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歴史系お題小説を配布するメールマガジンです。現在は平安初期を舞台とした、帝の妃である巫女姫と高僧の恋を交えたスピリチュアル・ファンタジーを配信しています。

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2007/02/19

燈華苑・広報誌――2月19日号――

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        †〜〜燈華苑・広報誌〜〜†
             2007年02月19日号

           発行者・長谷川彰子
               燈華苑・http://toukaen.fem.jp/

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 *ごあいさつ*


 皆様、いつもありがとうございます、燈華苑の長谷川彰子です。
 
 今週も引き続き、小説のつづきを配信していきます。


 これからもガンガン日記で先行掲載していきますので、早く続き
が読みたいよ、という方がいらっしゃいましたら、

 http://d.hatena.ne.jp/ashetora/

 までどうぞ。


 では、続きをお楽しみ下さいませm(_ _)m。



★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 BNはこちら→【http://blog.mag2.com/m/log/0000176090】



 封印したと思っていた麁乱荒神に凌辱された朝。 
 互いに疲れて眠ったあと、目覚められた空海さまの肉体にあった
御魂は、空海さま御当人のものだった。 
 わたくしは安堵したが、こころに掛かることがあったので、胸の
うちの靄が取れなかった。 

「なんとしたことだ……すっかり日が高くなっているではないか。 
 余り飲み過ぎるものではないな」 

 いつもは朝が明けぬうちにわたくしの部屋から出られるので、自
身の犯した失態に気付き、空海さまは頭を抱えられる。 
 そして、既に身仕度を済ませ、傍らに端座しているわたくしを認
められ、目を見張られる。 

「どうしたのだ? そんなに恐い顔をして」 

 わたくしは、自らの顔が強ばっていることを知っていた。が、昨
夜の今朝で、穏やかな顔をしろというほうが無理というものだ。 
 思い切って、わたくしは口を開いた。自身のためにも、知らぬ存
ぜぬで済ましていい問題ではないと思っていた。 

「空海さま……昨夜、眠り込まれてから、あなた様の上に麁乱荒神
が現われました」 
「!……」 

 空海さまは瞠目され、わたくしを凝視なされる。 

「それで、朝までわたくしを……。 
 最中に、麁乱神に聞き捨てならぬことを言われました」 

 みるみるうちに、空海さまの面が険しくなってゆく。衾を手で強
く握り締め、恐る恐るわたくしをうかがわれる。 

「して……麁乱神は何と言ったのだ?」 

 わたくしは唇を噛み締め、空海さまに厳しい眼差しを注ぐ。 

「あの日……空海さまが麁乱神に捕われなさったのが、すべて空海
さまと麁乱神の策であったと……。 
 わたくしが麁乱神を封じようと、こころを押し殺して抱かれたと
き、空海さまの意識はあったのですか? 
 わたくしの苦しみを知りながら……知らぬふりをなさったのです
か? 
 空海さまは麁乱神が封じられていないのを……知っていらっしゃ
ったのですか?」 

 悔しく、悲しすぎる内容に、わたくしの声が震える。 
 唾を飲み込まれ、空海さまは声を出される。 

「………………あぁ」 

 暫しの、間。 
 頭が重い。眩暈がする。 
 それでは、何か? 
 わたくしは二人に……嵌められてしまった? 
 つまりは……騙された? 

 それは、わたくし自身、思いもしない行動だった。 

 ――パシンッ! 

 乾いた音が、部屋のなかに響く。 
 空海さまは避けることなく、わたくしの殴打をまともに受けられ
た。 
 手が痛い。愛する方の頬を打った掌が、摩擦に痺れている。 
 何よりこころが――痛い。 

「ふっ……!」 

 わたくしの口から、嗚咽が漏れる。 
 わたくしはそのまま空海さまを置き去りにし、部屋を飛び出し僧
坊から出る。 
 山を駆け上がり、三分咲きになった桜の幹に身体をぶつける。 
 わたくしは声を上げて泣いた。涙がとめどなく流れる。顔を桜に
押しつけ、幹に縋って泣き続けた。枯れることなく、涙が零れ続け
た。 
 どれくらい泣いただろう、わたくしは桜にもたれたまま、眠り込
んでしまった。 


 いつのまにか、わたくしは誰かの、優しい腕に抱かれている。 
 柔和な手が、わたくしの頭を撫でている。わたくしは相手に抱き
ついた。 
 頬にあたる感触が、弾力があり柔らかい。相手は女性なのだ。 

『そうよね、悲しいわよね? 
 でも、悲しいのはあなただけじゃないのよ。 
 あなたが哀しみ泣くことを、悲しむひとがいるのよ。 
 あなたを苛んでいると、あなた自身が思っているひとが、本当に
あなたを苛んでいるのか、もっと感じて、真実を知ってごらんなさ
い。 
 ひとつのものに捕われると、真実を見る目が盲いて、いわれのな
い目線でしか見られなくなるの。 
 本当のあなたは、どう? 疑心暗鬼になって、愛する人を失って
しまうの? 
 本当に、それでいいの?』 

