、ここまで来たと思へば、
にはかにピタリと足が止まり、まるで地《つち》から生えた木の様になってしまっ
た。……ヤイ何とかして俺の足を動く様にせぬかい』
暗がりより、
『動く様にせいと云ったって、にはかに、鋸《のこ》の持ち合はせがないから、根
から伐《き》ってやる訳にも行かず、マア冬が来て、木の葉が散り、枯木になるま
で辛抱したがよからう。さうすりゃまた、三五教《あななひけう》ぢゃないが、枯
木に冷たい花が咲かうも知れぬぞ、ワハハハハ』
熊鷹『エ、エ、どいつもこいつも、腰の弱い奴ばかりだナア』
鬼虎『ヤーイ、皆の奴、どうやらこいつア、目的の二人の奴らしいぞ、しっかりし
て生捕《いけどり》にせうぢゃないか』
石熊『ナ、ナ、何ぢゃア、貴様、最前から腰が抜けたと吐《ぬ》かしよって、綺麗
な女の二人の上に、ムックリと寝て居よったのか、抜目のない奴だのう』
鬼虎『まだ目は抜けぬが、サッパリ腰が抜けたのだ。……誰か腰の抜けぬ奴、出て
来てこいつを縛らないか。どうやら癪《しゃく》を起こして居るらしい、今フン縛
るのなら、容易なものだ……コラ石熊、熊鷹、早く来て捕縛《ほばく》せよ』
熊鷹『何だか今日は日和《ひより》が悪いので、キキキ気に喰はぬので……ヲヲヲ
叔母の命日だから殺生はやめとこかい、……コラ、ヤイヤイ石熊、今日は貴様の番
だ、貴様に手柄を譲ってやらう』
石熊『俺も何だか今日は気が進まぬワイ、女房の命日だから、殺生はやめとこかい』
熊鷹『アハハハハ、貴様、女房も持ったことのないのに、命日がどこにあるか、馬
鹿にするない』
石熊『俺の女房は貴様知らぬのか、ザツと十八人だ、その中に一番大事のお春が今
日死ンだ日ぢゃ、彼女《あれ》が俺の霊《みたま》の女房だ。アーア思へば可哀相
《かはいさう》なことをしたワイ、オンオンだ』
鬼虎『何を吐《ぬ》かしやがる、ソラ隣の八兵衛《はちべゑ》の女房だらう、間違
へると云っても、嬶《かかあ》を取り違へる奴がどこにあるかい』
石熊『俺は勝手に俺の心で女房にして居ったのだ。アンアンアン、思へば可憐《い
ぢ》らしいことをしたワイの、オンオンだい』
英子姫《ひでこひめ》は、
『ヤア悦子姫《よしこひめ》殿、妾《わらは》も其方《そなた》の親切なる介抱で
快《こころよ》くなりました。サアサア二人揃うて行きませう』
『ハアそれはそれは嬉しいことで御座います、これと申すも全く御父《おんちち》
神素盞嗚《かむすさのを》の……』
英子姫は小声で、
『シツ』
と制しながら、口に手を当てたまへば、悦子姫は早速の頓智《とんち》、
『これと申すも全くお酒の爛《かん》が荒《すさ》びましたので、皆様があの通り、
妾たちに余興をして見せて下さいますのですなア。ここへお月様でも上がって下さ
いましたら、さぞ面白いことでせうに、………お声ばかりで見栄えが御座いませぬ、
耳で見て、目で聞けとの神様の御教《おをしへ》、ホホホホ』
熊鷹『ヤイヤイヤイ、貴様は素盞嗚尊《すさのをのみこと》の娘であらう、何を吐
《ぬか》すのだい、耳で見るの目で聞くのと、まるでババ化物の様なことを吐す奴
だ。コリャ女、そこ動くなッ』
悦子姫《よしこひめ》は、
『オホホホホ皆さま、動くなとおっしゃっても、何だか体が独り自由自在に動いて
仕方がありませぬワ、皆さまは動きたいと思っても動けますまい、妾《わらは》が
ちょっと霊縛《れいばく》をかけておきましたからネー、マアマア御寛《ごゆる》
りと管《くだ》でも巻いて夜徹《よあ》かしをなさいませ、……左様ならば皆さま、
お気の毒様ながら、お先失礼を致します………あの、もし姫君様《ひめぎみさま》、
サアこうお出《い》でなさいませ』
英子姫は、
『ホホホホ皆様、御寛《ごゆる》りと、何も御座いませぬが、ヘドなっと掻き集め
て、ネーおあがり遊ばせ。あなたのお身の内から出た物、あなたのまたお身の内へ
お入れ遊ばすのだ。人を呪はば穴二つ、おのれに出でて己れに帰るとかや、あな有
り難や神様のお守り』
と行かむとするを、鬼虎《おにとら》は一生懸命に英子姫の裾《すそ》を握ったま
ま放さぬ。
英子姫『ヤア厭《いや》なこと、この男、妾《わらは》の裾を握ってチッとも放し
てくれないワ』
悦子姫『どうしませう………アアさうさう、この男が姫君様のお裾を握ったまま霊
縛《れいばく》をかけられたものですから、そのまま凝《かたま》ってしまったの
でせう。ホホホホ、これは偉い不調法致しました。……コリャコリャこの鬼の様な
片腕《かたかいな》、霊縛を解いてやる、サア放せ』
『ウン』と一声、鬼虎の握り拳《こぶし》はパラリと解けたりける。
英子姫『アア有り難う、これで放れました』
石熊『ヤイヤイ鬼虎の奴、案に違《たが》はず、女の裾をひっぱって居やがったな、
ナマクラな奴だ。よしよし貴様の嬶《かかあ》に、明朝早々告発だ、さう覚悟致せ』
熊鷹『ナニ心配するな、俺が特別弁護人になって喋々《てふてふ》と弁論をまくし
立ててやるから、キット石熊の敗訴だ、無罪放免になった上、損害賠償をこちらか
ら提起してやらうか、アハハハハ』
英子姫、悦子姫は暗《やみ》に紛れてスタスタと、何処《いづく》ともなく姿を
没したりける。後には海面を吹く風の音、天鼓《てんこ》の如くドドンドドンと鳴
り響きぬ。五人の男は暗がりより、破《やぶ》れ太鼓《だいこ》の様な声を張り上
げて、
『オーイオーイ、二人の女、しばらく待てい。オーイオーイ、かやせ、戻せい……』
と熊谷《くまがい》もどきに叫び居たりけり。
(大正11年4月5日 旧3月9日 松村真澄録)
--------------------
(668)に続く
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