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ナチスに虐殺された選手。健常者チームに挑む盲目の少年。目も耳も不自由な観客。そんな逸話溢れる名著や有名タレントの翻訳絵本から、緻密で重厚な学術書まで、あらゆるジャンルのサッカー書評。ワールドカップ関連書籍も現在多数掲載中。

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2009/11/23

サッカーを読む第145号:平常心



━━━━━━━━━━━━━━━━◎第 145号━━2009/11/23━━
 サッカーを読む(フットボール書評)review football books        
 ────────────────────────────
 ☆目次
  ○ 今日の本
  『平常心 サッカーの審判という仕事』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4270002050/footballreview-22
  【あいさつ】
  【書評】
  【編集後記】
  ○ 次号の本
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 サイト → http://www7a.biglobe.ne.jp/~soccer_review

 ブログ 『もっとサッカー本を読もう!』
  → http://ameblo.jp/review-football-books/ 
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  ○ 今日の本

  書籍名 :平常心 サッカーの審判という仕事
  著者  :上川徹
  出版社名:ランダムハウス講談社
  出版年月:2007年3月26日
  





 【あいさつ】

  先週は、配信が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

  ブログも、二日も穴を開けてしまい、なんだか日々の生活まで
 調子が狂ってしまいました。

  個人的なことで恐縮なのですが、毎日ブログを書くようになっ
 て、これまで以上に、特にネットでサッカー情報を追うようにな
 って、ささやかながら、日々の生活に張りがでてきてまいりまし
 た。

  ただし、毎日サッカー情報に接して、また映像でゲームのいろ
 んなシーンを見ると、ついつい熱くなってしまう自分がいます。

  先月も、あるゲームの放送を見て、イエローカードを呈示した
 審判について、冷たくあしらうような口ぶりで非難した某アナウ
 ンサーに対して、心の中で「審判の方がアンタより近くで見てい
 るし、これは攻撃、しかも決定的な場面を意図的に止めたのだか
 ら、警告が当然だろう、なんだコイツは。しかもこの平静さを装
 った上から目線の冷酷な態度は!」と激怒していました。

  いかんいかん、これでは。
  自分自身も、公平さを装いながら、すっかり冷静さを失って精
 神状態が荒れてしまった。

  そう自戒して、試合終了後に本棚から取り出したのが、この本
 です。












 【書評】

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  審判が持つべき揺るぎない精神力

 「やる気」「勇気」「根気」
  ここまで、私自身を通して審判を見てきたが、ここからは審判
 そのものを考える。審判に必要な精神力、技術などの要素を紹介
 し、審判とは何かを著してみたいと思っている。

  審判にとって精神的に不可欠なものは、やる気、勇気、根気、
 そして平常心だ。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  文面から、これが本書の後半部分で書かれていることがおわか
 りいただけると思う。この一文は本書の帯にも載っている。

  個人的な感想で恐縮だが、大変耳の痛いお言葉である。自身の
 日々の怠惰な生活ぶり、そして精神の脆弱さに恥じ入るばかりで
 ある。

  そしてこれは、ある意味、著者の、揺るぎない決意を示す言葉
 でもあるのかもしれない。

  例えば、著者は、勇気について、こう説明している。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  次は勇気。審判にとって重要な要素、「毅然たる態度」をとる
 ための根拠ともいえる。
  退場や、ペナルティエリア内でのファウルによるPKといった
 厳しい判定を下す場面がある。そのとき、判定による試合への影
 響、判定への非難などを気にしてはいけない。選手の生活やその
 先のことなどを思い浮かべてはいけないのだ。起きたことに対し
 て素直に吹けるようにしておかなくてはいけない。そこで必要な
 のは結果を恐れない強い心=勇気だ。弱さを見せ、たじろぎ、迷
 う姿を見せたら、選手はその審判を信頼しなくなる。
  そうならないためにも、勝負を左右を左右するような決定的な
 シーンでも勇気を持って、迷わず吹くことが大事だ。見たことに
 「ピッ」と吹けばいい。プレーを止める勇気を持つこと。見て見
 ぬ不利は許されない。また、見えていないものに対して、試合の
 雰囲気や選手のリアクションに影響を受けて笛を吹くようなこと
 も決してしてはいけない。見えたものは吹く。見えていないもの
 は吹かない。
  ミスを犯したときも同じだ。ミスをしても、それを取り繕うよ
 うなことをしてはいけない。ミスにミスを重ねることになり、や
 はり選手からの信頼を失う。
  だから試合前にはいつも、「自分に負けない勇気」「結果を恐
 れない勇気」を確認してフィールドに入っている。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  少々引用が長くなってしまい申し訳ないのだが、これだけを読
 むと、著者が大変厳しいお方のように思われるかもしれない。

