2009/01/15
著作権判例速報[まぐまぐ]
著┃作┃権┃判┃例┃速┃報┃ ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ こんにちは!行政書士の大塚大です。 最新著作権判例について速報版でお伝えします。 *参考文献などの詳細はブログをご覧下さい。 Blog:駒沢公園行政書士事務所日記 http://ootsuka.livedoor.biz/ *この事案の裁判所ウェブサイト掲載日09/1/7 (謝意:裁判所判例Watch) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 槇原敬之対松本零士著作権事件 東京地裁平成20.12.26平成19(ワ)4156著作権侵害不存在確認等請求事件 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090106182202.pdf *キーワード:創作性、依拠性、類似性 -------------------- ■事案 槇原敬之さん作詞「約束の場所」のフレーズが、漫画家松本零士さんの 漫画のフレーズの著作権を侵害しているかどうかが争点となった事案 原告:音楽アーティスト 被告:漫画家 原告表現:「夢は時間を裏切らない 時間も夢を決して裏切らない」 被告表現:「時間は夢を裏切らない,夢も時間を裏切ってはならない。」 -------------------- ■結論 請求一部認容 -------------------- ■争点 条文 民法709条、723条、著作権法21条 1 著作権侵害、著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求権の不存在 の確認の訴えの利益の有無 2 名誉毀損の成否 1.本件被告録画発言について,被告は,情報提供者にすぎないとして, 不法行為責任を負わないか 2.本件被告発言は,原告の名誉を毀損するか 3.本件被告発言は,事実を摘示するものか,あるいは,意見ないし論評 の表明に当たるか 4.本件被告発言が事実を摘示するものである場合,その摘示事実の重要 な部分につき真実であることの証明があるか 5.本件被告発言が意見ないし論評の表明に当たる場合,その前提事実の 重要な部分につき真実であることの証明があるか,意見ないし論評と しての域を逸脱していないか 6.本件被告発言が摘示した事実の重要な部分が真実であると信じる相当 の理由が存在するか 7.被告の名誉毀損行為によって原告が被った損害の額 8.謝罪広告の要否及びその内容 -------------------- ■判決内容 <争点> 1 著作権侵害、著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求権の 不存在の確認の訴えの利益の有無 槇原さんは、松本さんが槇原さんに対して著作権侵害、著作者 人格権侵害に基づく損害賠償請求権を有していないことの確認 を求めていました。 しかし、松本さんが、弁論準備手続期日に上記各請求権を放棄 する旨の意思表示(債務免除の意思表示)をしたことから、槇 原さんが、将来、松本さんから上記各請求権を行使されるおそ れは存在しないとして、裁判所は不存在の確認の訴えの利益が ないと判断。 著作権にかかわる争点については不適法な訴えとして却下して います(161頁)。 ---------------------------------------- 2 名誉毀損の成否 松本さんの発言自体が槇原さんの名誉を毀損するかどうかの争 点について、裁判所は松本さんの名誉毀損行為を認めています。 テレビ番組での松本さんの発言について、一般視聴者は、槇原 さんが松本さんの表現に依拠して松本さんの表現と似たフレー ズを作ったという印象を抱くものであるとして、裁判所は、松 本さんの発言が槇原さんの名誉を毀損したと判断しています。 (171頁以下) 松本さんの発言自体が名誉毀損にあたると判断されたうえで、 続いて違法性阻却の成否が判断されていますが、この点につい ても裁判所は否定(193頁以下)。 さらに、松本さんの発言が摘示した事実の重要な部分が真実で あると信じる相当の理由が存在するかどうか、の点についても 相当の理由があったとはいえないと判断しています(218頁以 下)。 結論として、慰謝料200万円と弁護士費用20万円が損害額とし て認定され、ただ、謝罪広告は認められていません(220頁以 下)。 --------------------- ところで、松本さんは、槇原さんのフレーズと松本さんのフレ ーズの酷似性を根拠に、槇原さんが松本さんの表現に依拠しな ければこうしたフレーズは作成できないとして、依拠作成の事 実について、摘示事実の重要な部分について真実であることの 証明を行っています(210頁以下)。 