2009/10/13
千字一話物語 992話 幽霊客
■■■■ ■ ■ 千字一話物語 川崎ゆきお ■ ■■ 992話 幽霊客 駅前は殺風景で何もない。ただ駅があるだ けの町だ。私鉄本線の各駅停車だけが止まる。 都心から少しはずれているが、周囲は市街地 だ。 この町に駅ができたのは、深い意味はない。 駅と駅の間隔が開きすぎるので、どこかに一 駅設けただけ。 その駅から少し離れた雑居ビルに心霊研究 所がある。 「流行らない」 所長の高岡がぼやく。 以前は事務員を雇っていたが、実入りがな いので解雇した。今度は本人を解雇しないと いけない状態だ。 「心霊研究など、もはや時代遅れではやらな いのだ」 高岡は毎日事務所に通っているのだが、も う、そこでやるような作業はない。掃除する 程度だ。 電話のベル。 また、セールス電話だろうと、受話器を取 るが声を出さないで黙っていた。 「心霊研究所ですか」 そうです。と、高岡は答えない。電話帳に 載っているので、それを見てのセールスだと 思った。四日に一度ぐらい、そういうのがあ る。 「わたくしは霊について調べてもらいたいも のなのですが」 高岡はどきりとした。ここ二年ほど、心霊 関係の用件で電話がかかることはなかったか らだ。 「どういうことでしょう」 高岡は応対マニュアルを忘れてしまってい た。客の様子がどうなのかと聞いているのだ が、こういう電話がかかってくるのは、どう いうことだろうかと、そちらの方に注意がい った。 「幽霊が出るのですが、どうすればいいでし ょうか」 高岡は駅から事務所までの道順を伝えた。 「はい、お伺いします。相談に乗ってくださ い」 客は、その日のうちには来なかった。 翌日も来なかった。 道を間違えたのなら、電話がかかってくる はずだ。 または、都合で、なかなか来れないのだろ うか。 「日時を聞いておればよかった」 それから一週間ほど経過するが、電話の主 は現れない。 それでも高岡は事務所に来る用ができたと 思い、満更嫌でもない。 了 ■■■■■ ■ ■ ww8y-kwsk@asahi-net.or.jp http://kawasakiyukio.com/


