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私の父は創業より30年かけて上場させた売り上げ600億円企業のオーナー社長です。20年以上にわたって交わした「商人道」談義を、ひとつずつご紹介します。   山下真奈

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2008/06/22

Business is so Simple ~商人の歩き方~  第78号

      Business is so Simple : 山下真奈

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今はなき私の父は上場会社の創業社長です。
その父が日頃口にした言葉を、今では私の夫が
喜んで聞いてくれます。同じビジネスパーソン
として、サラリーマンの仕事にも十分通じるの
だそうです。どうぞよろしかったら、あなたも
そのエッセンスにふれてみてください。
そして
あなたのお仕事に生かしていただけたら幸いです。


    〜 商人の歩き方 〜  



   『 ゆるしの雨が降る 』



ふたりだけで、たまに散歩に出かけました。
父の散歩用のサンダルはいつも千円のセール品。
イトーヨーカドーで買ったもの。
じぶん用に誂えればよいものを、
あしに合わないと言っては何足も買い替えていたから、
けっきょくはずいぶん高くついています。
でも、高価な物を自分の為には、買えない。
そういう性分です。



「 真奈ちゃんな、パパはなぁ・・・」


「 ん? なぁに? 」


きっと一歩ずつあるくたびに何か考えをまとめているのでしょう。
あるいは固まり過ぎた考えを、分散しているのか。
いずれにせよ、そんなときは黙ってよこを歩きます。


「 あ、雨や! ・・・・ゆるしの雨やな。」


「 ゆるしの? 」


さっきまで暗い曇天だったのに
少し空が明るくなったなぁと思っていたところに
霧雨が降ってきています。
傘はいらない。
でも、顔にかかると少しつめたい。
涼しくて、爽やかで、そう、散歩で火照っている今のわたしにはちょうどよい。



「 不思議なことに、人間の感情や心理にあわせて
  天候は変わるんやで。
  うそみたいやな。
  パパはずっと知っとった。
  やっぱりな。たった今、雨がほしいと思っとった。」



「 じゃあこの雨はパパが降らせてるの?」



「 そうやないかな。 だってな、真奈ちゃん。
  
  ・・・パパ今日は大事な部下をひとり無くした。」



「 え?!死んじゃったの?」



「 そうやない。死んでないけどな、パパが会社から追い出した。
  お前も良く知ってる、あの石原や。

  ・・・・・。 」


「 え、パパ、泣いてるの?!」



「 泣いてる・・・いいや、そうでないよ。
  もっと複雑な感情や。

  真奈ちゃん、わしはあいつを一生懸命育てているつもりになっていたけれど
  間違ってたのかもしれん。
  
  すごく信頼していたのになぁ。楽しみだったのになぁ。
  お前の婿にしようかと思ってたくらいにな。」



え、それはちょっと。 だってずいぶんなオジサンだよ。



「 あいつ、わしのハンコを勝手に作って、わしが許可してないものにも
  ぜんぶ勝手にハンコ押してたんや。
  わしに知られてからも、反省はない。
  任されたからだと言い張ってた。
  だから、改善出来ないようなら、辞めろと言った。
  今日が期限の1ヶ月やった。」


「 それで?」


「 結局、やつは変わらんかった。
  郷里に帰って独立する言うてたけど、そんなん無理やで。
  パパの事業は規模の利益がきく商売なんやで。
  そんな何の下地もないところで出来る商売やない。
  人もいない、信用もないで、一朝一夕に利益なんか出ない。
  失敗は目に見えてるけどな。
  でも今度は助けるわけには、いかんから。」



「 パパ、怒ってるの?
  それとも心配してるの?」


「 ・・・両方やな。
  見つけたときは、怒りに怒ったし、叱りに叱った。
  それで反省するならばゆるせたんやけど。
  反省してくれなかった。正しいことやと、言い張った。
  そしたらパパはどうしたらええんや。
  いくら任せた仕事とはいえ、社長のハンコやで。
  会社をどうにだって出来てしまう。
  そんなん許可して皆が真似したら、あちこちに社長がいるようなものや。
  会社が滅茶苦茶になってしまう。
  ぜったい許したらあかん。」



「 でも怒ってるように見えないよ。
  パパ、ずいぶん悲しそうだよ。」



「 ひと月たったからな。人間そんなに長いあいだ怒ってられへん。
  思い出せば胸くそ悪うなるけど、人間は忘れる生き物や。

  それよりパパは自分が不甲斐ない。
  あんなに怒らんと、説き伏せられれば良かった。
  これからの、あいつの失敗は目に見えてる。
  準備のないのに飛び出したらあかん。
  でも今日も引き止められんかった。
  それはみーんなパパの力不足や。」



「 怒るのは自分に対してなの?
  石原さんがわるいのに。」



「 わるいわるい。ほんとーに、悪いやっちゃ。
  でもな、真奈ちゃん。
  人にはひとの正しさがある。
  今言ってることが全部正しいと、間違っていないと
  パパ自身は信じているから、真奈ちゃんに話している。
  
  だけど本当は誰が正しいなんて分からないんやで。
  正しいか正しくないかなんて、誰にも分からないんや。
  人生の終いに、ああやっぱりこれで良かったんだ と思えるように
  すべての事がらを持って行く、ただそれだけや。」


「 ・・・・・。」



「 ああ、ゆるしの雨やな。 やさしい雨や。

  あいつをゆるす。
  あいつに怒ってしまった自分をゆるす。
  なかなか難しいなぁ。
  パパの会社では、毎日まいにち許しがたいことが起きてるからなぁ。 」



空に顔を向け、雨を受けて、少し気分がはれたよう。
散歩は続きましたが、先ほどとは父の雰囲気が違いました。
ずっと足下を見ながら歩いていた父の顔が、
もう遠い空を見ているのがわかりました。



・・・ゆるしの雨がふるのは、相手のことをゆるしたい時だけではないみたい。
その日の父には、一度は心から信用した部下に対して、
怒りをもってしまったことにたいする贖罪が必要だったようです。
相手にたいして怒ってしまった。許せん!と思ってしまった。
そんな自分自身をゆるしたい。


くるしい心の内から助けを求めている時にちょうど空から落ちてくる霧雨は
まるで天からの「もういいよ。だいじょうぶだよ。」という
優しいことばのメッセージのようです。



今日の夕方、東京にはその時と同じ雨が降っていたので
この日のことを思い出しました。
ちょうどわたしにも贖罪が必要だったのかもしれません。
許し難いと思う相手に、戦いを挑んでしまっていたので。
でももう許したい。 すっかりと、怒りを手放したい。
今日はそうやって、わたし自身もゆるされたかったんです。




     ☆ ありがとうございます ☆




さっきまでは、優しいゆるしの雨だったのに
東京はすごい大雨になってきました。
地震の被災地はだいじょうぶかしら。



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 ☆ 今日もお付き合いありがとうございます。☆

      次号もお会いできるのを、
     とても楽しみにしています!

         山下 真奈


☆彡     ☆彡     ☆彡     ☆彡     ☆彡


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