 わたくしは胸に顔を埋めたまま、否、と首を振る。 

『そうよ、勇気を出してごらんなさい。 
 そして……わたくしの愛する方を救って。 
 身の置場を無くし、不浄を一身に背負ってしまったあの方を。 
 そして……隠されていた真実を知ったとき、わたくしを呼んで』 

 女人がわたくしのおとがいを取り、顔を上げさせる。 
 わたくしは目を見張る。 

「……弁才天女……」 

 目の前にいる弁才天女は、何故かわたくしに瓜二つだった。衣の
違いがなければ、鏡を見ていると捉えたかもしれない。が、天女の
身に纏っている衣は、いつも夢に見ているものだった。 
 天女は美しく微笑む。 

『わたくしは過去に、あなたの愛しいひとを愛しんだわ。 
 今度は、あなたがわたくしの愛しいひとを愛しんで頂戴。 
 そして、あの方を愛で満たしてあげて』 

 そう言い残し、わたくしの頬を一撫でしたあと、弁才天女は目の
前から掻き消えた。 
 同時に、切迫した声が徐々に大きくなって耳に届いた。 


「厳子、厳子……ッ!」 

 わたくしの肩を揺すり、軽く頬を叩きながら、空海さまが必死に
呼び掛けていらっしゃる。 
 わたくしは薄く目を開け、愛する方の姿を眼に捕らえた。 

「……空海さま……」 

 ほっと吐息され、空海さまは安堵される。 

「目覚めたか……」 

 わたくしの身体を強く抱き締められる空海さまの腕が、微かに震
えている。 
 空海さまの腕に手を添え、わたくしは見上げる。 
 いつも沈着な空海さまに似合わぬ、ひどく狼狽したお顔に、胸が
痛む。 

「居ても立ってもいられぬと思い、追い掛けてきたが、桜にもたれ
て眠り込んでいる姿を見付け、焦ったぞ」 
「すみませぬ……もう大丈夫ですから……」 

 そう言って空海さまの腕から抜け出ようとするが、強固な腕のな
かに閉じ込められ、身動きできない。それだけ、眠るわたくしに不
安を抱かれたのかもしれない。 
 仕方なく、そのまま空海さまの胸に頬を寄せる。 

「夢を見ました……弁才天女の」 
「弁才天女の……?」 

 空海さまの問いに、わたくしは頷く。 

「疑心暗鬼になってはいけない、勇気を出して、真実に触れてごら
んなさい、と……。 
 麁乱神は……空海さまの何なのです?」 

 わたくしは、もう逃れぬという意味を籠め、真摯に空海さまを見
つめる。 
 暫時目を伏せられたが、空海さまは明瞭な声で仰られた。 

「…………因だ」 
「因……確か、麁乱神自身が以前に言っておりましたわ」 

 わたくしの応えに、空海さまは首肯なされる。 

「因とは、霊魂のもとを成すもの。 
 宇宙の……大日如来から分かたれた、いわば分霊である御魂は、
何度も大元である宇宙に帰りながらも、また人界に生まれ直す。 
 何度も生を得て蓄積される記憶は、封じられながらも御魂に留ま
る。 
 我らが御魂は、今の生だけではなく、過去生からも構成されるの
だ」 

 わたくしは息を詰めて、空海さまのお言葉を聞く。 
 宇宙と御魂の関わりは、わたくしも知っている。輪廻転生を繰り
返した御魂の記憶がどうなるかも、教えを受けている。 

「では、因とは過去生の記憶のことを申すのですか?」 
「そうであるともいえるし、違うともいえる。 
 少なくとも、わたしの麁乱神やそなたの弁才天女は、記憶という
生易しいものではない。 
 だから、厄介なのだ……自身の御魂の欠片ゆえに、無下に放置で
きぬ。 
 関わると面倒なことになると知りつつも、自身の御魂のことは己
がよく解る」 
「だから……空海さまは、麁乱神を身に受けられたのですか?」 

 空海さまは、苦笑いされ、わたくしを放される。 
 立ち上がられると、空海さまは麗らかな桜を見上げられた。 

「……この地に残っていた麁乱神の御魂は、正確にはわたしの一部
ではない。が、わたしのなかには、麁乱神の記憶が確かに存在する。 
 不浄に塗れながらも、ここに留まり続けた麁乱神の想いが一番解
るのは、わたしなのだ。 
 だから……醜い姿になりながらも、番いを求め、探し続けた麁乱
神が……哀れだった。 
 それと同時に、麁乱神とわたしの想いが共鳴した。 
 ゆえに、麁乱神の番いの欠片を持つそなたを呼び寄せ、想いを遂
げさせてやった。 
 が……誤算だったのは、麁乱神の想いに刺激されたわたし自身の
想いが、どうにもならなくなるほど膨れ上がってしまったこと。 
 そして、麁乱神が昇華されず、わたしの欠片と統合されてしまっ
たことだ」 

 途方も無い空海さまのお話に、わたくしは固唾を飲んで聞き入る。 
 それよりも、聞き逃せない内容があったような気がする。 

 ――わたくしのなかに弁才天女の記憶があるですって? 
 つまり……弁才天女は、わたくしの過去? 

