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歴史系お題小説を配布するメールマガジンです。現在は平安初期を舞台とした、帝の妃である巫女姫と高僧の恋を交えたスピリチュアル・ファンタジーを配信しています。

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2007/01/15

燈華苑・広報誌――1月15号――

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        †〜〜燈華苑・広報誌〜〜†
             2007年01月15日号

           発行者・長谷川彰子
               燈華苑・http://toukaen.fem.jp/

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 *ごあいさつ*


 皆様、いつもありがとうございます、燈華苑の長谷川彰子です。
 
 今週も引き続き、小説のつづきを配信していきます。


 これからもガンガン日記で先行掲載していきますので、早く続き
が読みたいよ、という方がいらっしゃいましたら、

 http://d.hatena.ne.jp/ashetora/

 までどうぞ。


 では、続きをお楽しみ下さいませm(_ _)m。



★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 BNはこちら→【http://blog.mag2.com/m/log/0000176090】




 元気な顔で仏間に現われたわたくしに、朋子と比那子は胸を撫で
下ろした。 
 空海さまに汚名を着せていなかったことが解り、早々と明るく変
わってしまったわたくしのこころの内が、我ながら可笑しくて仕方
がない。 
 昼間を思い出しながら、夜中であるが、わたくしは灯明に火を点
け、「理趣経」を読み耽っていた。 
 何人でも平等に、怒りや情欲でさえも清浄だと教える素晴らしい
経典を、わたくしはありがたいと思っている。 
 そして、唐からこれらの真言の教えを持ち帰られ、日本にて広め
ていらっしゃる空海さまを、尊い方だと賛嘆する。 
 女身でありながら、偉大な方を師に持てたわたくしは、人一倍の
僥倖を味わっているに違いない。 
 明日も如意輪法の修行があるので、起床時間が早い。いつまでも
起きていてはいけないと、わたくしは経典を閉じ床に入ることにし
た。 
 その時、僅かに襖の開く音がし、わたくしは振り返る。 

「……空海さま?」 

 寝衣姿の空海さまが、忍びやかにわたくしの寝所に入ってこられ
た。 
 わたくしは引き掛けていた上衣の袷を整え、このような夜更けに
何の御用があるのかと慌てて向き直る。 
  
「備え付けの調度に、何か足りぬものがございましたか。 
 お待ちください、今、朋子や比那子を起こしますゆえ……」 

 空海さまにとって、姪である朋子は誰よりも何かを言付けやすい
はずである。というのに、何故わざわざわたくしのもとに御用を申
し付けに参られたのか、疑問に思ったが、わたくしは無難にそう返
した。 
 が、わたくしの前に座られると、空海さまは立ち上がろうとする
わたくしの腕を強い力で掴まれ、わたくしの身動きを取れなくされ
た。 

「く、空海さま……?」 

 目の前にあるのは、どこか熱く暗い空海さまの眼。激しい情熱が
そのなかで渦巻き、わたくしを捕らえる。 
 ぞくり、と言い様のない怖気が背筋を這い上がる。 

「厳子」 
「は、はいっ」 

 いつものように隔てを置いた呼び様でなく、わたくしの真名だけ
を呼ばれる。わたくしは秘かに驚愕していた。 
 空海さまほどの験力をお持ちの方に真名を呼ばれると、言霊が作
用して呪力を持ち、容易く縛り付けられてしまう。 
 怖い程真摯な眼差しに、わたくしは応えを返すことしか出来ない。 

「如意宝珠に託したそなたのこころ、確かに受け取った」 

 びくり、とわたくしは強張る。 
 如意宝珠――潮満・潮干の玉に託したわたくしのこころを受け取
ったとは? 
 はっとし、わたくしは空海さまを凝視する。 

「あ、あの……あの玉をお渡ししたのは、ひとえに空海さまをお助
けするためで……」 

 巫女が男に呪具を手渡すのは、相手を自身の所有者――主や夫と
認め、命を捧げ誠を尽くすと約することを意味している。 
 空海さまは潮満・潮干玉を手渡すことの裏の意味を、わたくしに
突きつけ、それを受け入れられたと仰られたのだ。 
 確かに、わたくしは空海さまにならすべてを捧げよう、とこころ
に決めて潮満・潮干の玉をお渡ししたが、まさかそのこころを掴み
取られるとは、思わなかった。 
 狼狽え、わたくしは何とか言い逃れようとする。 
 が、空海さまの手の力は緩まない。 

