サクレ・フランセ!20号 大泥棒:ナポレオン、ヒットラー
【Sacre francais! 20号】 2007年3月22日発行
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大泥棒には変わりない!
― チビパワーは世界を震撼させる ―
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【Editorial par koko】
ナポレオンとヒットラーは二人ともチビだ。
何をどうしたってモテるタイプではない。
コンプレックスを力に変えて、二人は社会の底辺からトップへと登りつめた。二人とも
海外から奪ってきた美術品を自国へ持ち込み、世界一のコレクションを作ろうとしたの
に変わりはないんだけど・・・・
・・・だけどナポレオンのルーブルは世界有数の美術館として現在に至り、ヒットラー
のコレクションは散逸または消滅してしまった。。。。。。。
話は少し飛ぶけれど、今年春の仏大統領選挙候補者の一人、ニコラ・サルコジは、よく
ナポレオンと比べられる。チビなのに野心が人一倍大きいところを揶揄されてのこと。
シラク大統領とは正反対。先日テレビ番組で、サルコジ候補が集会の壇上で踵を床から
あげて背伸びして立っていた様子を放送してた(苦笑)。シークレットブーツでも作っ
てるのかな。小さい時から背が低いことで苦労したのねぇ〜、なんて。
いつの時代も結果はともあれ、コンプレックスをパワーに変える術というのは有効なよ
うであります。
それで今日は二人の小さな大泥棒にまつわる話をひとつ書きましょう。
【 お題その1】
ベロネーゼ『カナの婚礼』 ルーブル美術館
※参考サイト(日本語)
http://homepage3.nifty.com/Blowing-in-the-Wind/page027.html
ナポレオン・ボナパルトが略奪した絵画作品で、今もルーブルに残る看板絵画がこの
『 カナの婚礼』。イタリア政府との返還交渉で、ルーブルに残されることが決められた
絵です。ナポレオンは戴冠式をする前からイタリアやエジプトに軍隊を派遣していて、
それぞれの国のお宝をかっさらっていました。でも何を本国へ送るかというリストを作
るのにその道のエキスパート、つまり目の代わりをしてくれる人物が必要だった。それ
がBaron Denon(ドノン男爵 1747−1825)でした。今でもルーブルの一翼を成す建物の名
前に彼の名が残っています(ドノン翼)。
ナポレオンという人物は美術・科学・歴史に興味を持っていて、決して偏った好みの持
ち主ではなかったよう。その辺はヒットラーと違うかな。そんなナポレオンの代理でい
い作品を見極めれる人物としてドノン男爵が選ばれたのは、結果から言えば正解だった
ようです。例えば彼らはエジプトの美術作品をヨーロッパに紹介することが両国の交流
を深めるのに有効であると思っていました。そしてエジプト文化に尊敬と愛情を持って
いたようです。その情熱の結果として、今のルーブルのエジプト部門があるのです。
後日ドノン男爵はイタリア政府からのナポレオンの略奪品返還要求の交渉にも当りまし
た。当時イタリア政府側の交渉人はAntonio Canova(1757-1822)という彫刻家で有名な人
物。ルーブルにも彼の代表作があります。
※http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5d/Canova_Le_Baiser.jpg
移動させるには絵が傷みすぎているなどという理由で、ル・ブランの絵と交換に返還を
免れたのですが、第2次大戦中ヒットラーから逃れるために南仏に移動させていた時期が
あるので、返還させない口実としか思えない。確かにこの絵の修復に数年を費やしたの
で傷んでいたことは事実。どちらにしてもドノン男爵はフランスにとってはいい仕事を
したわけですね。
【お題その2】
クリムト :『アデーレ・ブロッホバウアーの肖像I』
ヒットラーは自分の画家としての平凡な才能を恨んで、それ故に彼の愛するクラシック
作品だけを正統な芸術品として、かなり過激で偏った美術品戦略を掲げました。ヒット
ラーは表現主義とかダダなどの新しい美術潮流を認めてなかったからです。
※退廃美術展について参考サイト(日本語)
http://www.hyogo-kokyoso.com/shibutanso/kanwa/messages/13.shtml
ユダヤ人からの略奪はそれはひどいものだったのは周知の通り。ここでは去年話題にな
ったあるユダヤ人家族の話を抜粋します(Simon Houpt著『Tableaux voles』より)。
《・・・ナチスがオーストリアを支配下に置く1938年に、1906年ウィーン生まれの
Maria Altmannは新婚旅行から帰ってきた。彼女の家族は裕福なユダヤ人で、すぐにナチ
スの略奪の的になってしまった。結婚の祝いとしてもらったダイヤモンドの首飾りをも
ぎ取られ、自分の旦那さんの身を守るために家財を全てナチスに差し出した。そのおか
