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歴史系お題小説を配布するメールマガジンです。現在は平安初期を舞台とした、帝の妃である巫女姫と高僧の恋を交えたスピリチュアル・ファンタジーを配信しています。

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2007/02/26

燈華苑・広報誌――2月26日号――

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        †〜〜燈華苑・広報誌〜〜†
             2007年02月26日号

           発行者・長谷川彰子
               燈華苑・http://toukaen.fem.jp/

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 *ごあいさつ*


 皆様、いつもありがとうございます、燈華苑の長谷川彰子です。
 
 今週も引き続き、小説のつづきを配信していきます。


 これからもガンガン日記で先行掲載していきますので、早く続き
が読みたいよ、という方がいらっしゃいましたら、

 http://d.hatena.ne.jp/ashetora/

 までどうぞ。


 では、続きをお楽しみ下さいませm(_ _)m。



★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 BNはこちら→【http://blog.mag2.com/m/log/0000176090】




 わたくしはこころを切り替え、山頂から降りたあとに空海さまか
ら真言の教えを受けた。 
 ふたつの文机を間に差し挟み、向かい合う形でご教示を受ける。
「大日経」を双方の文机に広げているが、多くを口述によってご教
授いただいた。 

「人は根本から闇の種――利己の精神・煩悩を持っている。 
 大日如来は、理なき無明の世界、欲望だけに捕らわれた世界を這
いずる者を救うため、悟りの切っ掛けになる様々な教えを人界に据
え置かれた。 
 人は種々の教えに触れ、理を身に着けながらも、教えが未完全な
ため、それだけでは不安になる。 
 そして、新たな教え身に受け、幼子が成長するように御魂を研ぎ
澄ませていく」 

 密教の教えを説かれるとき、空海さまの口調に一層の熱が籠もる。
それは、この方が全生命を掛けたどり着かれた、未来に受け継がれ
るご尊慮。衆生を救うため、無明の海を泳ぐ者に誰でも手を差し伸
べられるため整えられた教理。 
 わたくしは一縷に教えを重く受け、空海さまが発される一言も洩
らさず聞く。 
 そんなわたくしの様子に、空海さまは苦笑なされた。 

「……といったところで、そなたは経験でそれらすべてを知りえて
いような。 
 帝の後宮に居た頃、そなたは自身のこころを差し置き帝に慈愛を
注いでいた。あの頃のそなたは、如意輪観音の慈悲と弁才天女の神
性を体現していたといえる。が、それは憑依が行われ成り切ってい
たといえる。 
 師であるわたしとしては、物分りよいそなたは楽な弟子であるが、
良人としては出来すぎていてつまらぬ。 
 何というか……女子としての情趣が足りぬというか……。確かに
見目や立ち居振る舞いは、淑徳さとえもいわれぬ手弱女ぶりを示し
ているが、中身が相反して中性的なのだ。悪く言えば、女傑のよう
で、女子の妙味に欠ける。付け入る隙がまったくない。 
 神に仕える巫女に婀娜さはいらぬので、致し方ないのかもしれぬ
が」 

 煮えきらぬ笑みを浮かべ、もぞもぞと仰るお言葉の情けなさに、
わたくしは眉を吊り上げる。 

「まぁ、何てことを仰るのですか! 仮にも密教の先達でいらっし
ゃる御方が、色気づいたことを仰るなんて……!」 

 賢しらに意見するわたくしに、空海さまは面白そうに指し示され
る。 

「そういうところが女子らしくないのだ。 
 何事も強気で、平気で男子に意見する気丈さを持っている。 
 だから、麁乱神に酷い目に遭わされても、しおしおと潰れてしま
わぬのだろうが。 
 巫女としては、必要な部分かもしれぬな」 

 わたくしは頬を膨らせる。 

「巫女は場合によっては、邪霊や災い為すものと戦わねばならぬの
です。 
 ひ弱なようでは、敵と渡り合えませんわ。これくらいが丁度よい
のです」 

 空海さまは納得したように頷かれる。 

「そう、巫女としての力を与えられたそなたは、巫女として相応し
い気性を持って生まれた。 
 それもすべて、大日如来の偉大な働きなのだ。宇宙の織り成す仕
組みに、そなたという巫女も組み込まれているということだ。 
 そして、密教を為す者としても、相応しいといえる。 
 密教の仕組みの中に、修験の行も含まれているが、山行はもとは
といえば山を神とする巫女が行なっていたものだ。山々や自然と一
体になれる巫女は、いわば我らの先駆者でもある」 

