2006/08/09
[リスクマネジメント No. 38]皇居新宮殿基本設計に見るリスク対処
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 発行人が監修・執筆している通信教育講座 工学研究社「メーカー社員のリスクマネジメント実践講座」 http://www.kogaku.co.jp/kouza/e35c.html _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 日付:2006-08-09 [リスクマネジメント No. 38]皇居新宮殿基本設計に見るリスク対処 最初に、前回と前々回に配信した記事の訂正です。 [リスクマネジメント No. 36]我が家族と靖国神社 誤:父が重い口を開いたのは21世紀にになってからの2001年、亡くなる4年前のこ とだった。 正:父が重い口を開いたのは21世紀にになってからの2001年、亡くなる3年前のこ とだった。 [リスクマネジメント No. 36]謝罪 誤:No. 36 正:No. 37 誤:博士は詩人の立場と公人の立場をしっかり分け、わきまえている。 正:博士は私人の立場と公人の立場をしっかり分け、わきまえている。 ここから、本日の内容です。 昨年の正月が明けてしばらくして、一昨年の9月25日に亡くなった父の本棚を 整理していたら、奥の方からすごいものが出てきた。以下の2冊の資料である。 新宮殿基本設計 通信連絡設備 計画書 昭和38年6月 (父の個人名) 宮内庁 新宮殿基本設計 テレビジョン放送中継設備 計画書 昭和38年6月 (父の個人名) 宮内庁 新宮殿とは、現在使われている宮殿のことであって、昭和44年4月から使用さ れている。要するにこれらの書類は、今は異なるが皇居の天皇皇后両陛下のお住 まいのある宮殿の設備の基本計画書である。父の学生時代の友人が宮内庁の職員 であったという縁で、これらの設備のコンサルタントをやることになった。当 時、都心に車で出かけたとき、父は皇居を駐車場代わりに使っていたのは内緒で ある。 表紙にはマル秘とあり、すべてのページの右下に通し番号が打ってある。通し 番号が打ってあるということは、その番号のコピーが誰の手にあるか、すぐにわ かるようになっている。 これはマル秘文書を管理するときの、基本中の基本の管理方法である。 新たにコピーを作るとき、通し番号を隠してしまえばわからなくなるが、この 通し番号には、「あなたはちゃんと記録されていますよ」という含意がある。す なわち、うっかりしたことはできないというプレッシャーを所有者にかけること になる。 最初の書類には監視カメラなどの配置図も含まれている。当然その後いろいろ 増強されているだろうが、基本的なことは変わっていないであろう。こんな資料 がテロ集団の手に渡ったらえらいことであるし、建物の配置自体が極秘事項であ る。当時の、天皇皇后両陛下のお住まいも場所がわかってしまう(今は御所とし て別の建物)。 そして、2番目の書類は我々にもなじみのある設備の基本設計計画書である。新 年の宮中参賀その他宮殿内で行われる行事のテレビニュースでの映像のアングル は、我が父が決めたことになる。 この基本設計の中に、やはりリスク対処の基本的な考え方が込められている。 計画書の中に、次のような記述がある。 ---------- 正殿では報道室内からのみ撮像が許されている。しかし正面からの撮像がない ことは画龍点晴を欠くものであり、放送中継設備立案者としては可能性だけは残 しておきたい。 このためには正殿正面入り口側にカメラケーブルコンセントをかくして置き、報 道室まで布線しておくだけでよく、又カメラケーブルは白黒標準ケーブル24心の ものでよい。 ---------- さすがにその後ケーブルを引き直したであろうし、現在はハンディカメラが主 体であるから、このようなケーブルは必要ではないかもしれない。しかしなが ら、当時のテレビカメラは据置型しかなく、カメラからケーブルを引き回す必要 が必ずあった。そのような状況で、正面からの撮影が許可されるようになったと き、カメラケーブルコンセントが用意されていなかったらどうなるか。見苦しく カメラケーブルがとぐろを巻くことになる。それがために、せっかく許可になる ものが許可されなくなる可能性もあるだろう。事前にこのようなケーブルの経路 を用意しておかなければ、後からではどうしようもない。 また、父が良く口にしていたのは、宮内庁は当初報道室にテレビカメラを固定 して据え付けようとし、それを代表取材のように使わせようとした。しかし、父 は技術革新でどんどん変化するのだからスペースだけにし、カメラ設置をやめる ように進言した。カメラを売り込みたいという金もうけだけを考えていたら出て こない発想である。 技術者が設計を行なう時、その設計の善し悪しの尺度の一つとして、どれくら い先を見通して設計できるかということがある。ハードウェアばかりでなくソフ トウェアでも同じである。ソフトウェアでは中がよく見えないだけに、さらに切 実である。また、この配線は使われないかもしれないが、リスク対処にはこのよ うな冗長性も必要であり、目先の利益ばかりを見ないという余裕も必要である。 これは、技術者が最も考えなければならないリスク対処である。すなわち、技 術者には豊かな想像力を育む情緒と余裕が必要なのである。技術者に限らず、作 業を依頼したり指示を出したりする立場の人たちにも必要なことである。 なお、これらの書類は現在銀行の貸金庫に保管してある。 ---------- 国際派を目指す人のためのリスクマネジメント講座 ・発行人 荒木純夫(あらきすみお) 株式会社ビューポイント情報科学研究所 http://www.vpi.co.jp/ ・転載は発行人の署名を必ず含めてください。署名なしの転載は固くお断りします。 ・発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ ・配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000176001.html ----------