げで1938年の秋、無事にイギリスへ逃げることができた。後日他人の首にかかった結婚
祝いのダイヤの首飾りを見ることになったけれども、二人の身の安全には変えられなか
ったのは当然だ。
彼女の叔父にあたるFerdinand Bloch-Bauerも砂糖で財を成した。彼の妻であるAdeleは
当時有名な画家(クリムトやリチャード・ストラウス)や知識人を自分の家に招いてサ
ロンを開いていた。そんなわけでAdeleは『接吻』と2枚の肖像画を含む数枚のクリムト
を所蔵していたのである。
1925年Adeleは脳膜炎でこの世を去った。42歳だった。Ferdinandは自宅の一室を彼女の
思い出の部屋にした。クリムトの手になる2枚の肖像画と4枚の風景画がそこにはかけら
れていた。戦争が勃発したとき、これらの美術品と思い出の数々を残してスイスへ亡命
せざるを得なくなった。全ての美術品はナチスに没収されたわけだ。砂糖工場もただ同
然の値で売り払った。Ferdinandは1945年に一人スイスで亡くなった。妻の肖像を再び見
ることなく、ウィーンへ戻ることも叶わないまま・・・》
1999年,アメリカ在住のMaria Altmanはオーストリア政府に対して絵の返還を要求裁判を
起こしました。2006年、やっと叔父の財産の一部である5枚の絵を取り返したのです。そ
こで去年話題になったロナルド・ローダーの135ミリオンドル(ざっくり160億円)の買
い物となるわけです。現在はウィーンのベルベデーレの美術館を訪れても『接吻』の隣
に『アデーレ・ブロッホバウアーの肖像I』を見ることができなくなってしまいまし
た。
【お題その3】
賞金稼ぎとロナルド・ローダー
去年クリムトが我が手に戻った時、Maria Altmanは90歳のお婆さんでした。このような
老女一人が6年以上にも及ぶ訴訟に一人で挑んで勝ったなんて誰も思ってないですよね。
裏には少なくとも弁護士のRandol Schoenberg(かの有名なArnold Schoenbergの孫らし
い)、そして昔から着々とクリムトの絵を手に入れるべく準備をしていたRonald Lauder
その人の影が見えます。(但し彼らがチビかどうかは知りませんよ。そうだったら面白
いけど)
弁護士であるRandol Schoenbergは、6年にも及ぶ果てしない裁判に無償で関わっていま
した。おじいさんの祖国であるオーストリアの名誉を回復する想いを背負ってなが〜い
闘争を繰り返していたのかもしれません。というのも最高裁まで持ち込まれるまで、こ
の裁判は全く勝てる見込みのない様相を呈していたからです。今回勝ったことで彼の報
酬はかなりの額になっているはずなのですが、ご本人はノーコメント。
エスティー・ローダーの息子Ronald Lauderは莫大な財産を背景にニューヨークにオース
トリア・ドイツ絵画を専門とするLa Neue Galerie を設立しました。そこには結構な数
の返還品が飾られています。ただただ彼が大金を出してこれらの絵を競り落としたと思
ったらそれはちと考えが浅い。実は彼は1986年オーストリアのアメリカ大使に任命され
て数年をそこで過ごしています。だからナチスから略奪された美術品ファイルを全部知
っていたのです。怪しいでしょ。やになっちゃうな〜。
問題は、彼らの成功のせいでますますこのようなうま味を求めてたくさんの訴訟が持ち
上がるだろうと予想されること。すでにかなりの数の美術品が返還され、持ち主の相続
人以外にたくさんの人がその恩恵に預かっています。商業ベース(弁護士や美術関係
者)でもってこのような事が計られるとすれば、それはもう正統な返還要求とはほど遠
い話になってくるような気がしませんか。
世の中、ほんと単純に物を見ることができなくなってきましたよね。
国際的にも国によって態度がまちまちなようで、戦争犯罪としての美術品略奪の解決を
求めていろんな試みがされているようではありますが問題は多いようです。
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ところでもう一人のアメリカのチビが起こした戦争で大変なことになっているイラクの
文化遺産は、毎年闇で数百億円の取引になっているという報告があります。世界のテロ
活動のいい財源になっているらしいです。<spoiles of war>の語源は、ラテン語の
<spolium>から来ていて、所謂《動物から剥がされた皮》という意味だそうです。
ローマ帝国のその昔から略奪は繰り返され、21世紀も続いています。
「少しは歴史に学べよな!」と言いつつ、根が楽観的な私は人間の可能性に日々期待す
るのです。
そして結論として《チビは世界を震撼させる》という歴史の真実だけが残るのでした。
では、また次回。
Koko
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Sacres francais! <映画と美術とパリジャンと>
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