 一変して真面目な表情におなりになられた空海さまに、わたくし
も神妙に首肯する。 

「が、霊魂を言向け和(やわ)す巫女が豪気過ぎては、とてもでな
いが鎮めて昇華することなど出来ぬだろう。 
 帝を受け止めていたそなたは、荒ぶるものを和す巫女そのもので
あったので、その点では心配することはないのかもしれぬ。 
 が、おそらく今わたしに見せているそなたが、本当のそなたなの
だ。 
 心当たりはないか?」 

 空海さまの鋭い指摘に、わたくしはぐぅの字も出ない。多分、今、
空海さまに見せているわたくしが、本当のわたくしなのだ。 
 ふっと息を吐かれ、空海さまは言葉を繋げられる。 

「そなたは迷える者、困窮する者、愚なる者に伸べるべき手の種類
を知っている。それらは、使い分けてこそ意味があるものだ。 
 大日如来が様々な教えを人界に置かれたのも、同じ意味だ。 
 人それぞれ合った方法で悟りへ導く。それを方便という。 
 ところで、そなた麁乱神にはどう接すればよいと思う?」 
「えっ……」 

 突然麁乱神の話題を出され、わたくしは困惑する。 

「麁乱神にとって、大人しく従う女子がよいのか。 
 それとも、わたしに相対するように、聞かん気な態度で臨むのが
よいのか。 
 ……どれがよいと思う?」 

 わたくしは手に汗を握っているのを感じた。 
 急に答えをお返しできる問題ではない。 
 何より、麁乱神との接触は二回しかなく、荒神がどのような嗜好
を持っているかなど、解らない。 
 言葉に詰まったわたくしに、空海さまは微笑まれた。 

「麁乱神との関わりは、そなたが即身成仏する道筋になるのかもし
れぬな。 
 確かに、わたしは麁乱神がどういう人物か、かの者と弁才天女と
の関わりがどういうものであったのか、その正体も含め知っている。 
 が、それをそなたに教えてはやらぬ。 
 何事も自分で考え、答えを導きだすがよい」 
「……はい」 

 何もいう言葉を見つけられず、わたくしは相槌を打つだけだった。 
 空海さまはそんなわたくしを、暖かく見つめていらっしゃった。 




 密教の講義が終わった後、空海さまは何も言わずに、ぶらりと外
に出られた。 
 わたくしは詮索せずに、自身も桜の木の許に行く。 
 朝に行えなかった瞑想を、遅くなったがしようと思った。 
 桜の幹にぴたりと背を合わせ、呼吸を数えて意識を鎮めてゆく。 
 わたくしは背を通じて桜と交感しようとする。 
 ふるり、と桜が喜びに震えた。そして甘美な、春めいた波動が伝
わってくる。 
 ――桜も、春の予感を感じて嬉しいのね。 
 わたくしは桜が伝えてきた感情を、そう捉える。 

 が、本当は違っていたのだ。 
 桜が何を思っていたのか――それは、後日知らされることになる。 




 夜更けになり、自室で眠いのを堪えながら髪を梳かしていると、
密やかに空海さまが入ってこられた。 
 振り向くと、空海さまのお顔が妙に硬直していらっしゃる。 
 首を傾げ、わたくしはその訳をお尋ねする。 

「どうかなさったのですか?」 

 無心なわたくしの問いに、空海さまは頬を緊張に引き攣られる。 

「……今宵も、構わぬか?」 
「まぁ、どうしてですの? いつものように望むように為されれば
よろしいではありませんか」 

 空海さまの仰りようが可笑しくなり、わたくしは思わず笑ってし
まう。 
 が、空海さまにきつく睨みつけられ、わたくしは笑いを止める。 

「昨日の今日で……嫌ではないのか? 
 その……わたしが、怖くはないのか?」 

 わたくしはきょとんと目を見開いてしまう。 
 空海さまが……遠慮していらっしゃる? 
 いつもとは違い、いやに行儀よくわたくしの前にお座りになられ
る空海さまに、わたくしは思い当たる。 

 ――もしや、空海さま御自身、御自らを怖れていらっしゃる? 

