2009/02/27
サクレ・フランセ 45号 イブ サンローラン&ピエール ベルジェ
2009年2月27日発行 【Sacres francais! 45号】 イブ・サンローラン&ピエール・ベルジェとは何者ぞ。 3日間の狂乱オークション 【Editorial Par koko】 みなさん、こんにちは。 今日は、 <2月後半のフランスお天気情報> からお話を始めたいとおもいま〜す。 今日はなぜかテンションが高い(照れ笑い)です。 『政治的には本土は曇り、カリブ海は荒れ模様。 映画界はオスカーで外国語映画賞を滝田洋二郎監督に取られ霧雨、しかしオスカー祭で 気温上昇。2月27日のセザールに向けて高気圧が本土に発展中。 さらに毎年恒例の農業見本市のおかげで晴れ間も見え、最後に世紀のオークションで不 景気をものともせず、季節はずれの晴天が続く。』 というわけで、何かと騒がしい今週です。 日本にニュースがいっているかどうかわかりませんが、カリブ海にあるフランス海外県 のグアドループのデモが長期にわたり続き、車は燃えるわガソリンはないわで、結構ハ ードな状況になっています。サルコジ君もなかなかうまい手が打てず、まだしばらくは 白熱したやりとりが行われることでしょう。7000キロ離れた小さな西インド諸島の島が 同じフランスだというのも不思議な話でしょうが、これが植民地政策の名残りというも ので、植民地が残ってない日本人にはちょっと事情が呑み込めるのに時間がかかるので はないでしょうか。 生活費の上昇で疲弊しているグアドループの人々の生活など気にもかけない世界中のコ レクターが、この3日間で374M(ミリオン)ユーロ(=430億円)を優に超えるお金をパ リで使ったことになります。世界記録の続出で不況の嵐もどこ吹く風。なぜにここまで 盛り上がるのか?そういう勝手な問いに今日は勝手にお答えしたいと思います。 【お題 その1】 Collection Yves Saint Laurent & Pierre Berge のクリスティーズオークション その全貌を知るには、実際にオークション会場へ足を向けるか、または大部5冊からなる オークションカタログ(200ユーロ)を購入することになります。 開催日 2009年2月23日〜25日 1日目 モダンアート絵画。 2日目 モダン以前の絵画、および小さな彫刻や金銀細工工芸品、20世紀アールデコ。 3日目 彫刻、アジア・イスラム関連品。 オークション会場:グラン・パレ 無料エキスポジション3日間で、約3万人がグラン・パレに入場。 出展作品総計:733点 ※クリスティーズ オークションサイト http://www.christies.com/features/welcome/japanese/ 友人は朝10時に並んで、4時間半待ってやっと中に入れたらしいです。そんなことしてま で入っても中でゆっくり美術品を拝むこともできず、ただ疲れただけのイベントとなっ てしまいました。夜の12時まで公開されてたのですが、日曜日の24時15分前でもまだ僅 かに人が並んでおりました。呆れ顔でグラン・パレをバイクで通り過ぎた私kokoであり ます。 【お題 その2】 Collection Yves Saint Laurent & Pierre Bergeって何? 答え:1962年、サンローランがピエール・ベルジェという強力なパートナーを得て、メ ゾンを興し、その後共に40年以上に渡り築きあげたこだわりの極致であるプライベート コレクションのことを指します。この二人はもちろんおかまカップルであり、さらにビ ジネスパートナーでもありました。 日本ではあまり知られていないかも知れませんが、ベルジェ氏は辣腕経営者としてフラ ンスではとても有名です。彼が若いころは、日本でも有名な画家ベルナール・ビュッフ ェがアナベルと結婚する前、8年もの間ビュッフェのパートナーとして暮したいた経験も あるお人でございます。一般的には気難しい人で有名ですが、文化人との交友は広く深 く、ジャン・コクトーとも親交があって、コレクションの中にはモディリアニが描いた コクトーのデッサンも見受けられます。 そしてここでもうひとつ日本人がよくわかってなくて、欧米の人なら誰でもわかってい ることがあります。それはイブ・サンローランの偉大さがいかほどのものなのか、その 重要性についてであります。 サンローランはココ・シャネルと並ぶ超ちょ〜偉大なデザイナーとしてモードの歴史に 君臨し続ける名前なのです。なぜなら、ココ・シャネルは女性に自由を与え、サンロー ランは女性に権力を与えたから。1962年のメゾン・ディオールのデフィレでモードの歴 史上初めて黒人モデルを使ったのは彼、そして女性にタキシードを着せたのも彼。サン ローランはそれまで男性の視点から捉えられていた女性の服に、男性から独立した独自 のパワーを与えた最初のデザイナーとしてその名を刻んでいるのです。当時それがどれ ほどの起爆力のある爆弾ショーだったか、少し想像してもらえればすぐにわかると思い ます。 そういう超偉大な相棒を去年失ったベルジェ氏は、サンローランの死と共に二人で築き 上げたコレクションにも終止符を打つことに決めたとテレビで語っておりました。 