2009/11/15
sakurAi Science Factory 通信 Vol.47
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ☆☆☆★★★ sakurAi Science Factory 通信 Vol.47 ★★★☆☆☆ http://www.ssfactory.net/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ サイエンスナビゲーターの桜井進です。 いつも「sakurAi Science Factory 通信」を読んでいただきありがとうございます。 好評連載中 東洋経済オンライン 続・数学~その遙かなる風景・日本~ (第48回)"1/2"リーマン予想(前編) がアップされました。 http://www.toyokeizai.net/life/column/detail/AC/a25d0008eb97642e0bd8cd265775612d/ いよいよ2009年11月、リーマン予想が提起されて150年目を迎えました。 東洋経済オンラインならではの書き下ろし&画像作成でリーマン予想を紹介します。 さて、一足先に"1/2"リーマン予想(後編)を以下に載せます!。 ただし、画像抜きの文章だけで。画像付きは後日アップされる東洋経済オンラインをご覧ください。 ----------------------"1/2"リーマン予想(後編)------------------------------ ●リーマン予想とは何か さて、前置きが長くなってしまった。結論を急ごう。 リーマン予想は素数の出現リズムに関係している点こそが重要であり大きな価値がある。 だから、リーマン予想が証明がされることは、素数の深い闇の部分が明らかになることを意味するのである。 つまり、素数判定や素因数分解の困難さが取り除かれ劇的に容易になるということである。 このことがいかに重大な意味をもつか、懸命なる読者のみなさんならば理解されたはずである。 それではリーマン予想を述べよう。 しかし説明するのは容易なことではない。 "リーマンゼータ"、"自明でない零点"、"直線 Re(s)=1/2上にある"つまりリーマン予想の全文すべてがまさに自明でないからである。 それでも、リーマン予想を解説、いや"語る"ことにしたい。 繰り返しになるが、1859年の論文「与えられた数より小さい素数の個数について」においてリーマンが言いたかったことは「素数の個数」についてであった。 これより100年前、1760年にオイラーによってはじめて素数の個数について言及されている。それが素数定理である。 【素数定理の額縁の図】 素数定理(1760年オイラーが発見、1896年アダマール、プーサンが証明) その後、ガウス、ルジャンドル、ディリクレ、チェビシェフと名だたる数学者が同じ発見をしていった。 そして、リーマンは素数定理よりももっと精密な素数の個数を示す公式を探し出すことに成功した。それがリーマンの素数公式である。 【リーマンの素数公式の額縁の図】 リーマンの素数公式(1859年リーマンにより発見、1895年マンゴルトが厳密に証明) これは見るからに素数定理よりも複雑である。 この公式の真ん中部分に1/2+αiと1/2-αiとある。 iはiの2乗が-1となる虚数であり、この虚数を使って表される数が複素数といわれる数であるが、 この二つの複素数の値をすべてもってきて足し合わせた(Σは総和の記号)のが素数の個数π(x)(x以下の素数の個数)に等しいという公式なのである。 そして、1/2+αiと1/2-αiこそが、リーマンゼータζ(s)のすべての非自明な零点であるはずだというのがリーマン予想なのである。 ここで聞き慣れない「零点」について解説しておこう。xの関数f(x)が例えば、 f(x)=(x-a)(x-b)(x-c)であるとき、a、b、cはf(x)の零点である。 という。これは次のように言い換えてもよい。 方程式 f(x)=0 の解がx=a,b,c であるとき、a、b、cはf(x)の零点である。 つまり、零点とは方程式の解のことであると理解してよい。言葉の使い方として、関数の零点、方程式の解と使い分けているだけのことである。 「ゼータ関数ζ(s)の零点」とは「ゼータ方程式ζ(s)=0の解」のことと読みかえた方がわかりやすい。 その方程式ζ(s)=0(ここではゼータ方程式と呼ぼう)を探査することはすなわちゼータ"関数"ζ(s)を探査することに他ならない。 リーマンは素数の個数を調べるために使った道具がゼータ関数であった。 その発端は18世紀のオイラーにまでさかのぼる。その辺の事情は連載に取り上げているので参照してもらいたい。 http://www.toyokeizai.net/life/column/detail/AC/e638a745e0d54d9bc95c5248e84bfccb/ そのときすでにオイラーはゼータ関数が素数と切っても切り離せない関係にあることを発見していた。 簡単にいえば、ゼータ関数は素数によってつくりあげられた存在なのである。 だからゼータ関数を調べれば素数の情報が得られるのはごく自然なことである。 リーマンはオイラーによって見出されたゼータ関数をさらに詳細に分析することで、オイラーが成し得なかったことを可能にした。 そもそも関数f(x)には定義域という変数xが動き回る範囲がある、オイラーの考えたゼータ関数ζ(x)の定義域、すわなちxの範囲は整数であった。 そしてオイラーはゼータ関数の零点を見つけている。-2、-4、-6、…といった負の偶数の値がゼータ方程式の解であることを突き止めた。 ζ(負の偶数)=0 【自明な解(零点)】 これがいわゆる"自明な(簡単な、非本質的な)"零点なのである。 