eJudo 柔道家のための総合情報メールマガジン RSSを登録する

このメールマガジンは、“柔道家のための総合情報サイト!”であるeJudoの運営者が発行しています。試合速報、書評/ビデオ評、海外柔道便り、サイト内注目コンテンツの更新情報、その他柔道関連情報を配信しています。

現在休刊中です    
解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2006/05/02

2006年全日本選手権・戦評

「色々ハプニングはあったが、まあ、鈴木の3連覇ということで無難な終わり方と言えるのではないだろうか」
という感想を誰もが抱きながら見ていたであろう今年の全日本選手権決勝。残り6秒で評価は急転した。
飛び込んでの足取り大内刈による「有効」。誰もが予想し得なかった19歳石井慧の初出場初優勝である。
泉浩の「大会の華」と呼ぶにふさわしい活躍も、棟田対生田戦の豪快な一本も、一気に霞んでしまう大番狂わせだった。
棟田が敗れ、高井が敗れ、そして3連覇を狙う鈴木までもが敗れるという、
結果的には史上に残る大荒れの大会となってしまった06年全日本選手権。簡単に振り返ってみたい。

(文責:運営者 古田英毅)


■否めない「周りがふがいない」との評価


石井慧は尋常ではない。
格上をしのいで押し込み、一発取ってくるという試合は、精神的にも体力的にも、普通は一日に何度もできるものではない。
彼はこれを、準々決勝の高井洋平戦に始まり、生田秀和戦、鈴木桂治戦と3試合続けている。
しかも高井・鈴木は世界無差別のメダリストである。驚異というほかはない。
彼は、国士舘大のほか、警視庁、明治大に稽古に出向き、余った時間はウエイトとビデオ研究、
一日10時間の稽古をこなすというが、それもうなずける体力、精神力である。
まずは、その努力に敬意を表し、全日本選手権最年少優勝という偉業を讃えたいと思う。

さて、石井慧が素晴らしい選手であることは間違いないし最年少優勝という偉業の価値はいささかも
揺るぐものではないが、果たして現段階で全日本選手権を獲るに相応しい選手であろうか。一観客の
視点、野次馬的な視点から書き連ねてみたい。
石井はこの先どうなっていくかはまだわからないが、この春の選抜体重別では同じ大学生の穴井隆将の「内股」一発で沈んだばかり。
柔道スタイルも、華麗な技で魅了するというよりは、パワーでしぶとく相手を追いつめ寝技でしとめる、
出てポイントを奪うという、これは典型的な「挑戦者の柔道」である。もしくは団体戦で取りこぼしのないタイプの「負けない柔道」とでも言おうか。
(筆者のまわりで観戦していたオールドファンは「ガチャガチャ柔道」と評していた。)

本人も「まぐれです」と呆然としていたというが、こういう柔道で全日本選手権を獲った選手はいない。

かつて、石井と同じように、学生ならではの圧倒的な稽古量やパワー、勢いで全日本に迫った学生選手は何人もいた。
古くは昭和38年、猪熊功に敗退した明治大キャプテン村井正芳にはじまり、近いところでは平成9年に
荒削りながら圧倒的なパワーで並み居るベテラン勢を豪快に投げ飛ばして決勝まで進んだ村元辰寛。
しかしいずれも「まだその柔道では全日本ホルダーにはさせられない」とばかりにベテランに退けられている。
平成11年、14年に決勝まで進んだ棟田康幸などはいまだ全日本のタイトルに手が届いていない。
ほかにも、数々の学生が全日本選手権に挑んだが、いずれもその時代のトップ、もしくは全日本の門番的な重量級のベテラン達に叩きふせられている。
井上康生ですら、篠原信一という王者に屈し続け、初優勝は三度目の決勝進出、24歳の時である。
学生でトップに届いたのは猪熊功や山下泰裕、ひとにぎりの天才だけである。
彼等にはその時点で、既に誰もが認める「全日本王者の柔道」をしていたという共通項がある。華麗な投げ技、一本を取りきるスタイル。
その柔道のプリミティブさで資格に疑問符をつけられた小川直也も、今にして思えばスケールの大きい柔道で他を堂々と圧した王者であった。


石井はその点、明らかにまだ物足りない。

山下が残した
「(最年少記録を破られて)寂しい気持ちもあるけど立派だ。まだ発展途上だが、強い相手に向かっていく気持ちがある。ひたむきさを財産にしてほしい」
とのコメントにもこの思いを感じることが出来る、と感じるのは筆者だけではあるまい。

