千字一話物語 644話 優秀な人
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■ 千字一話物語 川崎ゆきお
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644話 優秀な人
「バランスのいい人は、結局何もできないね
え。特徴がないというか。あれもこれもでき
るが、秀でた力はない」
「そういわれていますがね。いろいろできて、
しかも巧みな人もいますよ」
「それは認めたくないねえ」
「いるでしょ。そういう人」
「困るねえ」
「それって、結局はバランスが悪いんじゃな
いですか」
「そうだね。だから特技が複数ある人間は好
きにはなれん」
「バランスを崩すからでしょ」
「そういう人間は職場には入れたくないねえ」
「それで、上島さんを落とすのですか」
「何でもできるわけがない」
「でも上島さんは、それができるんですよね。
職歴を見ましたが、さまざまな職種を経験し
ています。しかもどれも優秀です」
「そんな人がどうして我社に面接に来たんだ」
「会社が潰れたようですよ。上島さんの責任
じゃないですから」
「君は採用したいのかね」
「非常に優秀な人です。何をやらしてもこな
してくれます。社にとっては悪くない人材で
しょ。採用しない理由がありません」」
「僕や君よりも優秀な人間のようだ。それが
気に入らん」
「でも、急がないと、人手不足で、現場はパ
ニックですよ。早く入れないと、過労で、や
めてしまいますよ」
「それは分かっているがね」
「じゃ、採用ということでいいですね」
「気に入らん」
「専務が新入社員と接することはまずないで
すよ」
「そういう人間が社にいることが気に入らん」
「困りましたねえ」
「私情であることは承知しておる。しかし、
きっと職場でバランスを崩す。優秀すぎるん
だ。それがまずいんだよ。これは私情である
と同時に、組織を束ねる人間としての知恵だ」
「じゃ、上島さんより劣る人間を採用します
か。いくらでもいますよ」
「いや、優秀な人間でないと困る」
「それが上島さんですよ」
「そうなんだがね」
「じゃ、採用で」
「優秀な人間を雇うのは当然なんだがね。嫌
いなんだよ。僕はこの小賢しいタイプが」
「知恵だけではなく体力もありそうですよ」
「だから、余計に気にくわん」
「はいはい」
了
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