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2009/09/01

あなたへ贈る季節のたより No.43

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    あなたへ贈る季節のたより     ---- No.43 ----

        「秋 草」               2009.9.1

               by URUSHI OHTAKI 大滝 豊
               http://www.u-ohtaki.com/
                                  
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 親愛なるあなたへ


 お元気ですか。

 いくつかのきらめく思い出を残して夏が去り、白砂のようにさらさらと
 した風が、火照ったからだを静めながら、吹き抜けていきます。

 ひとつ峠を越えたようなほっとした気持ちと、宴が果てたあとのような、
 どこか空虚な思いが混ざりあう9月。

 夏の疲れが残ってはいませんか。

 
 今年の夏は、焼けつくような陽差しは少なかったものの、雨が多くて、
 いつまでも梅雨が明けきらぬような、蒸し暑い日が続きましたね。

 新型インフルエンザがじわりじわりと広がる不安の中で、子どもたちの
 長い休みも終わり、静けさを取りもどした街には、近くの学校の始業を
 知らせるチャイムや校内アナウンスが、秋風に乗って聞こえてきます。


 季節の網の目に濾過されたような、清澄な大気。

 空の青さはますます深く、遠くの山々はズームレンズを通したように、
 すぐそこに迫って見えるようです。

 
 近くの野原に目をやれば、薄桃色の秋桜(こすもす)が、その長い茎と
 細い葉を、しなやかに風になびかせています。

 その優しい彩りは、パステルの淡い色調が似合う、まさに秋色。

 春とは趣を異にする「秋の野」には、わたしたちひとりひとりの、花に
 寄せる心の有り様が、おのずと投影されているのかもしれませんね。





     その日は 明るい野の花であつた

     まつむし草 桔梗(ききょう) ぎぼうしゆ をみなえしと

     名を呼びながら摘んでゐた

     私たちの大きな腕の輪に



     また或るときは名を知らない花ばかりの

     花束を私はおまへにつくつてあげた

     それが何かのしるしのやうに

     おまへはそれを胸に抱いた



     その日はすぎた あの道はこの道と

     この道はあの道と 告げる人も もう

     おまへではなくなつた!




     私の今の悲しみのやうに 叢(くさむら)には

     一むらの花もつけない草の葉が

     さびしく 曇つて そよいでゐる





            「甘たるく感傷的な唄」 立原 道造




 秋の野の花を代表するのは、やはり「秋の七草」でしょうか。

 「春の七草」が、食材にするものが多いのに対して、「秋の七草」は、
 おおむね純粋に観賞するための草花ですね。

 秋草が咲き乱れる野原を散策し、和歌を詠む習慣が昔あったそうですが、
 数ある秋草の中で、なぜこの七つが選ばれたのか・・・

 それはどうも、万葉歌人のひとり、山上憶良(やまのうえのおくら)が
 詠んだという、次の2首に由来があるようです。



    秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り

       かき数ふれば 七種(ななくさ)の花



    萩の花 尾花 葛(くず)花 瞿麦(なでしこ)の花 

       姫部志(をみなへし) また藤袴 朝貌(あさがほ)の花



 最後の「朝貌」は、今のアサガオではなく、キキョウなのだそうですね。

 いずれにしても、秋の七草は、まだ夏の暑さが消えぬころに咲き始める
 ものばかり。きっと昔の人は、これらの花を眺めることで、秋の訪れを
 敏感に感じとったにちがいありません。


 まずその筆頭を飾るのは「萩」。万葉集で一番多く詠われているものが、
 この「萩」なのだそうです。

 楕円状の葉、紅紫の花には、こぼれ落ちるばかりの、清雅で可憐な趣が
 あります。この花の名所として有名なのは、歌枕にもある「宮城野」。
 この地名を冠した「ミヤギノハギ」は、宮城県の県花でもありますね。


 次の「尾花」は、お月見にも欠かせない「ススキ」のこと。

 花らしい花ではありませんが、すっきりと伸びた茎に、黄褐色や紫褐色、
 やがては銀白色になる花穂が、いっせいに風になびくさまは、いかにも
 日本の秋の風景を代表するものでしょう。


 「葛」は、葉に隠れがちに、紫紅色の蝶に似た花を咲かせますが、葉の
 裏が真白で、それがときおり風に翻るさまを、愛する人の「心変わり」
 に例えた歌が多くあります。


 「なでしこ」は、「唐撫子」(からなでしこ)とも呼ばれるセキチクに
 対して、「大和撫子」(やまとなでしこ)の名前があり、その名の通り、
 楚々とした優しい花ですね。


 「女郎花」(おみなえし)は、盆花としてもよく使われる、黄色い小花
 ですが、最近ではセイタカアワダチソウの強烈な黄色に押されてしまい、
 ちょっと影が薄いような気がします。


 「藤袴」は、川原の自生地を奪われ、絶滅危惧種に指定されているとの
 ことで、わたしはまだ実際に見たことがありません。「香草」(かおり
 ぐさ)、「香水蘭」(こうすいらん)の名があるほど、香りの高い植物
 だそうです。


 そして最後、「桔梗」(ききょう)は、正五角形の、いかにも造形美を
 感じさせる花。

 風船のようなつぼみが開いて、青紫色の星のような花を咲かせる様子は、
 たおやかななかにも、凛とした芯の強さが感じられ、どことなく武士の
 妻の面影をそこに感じるのですが、あなたはいかがですか。

 


     かたはらに秋ぐさの花かたるらく

        ほろびしものはなつかしきかな

                       若山 牧水



 「花」というと、園芸品種に慣れたわたしたちは、なんとなく「春」を
 イメージしがちですが、野に咲く花を愛でた「いにしえびと」にとって、
 秋草こそが、より親しみを感じるものだったのかもしれません。

 その証拠に「花野」という語は、春ではなく、秋の季語となっています。
 ちょっと意外ですね。


 秋のさわやかな一日、牧水のように草の上に寝ころび、さやさやと語る
 秋草に虫の声を聞きながら、ひつじ雲のかかる空にすいすいと飛翔する
 ギンヤンマを、ただぼんやりと眺めていたい・・・

 ふと、そんなことを考えます。

 滅びしもののなつかしさ・・・それは、限りある命を生きるものたちの
 心になじむ、自然の共通感情なのでしょうか。

 しみじみともの思う季節が、これから始まろうとしています。



                    平成21年9月1日 

            スズムシが鳴き交わす、北越後の城下町より



 
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