この部分について、裁判所は、 (1)松本さんの表現へのアクセスの容易性について 漫画本や経済雑誌、CD-ROM、書籍、大学のホームページなどに 松本さんのフレーズが掲載されていましたが、 ・槇原さんがそれらに接したとする直接の証拠はない ・これらの媒体の読者はかなり限定されている ・被告表現は、非常に短い文章であり、他の文章と区別して 認識するのが困難な場合もある として、槇原さんが、松本さんのフレーズに接したものと推認 することはできないと判断しています。 (2)槇原さんのフレーズと松本さんのフレーズの類似性について 松本さんは、槇原さんのフレーズが、依拠しなければ創作でき ないほどに松本さんのフレーズに酷似していると主張している ことから、依拠性判断のための間接証拠としてこの点について 検討されています。 (214頁以下) 結論としては、2つのフレーズは酷似しているとはいえないと 判断しています。 -------------------- ■コメント 松本さんによって盗作疑惑が持たれたフレーズを含む槇原さん作 詞作曲の楽曲「約束の場所」は、CHEMISTRYのために提供された 楽曲でした。 槇原さんのフレーズにクレームを入れた松本さんに対して、 CHEMISTRYの所属レーベルであるデフスターレコーズの社員が、 槇原さんと松本さんの間を取り持とうと奔走しましたが、結果的 にはうまくいきませんでした(198頁以下)。 著作権に係わる争点1について、判決では直接答えていませんが、 名誉毀損行為の違法性阻却事由の判断のなかで槇原さんが松本さ んのフレーズに依拠したかどうかや2つのフレーズの類似性が判 断されているので(210頁以下)、この点が著作権の問題として 参考になります。 依拠性について、名誉毀損事案の場合と著作権侵害事案の場合と でどちらがどれだけ立証を尽くさなければならないか、という点 で違いがあるかもしれませんが、依拠性自体が否定された事案と いう点でも重要な判断かもしれません。 なお、類似性の判断については、あくまで依拠を立証するための 間接証拠としての類似性であるので、侵害の要件としての類似性 とは異なる点に注意しなければならないと指摘するものとして、 中山後掲書、さらに田村後掲書参照。 ただ、極めて短い文章の類似性、依拠性が争点となっている今回 の事案で、29部清水コートが示した判断内容は、依拠性判断とは 切り離した侵害要件としての類似性判断と同様に捉えることがで きると考えられます。 -------------------- ■過去のブログ記事 2006年10月20日記事 松本零士・槙原敬之盗作問題 http://ootsuka.livedoor.biz/archives/50631039.html -------------------- ■参考文献 佃 克彦「名誉毀損の法律実務 第2版」(2008)300頁以下 設楽隆一「複製ないし翻案について」『著作権研究』30号(2004)2頁以下 中山信弘「著作権法」(2007)463頁以下 田村善之「著作権法概説 第二版」(2001)51頁以下 書籍217頁中2頁分の類似性、依拠性が問題となった「日照権」盗用事件 について、著作権判例研究会編「最新著作権関係判例集2-1」(1980) 195頁以下参照 -------------------- ■参考サイト MAKIHARANORIYUKI.COM (楽曲「約束の場所」についてのご報告) http://www.makiharanoriyuki.com/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 後記:あっという間に1月も半ば。東京国立博物館では 福澤諭吉展が始まっています。「西洋事情外編」 の正規本が展示されているか、楽しみです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼企業内イントラネット配信、業務資料、勉強会資料に ご自由にお使い下さい。おひとりでも多くの方と著作権 問題について認識を共有できれば私としても幸甚です。 執筆者:行政書士 大塚 大(おおつか だい) 大塚法務行政書士事務所 東京都世田谷区駒沢5-12-7 TEL:03-3703-7076 E-mail:houmu@pc.nifty.jp HP:http://ootsuka-houmu.com ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


