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歴史系お題小説を配布するメールマガジンです。現在は平安初期を舞台とした、帝の妃である巫女姫と高僧の恋を交えたスピリチュアル・ファンタジーを配信しています。

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2007/07/16

燈華苑・広報誌――7月16日号――

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        †〜〜燈華苑・広報誌〜〜†
             2007年07月16日号

           発行者・長谷川彰子
               燈華苑・http://toukaen.fem.jp/

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 *ごあいさつ*


 皆様、いつもありがとうございます、燈華苑の長谷川彰子です。
 
 今週も引き続き、小説のつづきを配信していきます。


 これからもガンガン日記で先行掲載していきますので、早く続き
が読みたいよ、という方がいらっしゃいましたら、

 http://ashera.blog105.fc2.com/ ←ブログ変更しました。 

 までどうぞ。


 では、続きをお楽しみ下さいませm(_ _)m。



★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 BNはこちら→【http://blog.mag2.com/m/log/0000176090】




‡





 わたくし達は廣田の社から真っ直ぐ北上して、摩尼峰を目指した。 
 木立の間を抜ける風が、爽やかに頬をくすぐる。 
  
「空海さま、饒速日尊と瀬織津姫の一件を解決した今、何時でも摩
尼峰を下られる事ができますね」 

 道中、わたくしは何気なく空海さまに語りかける。 
 空海さまはちらり、とわたくしを見たあと、お山の方を見られた
まま話される。 

「そなたに教える事も、もうないに等しいな」 

 空海さまのお声に、寂寥が漂う。 
 が、わたくしはこころを揺らされてはいけない、と思った。 
 空海さまを、いつまでもわたくしに縛り付けてはいけないのだ。
空海さまは密の教えを広めなくてはならないお役目がある。お弟子
達も、空海さまを待っているだろう。 
 これでいいのだ――わたくしは寂しさを噛みながらも、ひとり納
得していた。 
 途中、願王寺殿に差し掛かり、わたくしは願王寺殿の伽藍を覗き
見る。 
 ――殿方が、堂主の僧侶に挨拶をしている。 
 殿方は下げ終わった頭を上げて、わたくし達の方を見た。 

「――――――ッ!」 

 その殿方とは――美志真王殿だった。わたくしは強張る。 
 今のわたくしは尼僧姿ではなく、丈長い黒髪を下ろした巫女姿を
していた。 
 主上や美志真王殿に偽るために、わたくしは尼の形をしていたの
だ。髪を剃り落としてはおらず、長々と伸ばした髪を美志真王殿に
晒してしまっている。 
 化粧をし、衣と裳を着て比礼を身に着けている。 
 ――今のわたくしの姿はどう甘く見ても、僧籍に入っているとは
見られないだろう。 
 思っていたとおり、美志真王殿は怖いお顔をして、つかつかと早
足にわたくしに歩み寄ってこられた。 

「主上へのお返事を受け取りに参ったというに、このようなお姿を
拝見しようとは……! 
 主上に対し謀りがあったと報告するが、それでよろしいか!?」 

 わたくしはびくりとし、肩をそば立たせる。 
 主上に謀りがあって姿を偽っていたのではない。ただ、主上に諦
めていただきたくて、尼姿をしていただけだ。 
 が、今の有様は、謀りあったと見られても仕方がないだろう。 
 そして、何よりも怖ろしいことに、わたくしの後ろには、空海さ
まがいらっしゃった。 
 案の定、美志真王殿は空海さまへの追及の手も緩めない。 

「大僧都殿、主上の女御を尼に仕立て上げた事、それはあなたの企
みでござろう。 
 あなたは主上の妃に近づきすぎている。これは、疾しき事があっ
たと嫌疑を掛けてもよろしいですな!?」 
「いいえ、空海さまはわたくしの密教の師! 疑われることは何も
ありませぬ!」 

 わたくしは身を乗り出して、空海さまの潔白を晴らそうとする。 
 が、わたくしの肩を掴まれて、空海さまはわたくしを背に庇うよ
うに美志真王殿の前に出られた。 

「真井御前さまは入内される前から御仏の徒であられた。 
 今ここで密の修行をなされるのは、真井御前さまの悲願であり、
もともとあるべき道であったのです。 
 帝には正子皇后があられ、数多の妃も侍っておられる。というの
に何故、真井御前さまへの執着を捨てられぬ。 
 帝の真井御前さまだけへの執着は、後宮のうちに歪みを生みます
ぞ」 