「息災護摩のときに伝わったものは、そなたの慕情ではなかったの
か?」 
「そ、それは……」 

 あの時のわたくしは、主上の慕情を受け止めきれず苦しんでおり、
自身が真から愛する空海さまのお姿を見て、空海さまへの恋慕の情
が膨らんだのだ。自身のこころを鎮め、空海さまの御修法をお助け
しようと普礼真言を唱え祈っていたのだ。が、空海さまから御文を
頂き、まさかわたくしの霊力が伝わっているなど思わなかった。 
 それでも、伝わったのはわたくしの真言と霊力だけだと思ってい
たのだが、恋慕までも空海さまに伝わっていたとは……。 
 どうすれば、言い逃れ出来るのだろう。これは真実だ。空海さま
相手に白を切ることなど出来ない。今はその上、言霊の呪まで掛か
ってしまっているのだから。 

「わたしは、待っていたのだ……そなたと、こうなることを。 
 十歳(ととせ)の長い年月、そなたが他の男のものになっても、
わたしはそなたを忘れたことがなかった」 

 そういい、空海さまはわたくしの額髪を掻き揚げ、自然な動作で
接吻される。 
 直に触れる、熱い唇。この前のように、麁乱神に取り憑かれてい
たなどと言い訳のできない触れ合い。これは――空海さまの意思に
よるものなのだ。 
 肩に掛けていた上衣が、空海さまの手によって毛氈の上に落とさ
れる。ゆっくりした手つきで腰帯を解かれる。腕を滑って外された
寝衣が、ふさり、と床に広がった。 
 露になった素肌の上を、空海さまの節くれだった指が彷徨う。厚
い唇が項を這い、鎖骨の窪みに湿った温もりが届いた。 

 ――あぁ、まさか、こんなことになるなんて。 

 どうしてよいか解らず、わたくしは目を虚空に向けたまま空海さ
まの愛撫を受けていた。 
 衣の上から触れるだけで、わたくしの身に切ない疼きを誘った空
海さまの掌が、胸乳を包むように愛で腰の辺りを弄っている。これ
は夢か現か、それさえも定かでない。 
 空海さまに「理趣経」の存在を教えられ、その教理によって、麁
乱神に操られた空海さまとの交わりを免罪されたような気がした。
が、今度こそ言い逃れできない。これは空海さまが望んだこと。―
―破戒の行いだ。 
 わたくしはこころを振り絞り、身を起こそうとした。 

「く……空海さま、どうか、お止め下さいませ……!」 

 わたくしの下肢を愛しんでいた空海さまが、熱に浮かされた表情
で顔を起こされる。わたくしはどきりとし、一時気後れする。 
 その隙に、空海さまはわたくしの腿の付け根に指を運ばれる。ひ
くり、としてわたくしは現実に帰った。 

「い、いやっ……いけま、せぬ……!」 

 乳房など敏感な場所に直接的な刺激を受け、わたくしの身体は悦
楽に震える。身体に熱が蓄えられていく。 

「――顕教に纏わる長き因習に、そなたは捕らわれている」 

 びくり、としてわたくしは上体を起こす。 
 熱情を浮かべながらもどこか冴え冴えとした空海さまの目が、わ
たくしを見据えている。 

「戒は己を律するもの。が、それに捕らわれすぎると、即身成仏の
妨げになる。 
 人はそのままで菩薩である。人を生す行いが、宇内(うだい)の
卵を派生させる行いが、果たして不浄のものなのか?」 

 愉悦に身体を震わせるわたくしは、空海さまの問いに答えられな
い。 
 が、本当は知っている。――何をとっても、人の性質は穢れでは
ないのだと。身を堕落させる種になる怖ろしいものであるが、それ
そのものは清浄で、上手く芽吹けば悪しきものを昇華させるものだ
と。人の魂を純化するものだと。 

