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2009/11/01

あなたへ贈る季節のたより No.45

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.45 ----

       「時雨」(しぐれ)        2009.11.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
               http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 陽が西に傾くと、おだやかな光は急速に衰え、まるで駆け足をするかの
 ように、いちはやく夕闇がせまってきます。

 おりから吹き出した冷たい風に、急激に落ちていく気温。コートの襟を
 立て、家路をたどる人たちの足も、こころなしか速く感じられるこの頃。


 お元気ですか。

 鉢植えのシャコバサボテンが、葉の先にたくさんの花芽をつけました。
 公園や街路樹の木々も、すっかり色づいていますね。

 幼な子が、色紙(いろがみ)をはさみで切り散らかした部屋のように、
 歩道にはいちめんに落ち葉が散り敷き、街は白い季節を迎える前の、
 華やいだ彩りに包まれています。

 気温が下がるにつれ、樹が根から水分を吸収するのを断つことによって、
 紅葉は始まるとのこと。樹木も着々、冬の準備を進めているのですね。


 まだ日中は暖かいものの、朝に薄く初霜が下り、ぱらぱらと時雨が通り
 すぎるようになれば、まわりの風景は急に冬めいてきます。

 空漠とした寂寥が、胸の中に雨雲のごとく広がってくるようです。





     あわあわしきしぐれなるかな

     かたかは町の坂みちのぼり
 
     あかるみし空はとながむれば

     はやくも片町あたり

     しぐれけぶりぬ



                「十一月初旬」 室生 犀星





    少しの時雨を 吸取紙のように 暗い松林が吸い込んでいる

    その色は もう真冬を思わせる 深い秋のいろをして
 
    心にそそぎこんで

    かなしく外にあふれてしまう

    まもなく信じられないほどの広いしずけさがやってくる

                        (後略)



               「時雨」より   嵯峨 信之





 時雨(しぐれ)は、冷たい北西風が山にあたり、雨を降らせたのちに、
 残りの水蒸気が山を越えてくるときに落ちてくる雨ですね。はらはらと
 降ったかと思うと、すぐに通りすぎていきます。

 京都をはじめ、盆地などに多いため、関東に住む方にはあまりなじみが
 ないかもしれませんが、独特の趣きを持つものとして、都びとの生活に
 古くから親しまれてきました。

 芭蕉などは、その命日(旧暦十月十二日)が「時雨忌」と呼ばれるほど、
 この雨を愛した人のひとりですね。




    しぐるゝや田のあらかぶの黒む程


                     松尾 芭蕉



 時雨は「しぐるる」と動詞にもなるのですね。

 「過ぐる」が「しぐる」になり、「しぐるる」となって、さっと降って
 通り過ぎていく雨を指すことばになったようです。

 「通り雨」というなら、一年中あるのですが、とくに秋の終わりから、
 初冬にかけての雨をこう言うのは、日の光が衰え、万物が枯れ果てた、
 蕭条(しょうじょう)たる風景の中に降る雨の情景が、格段に印象的で
 あるせいでしょうか。


 それにしても時雨は、なぜこんなにも人々の心を惹きつけるのでしょう。

 それは、ひとつには雨の「音」に関係しているのかもしれません。




    音にさへ袂(たもと)をぬらす時雨かな

     真木(まき)の板屋の夜半(よわ)の寝覚(ねざめ)に


                     源 定信 
 


 槙(まき)の板屋の軒先を叩く音を聞きとめるだけで、袖や袂が濡れる
 ような心持ちになり、そこにそこはかとない哀愁を感じているのですが、
 これは、現代のわたしたちでも感じられることですね。

 とくに深夜、寝床の中で耳にする雨の音は、なにか心まで、しっぽりと
 濡れてくるような、ふしぎにやすらかな気持ちになりませんか。


 木の葉の散る音を、そんな雨の音に見立てたのが、「木の葉しぐれ」と
 いう言葉ですね。セミの声なら「蝉しぐれ」、虫の声なら「虫しぐれ」
 となります。

 さらに「川音(かわね)の時雨」「松風の時雨」と来ると、なかなかに
 風流ですが、「寝覚めの時雨」というのは、何だかわかりますか?

 なんと、幼い子の寝起きのおしっこを言うのだそうです。


 まさに、いろんなものにたとえられる「時雨」ですが、いきなりやって
 きては、たちまちに降り止むこの雨の定めなさは、人の世の無常を象徴
 してもいます。

 一見同じことの繰り返しに思える、わたしたちの日々の暮らしも、常に
 変転を続け、けっしてとどまることを知りません。老いていく速さは、
 年ごとに早くなって行くような気さえします。


 けれどこの世の定めなさは、けっして悪いことばかりではないでしょう。
 どんなにつらく悲しい出来事も、やがて時が解決してくれることだって
 あります。

 「時雨心地」(しぐれごこち)が、泣き出してしまいそうなくらいに、
 悲しい気持ちをさすことばであったとしても、それはほどなく通り過ぎ、
 気がつくと、空には煌々と、冬の星座が輝いているのかもしれません。


 そんな、自らの心の変化も感じとりながら、ゆったりとした時の流れを
 静かに見つめていたいと思います。



                    平成21年11月1日 

            川での鮭漁が始まった、北越後の城下町より



 
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