これに対して、リーマンはオイラーの考えたゼータ関数の定義域を複素数までの範囲に「拡張」したのである。 実はこのこと自体オイラーの貢献なしにはあり得ないことであった。 虚数や複素数といった実数を拡張した数の世界を深く探求したオイラーのおかげで、100年後のリーマンは複素数を自在に操れるようになっていたのである。 はたして、1859年の論文の冒頭で、ゼータ関数の命名が宣言され、その定義域を複素数にまで拡張できることを示した。 ゼータ関数をζ(x)とせずにζ(s)というようにsを使うのはsを複素数のこととしているためである。 今ではゼータ関数はリーマンのゼータ関数として「リーマンゼータ」と呼ばれるようになっている。 リーマンはゼータ方程式の解を整数を飛び出してすべての数の範囲で考えるという大冒険にでたということである。 そして遭遇した解こそが複素数の解、1/2±(14.1347…)iであった。ついにリーマンはオイラーでも見ることができなかったゼータ関数の新たな本性を垣間見た。 ●リーマンゼータ零点探査の旅 もう一度リーマンの言葉を読んでみる。 私は少しばかり粗雑で成果のでなかった試みの後に、差し当たりこの証明には手をつけないでおくことにした。 「少しばかり粗雑な試み」こそまさに前人未踏の零点探査の旅のことである。 マゼランの航路世界一周達成にも匹敵する超人のなせる偉業であった。 その後の多くの数学者の努力によって50年以上かけて検証と完全な証明が与えられていったのである。 その結果、零点すなわちゼータ方程式の解は次々と発見されていった。 ζ(1/2±(14.1347…)i)=0、ζ(1/2±(21.022…)i)=0、ζ(1/2±(25.0109…)i)=0、ζ(1/2±(30.4249…)i)=0、… これら解はすべて1/2±αiの形をしている。つづくリーマンの言葉を読んでみよう。 実際、この領域内にほぼこれと同じくらい多くの実根があって、 しかもそれらの根がすべて実根であることはきわめてたしからしいのである。 この実根というのが1/2±αiのαのことである。 リーマン予想とは、ゼータ方程式ζ(s)=0の解について、オイラーが見つけた自明の解(-2、-4、-6、…)以外はすべて1/2±αiであるということなのである。 これが、「零点が直線 Re(s)=1/2上にある」という零点をつかった表現になるのである。 ζ(1/2±αi)=0 【非自明な解(零点)】 そこで複素数の範囲で見つかるこの解を非自明な(本質的)解と呼ぶのである。 リーマンのこの一文だけが証明されずに現在に至っている。 コンピューターを用いた零点探査は続けてられており、15億個の零点が1/2±αiであることが確認されている。 この1/2とは0と1のちょうど真ん中ということなのだが、 なぜリーマンゼータの非自明な(本質的)零点のすべてが1/2±αiなのか、 リーマン予想とはこの1/2の謎のことであり、リーマン予想の証明とは1/2であるの理由が示されることに他ならないのである。 0と1の間にあるということがわかっているだけで、0.1と0.9の間という具合にこの範囲を絞り込むことすらできていないのが現状である。 1859年の11月からちょうど150年経つが、この間実質的にほとんど進展がないといってもいいほどリーマン予想は難しい。 リーマンの主張はあくまでも素数であった。 リーマンゼータの零点を集めれば、素数の個数が素数定理よりもはるかに(実は究極に)精確にわかることを言いたかったのだ。 このとき、リーマンゼータの"すべて"を考えることがどれだけ深遠なことなのか、39歳でこの世を去ったリーマンは知る由もなかった。 1994年、350年以上かけて解かれたフェルマーの最終予想はまさにリーマンゼータの威力のおかげあった。 その難関フェルマーの最終予想でさえリーマン予想を必要としていないことに驚かされる。 「数とは何か」その問いは「宇宙とは何か」「生命とは何か」「心とは何か」と同等の根源的問いであることをリーマン予想こそが私たちに教えてくれる。 今まさにリーマンゼータの核心に人類は迫ろうとしている。 21世紀のオイラーは必ず現れる。重い扉が開かれた先に見える風景を見る日は近いのかもしれない。 ●リーマンクライシスが人類を襲う 昨年のリーマンショックのリーマン兄弟商会(リーマン・ブラザーズLehman Brothers)は リーマン予想のリーマン(Riemann)が生きていた同時代に産声をあげている。 リーマンショックは100年に一度の経済危機と騒がれているが、もし今リーマン予想が証明されたならばその影響はその比ではない。 それこそ真なるリーマンショックとなり、リーマンクライシス(数学のリーマン予想の解明が招く経済上の危機)に至るのである。 さらに事態は深刻である。 セキュリティシステムの暗号技術は経済以外に軍事防衛上においても根幹をなしている。 そこに影響がでるとすればその影響は全地球的に計り知れない影響をもたらすことは容易に想像できる。 皮肉なことにリーマンショックを招いた根底には数学や物理学を駆使して開発された金融商品の存在があった。 経済や商業では、すべての取引される実体に代わる「数」がやりとりされる。そこに数学が活きてくる。 「数」の利便性と「数」を実体として扱う危険性の狭間に人間社会は存在している。 その数の素である素数はわれわれの想像を超えた仕組みの上に存在していることをリーマン予想は教えてくれる。 リーマン予想が解き明かされるその日を、最高の期待と最悪の不安が交錯する中で人類は生きていくことになる。 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