 もう少し、他の妃も見なければならない――空海さまは美志真王
殿を通して主上にそう仰っていらっしゃるのだ。 
 ぎりり、と歯軋りして、美志真王殿は言い返される。 

「主上は他の女人方も偏らず寵愛しておられる! 
 それを、部外者であるそなたが要らぬ口出しをするとは、笑止な
事よ!」 

 空海さまは表情を変えられず、淡々と仰る。 

「なれば何故、自ら後宮の外で生きる事を選んだ妃を、帝は未だ追
い求めようとされるのか。 
 後宮は嫉妬と怨念の巣窟。清らかな真井御前さまがそのなかで生
きてはいけぬ事を、帝はお知りでないのか? 
 帝は真井御前さまを、怨嗟の坩堝である鳥かごのなかで飼い殺し
なさるおつもりか? 
 おそらく後宮に在っては、真井御前さまは長くは生きられまい」 

 空海さまのお言葉に目を伏せる。 
 確かに、わたくしは後宮では生きてはいけまい。後宮にあった頃
から、夥しい敵意と怨みをその身に受けてきていた。 
 女人方の怨意だけではない、後宮には女人方の背後には権力の亡
者が存在する。最後の頃、わたくしはその魔の手に蝕まれこころを
失くしかけたのだ。 
 後宮に在っては長くは生きられないという空海さまのお言葉は、
あながち嘘でもなかった。 

「真井御前さまおひとりに執着されるでなく、他の女人方も真井御
前さまと同じように愛されれば、後宮は住んだ水のごとくになる。
女人方も魚のようにやすやすと泳げるようになるだろう。 
 ――帝には、早々に真井御前さまをお忘れいただくよう、あなた
から帝に進言なされるがよい」 

 そう言って、空海さまはわたくしの手を引いてお山を登ろうとな
される。 
 当惑するわたくしの背中に、美志真王殿の叫びが切りつけられて
くる。 

「これで諦められる主上と思われるな! 
 あなたが裏切れば裏切るほど、主上はあなたを放そうとはなさら
ぬぞ――!」 


 呪縛のような言葉に目を瞑り、わたくしは黙って空海さまに手を
引かれるに任せた。 




 建立中の我が御寺に帰るまで、わたくしと空海さまは終始無言だ
った。 
 僧房の私室に入ってからも、わたくしは主上に出家していない事
が明らかになった恐れと、至上の君を欺いた懺悔に、暗い気持ちの
ままうつろに時を過ごした。 

「厳子さま、どうかなさったのですか?」 

 夕餉のとき、心配した朋子がわたくしを覗き込んで言った。 

「……主上に、わたくしが出家していない事が露見してしまったの」 

 美志真王殿は、きっと主上にご報告なさるだろう。 
 わたくしがまだ俗体でいることを知った主上は、どのように思わ
れるのだろう。 
 主上を誑かしてしまった事実を、主上はどう受け止められるのだ
ろう。 
 そう思うと、わたくしは暗澹とした気持ちになってしまう。 
 同じく夕餉の席に着いておられる空海さまが、わたくしの様子を
具に覗っておられる。その目が、また居たたまれない。 
 わたくしのこころは、お山に登ってくるまでに、もう決まってし
まっていた。  

 ――もう、空海さまと徒に関係を結べない。 
 主上に俗体であることを知られてしまった今、近しく空海さまの
側に居ると、空海さまにも咎が降りかかるやもしれない。 

 朋子も建設的に物事を見られないのか、わたしの答えを聞いたき
り黙りこんでしまった。 
 夕餉を済ませたあと、わたくしは席を立たれる空海さまを呼び止
めた。 

「夜中にわたくしの部屋に来ていただけますか」 

 わたくしの真摯な眼差しに、空海さまも硬い面持ちで頷かれた。 



 夜半になり、わたくしは白湯に桜花を塩漬けにしたものを浮かべ
た飲み物を用意し、空海さまを待っていた。 
 これから空海さまに切り出す事を考えると、悲しくて涙が出てく
る。 
 が、空海さまのお為にも、そうせねばならぬのだ――。 
 わたくしが物思いに耽っていると、襖が開く音がした。わたくし
は瞼を開ける。 
 わたくしの前に端座された空海さまに、わたくしは桜湯を差し出
す。 
 空海さまはそれに手を付けられぬまま、単刀直入に切り出された。 

