カウンセリングと東洋思想  RSSを登録する

カール・ロジャースのカウンセリングと東洋思想を比較してみます。似ている面もあり、でも同じには論じられない面もある。こころや人間存在に対する考え方の東西比較をお楽しみください。

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2009/11/30

カウンセリングと東洋思想 第16号 霜山心理学と東洋思想

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                      2009年11月30日
  カウンセリングと東洋思想

               第16号 霜山心理学と東洋思想

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 カール・ロジャースのカウンセリングと東洋思想との接点を
求めて、いろいろ考察してみたいと思います。


             †††



■ はじめに ===============================================

 2009年10月7日の朝、霜山徳爾先生が老衰のため逝去されま
した。享年90歳でした。ご冥福をお祈りいたします。

 私は学部と大学院で霜山先生の指導を受け、臨床心理学に対
する基本的パースペクティヴを与えられました。私がこのよう
なテーマのメルマガを発行しているのも、霜山先生の薫陶によ
るものと思います。そこで今回は、霜山心理学の片鱗に触れて
おこうと思います。





■ カウンセリングと東洋思想 ===============================


  (15)霜山心理学と東洋思想

 霜山心理学は奥が深い。それを十分に理解するためにはドイ
ツの古典的精神医学をはじめとして現象学や実存哲学の知識が
必要なのはもちろんのこと、人間の“生ける現実”に共感する
ために詩歌や宗教に対する感受性までも要求される。ひとりの
人間が、ましてや二十歳そこそこの大学生や大学院生がそれら
全ての教養を備えていることは全くもって不可能に等しい。し
たがって、霜山先生の薫陶を受けた学生たちは、そのほとんど
が霜山心理学のほんの一部しか理解できず、学び損なった部分
については卒業後に生涯にわたって学ぶことになっているので
はないかと思う。

 私の場合は禅やヨーガに強い興味をもち、当時からその体得
にはほど遠いがその言わんとするところは直観的に理解してい
たと思う。そこで学生当時は、西洋的なものを引用されてもあ
まりピンと来なかったが、東洋思想に言及されたときにはその
深さに魅了されたものだった。

 霜山心理学は決して東洋的ではないのだが、ここでは霜山徳
爾著『共に生き、共に苦しむ  ― 私の「夜と霧」』から引用
し、その東洋的な片鱗を紹介しておきたい。

  もし人が本当に生きたいと願うならば、まずは言葉が死
 ななくてはならない。真の治療者とは「一瞬一瞬ありのま
 まの現実をどのように見るべきか」を教える人のことであ
 る。沈黙に心を向けることは、言葉を越えたところにあり
 〔※注〕現実に気づくことである。現実を現実としてその
 まま見、聞き、捉えるためである。現実を言葉によって
 (言葉を通して、言葉という枠の内に)捉える(はめ込む)
 のではなく、現実をありのままに捉えることである。心理
 治療家は彼をおのれ自身にひきもどす苦行(askese)によ
 って言葉を再発見する人である。(上掲書 95-96頁)
 〔※注〕たぶん、「……ところにある」の間違いだろう。

 ここで「教える」とは知的に教えることではなく、暗に指し
示すことだと言えよう。これはロジャースのカウンセリングと
同じではないかと思う人もいるだろうが、まるで禅の修行目標
のようでもある。このような臨床的な教えは、おそらくはご自
身の臨床経験から導き出されたものなのだろうが、それを説明
する際には禅思想などが引き合いに出されることもあった。た
とえば、以下のような具合である。

  道元の『正法眼蔵』に「有時」の巻というのがあるが、
 有時とは「時あって」ということであり、すべての存在者
 がそれぞれであるということは、そうあるべき時があって、
 すなわち因縁が熟して、いまここに存在するということで
 ある。その瞬間、その現在(プレザンス)、こそ人間に重要
 であり、「今」を生きることが大切になってくる。(上掲
 書 124頁)