しかし、ひたむきに努力を続けて全日本に挑んだ石井に非のあるわけもない。

ここで思うのは、石井のすばらしさよりも、猪突猛進の学生にタイトル奪取を許してしまったベテラン勢のふがいなさである。

生田は、石井の攻撃に後半すっかり息があがっていた。
柔道の上手さ強さを無力にしてしまうくらいであった。
「待て」がかかってすぐさま開始線に戻る石井とは対照的に肩で息をする生田に「生田!学生相手にお前こんなんでいいんか!」と客席から野次が飛んでいた。
思わず叩頭した。
全日本という場ではあるが、階級が下の学生にパワーで押し込まれる重量級強化選手の姿に覚えた、本音の感想である。

高井は、攻め手が遅かった。有効を奪われてから見せた反撃はさすが高井というもので、押し込まれた石井には「指導」。
ただし、あまりにもその反撃が遅かった。高井が反撃を開始したときには、たとえこの先石井が故意に
膝をついたり掛け逃げをして耐えたとしても「注意」には届かず逃げ切られてしまうであろうというような時間しか残っていなかった。
なぜ、格下の石井を押し込んで追いつめていき、窮した相手が出てきたところをしっかり取るという、
王者の柔道を最初からみせてくれなかったのか。
ラスト20秒の柔道を試合開始にやってのけるだけでも、試合は高井のものになったはずである。
観客の目からみても「高井が取り損ねた」という印象の、非常に悔いの残る試合だった。

鈴木も淡泊な試合運びだった。準決勝までの勝ち上がりを見ても一本勝ちは大藤尚哉戦(小外掛)だけ
で、その試合ですら攻め手の遅さに指導を貰ってからであった。調子も良くなかったのであろうし、私
見だが、昨年、調子が悪いなりになんとか勝ち上がって結果を手にした経験に、どこか甘えるところが
あったのではないだろうか。決勝も、石井の「有効」は微妙な判定だったが、あれがポイントなしだっ
たとしても印象点で逆転される可能性は十分あった。事前に石井にあげられていた消極的「指導」も、
はっきりしたものというよりはどちらかというと「差をつけておくか」という程度のものに感じられ
た。井上不在の全日本王者としていささか責任にかける戦いぶりだと言われても仕方ないであろう。

鈴木、棟田、高井には先達として次回の責任ある戦いを求めたいし、石井には全日本王者として今後ますますの精進を期待したい。

ただ、組み合わせ的なアドバンテージも含め、棟田の敗退、鈴木の不調、自身へのマークの甘さと、今
回、石井には明らかに流れが向いていた。彼を世に出すことになった16年講道館杯決勝穴井隆将戦での
自身「まぐれ」と語る大外刈などを思うにつけ、彼にはもって生まれた勝負運があるのかもしれない。

世界と戦うには「運」も必要である。
かつて、日本海軍の児玉源太郎は、対ロシアを想定した海軍のトップに東郷平八郎を起用する際、その
理由を明治帝に「島村と東郷は同じくらいの実力だが、東郷のほうが運のつきが良い」と説明したという。
石井にはその運がある。日本一と言われる稽古量、格上との三連戦を全て制する精神力以上に、その
「勝ち運」に凄みを感じる。
全日本選手権チャンピオンにふさわしいかどうかはこの後の彼の成長を見守りたいが、すくなくとも現
時点で、日本代表として世界大会を戦う有資格者である、とは断言できるであろう。ワールドカップ日
本代表選出は妥当である。


■大会の華は泉浩

筆者が個人的に史上最高の全日本と思う03年大会、泉浩は初戦敗退したものの篠原信一を瀬戸際まで追いつめる大激戦を演じ、大会の華となった。
それ以来の出場となる今大会、またしても序盤戦の主役は泉であった。
ハイライトは三回戦の上口孝太戦。
上口といえば知る人ぞ知る巨漢選手である。
身長195cm、体重164kg。泉とは身長にして23cm,体重は74kgの差がある。お互いが開始線に立つだけで会場が沸く対照の妙であった。
試合開始直後に泉が背負い投げに潜り込むが、上口の頭はまったくぶれずに、泉は相手の上半身をひきつけることができない。
試合はつかまえて振り投げようとする上口、離れた位置から飛び込もうとする泉という予想どおりの展開。好試合である。
二,三度上口の巻き込みに泉がついていってしまい観客が沸く場面があったが、泉は粘りと身体能力でそれをぎりぎりで耐える。
ついには、組み際に右足の小外刈を合わせ、上口大きくバランスを崩す。上口は体を捻って耐えようとするが上半身の決めがしっかりしており横から落ちて「有効」。
会場はどよめき、正面席の、小兵の元祖「今牛若丸」の異名をとった大澤十段も笑顔をみせる好試合となった。
試合はそのまま泉の優勢勝ち。

