2008/04/23
[雑学の泉 No. ]任天堂栄えて本屋は本当に潰れるのか?
日付:2008-04-23 [雑学の泉 No. 1]任天堂栄えて本屋は本当に潰れるのか? リスクマネジメントに関わることをもっと広い視点でお届けしようと考え, メールマガジンのタイトルを変更しました。今後とモヨロシックお願いいたしま す。改題第1回は,出版物と本屋について考察したいと思います。 我が家から徒歩5分ほどの商店街に,数年前まで「エステート書店」という,売 り場面積3坪ほどの小さな本屋があった。残念ながら廃業してしまったのだが,廃 業した理由は売上げが落ちたからではない。ご主人が病気になってしまったから である。世の中の常識からすると,インターネットがはびこった世の中で真っ先 に潰れていてしかるべきパパママショップなんであるが,踏ん張っていた。理由 は簡単,お客に足を運ばせる努力をしていたからである。 この本屋には,売り場の一番奥に幅1.2メートルほどの書架があって,この狭い 書架にご主人の選んだ本が所狭しと並んでいた。もちろん売れ筋の本が並んでい るが,狭い面積であるから当然ご主人が選択して並べている。その選択が実にお 客の琴線に触れていたのである。 私も,この本屋の前を通る時は立ち寄って立ち読みし,気に入った本を必ず 買って帰っていた。だから,この本屋の閉店は本当にショックだった。 一方,最寄り駅に近いところにもう一軒あった本屋が,昨年末とうとう閉店し た。こちらの本屋についてはなんの感慨もない。なぜ潰れないのだろうと不思議 だった。その本屋に立ち寄らなくても買える雑誌や文庫本が中心で,別になく なっても困らないような本屋だったからである。 さて,先日こんなニュースが流れていた。 ---------- 任天堂栄えて本屋潰れる 旭屋書店閉店の衝撃度 (ゲンダイネット - 04月21日 10:00) 街の書店はもうダメなのか。 老舗中の老舗、東京旭屋書店の銀座店と水道橋店が閉鎖を決めた。売り上げ低 迷が理由だ。 銀座店は1965年11月の開店で42年以上も営業を続けてきたが、今月2 5日に閉店する(水道橋店は6月下旬)。銀座東芝ビルの1階という場所柄、サ ラリーマンの利用者も多く「寂しい」「残念」の声が続々だ。 銀座店をよく利用したという住信基礎研究所主席研究員の伊藤洋一氏も嘆く。 「ショックです。ただ私もネットで本を買うケースが増えているのは事実です」 (伊藤氏) 夜中にネットで注文。数日後には自宅に届く。忙しいビジネスマンや近くに大 型書店のない地域に住む人には便利だ。「書店離れ」は加速していた。 もっとも本屋不況は今に始まったことではないから「何を今さら」と感じるか もしれない。しかし42年続く老舗店の閉鎖は深刻度が増している証しだ。 書店数の減少は凄まじい。01年は2万939店あったが、08年1月には1 万6512店まで減少(アルメディア調査)。毎年600店程度が消滅している という。 「書店は、任天堂DSやWiiなどのゲーム機、携帯電話に完全に客を奪われ た。新刊を買うお金があったらゲームやケータイに回す。任天堂ばかりが栄える 時代ですよ」(流通関係者) そればかりじゃない。街の書店は、中古本のブックオフやコンビニにも客を奪 われ続けている。 セブン―イレブンの雑誌・書籍・新聞の売上額は1430億円(07年度)に 達し、日本一の冊数を売る書店、紀伊国屋書店の売上額(1173億円)を軽く 上回る。 「しかも本がなくてもネットでいろいろと調べられる時代です。ただネットの情 報は断片的。本のように大きな枠組み(テーマ)がない。断片情報は入ってくる けど、それをどうやって自分のものにするか。そのために枠組みをきちんと持っ た本を私は読みます」(前出の伊藤氏) ゲームやケータイ、ネットばかりがもてはやされ、書店が消えていく。その先 にはどんな事態が待ち受けているのか。 知の荒廃でなければいいが。 【2008年4月18日掲載】 ---------- この記事を読んで,あきれた。「日刊ゲンダイ」であるということを差し引い ても,手抜きもいいところである。 この記事で登場している旭屋書店,すでに2005年に渋谷店を閉店している。視 点の一部が閉店したのであって,旭屋書店自体が倒産したわけではない。また, 渋谷のランドマーク的存在であった大盛堂本店も同年に閉店している。一方,渋 谷には東急本店の前に1998年にブックファースト渋谷店が開店している。 ウィキペディア:旭屋書店 http://tinyurl.com/4qewnd 大盛堂書店駅前店 http://www.taiseido.co.jp/menu.htm ウィキペディア:ブックファースト http://tinyurl.com/4xm8om 私自身,ブックファーストが開店してからは,渋谷で本屋に行く時はここにし か行かなくなってしまった。コンピューター関係の書籍が充実していたからであ る。ちゃんと本の内容を吟味して書架に並べていることが伝わってくるのであ る。使い物にならないハウツー本を並べて書架をふさいでいるわけではない。 ブックファーストは昨年10月に東急本店の前の建物から退去することになり, 現在は駅よりの以前旭屋書店だったところで営業している。