 言葉が死んだとき、「今」が顕われる。それは言葉では捉え
きれないさまざまな事象が折り重なって生じているものである。
「今」には由来としての過去が含まれており、他者との複雑な
関係としての現在が含まれており、また希望や方向性としての
未来が含まれている。それを「因縁が熟して、いまここに存在
するということ」と表現しているのである。仏教思想をよく知
っている人ならば、これは非常に含蓄の深い言葉であることが
わかるだろう。ここには自らの生涯をかけた東洋人の修行の精
華が凝縮されているのである。霜山先生の引用は、その背景と
なっているものまで含めて味読されるべきである。

 今回はカウンセリングの本質的部分に焦点を当てている箇所
を引用したが、実際の臨床場面ではもっと個別具体的な心理へ
の共感的な感受性が要求される。そこで、それを学生に伝える
ために短歌や俳句や漢詩などが盛んに引用された。詩歌によっ
て表現された感情を速やかに正しく受け取る能力は、クライエ
ントの言葉の背景にある感情を知ってそれに共感するためには
必要である。



            -◆-


 西洋がダメなら東洋。これは安易な乗り換えである。東洋を
自家薬籠中のものとしないかぎり、乗り換えたところでどうせ
それは永遠に停車したままの列車で、にっちもさっちも行かな
い。東洋に生まれたから東洋人であるとは言えない。少なくと
も現代の日本人は、東洋人であるために大いなる修行が必要な
のである。そして、これは昔の日本人にも当てはまる。彼らも
また修行をして東洋的な境地に達し、それを言葉として紡ぎ出
したのだから。

 われわれ日本人の根は、たしかに東洋にある。換言すれば、
日本人の無意識は東洋的である。だから、われわれにとって東
洋が培ってきた思想や情緒は直観的に把握しやすいだろうし、
また、そんな東洋の文化的遺産を介してクライエントの無意識
を理解することもできるだろう。しかしながら、それだけでは
不十分である。まるで接ぎ木されたかのように現代日本人の枝
葉は、すなわち意識領域は、西洋的である。そして、現代では
世界中どこでも西洋的にしか生活できないのかもしれない。ア
ンチ西洋を標榜するような東洋至上主義では決して生き残れな
い。

 私はキリスト教的精神はどうにも受け容れられないのだが、
西洋哲学は有益だと思っている。東洋を持ち上げる人々は時と
して感情重視の論理嫌い・哲学嫌いだが、それは知的怠慢の裏
返しにすぎない。現代人が自我に基づいて個として生きなけれ
ばならない状況にあるかぎり、「われ思う 故に われあり」と
いう哲学原理は必要不可欠である。ただし、その先はデカルト
に従う必要は全くなく、現象学や実存哲学の見方を取り入れた
り、さらには東洋的な感性を取り入れたりしながら日本人とし
ての個を確立していくべきではないかと思う。

 西洋思想もそうだが、東洋思想は特につまみ食いできるよう
な代物ではない。そこにはある種の精神修養が必要となり、な
かば宗教的な営為となる。しかも集団で同一のものを学ぶこと
はできず、各人各様に課せられた道を行かねばならない。

 霜山先生は孤高の人であった。そして学生たちには、Freudian
やJungianのような“-ian”になるな」とも教えていた。それ
は既成の治療理論をいったん脇に置いてクライエントの“事象
そのものへ”と向かう現象学的心理学者として当然の帰結だろ
う。先生は学生たちに「各自の道を行け」と暗に示していたよ
うに思う。これもまた禅の師家のようである。(笑) 霜山先生
は、言葉だけを見ればドイツかぶれの蒼古たる学者のようだが、
その生き方を見れば東洋的な“道の人”であったとも言える。





■ 編集後記 ===============================================

 本当はもっと早く追悼記事を書かねばならなかったのでしょ
うが、私はタイムリミットが近づかないと何もできない人のよ
うです。(苦笑) ここでは霜山心理学の片鱗のそのまた先っぽ
くらいしか紹介できていませんし、また追悼記事としては貧弱
なものでしかないのですが、私が今このようなメルマガを発行
しているのも霜山先生から薫陶を受けたお蔭なので、感謝の意
味を込めてささやかなこの一文を捧げたいと思います。


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◆『カウンセリングと東洋思想』(ID:0000179139)
◆発行者:曽根 剛
◆サイト:http://happy.ap.teacup.com/psycholobby/
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