本当の宝とは何かーー殿岡秀秋筆
詩を作る楽しみーー本当の宝とは何かーー殿岡秀秋筆
●本当の宝とは何か
朝日新聞2008年8月22日夕刊10面(3版)に「人生の贈りものーー本当の宝
はカネにならぬ 古美術鑑定家 中島誠之助(70歳)」の話が載っていました。これ
は6回連載で、ぼくは毎回楽しみに読んできました。中島誠之助さんは、テレビ東京
「開運なんでも鑑定団」でお馴染みの人です。幼くして病気で両親をなくし、伯父夫婦
の家で育てられて苦労しました。伯父が骨董屋だったが、そこで教えてもらうこともな
く、独学で骨董の目利きになるべく努力したといいます。
「骨董がどう作られ、いつの時代だったということは、知識なんだね。歴史を知ってい
ることは学問の世界であって美術鑑賞の世界ではない。」
これは詩作の世界に置きかえることができます。
詩の修辞法、たとえば喩法について知っているということは知識なのです。それは学
問の世界ではあっても、詩の創作の世界ではないということになります。
「目利きとして見立てをしようと思ったら、感動する豊かな感性を養わないと、だめな
んですよ。学問と目利きの世界の違いはそこにある。自分の心に響くかどうか、それか
ら出発していくべきでしょうねえ。」
詩人として詩を創ろうと思ったら、感動する豊かな感性を養わないと、だめだという
ことになります。学問と詩作の世界の違いはそこにあります。他人の詩の鑑賞でも、自
分の心に響くかどうか、それから出発していくべきでしょう。
「感動という土台に知識という家が建って、初めて美の殿堂が完成する。逆に、知識が
土台になると、欲張りの家になってしまい、偽物にひっかかる。よい景色を見て、よい
友だちと付き合い、よい本を読み、よい音楽を聴き、つねに感性の高い暮らしをしてい
る人が、自然に目が利いてくる。好奇心と感動で、いかに人生を包んでいるか、で
す。」
これはもうそのまま詩作の世界にあてはまります。
最後に聞き手(平出義明氏)は「――中島さんのお宝は何ですか。」と尋ねる。
「家族だね。孫を入れると、11人。見ていると、廃れる家族は、思いやりがない。家
族に限らず、人間、思いやりですね。苦労したことを栄養にして、思いやらないと。/本
当の宝は、カネにならないことですね。番組では、偽物を持ってくる人にも『大事にし
なさいよ』と言うんです。それを大切にしてきた気持ちがいいじゃない。」
本当の宝はカネにならないのだそうです。詩はカネにならないから宝かもしれませ
ん。大昔の詩でも忘れずに覚えているのがあります。それはその詩が宝だからではない
でしょうか。
「銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに勝れる宝子に及(し)かめやも」
訳=銀も黄金も玉も何になるというのか。子どもに勝る宝があるだろうか、ありはしな
い。
これは山上憶良の歌(反歌)です。万葉集の第五巻に載っています。この歌の長歌の
前に序があって「釈迦如来が説かれたのはあらゆる生き物を
いつくしみ思うことは、わが子を思うのと同じです。また愛は子に対する愛に勝るも
のはないともおっしゃった」ということが書かれているそうです。
万葉集の昔の「詩」であっても、現代の人のこころに残って響いてくる。これが本当
の宝ではないでしょうか。
●吉本隆明さんの詩人論序説3
『吉本隆明全著作集第5巻第3部』「詩人論序説」より
3孤立を個性的にうけとめて対峙する
「現在の日本の社会で、詩を本当に社会化しようとすれば、極度に人間の本質を孤立化
させられ、抑圧されている詩人が、その孤立を個性的にうけとめ、それと対峙すること
によって詩をうみだしながら、そのような個人的な体験を、できるだけ大多数の孤立さ
せられた人間の共通の課題にちかづけることによってしかおこないえないことは自明で
ある。」
極度に人間の本質を孤立化させられ、抑圧されている詩人は、その孤立を個性的にう
けとめてそれと対峙することで詩を生み出します。そのような個人的な体験を大多数の
孤立させられた人間の共通の課題に近づけることで、詩の社会化が起きると吉本隆明さ
んは言っています。
ぼくもまた、人間の本質を孤立化させられている場面を個性的にうけとめて、それと
対峙することで詩を書きます。それを大多数の孤立させられた人間の共通の課題に近づ
けます。そうすることでぼくの詩を社会化することを目指していきます。
次回以降も吉本隆明さんの「詩人論序説」を学んでいきます。これまで週1回の掲載を
してきましたが、これからは週2回を目指していきたいと思います。読者の皆様、今後も
お付き合いくださいますようにお願いいたします。
以上
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