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中長編小説集。小学生の男の子、千裕はひょんなことから人気美少女モデルになる。モデルとしての自己実現の喜びと、女の子だと思われ続けることへ不安という千裕の葛藤が始まる。成長していく子ども達の姿を書く、感動のライトノベル第6話『ガラスの森』。連載23回目。

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2008/05/03

小説『ガラスの森』24回

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        〜 触れたくなる、こころの小説 〜

    【 小説のテーマに触れたくなるメールマガジン 】

                   三条 都(みーくん)著

                         2008/5/3

                          NO.84号

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  1つのテーマに魅せられた心の交流を書く、珠玉の小説集

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        三条 都(みーくん)のプロフィール

 1975年生まれ。神奈川県出身。
 和田傳文学賞入選2回、角川文化財団文芸賞入選1回。
 様々な事柄に興味を持ちつつ、小説創作や絵画、ピアノ演奏などの
 自己表現を大切に活動しています。  
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           ★ ご案内 ★
 
   過去に連載された小説集の第1話〜第5話を以下のサイトで
   公開中です。 是非、ご覧ください!

    ☆第1話『遠い音楽』      
     
    ☆第2話『夜の芝生』     

   ☆第3話『祈り』      

   ☆第4話『方舟に曳かれて』  

    ☆第5話『冬の神話』 
              
      ご覧になる方はこちらまで↓
       
          http://www1.odn.ne.jp/mi-kun/syousetu.htm
  
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          ★ 読者の皆様へ ★

      本作品『ガラスの森』の連載第24回目です。
       
      初めての方は、連載1〜23回目を以下のサイト
      でご覧になってから、お読みください。

      http://www1.odn.ne.jp/mi-kun/syousetu.htm 


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           ★これまでのお話★  
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  平凡な小学5年生の男の子・千裕は、活発な姉や友人のサッカー
 少年をうらやましく思う反面、つまらない自分に対してコンプレッ
 クスを持っていた。
 
 そんな中、千裕は遠足に着ていった洋服をみんなに褒められた事を
 きっかけに雑誌のモデル募集に応募する。 
 
 家族や同級生の涼子の協力を得ると共に、モデルになりたいという
 思いを強く感じた千裕はその気持ちを素直に表現し、モデルに合格
 する。
 
 その才能を周囲から認められ、だんだん人気モデルへの階段を上が
 って行こうとする千裕だが、ある日、自分がみんなから女の子だと
 思われていることを知ってしまう。
 それでもモデルを続けていく千裕に今、転機が訪れようとしていた。
 
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          ★これまでの主な登場人物★
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佐伯千裕(さえきちひろ)・・主人公の小学5年生のゲーム好きな男
              の子。モデル。自己主張が苦手。

佐々木涼子(ささきりょうこ)・・千裕の同級生。活発で、千裕に色
                々と協力してくれる良きアドバイ
                ザー。
               
佐伯菜摘(さえきなつみ)・・千裕の姉で、高校1年生。明るく賑や
              かで、弟には意地悪な一面をみせる。


大嶋さん (おおしま)   ・・千裕担当のモデル事務所スタッフ。


梶原さん (かじわら)  ・・ジュニアモデル雑誌『JF』の編集長。


相川さん (あいかわ)   ・・千裕担当のカメラマン。


葛西直幸(かさいなおゆき)・・千裕の同級生。千裕から尊敬されて
               いるサッカー少年。


白瀬奈々美(しらせななみ)・・中学1年生。千裕が初めて仕事を一
               緒にした先輩モデル。しっかり者。


安西優希(あんざいゆうき)・・中学1年生。千裕が初めて仕事を一
               緒にした先輩モデル。底抜けに明る
               い。

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     小説『ガラスの森』(第24回)    三条 都
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14

 きっと、それからだっただろう。
僕の仕事には光と闇の部分が背中合わせに存在していて、お互いがお
互いを問い詰めるかのように作用し始めたのは。

僕の葛藤。

事実が分かったからといって、いったい今の僕に何が出来る?
あらがって、自分の姿を変えようとする?
それが僕の本当の姿ではないから?

そうだよ。

誰もが今の僕を認めていてくれているのに?
ほかの誰でもない、僕自身がすべてを否定して抵抗する?

そうだよ。

僕は今の自分を否定だってするし、抵抗だってする。
誰もが今現在の僕を認めていてくれているのに?

そうだよ。
僕は女の子じゃない!