「そなたは己を――そして、わたしを信じよ 
 何をどう為しても、そなたはそなた、わたしはわたしである」 

 張り詰めた腕に強く抱き締められ、身体の――命の芯を繋げなが
ら、わたくしは空海さまの背に縋った。 
 わたくしと――女と通じたとて、空海さまが汚され、歪められる
ことはないのだ。もしそう思うのなら、それは空海さまを見縊り、
貶めることになる。 
 空海さまはそのままで素晴らしい方なのだ。わたくしはただ空海
さまを信じ、身を任せればいいのだ。 
 そう思い定めたとき、わたくしのなかの慕情が勢いを得て燃え盛
った。一気にわたくしの霊が開かれ、何も隔てるものがなくなった。
涙が――零れた。 
 女身の靈氣が勢いよく膨らみ、背筋を駆け上がってゆく。痙攣し、
意識に紗を掛ける。それは男身の靈氣も同じだった。互いに絡まり、
螺旋状を生して頭上に蓄積され爆ぜようとしていた。 

「空海さま……ああっ……!」 

 涙の滲んだ声を上げ、わたくしは靈氣の拡散に身を任せた。同時
に、絶大な波動を伴った男身の核が、わたくしのなかに放たれた。 
 わたくしの隣に身体を横たえられた空海さまは、幽き声で耳元に
囁かれた。 

 ――愛している、と。 



 信じればよい……自身を……愛する人を。 
 わたくしは成就した恋に酔い痴れ、眠り込む愛する人に擦り寄っ
た。 




 如意輪秘法を修める所定の十七日間が終わり、空海さまは摩尼峰
を降りられることになった。 

「空海さま、色々とありがとうございました」 

 旅支度を終え庵から出られた空海さまをお見送りするため、わた
くしは屋外に出る。 
 錫杖を地に突いて庵を振り返り、空海さまは一言呟かれた。 

「厳子姫……この庵を、堂宇に致そうか」 

 空海さまは人目があるとき、互いの秘密が漏れぬよう、わたくし
を隔てて呼ばれる。ふたりの間では了解の事柄でも、他者には明か
すことは出来ない。例え朋子や比那子などでも例外ではない。 
 空海さまは真言宗の大僧都である。女と通じたことを日の下に晒
されれば、世間の風当たりが強くなり、空海さまの威厳が崩される
怖れがある。それは、あってはならないことだ。 

「堂宇にですか? ……管理が大変になりますね」 

 わたくしは考えて告げる。 
 空海さまはにっと強気に微笑まれ、わたくしの肩を掴まれる。以
前はそれだけで心臓が高鳴った。今もそれは変わらぬが、官能の震
えを与えられるだけではなく、穏やかな慈愛をそこから感じられる。
互いの愛情と信頼が温もりを通して互いに伝わる。 

「伽藍が出来れば、そなたはその堂主になる。 
 さすれば、帝といえど、中々に手出しは出来ぬ様になるだろう。 
 既に海人と山人に申し付けてあるので、明日からでも工事が始ま
るはずだ。 
 堂宇完成よりも先に、取り合えず姫には年が明けてすぐに受明灌
頂を授けよう。姫はこれにて、完全な仏門の徒になる」 
「そうですね、お願いします」 

 受明灌頂を授けようと提案していらっしゃるが、終には空海さま
からそれに備えての出家得度の話は出なかった。 
 今のわたくしは、出家することに拘っていない。全てのこだわり
を捨て、生身のままで即身成仏することにだけこころを掛けていた。 
 それに、今にして思えば、わたくしを出家させなかったのは、空
海さまご自身のお心によったものなのだ。今のままのわたくしを、
空海さまは愛して下さっていたのだ。 




 これからの予定を交々話し合った後、空海さまは摩尼峰を下って
いかれた。 
 遠く隔てられてしまうのは切なく寂しいが、わたくしは即身成仏
の道を切り開いてゆかれる空海さまをお慕いしているのだ。遠くか
ら空海さまの心願が叶えられるのを、わたくしはお祈りするばかり
である。 
 それに、離れていても、いつもわたくしと空海さまは繋がってい
ると、わたくしは信じている。 




                           つづく





★――――――☆――――――★――――――☆――――――★


 今号は以上です。
 次回は来週月曜日に配信させていただきます。


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 発行者:長谷川彰子
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