2012/05/01
あなたへ贈る季節のたより No.75
*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~* あなたへ贈る季節のたより ---- No.75 ---- 「ぼたん」(牡丹) 2012.5.1 by URUSHI OHTAKI 大滝 豊 http://www.u-ohtaki.com/ *~~~~*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~*~~~~* 親愛なるあなたへ 麗らかな陽気に誘われてペダルをこぐと、やわらかく頬にあたる風に 乗って、どこからか花の香が漂ってきます。 幼児が塗りたくったクレヨン画のように、樹木全体の輪郭がぼやける くらい淡いピンク一色だったソメイヨシノは、あたり一面に花吹雪を 散らせましたが、枝垂れ桜はまだ豊穣な花のドレスを纏ったまま。 つばき、すいせん、さくらそう、チューリップ、やまぶき・・・ 遅れてやってきた春に、まるで乗り遅れまいとでもするかのように、 北国の庭のプラットフォームは、今まさに花のラッシュアワーです。 お元気ですか。 大雪に悩まされ、いつになったら暖かくなるのかと、長い冬をじっと 耐え忍んできた今、ようやく百花繚乱の季節を迎え、どこか浮き立つ 気持ちがおさえられません。 気がつくと、はや暦は夏。 街の北側を流れる川は、雪解け水を流しきって清らかな流れとなり、 そのほとりに立つ樹々は、ほのかな浅葱色に染まってきました。 大空をバックに雄大に泳ぐ鯉のぼりや、からからと乾いた音を立てる 矢車が、春から夏へと向かう風の向きを伝える中、足下の地上では、 季節を彩る花たちが、オムニバス映画の主役のように次々と登場し、 交代していきます。 その中でも、「花の女王」と呼ばれて、圧倒的な存在感を示すのが、 「牡丹」(ぼたん)。 その気品ある美しさは、いちだんと濃さを増す庭の緑を背景として、 揺らめくほどに豊艶な空気を醸し出します。 大勢の人たちで賑わうパーティー会場で、ひときわぱっと人目を惹く 華やかな大女優・・・そんなイメージでしょうか。 とほくは虹ともかすみとも。 だんだらの靄ともみえる絢爛の。 千万万の。 牡丹の花。 色と匂ひのずつしりに。 乱れ舞ひ舞ふ蝶蝶の。 めくるめくそのちらちらちら。 天は群青。 陽は白金(プラチナ)。 風沸けば。 沸きあがる色色の色の渦巻。 草野心平「牡丹圏」より ぼたんは中国が原産で、日本には一千年ほど前に薬用として渡来した とのこと。観賞用として植えられるようになったのは、江戸時代から だそうです。 新しく伸びた枝の先につく大輪の花は、直径が20センチほどにもなり、 もともとは赤紫色だったらしいのですが、今は白・紫・紅・薄紅・黄 など、品種により色もさまざまです。 ですが、その中でなんといっても珍重されるのは、「白(はく)牡丹」 ですね。その清浄さ、気品の高さは格別です。 白牡丹といふといへども紅(こう)ほのか 高浜虚子(「五百句」) 白と淡紅を合わせた視覚的な効果はもとより、「いふといへども」と いう粘っこい言い方のあとに、「紅ほのか」とすぱっと止める、音の 響きの小気味よさ。有名な一句ですが、わたしにはぼたんの花を見る たびごとに必ず口をついて出るくらい、なんとも印象が深い作品です。 この白牡丹に対して、深紅の濃いものは、「黒牡丹」と呼ばれている らしく、こちらは実にあでやかですね。 いずれも、牡丹の名所といわれる、奈良県の長谷寺、当麻寺、福島県 須賀川市や、千葉県松戸市の「牡丹園」などで見ることができます。 牡丹花は咲き定まりて静かなり 花の占めたる位置のたしかさ 木下利玄(「一路」) 俗に美人を称して、 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花 などと言いますが、百合の代わりに「菊」を入れた3つを「三佳品」 と称し、昔から詩歌や絵画などに多く描かれてきました。 わたしの本業である漆器の伝統的な図案にも、牡丹の唐草はもっとも ポピュラーなものです。陶磁器や織物の図柄にも、ぼたんが多いのは やはり中国から伝来されたものだからでしょうか。 高倉健さんの映画に出てくる背中の入れ墨などにも「唐獅子牡丹」が ありますが、百花の王である「牡丹」と、百獣の王である「獅子」を 取り合わせて、一種の守り神としたのでしょうね。 さて、ぼたんは「ぼうたん」と音を伸ばして言われたりもしますが、 そのほかにも「二十日草」(はつかぐさ)、「深み草」(ふかみぐさ) 「富貴花」(ふうきか)、「名取草」(なとりぐさ)などたくさんの 異名を持っています。 その中でも特に「深み草」は、悲嘆や恋慕の「情の深さ」を連想させ、 和歌などによく詠まれたようです。 人知れず思ふこころはふかみ草 花咲きてこそ色に出にけれ 賀茂重保(千載集) 「二十日草」の名の通り、桜と同じく、咲いている期間が短いぼたん。 その散り際も、やはり桜のように風情があります。 一世を風靡した女優さんが、舞台上で突然崩れるように倒れてしまう ・・・それは、痛ましいけれど、いかにも女王の最後にふさわしく、 あでやかで凄絶な美しさです。 しだいに長くなった日がようやく傾き、どこか重だるい夕暮れ時。 はらりと落ちたぼたんの花びら・・・。 それは木々の青葉がしだいにその鮮やかさを増し、花菖蒲や紫陽花が 咲き始めて、庭全体が夏めく前に起きる、見事な美の終焉劇なのかも しれませんね。 牡丹散ってうち重なりぬ二三片 与謝蕪村 平成24年5月1日 白い利休梅も咲き始めた、北越後の城下町にて ─────────────────────────────── メールマガジン 「あなたへ贈る季節のたより」 ●発行 URUSHI OHTAKI ●編集 大滝 豊 Mail to: yutak@lapis.plala.or.jp Web Site: http://www.u-ohtaki.com/ Blog: http://blog.u-ohtaki.com/ ※バックナンバーは、ここで読むことができます。 ↓ http://www.u-ohtaki.com/magazine.html ─────────────────────────────────── このメールマガジンは、以下のマガジンスタンドから配信しています。 配信中止は、それぞれのページから行って下さい。 ・まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000183042.html ・メルマ http://www.melma.com/backnumber_150184/ ・めろんぱん http://www.melonpan.net/melonpa/mag-detail.php?mag_id=009247 ───────────────────────────────────