「饒速日尊と瀬織津姫の依代となった桜を材として、西の峰の寺の
本尊を造る。
 それが終われば、わたしは摩尼峰を下りるつもりだ。
 そなたに教える事はもうない。復習なら、ひとりでも出来るだろ
う。 
 東谷の寺とここのことは、朋子に任せることにした」 

 わたくしはただ頷く。こころのどこかでほっとしている自分がい
た。 

「摩尼峰を下りた後、次の年の二月十八日まで武庫の地には来ぬ。 
 それまで、この山を、西の峰の寺をそなた達が護るように」 
「――解りました」 

 そう返し、わたくしは空海さまを見る。空海さまの直向な目が、
わたくしをじっと見つめていた。 

「――これで、よかったのやもしれぬ。 
 そなたに近づきすぎれば、わたしは己の宿命を忘れ、疎かにして
しまうだろう。 
 そなたを深く愛すれば愛するほど、わたしは身を持ち崩してゆく
運命にあるのだ。 
 それは、密の教えを広めるわたしには、あってはならぬことなの
だ」 
「よく、存じております」 

 わたくしは深く首肯する。 
 哀しい事だが、空海さまとわたくしは長く側に居続ければ居続け
るほど離れられぬ繋がりがあるのだ。 
 転生された空海さまの宿命がつつがなく遂げられるよう、わたく
しは側に居ないほうがいいのだ。 
 そして、わたくしも側に居てはならぬ理由があるのだ――。 

「わたしがそなたの側に居続ければ、帝を刺激しすぎることになる
だろう。 
 前後の見境をなくし、政務を放擲する事はおろか、暗君としての
道を歩ませる事は、日ノ本を見守る役目を持つ我らとしては、どう
しても避けさせねばならぬ。 
 ――解ってくれ、厳子。苦しいのは、わたしも同じだ」 

 わたくしはいつの間にか滂沱の涙を流していた。 
 わたくしは頭を振り、袖で涙を押さえた。 

「よく解っております。だから、詫びなどなさらないで下さいませ。 
 自分でも、よく理解しております。どんなに遠く離れても、わた
くしは主上の妃なのです。 
 それを忘れては、ならなかったのです。 
 でも――空海さまのことを、誰よりも一等お慕いしております。 
 主上の妃として生きねばならぬとしても、わたくしは空海さまの
ものです。 
 それをお忘れにならないで……!」 

 わたくしは足元に桜湯があるのも構わず、対面しておられる空海
さまの胸に飛び込んだ。桜湯を入れた器が倒れ、熱い湯が畳の上を
流れる。 

「許せ厳子。そなたよりも宿命を取るわたしを許してくれ……」 

 熱い接吻のあとに、悲哀と情熱の籠もった目をして空海さまは仰
られた。 
 法衣を脱がしあい、お互いの身体を確かめるように手と唇で触れ
合う。 

「許せ厳子、許せ……」 

 空海さまはわたくしと交わりながら、ずっとそう呟かれていた。 
 もうこのように愛を確かめ合う機会はなくなるかもしれない。そ
う思うと止められなくなり、わたくしは燃え上がった。 
 愛し合うことには、生きるという柵は邪魔なだけなのだろう。生
きる事に付き纏う不条理は、絶えずわたくし達を苛み続ける。 

 ――早く、この肉体を脱ぎ捨てる事が出来れば、こんなにも思い
煩わされることはないのに……。 

 出来もしない事を思い描きながら、わたくしは空海さまの律動を
身体に感じていた。 




 始終泣き続けるわたくしを深く抱き、空海さまは宥めるように髪
や身体を撫で続けられた。 
 それでも眠る事はできず、わたくしは寝息を立てる空海さまの腕
の中で涙に暮れた。     







                                                     つづく





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 今号は以上です。
 次回からのことですが、とりあえず不定期、ということでお願い
したいです(汗)。
 月一くらいの割合で一話分を書けたらいいなぁ、と思っています
ので(実は他にも、書きたいお話が出てきています……。汗)、気
長にお待ちいただけたら幸いです(大汗)。


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 発行者:長谷川彰子
 燈華苑:http://toukaen.fem.jp/
    ご意見はこちらまで→http://toukaen.fem.jp/cgi-bin/dl.cgi/mail_0.html 
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