泉はもちろんのこと、有効を取られた際には畳に拳を叩きつけて悔しがり、敗戦が決まると人目もはばからず悔し涙を流した上口孝太の闘志も大いに讃えたい。
上口は大会前に「全日本選手権は往々にして私みたいな大きい選手は悪役になりがちですが、そんな雰
囲気を吹き飛ばすくらい良い試合を見せます」と語っていたが、その言葉に恥じない好試合であった。
上口は確かに悪役ではあったが、そのヒールぶりは堂々としたものであった。
重量選手相手に取りきれない試合の印象が強い上口であるが、むしろこの日は泉という好敵手を迎え活躍の場を得た感があった。
少なくとも、筆者が見たことのある上口の試合では随一であったと思う。

泉は、準々決勝の穴井隆将戦も、好カードにうなる観客を前にして、背負投「有効」、小内刈「技あり」で貫禄の優勢勝ち。
階級が下とはいえ、世界選手権金メダルの実力をみせつけた。全日本選手権奪取が目標と公言しているが、それを言ってのける資格のある柔道だったと言えるだろう。

スター性のある穴井にも「大会の華」的な活躍が期待されたが、この日は得意の内股のキレがいまひとつ。
組み手の上手さと運動量をみせつけたが、高橋宏明、泉浩と強敵が続いたこともあり、会場をあっといわせる試合はできなかった。今後に期待したい。


■荒れる大会の幕開けは棟田・生田戦

ベスト8までは、非常に順当に試合が進んだ。
森・鈴木・泉・穴井・棟田・生田・石井・高井と出るべき人間がきっちりと勝ち上がってきただけでなく、顔ぶれを見ても実に豪華。
高橋宏明は敗退したものの、華のある穴井が勝ち上がったことで、スターが並んだ03年大会と比べても見劣りしない、実に胸躍る顔ぶれとなった。
それぞれ苦戦はあったものの、非常に堅く試合が進行している観があり、筆者の観戦経験から言ってもこの先大荒れの展開はちょっとなさそうな雰囲気であった。
場が一気に荒れたのは棟田・生田戦。
棟田は長い不調を脱してカイロ世界選手権からは絶好調。冬のヨーロッパツアーではカイロで苦杯を嘗
めたミハイリンにも初勝利、日本選抜では新鋭高井を退けて万全である。以前調子が悪いときに不覚を喫したことはあったが、対生田戦は順当勝ちが期待された。
しかし、苦手意識とは恐ろしいものである。
棟田は終始前に出ながら、二、三度、肩越しに相手の帯を握りこんでいた。
おそらく観客の誰もが、「前技で仕掛けておいて、勝負は裏投げ」と思っていたであろう。当の生田ももちろんそうに違いない。
とうとう繰り出した後技。
思い切り掛けた棟田の裏投げに対して、生田はしゃくるように体をひねり、体を捨てた棟田はそのまま畳に背中から落ちてしまった。
文句のない生田の一本勝ちである。
観客の悲鳴、どよめき。
直後の高井-石井戦はその余韻さめやらぬ中開始され、攻めを躊躇した高井が石井に不覚を喫することとなった。
どうにも、実力以上に、こういう大会の展開も石井優勝という意外な結果を後押ししていったような気がする。


■鈴木以上に、高井の奮起に期待
意地の悪い見方だが、今回の決勝での大番狂わせで得をしたのは一人、高井洋平ではないだろうか。
昨年の選抜、全日本、世界選手権での活躍、そして今年の選抜では棟田に敗れたとはいえそのスケール
の大きな柔道で逆に評価を高めた感すらある高井だが、「全日本準々決勝で、階級が下の、しかも後輩
に攻めまくられて敗退」というのは決定的な批判を負う可能性もある、不甲斐ない結果であった。
しかし石井がそのまま優勝したことで、高井の印象は「チャンピオン石井が駆け上る過程で不覚を取った一人」にとどまった感がある。
準々決勝から決勝までの時間では「既定路線と思われた重量級の世代交代はまた混沌としてきた」と思
われたが、終わってみれば、100キロ超級の力関係は、試合前にリセットされた印象だ。
ファンも、全日本強化陣も、そしておそらく自分自身も認める大器の高井。このまま終わる選手ではあるまい。奮起を期待したい。