つい最近までここで 営業していることを知らなくてまだ新店舗に行っていないので,今の品揃えにつ いてはわからない。 要するに,旭屋書店も大盛堂書店も,お客を引きつける魅力がなかったと言う ことである。特に大盛堂書店はかつて労働争議を繰り返し,客離れを引き起こし てしまった。 確かに,出版業界全体で見ると市場は縮小している。だが,ちょっと古いデー タであるが,日本印刷技術協会の1999年の次のページを見てほしい。 http://www.jagat.or.jp/column/data/1999/c904-11.htm 1990年代前半,インターネットが本格的に普及するまで,出版物の売り上げは 落ちていなかった。すでに,任天堂に代表される家庭用ゲーム機は80年代から普 及していたのであるから,今更「書店は、任天堂DSやWiiなどのゲーム機、 携帯電話に完全に客を奪われた」などということは,言えないのではないか。た だし,インターネットに接続するための道具としての携帯電話に客を奪われたと 言うのならわかる。 「1997年の出版業界は,50年の統計開始以来,初めて売上が前年比でマイナス を記録し」となっているが,この年から本格的にインターネットの影響が出てき たのだろう。 同じ日本印刷技術協会の2005年のページを見てほしい。 http://www.jagat.or.jp/story_memo_view.asp?StoryID=8894 雑誌の発行部数は大きく落ちているが,書籍の発行部数はそんなに落ち込んで いない。すなわち,雑誌はインターネットに食われているが,書籍では減少傾向 にあるものの,大きく影響を受けているわけではない。 では,なぜ雑誌の発行部数が落ちて売り上げが減っているのかであるが,理由 は簡単である。わざわざお金を払って買う価値がないからである。インターネッ トがない時代,雑誌は重要な情報源であったが,今やぺらぺらな雑誌に書いてあ る程度の情報は,インターネットでただで入手できる。最近はさらに,フリー ペーパーの登場で,印刷物であってもただで情報を入手できる。適当にきれいな 写真をくっつけて体裁だけでごまかしても,中身が価格に見合わなければお客は 買ってくれないのである。既存の雑誌は,インターネットという新しい媒体と, フリーペーパーという既存の媒体の延長線上にあるが新しい「付加価値」をつけ た媒体の挟み撃ちに遭っているという構図である。 インターネット上の断片的な情報をつなぎ合わせていけば,ちゃんとこのよう な結論を導き出せるのである。 売るものがなくなれば商売は成り立たなくなる。すなわち,本屋の経営はなり たたなくなる。 だから,そこのところをわかっていて,どのような出版物を売れば良いかちゃ んと吟味して営業努力をしている書店は生き残っている。冒頭のエステート書店 がそうだし,例えば紀伊国屋書店のオンラインショップで検索すると,どこの店 舗のどこのフロアのどこの書架に目的の本があるかわかるようになっている。紀 伊国屋書店の近くに行く用事があれば,アマゾンなんかに注文するよりてっとり 早く本を入手することができる。また,池袋のジュンク堂本店にはベンチが用意 されており,座って「立ち読み」ができるようになっている。アマゾンのような 通販と本屋の決定的な違いは,立ち読みができるかどうかにある。 ウィキペディア:紀伊国屋書店 http://tinyurl.com/5jl5ge ウィキペディア:ジュンク堂書店 http://tinyurl.com/598alr 新聞も然りである。今やインターネットで簡単に外国メディアにもアクセスで きるし,生の情報はインターネットからの方が入手しやすかったりする。すなわ ち,インターネットが登場する前のつもりでいたら,見向きもされなくなると言 うことである。 この記事,ゲーム機と書籍の売り上げを安直に結びつけて,手を抜いて書いて いるのが見え見えである。ちょっと調べればゲーム機と書籍の売り上げとの間に 相関関係がないことがわかる。だいたい創業62年くらいで「老舗」などという単 語は使わないのである。 こんな記事を書いていれば,売り上げが落ちるのは当然である。 この記事はMixiに流れたのだが,記事についたコメントは圧倒的に「それは違 うのではないの?」という,私と同じ視点に立った内容のコメントが圧倒的に多 かった。Mixiの利用者層を考えると,知の荒廃が起きているとはとても思えない のであるが,いかがであろうか。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ リスクマネジメント・雑学の泉 ・発行人 荒木純夫(あらきすみお) ・転載は発行人の署名を必ず含めてください。署名なしの転載は固くお断りします。 ・発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ ・配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000176001.html _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/