 昨夜の麁乱神の暴挙は、空海さまにとっても予想外のことで、驚
愕をもって受け止められたのかもしれない。 
 そして、寝入っている間に、またも麁乱神が現れわたくしを乱暴
するかもしれない、と案じていらっしゃるのかもしれない。 
 そう思うと、何だか空海さまが御労しくなる。 
 わたくしは手を差し伸べ、空海さまのお手を取った。 

「わたくしは、空海さまを怖れてはおりませぬ。 
 麁乱神のことも、現れれば現れたで、それまでのことです。 
 何とでもなりましょう。 
 それよりも、こうして覇気のない空海さまをお見受けするほうが、
わたくしは辛うございます」 

 自ら空海さまににじり寄り、わたくしは愛する方の胸に頬を寄せ
る。 
 とくん、とくんと聞こえる心音に、手放してはならない大切なも
のを感じる。 

「……お慕い申しております……」 

 恥ずかしくてたまらないが、自然に漏れ出た言葉。恥ずかしいが、
嫌な感覚は受けない。 
 そのまま空海さまに抱き締められ、わたくしは床に押し拉がれる。 
 嵐のような激しい情夜に、わたくしのこころは震え、熱く痺れる。 
 嬉しくて愛(かな)しい温もりに、昨夜の怖ろしいことも癒され、
わたくしは眠りに落ちた。 



 昨夜は一睡もしていなかったわたくしは、深い眠りのなかにいた。 
 それを揺り起こしたのは、力強い腕で抱き起こす感触である。 
 強く接吻され、わたくしは否応なく起こされる。 
 相手が誰か――既に判っていた。 
 舌を絡め合い唾液を啜る濃厚な口づけに、わたくしは息が止まり
そうになる。 
 素肌を接しあい施される容赦ない愛撫に、わたくしは喘ぎを洩ら
した。 

「もっと……優しく、して下さい……麁乱神……!」 

 ぴたり、と手の動きが止まる。 
 目を開いてみると、いつもの空海さまより猛々しい面があった。
それは、既に何度か見ていたものだ。 

『ほう……今宵は、拒まぬのだな』 

 麁乱神が微笑み、わたくしの乳房を鷲掴みにする。胸の先端を指
先で抉り、曝け出された項に絶妙な密着の仕方で口づけする。 
 わたくしは与えられる濃厚な愛技に、堪らなくなり悶え続ける。 
 拒絶の意思のないわたくしに手を止め、麁乱神は汗に塗れて赤く
上気するわたくしの顔を覗き込む。 
 わたくしは麁乱神を真っ直ぐに見返す。 

「拒んでも無駄なことは……知っています……。そして、愛する方
と、あなたの関係も……。 
 わたくしは、ただ真実が知りたいだけ……。知るためには……あ
なたを受け入れるしかない……」 
『愁傷な心がけだな……』 

 わたくしの言葉に、麁乱神は眼光を緩め、優しげな眼差しを送っ
てくる。 
 どきり、とわたくしは胸が勝手に疼くのを感じた。 
 口元を自然に笑ませたその面と目線は、空海さまと同質のものだ
った。  
 忽ち麁乱神は悦楽でわたくし自身を吹き飛ばすような愛撫の仕方
から変え、恋人を優しく慈しむような仕草を見せる。それがまた、
空海さまのものとよく似ていて、わたくしは混乱した。 
 潤み続けるわたくしの内部に入り込み、麁乱神は自身の情を刻み
付けるように動き続ける。 
 いつしかわたくしは麁乱神の背に腕を廻し、荒神の接吻に自ら返
していた。 
 終始一貫して愛しむような態度に、わたくしの精神の鎧が外され
ていく。諸身(もろみ)になったわたくしのこころは、麁乱神の情
を直接に受け止めてしまう。 

『もう……わたしを拒むな。わたしを、愛してくれ……』 




 意識を失いかけたわたくしの耳に、麁乱神の熱い囁きが注がれた。
 わたくしはそれを、何故か愛しいと思っていた――。 



        
                           つづく





★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 今号は以上です。
 次回は来週月曜日に配信させていただきます。


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 発行者:長谷川彰子
 燈華苑:http://toukaen.fem.jp/
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