 それからの僕は、ただひたすらにモデルの仕事を続けていった。
今までと変わらずに、僕はモデル事務所に入ってくる数多くの仕事に
打ち込んだ。

けれども、写真に写る僕の表情は以前とまるで違っていた。

僕は今まで通り、(まるっきり当たり前のことではあるけれど)メー
カーの用意した男の子用の新作モデルの洋服を着て撮影にのぞんだ。

結局、それを見ても読者のみんなは僕を女の子だと感じていたわけだ
から、僕はますます男の子のような仕草や表情をしてみせた。

そう、僕は殊更に男の子であることを強く意識してみせたんだ。

不自然極まりない、僕はそう思った。
それでも構わないとも思った。
自分自身の否定と、読者のみんなへの抵抗。
それが、この時の僕のモデル活動を支えていたすべてだった。           

僕はかつて、自分が男の子であることをこんなにも意識することはな
かった。
要するに、僕は自分の中にある女の子のイメージを消すために躍起に
なっていたんだ。                               

          
 学校でも、家でも、とにかく僕は事あるごとに自分が男の子である
ことを意識するようになっていた。

学校の昼休みには活発な男の子たちに混じって、サッカーや野球なん
かをしたり、言葉だって出来るだけ男の子を意識した言葉遣いにしよ
うとした。

それでも・・・・。

それでも駄目だった。

僕はサッカーも野球もうまく出来やしないし、言葉遣いなんてまるで
とってつけたみたいだった。

「千裕さあ。お前、最近おかしくね?」

ある時、直幸ははっきりと僕にそう言った。

この彼の言葉は何よりも、僕の心をえぐり取るかのようだっだ。

僕は蚊のなくような小さな声で呟く。

「本当に・・・・・おかしいよな。」

直幸は心配そうに僕の顔をただ見ているだけだった。
                                           
 モデルの仕事もうまくいかなかった。
相変わらず仕事の量は多かったけれど、僕が満足することはない。
それは大嶋さんやカメラマンの相川さんも同じで、僕は何度となくダ
メ出しをされたり、注文をつけられることが多くなっていった。

大嶋さんも相川さんも僕の不調の原因を理解しているから、僕に強く
当たることはなかった。
結局、僕はそんな二人に甘えてしまっていたのかもしれない。

それでも、僕の載っているローティーン向けモデル雑誌の人気はウナ
ギのぼりだった。                                           
僕が男の子のイメージを膨らませて写真に納まれば、読者は僕をボー
イッシュな女の子だと言って褒める。

雑誌で僕の着ている洋服は人気が出て、男女問わず(男女共用という
ことらしい)、たくさんの子どもたちに売れた。
洋服メーカーの人たちは喜んで、事務所スタッフの人たちは複雑な表
情をした。

結局、僕は自分の中にある女の子のイメージを払拭することが出来な
かったんだ。


 「千裕。あんた、最近ちょっと気が抜けてんじゃないの?」

数日前に直幸に言われたような言葉を何倍かキツくしたような口調と
顔をして、僕の部屋に入ってきたお姉ちゃんが僕に向かってそう吐い
た。

「なんだよ、いきなり・・・。」

僕はお姉ちゃんをにらみつけるようにしてそう言った。

夕方、いつものように営業用の大きなスピーカーと共に軽トラックが
僕の家の前を通っていった。
お姉ちゃんは、床のカーペットに寝って転がって漫画を読んでいる僕
の前にわざとらしくドカンと座ってみせた。

「なんだよ?」

僕は再びお姉ちゃんをにらみつける。

「千裕、あんた。今、モデルの仕事楽しくないって思っているでしょ?」

藪から棒に、お姉ちゃんは僕にそう切り出した。

「何でだよ?」

僕は持っていた漫画を床に置くと、お姉ちゃんに向かって座りなおす。

「答えなさいよ、千裕。楽しくないって思っているでしょ?」

お姉ちゃんが厳しい口調で言った。

僕は大きくひとつ、ため息を吐く。

「仕事だから、楽しくないなって思うことの一つくらい、普通はある
んだよ。」

僕は至極、正論めいたことを言った。

「じゃあ、それをこんな形で残していいってわけ?」

お姉ちゃんはそう言うと、僕の前に2冊の雑誌を並べて見せた。
それは僕の載っているファッション雑誌だった。
ただ、一冊は一番最近のもので、もう一冊はそれよりも少し前のもの
だ。