【お題 その3】 4つの話題性 ≪知名度―スキャンダルー希少価値―数字≫ 知名度については上記に述べたとおりで、モンドリアンの絵などは評価価格の4倍ほどの 数字になっているものもありました。上述のモディリアニのデッサンも3万ユーロ〜4万 ユーロほどの評価額が19万3千ユーロで落札されています。 スキャンダルという点では、中国政府がオークションに出品されているネズミとウサギ の頭部彫刻を売りに出さないようにとフランスの裁判所に訴えを出したということで す。というのも「この2つの彫刻は、アヘン戦争のおりに中国から海外に持ち去られた 盗品であるから、中国に返還せよ」、というのが言い分でございました。ま、ですが裁 判所が訴えを却下したので、この二つは、それぞれ15Mユーロ(約17億円)ほどでどなた かに買われたかたちとなっておりますです。 ちなみに中国から訴えられたベルジェ氏は、「中国政府がチベット自治区に関する人権 問題についてもっと真摯に取り組むのであれば、この彫刻を返還することにやぶさかで はない」とこれまたきっぱり言い切っておりました。すっごい人であります。もちろん 中国側が怒ったことは言うに及びませんが。 コレクションの希少価値という意味において、一部ではそんなに珍しいものが揃ってい るわけではないという関係者もおりますが、総じて美術品購入にはかなりこだわりがあ ったようです。それがサンローラン氏とベルジェ氏のおめがねにかなう程度に美的およ び存在価値がある美術品だという意味においては、やはり価値があるのだろうと思いま す。一重にこの二人の審美眼に全員が信頼を置いているという感じではないでしょう か。したがってこのコレクションにあった作品は、コレクションに加わる以前以上に価 値を持ち、当然値段も高くなるという話になります。彼らが家に並べていた家具調度類 などは評価額から何割か高めの値段で売買されたと思われます。 数字の話になると話題のオンパレードです。 まずは初日のオークションで、プライベートコレクションのオークションとしての1日の 取引高が確か203Mユーロ(約230億円)ほどでナンバー1。結局合計3日間でもプライベ ートコレクションの総額として断トツの1位に輝きました。 マティスのバラの花の絵(評価額12〜18Mユーロ)が、35M905ユーロ(約42億円)ほどで 落札され、マティスの絵の最高額の記録達成。 それからアイリーン・グレイの肘掛椅子1個(評価額2Mユーロ、それでも吃驚するぐら い高いですよねぇ)が約21Mユーロ(25億円)ほどで落札され、イス一つの値段としては 最高額の記録達成、などなど。 とにかく一番見積価格の高かったピカソ(25M〜30Mユーロ)を売りそびれたにもかかわ らず楽勝で記録を樹立したので、ベルジェ氏はさぞかし上機嫌だったことでしょう。 音楽や映画の世界に関係するオークションでは、たまにとんでもない盛り上がりがあり ますが、美術品オークションでここまで熱くなることはほんと稀なことだろうと思いま す。この売上は、サンローラン財団法人の資金となったり、またフランス社会党の政治 資金として献金されたり、はたまたエイズ撲滅のための研究基金として投入される予定 です。 今回フランス政府は、このお宝が海外へ持ち出されていくのを許可するのと引き換え に、ルーブルにゴヤの絵1枚とオルセーにタピスリー1枚の寄付を受けました。そして無 事オークションは幕を閉じたのであります。 この不景気になんと景気のよい話でしょうか。 しかし結局、 「あ〜りが〜たや、ありがたや〜〜〜」、とはクリスティーズのセリフかもしれません な。 ※文章中の円換算はかなりアバウトに書いています。ご了承ください。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 今日はたまたま遅ればせながらレオナルド・ディカプリオとケイト・ウウィンスレット の『レボルーション ロード』を観に行ってきました。なんと深く濃い話なんでしょう か。私すっかり憔悴してしまって、帰り道は青空と地べた以外に何を見て歩いたか覚え ておりません。リチャード・イェーツが『レボルーション ロード』を発表した1961年 という時代を考えると、まさにサンローランの爆弾ショー同様にこの本の内容は衝撃的 だったに違いありません。2009年に暮らす私にも動揺をもたらすとは、なんと凄い小説 でしょうか。 こ〜ゆ〜話をわが人生と重ね合わせてしまっては、もう身の置き所がありません。自分 が自分をごまかしながら生活している小市民であることを思い知らされてつら〜いで す。でもホントよろしい映画でありました。 満足、満足。 ではまた次回。 チャオチャオ。 koko ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ Sacres francais! <映画と美術とパリジャンと> お便りはこちら yuriko.noritake@wanadoo.fr 発行システム:「まぐまぐ」http://www.mag2.com 配信中心はこちら http://www.mag2.com./m/0000191817.html