 そう、それならば、絡まりあった謎のすべてが、するすると溶け
てゆく。 
 請雨経法による雨乞いのとき、どうして空海さまは霊駆けしてい
たわたくしを弁才天女の真言で呼ばれたのか。 
 何故、麁乱神がわたくしに執着するのか。 
 先程夢で見た弁才天女が「愛するひと」と言っていたのは……き
っと麁乱神のことなのだ。 
 理屈では、理解できる。 
 が、実際はどうかといえば、夢には見るが弁才天女の記憶はなく、
実感がまったくない。 
 そして、わたくしを強引に犯してくる麁乱神を愛せよといわれて
も、到底無理だ。 
 じっとりと眉を寄せるわたくしに、空海さまは微妙な笑みを浮か
べられる。 

「……まぁ、納得せよというほうが、無理な話だな」 
「当たり前ですわ! 
 では何ですか? 
 空海さまが何時か意識を手放されたとき、また麁乱神が現われる
ということですか?」 
「そういうことになるな」 

 腕組みされる空海さまを、思わず睨み付ける。 

「そうなれば、わたくしは再び麁乱神に犯されるということになり
ますわね。 
 麁乱神の霊力には、わたくしでは太刀打ちできませんもの。 
 空海さまは、それでよろしいのですか?」 

 憤るわたくしに、空海さまは哀しげなお顔をなされる。 
 わたくしはどきりとし、今までの勢いを腹に収めた。 

「麁乱神はわたしを構成する一部。 
 発露の仕方は違えど、魂は同じなのだ」 
「あ…………」 

 わたくし達は、それきり黙り込む。 
 わたくしを犯してくる麁乱神は、違うように見えて、実は空海さ
まと同じなのだ。 
 雰囲気が、態度が違うからとはいえ、同じ御魂を持つひとを、拒
んでいいのだろうか……? 
 それは、性質やかたちに惑わされているだけではないのか? 
 当惑しているわたくしに、空海さまは優しい眼差しで声を掛けら
れた。 

「……そう急いで答えを出さずとも、よいだろう。 
 そなたは今、様々な事実を知らされ、混乱しているのだから」 

 のろのろと顔を上げ、わたくしは頷く。 
 空海さまは、表情を引き締められる。 

「ただ、これだけは確認しておきたい。 
 麁乱神をうちに秘めているわたしでも、今までと変わらず接して
くれるのだな?」 

 空海さまの眼のなかにある、翳り。 
 麁乱神のした行いに、空海さまご自身、後ろめたさがあられるの
かもしれない。 
 ――ここは、迂闊な答え方をしてはいけない。 
 わたくしは、しっかりと頷く。 

「……多分、空海さまのお話を聞いて、多少は麁乱神に対する見方
は変わったと思います。確かに、今すぐにこころの内を変えること
は無理ですが、努力は出来ます。 
 努力……すべきなのだと思います。 
 後ろ向きなままでいては、いけないのですわ」 

 目を反らすことなく空海さまを見据え、わたくしは告げる。 
 空海さまはやっと口元に笑みを結ばれる。 

「そなたならば、どのような状況でも、受け入れられると思ってい
た。 
 意の副わぬ入内でも、そなたは運命を受け入れ、帝を愛した。 
 そなたの柔軟さは、賛美してしかるべきものだ。 
 だから……麁乱神のことも、受け入れてくれると、信じている」 

 空海さまの過剰なお言葉に、わたくしは何とか笑みを作る。 
 ふと見ると、わたくしが張った空海さまの頬に、赤味が走ってい
た。 
 あの時は感情に任せ、力の加減もせずに打ってしまった。 
 わたくしは懺悔し、朱の入った頬に触れる。掌に靈氣を乗せ、愛
する方を癒すよう祈る。 

「お許しください……向こう見ずにも、狼藉を働いてしまいました」 

 空海さまは自身の頬を押さえるわたくしの手に掌を重ねられ、仰
る。 

「なんの、麁乱神やわたしのした行いに比べれば、こんなもの痛く
はない。 
 そなたを酷く傷つけてしまい、本当にすまなかった」 

 わたくしは首を振る。 

「もう、悩むのはよします。 
 なるように、こころが感じるままに、わたくしはすべてを受け止
めます」 

 わたくしは空海さまのお為にも、徒に憤らず、粛々と成り行きに
身を任せることに決めた。 
 悲憤することによって、本当に大切なものを失うなど、愚昧であ
り絶対に避けるべきことであるのだ。




                                                     つづく




★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 今号は以上です。
 次回は来週月曜日に配信させていただきます。


‡――――――――‡―――――――――‡――――――――‡


 発行者:長谷川彰子
 燈華苑:http://toukaen.fem.jp/
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