2009/11/08
千字一話物語 1007話 辻説法
■■■■ ■ ■ 千字一話物語 川崎ゆきお ■ ■■ 1007話 辻説法 「夜道歩いてるとき、知らない人が後ろから 声をかけて、妙なことを言われたことはあり ませんか」 「ないない」 「相手にしない?」 「君の話の相手をしないのじゃなく、相手を するもなにも、そんな経験がそもそもない」 「じゃ、僕の話を拒否したわけじゃないん だ」 「一応友達だからね」 「ありがとう」 「で、その話の続きをしたいの」 「はい、いいですか?」 「どうぞ」 「その人は人生について語りだすのです。人 間はどうやって生きるべきだとか、人生の目 的とは何だとか」 「それは、辻説法」 「まあ、その類ですが、夜道ですよ。しかも 後ろからいきなりですから、辻説法とはかな り違います。内容は同じですが」 「君は、そういう目に遭ったの」 「はい、好きなもので」 「あ、そう」 「その人は、それから、僕のことを言い出す のです」 「今度は辻占いだな」 「占いの類ですが、別に当てたりしません。 悩みがあるだろうと聞いてくるのです。人に は悩みがあり、それは致し方がないことで、 生きるとは、実はその苦行を指す……と、こ んな感じです」 「君はその類が好きなんだ」 「はい」 「それで、目的は」 「解決方法を教えようと」 「そうくるか」 「はい」 「それは勧誘?」 「わかりません」 「乗らなかったの」 「得体が知れないですから」 「じゃ、その人の正体は不明か」 「教えられなくても、自分で考えますと答え ました」 「そういう人生の臭い話をするの、君は好き なはずだろ」 「その夜は、つまらない事情ですが、急いで いたのです」 「なるほど」 「冷えましたでしょ」 「え、なにが」 「昨日から急に寒くなったでしょ」 「そうだな」 「それで、その人と出会う前に、信号待ちを していて、そのとき、尿意が」 「ああ、じっとしてるとき、くるねえ」 「そうでしょ。それで、急いで家に戻ろうと していたところだったんです」 「よかったじゃないか、妙な奴に引っかから なくて」 「今考えると、僕もそんな経験初めてなんで すよね。いきなり人生を語り始める人って、 しかも通行人に」 「酔ってたとか」 「そうかもしれませんねえ」 「独り言だったとか」 「ああ、なるほど」 「納得できた」 「はい、一応」 了 ■■■■■ ■ ■ ww8y-kwsk@asahi-net.or.jp http://kawasakiyukio.com/