■続けて欲しい世界チャンピオンの「形」演技

今回の大会では、
「投の形」を大島修次六段(取)・鴨治由貴六段(受)、
「極の形」を佐藤正八段(取)・長谷川育男八段(受)、
そして「五の形」を遠藤純男八段(取)・福島美智男八段(受)が演じた。

「投の形」はここ数年、前年の形選手権優勝者が演じている。
今年の投の形は、ここ数年では一番良いのではないかと思った。
例年、形選手権の時よりも落ちている、または稽古しすぎていてこなれすぎていると感じることが多かったのだが、今回は素晴らしかった。
相当合わせてきたのだろうという印象を受けた。

「極の形」の取・受は講道館の公式ビデオでも演じている二人。
生で見ることができ、非常に贅沢な思いを味わった。特に、僭越ながら、長谷川八段の受は絶品であった。

さて、注目は「五の形」の遠藤純男八段である。
昨年は全日本選手権で山下泰裕と白瀬英春が古式の形を演じている。
世界チャンピオンに形、それも難度の高い形を演じて貰うというのが恒例化したのだろうか。形の普及という観点からも非常に良い企画であり、好感を持った。

さて、この形の評価は難しかった。
全くの私見であるが、形というものは乱取と違い、演出が要る。
やはり、形によってハマる役者とそうでない役者がいると思うのだ。
たとえば古式の形であればちょっと枯れた小柄な老人同士が演じるのがハマると思うし、
講道館護身術であれば、体のパーツの大きい軽重量級選手タイプが格好良く見える。

昨年の山下八段の「古式の形」にも思ったのだが、本人の巧拙に関わらず、見栄えが決まってしまうところがある。

そういう意味でいうと、「五の形」に遠藤純男八段は少々ミスマッチな印象を受けた。
かつては「自然の理を示せているかどうか」というようなことを強調された難しい形であるが、巨漢タ
イプの遠藤氏が押す引くの動作をすると、本人が理合通りに動作しているかどうかに関わらず「力のあ
る人間が体重を利用して相手に力を加えている」ように見えてしまうのだ。これはもう、「役者がそうだから」という他はない。
おそらく、その点を配慮して、受には名人、かつその世代としては体格の大きい福島八段を配したのだと思うが、やや残念なキャスティングとなった。

とはいえ、世界チャンピオンが難度の高い形を演ずるというこの企画、個人的には拍手喝采して迎えたい。
昨年の山下八段の古式の形など、非常に胸躍るものがあった。
おそらくこの企画は、筆者のような人間の「形には役者がある」などというおそらくは時代遅れの認識
自体に対する無言の抗議、柔道家は形を演じなければならないという無言のアピールであるのだと思うのだ。

形の普及の観点からも、かつての世界チャンピオンが立派な指導者として形を演ずるということに対する野次馬的興味からもぜひ続けて欲しいと思うのである。



【参考】全日本上位進出者のコメント (SANSPO.COMから引用)

◆準々決勝で生田秀和に一本負けした棟田康幸(警視庁)
「自分が弱かっただけ。情けないとしか言いようがない」

◆準々決勝で後輩の石井に敗れた高井洋平(旭化成)
「初めて後輩に負けた。すごく悔しい。今までやってきたことが全部違うのかなと思う。一からやり直したい」

◆準決勝で鈴木に判定で負けた泉浩(旭化成)
「会場を沸かせて、なおかつ勝ちたかった。自分が目標とするのは無差別の優勝です」

◆山下泰裕・国際柔道連盟理事
「(最年少記録を破られて)寂しい気持ちもあるけど立派だ。まだ発展途上だが、強い相手に向かっていく気持ちがある。ひたむきさを財産にしてほしい」


----------------------------------


さて、最後に宣伝を。

今、eJudoでは、岡野功先生の「バイタル柔道ビデオ版」を紹介しています。

http://www.ejudo.info/video/okanovideos/

今回全日本選手権を観戦し、あらためて、岡野先生が解説している技、指導の精度は全く色あせていないのだなと思いました。
まだごらんになっていない方には、ぜひお薦めしたいと思います。

サンプルムービーのページはこちらです。
http://www.ejudo.info/samplemovie/


全日本選手権大会全試合結果は、「試合速報」に投稿されています。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/24467/1146317259/l50


今後ともeJudoを宜しくお願い致します。

現在休刊中です
解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る