2009/12/28
千字一話物語 1035話 ヘンゲ
■■■■ ■ ■ 千字一話物語 川崎ゆきお ■ ■■ 1035話 ヘンゲ 「やはり複数の世界がありますよ。今見てい る世界とは別の世界があるのですよ」 西田係長が友人に語る。 「また、ワープものの話かい」 「ファンタジー世界じゃなくてもあるんだ」 「どうしたの急に。やっと係長になれたんだ ろ。今夜はお祝いだ」 「それで、世界を発見した」 「係長の世界かい」 「簡単に言えばそうだ。別の世界に入り込ん だように思われるんだ」 「思われる……のかい。他人事みたいだな」 「自分事だからこそ、異様に見えるんだ」 「つまり、係長になって、世界観が変わった とでも」 「きっと、それだけの話なんだと思われる」 「また、思われるか……かい」 「部下ができた。それが妙なんだ」 「よくあることだろ」 「立場の違いで、世界まで違ってしまった」 「大げさな」 「同じ僕なのに、別の僕を演じているんだ。 いや、ドラマのように役者をやっているわけ じゃないんだよ。リアルだよ。リアルに変貌 したんだ」 「変貌って、悪い方を感じるね」 「立場で考え方も変わる。これって、何だろ う。同じ自分なのに、別のキャラをやってい るように見受けられる」 「ほう、見受けられるね」 「別人格が入り込み、その視点で物事をとら えるようになる。今までの世界とは別の世界 が見えてくる。これは、世界なんて、視点の 違いで、変わるってことなんだ。これが解せ ない」 「君だって会社の人と話すときと、友達とで は違うだろ。キャラも変えるだろ。それと同 じさ。同じ世界さ。別の世界が現れたわけじ ゃない」 「別世界のように見えるって、言うじゃな い」 「印象が違ってたり、仕来りが違ってたりす るだけだろ」 「じゃ、やはり世界は僕の中にあるんだ。世 界をコントロールしているのは僕なんだ。僕 が世界を映し出しているんだ」 「はいはい」 「部下を使うようになって、不安定になって ね。今までとは違う地面を歩いているような 感じで、落ち着かないんだ。廊下もいつもと 違って見える。今まで同僚だった連中も、部 下になると違う顔のように見える」 「嫌だねえ、そういう不安定な上司」 「僕が一番嫌だよ」 「出世したんだから、良い世界へ行ったんだ よ」 「身動きがとれない」 「慣れるさ」 「そうかなあ」 「これは、ヘンカじゃなくヘンゲだ」 「妖怪変化の、あのヘンゲかい」 「ああ」 「失業中の俺としては、それこそ別世界の話 だね」 「あ、失業」 「まあ、言う必要もないけどね」 「あ、それは大変だ」 了 ■■■■■ ■ ■ ww8y-kwsk@asahi-net.or.jp http://kawasakiyukio.com/