「千裕。あんた、これが同じモデルの顔に見える?
あんた、こんなのでみんなが喜んでくれるってホント、思ってる?」

輝きを放つ、今より少し前の僕の写真が目に飛び込んでくる。

「・・・・・。」

僕は黙って写真を見つめる。

「千裕・・・・。そんなに女の子に思われるのが嫌なの?」

「嫌だよっ。そんなの決まってるじゃないかっ。」

即座に、お姉ちゃんの言葉に僕は噛み付いた。

「そう。」

お姉ちゃんはそう一言だけ言って、うなづいた。

「それで、あんたは無理にこんな表情を作っているんだ。」

「そうだよっ。」

「これを見て、みんなはどう思っているのかな。」

「喜んでいるさ。僕はカッコいい女の子だってさ。」

僕はお姉ちゃんの言葉に、半ば投げやりになって答える。

お姉ちゃんは表情を固くして、変えようとしない。

「本当に?」

「そうだよ。みんな、そう言っている。」

「事務所スタッフの人たちは?」

「・・・・・・。」

お姉ちゃんの問いに、僕は沈黙する。

「じゃあ、あんたは?」

お姉ちゃんが聞く。

「楽しいわけないだろっ。こんなの僕じゃないっ。」

最後の言葉を、僕はお姉ちゃんに向かって声を荒げて吐いた。

そうしてしばらくの間、沈黙する僕達の空気に割って入るかのように、
再び戻ってきた営業用軽トラックのアンバランスな宣伝スピーカーが、
僕たち二人の気まずい雰囲気を支配する。

「千裕・・・。あんた、今どこ向いているんだろうね?」

「え?」

僕はお姉ちゃんが言ったその言葉の意味が分からずに、思わず声を漏
らした。

「楽しくもない。自分らしさもまるでない。
スタッフの人達に迷惑をかける。読者の声も分からない。
ホント、千裕はなにやってんのかねえ。」

お姉ちゃんの言葉に、僕は一瞬にして頭に血が上ってくるのを感じた。

もう、我慢が出来なかった。

「僕だって、真剣に悩んでいるんだ!
なんだよっ、お姉ちゃんに何が分かるって言うんだ!
それに、お姉ちゃんには関係ないだろ!」

僕がそう言い終わのが早いか否か、お姉ちゃんは僕の頬を引っ叩いた。

お姉ちゃんの顔が怒っている。

「関係ないって?関係あるわよ!あんた、何様のつもり?
あんた、自分一人でやってきたって思ってるのっ?
お母さんは?お父さんは?涼子ちゃんは?スタッフのみんなは?
千裕、あんたの勝手な都合で滅茶苦茶にしてんじゃないわよ!」

お姉ちゃんの顔が真っ赤になって怒っている。

お姉ちゃんに引っ叩かれた頬が痛い。

「あんた、何やってんのよ?モデルになろうって思ったときの気持ち
はどこいっちゃったのよ?

女の子に思われたくないから、あんな表情をしているって?
冗談じゃないわ。
今のあんたはね、男とか女とかいう前の問題なのよ。

千裕、私が・・・。ううん、みんなが認めたあんたはね、自分の好き
な服を着て嬉しそうな顔をしている時の、素のあんただけなんだから
ね。」

僕は思い出した。

これはお姉ちゃんが、モデルのオーディションの時に僕に言った言葉
だった。

素の僕。
好きな服を着ているときの素直な僕の気持ち。
それは僕がモデルになろうと思った正直な気持ち。

僕は自分の心をお姉ちゃんにわしづかみにされたようで、言葉が出な
かった。

そうして再び、沈黙が空気を支配する。

僕はただ、うつむいて床に敷かれているカーペットの淡い色を見つめ
るだけ。

「ねえ、千裕。私だってね、あんたの気持ちはわかるわよ。
でもさ、千裕、あんたはプロのモデルなんでしょ?
だったら・・・・もっとみんなの方を見つめようよ。
自分の素直な気持ちも、みんなの思いもみんな受け止めようよ。」

お姉ちゃんは急に優しい声を出して、そう言った。

なんだよ急に・・・・、気持ち悪いな・・・・。
僕はそう思うことで泣きたくなるのを我慢した。

「もう・・・・。無理に自分を作らなくていいじゃん。
そんなの、楽しくない・・・。
みんなも、きっと・・・・。」

僕に向かってそう言ったお姉ちゃんの声は、だんだん小さくなってい
って最後のほうはほとんど聞き取れなかった。

お姉ちゃんは急に立ち上がって、僕から顔を背けるようにして僕の部
屋を出て行く。

「ごめん。私、もうお風呂は入ってくるから・・・・。」

お姉ちゃんは振り向きもせず、僕の部屋を後にした。

お姉ちゃん、今僕に「ごめん・・・・」って。

お姉ちゃんが僕にそんな言葉を言ったのは、本当に久しぶりのことだ
った。

                         (続く)

★★★最後まで、お読みくださって、ありがとうございます!★★★


□編集・発行 三条 都(みーくん) 

□関連WEB  http://www1.odn.ne.jp/mi-kun/

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