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川崎ゆきおの千字程度の不思議な小説。

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2008/07/09

千字一話物語 641話 消えたビデオ屋

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■   千字一話物語 川崎ゆきお  

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   641話 消えたビデオ屋

 平田が太陽の下を自転車で走るのは久しぶ
りだった。
 いつもは夜光虫のように、深夜の海を飛び
交っている。
 どういう事情からか、その日は昼間起きて
いた。特に理由はない。よく寝すぎたためだ
ろう。これは他人に言えるような事情ではな
い。
「ここに出たか」
 いつも深夜走っているため、風景が違う。
「反対側から来たためかもしれないなあ」
 それでも、このあたりは庭のようなもので、
なじみの建物が多い。
「ビデオ屋が、この近くにあったはずだ」
 国道沿いにファミレスやバイク屋が並んで
いる。平田がここを走るのは数ヶ月ぶりだ。
 国道は県道と交差しており、そこだけ国道
は高架になる。平田が走っているのは、その
高架のわき道にある歩道だ。
「ビデオ屋がない」
 広い敷地面積を有する販売専門のビデオ屋
が見当たらないようだ。
「おかしい」
 平田は道の向こう側を見る。
「SM専門店もない」
 ビデオ屋と向かい合うようにして、小さな
専門店があったはずなのだが、それも見えな
いようだ。
「やったのかなあ」
「両店とも深夜までやっており、平田にはな
じみのネオンだ。
 遅くまで開いている店は、この近くではこ
の二店だけだ。ある意味夜の主役なのだ。
「闇の世界は消える運命にあるのか」
 平田は更地になっている場所を見た。
「ここに駐車場があったんだ。自転車はいつ
も、入り口付近に止めていたはずだ。広いと
思ったけど、取り壊されると、それほどでも
なかったのかもしれない」
 平田は棚にびっしりと並んでいたパッケー
ジを思い出した。すごい密度で並んでいた。
店内は迷路のようだった。客と出合うことは
殆どなく、いつもがら透きだった。それが原
因かもしれない。
 あの濃い世界が太陽の下で干からびてしま
ったような感じだ。
 そして、向かいのSM専門店も同じ罪で消
えたのだろうか。
 こういういかがわしいものは消え行く運命
にあるのか……
 平田はある感慨に耽りながら、いつもの道
を逆行して行った。
 すると、ビデオ屋が現れた。向かい側のS
Mショップも無事だ。まだ店は開いていない
が。
 平田は場所を間違えていたようだ。
 
   了


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http://kawasakiyukio.com/

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