  実際に厳しいだけの人物でないことは、すでに多くのスポーツ
 ファンが確認されていることである。ワールドカップをはじめと
 して、数多くの非常に重要な試合で審判をされている著者の姿を、
 多くの方がスタジアムで、あるいはテレビの前で目撃しているか
 らである。

  僭越ながら私の印象を述べさせていただくと、これは、審判に
 ついての必須条件を説明しただけではなく、じつは著者の人生に
 深く関わっていることを述べたものではなかったか、と思えてな
 らないのである。

  本書は単なる審判についての技術解説書ではない。むしろ、そ
 ういう類書とは対極を成すと言っても過言ではないほど、極めて
 人間臭い書物である。

  これは、世界的名レフェリーの、まさに人生万事塞翁が馬とい
 う諺に匹敵するほど豊富な人生経験を経てW杯3位決定戦にまで
 上り詰めた、著者の人生の岐路に立たされた時々の、偽らざる心
 境ではないだろうか。

  本書を最初に読んでみてまず私が個人的に驚いたのは、著者の、
 選手としての経歴である。

  著者は、じつは選手としても一流、学生風(あるいは体育会系
 とも言っていいのだろうか)に言えば、全国レベル、というやつ
 である。

  しかも、その経歴(というより、遍歴と言った方が適切であろ
 うか)もまた、尋常ではない。尋常、というやや過激な表現を用
 いたのは、それが一般人やほとんどのフットボーラーの進路選択
 などとはまるで次元の異なるものではないかと感じたからである。

  著者の年代の、全国レベルの選手の経歴として、少々変わって
 いるのは、著者が高専出身で、途中で進路変更して四年制大学に
 入っていることである(日本の教育制度の説明は、ここでは省か
 せていただく)。

  もちろん、著者は選手としても一流なので、高専時代から注目
 され、ユース代表にも呼ばれたりしている。大学時代も、東海大
 学が強豪へと変貌を遂げる重要な礎となっている。

  さらに、JSL(日本サッカーリーグ。当時の日本サッカー界
 の最高レベル)のフジタに入社。あの宮澤ミッシェルや高木卓也
 と、一瞬ながら同時期にプレーしているのである。(当時のフジ
 タは強豪である)

  その後の、今日までの経歴は、まさに日本サッカーの、一つの
 重厚な歴史そのものと言ってもよいのではないか。日本サッカー
 リーグからJリーグ、実業団チームからプロフェッショナルなJ
 クラブ、プレーヤーからレフェリー、Jリーグ審判から世界大会
 の常連ともいえる審判になっていく過程は、日本サッカー界にと
 っても貴重な体験といえる。

  弊誌の冒頭で私がことさら“勇気”について詳述したのは、著
 者が、それこそ幼少の頃から、人生の岐路に立たされたときに、
 決して後ろ向きにも投げやりのもならず、楽な方向へと安易に流
 されることもなく、常に“勇気”を振り絞って選択してきたから
 こそ、今の地位があるのではないか、そう思えたからである。



  本書では、ふだんのサッカーシーン、日常生活におけるフット
 ボール諸事情からはとうていうかがい知ることのできない審判情
 報が記されている、たいへん貴重な書籍である。

  本書の特筆すべきところは、審判の世界にも競争があり、まる
 でプロ選手がおそらく練習場やロッカールームでやっていたり考
 えていたりするであろうことを、審判もまた似たようなことをし
 ていたり思っていたりするものなのか、と思わせるようなことも、
 あれこれ書かれていることである。

  それは決して、暴露などといった下品な表現であらわされるよ
 うな内容ではまったくない。また何事かを強く訴えるといったよ
 うな煽情的なものでもまったくない。

  それは、著者の、その時々の心情を吐露したもので、著者の、
 映像で見る厳しい姿とは対照的とも言える実像を読み取ることが
 できる。著者の誠実な人柄があらわれたものともいえる。






  サッカー本、フットボール関連書籍が次々と刊行され、新聞・
 雑誌などの活字メディアからテレビ・ラジオの電波、さらにはイ
 ンターネットまで、審判に関する情報も、一昔前に比べたら、そ
 の量たるや、増えたのであろう。

  しかしながら、いったいどれだけ審判の苦労やジャッジの困難
 さを、一般のサッカーファンは認識し、また理解しようとしてい
 るだろうか。

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  審判という立場で本を出版することに抵抗を感じた。我々の仕
 事はあくまでも選手が試合に集中できる環境を整えることであっ
 て、裏方であるのは間違いない。その立場を考えると、表に出る
 ことが果たしてよいのかどうか迷った。しかし一方で、審判の世
 界が閉鎖的でどのようなことがなされているのか見えてこないと
 いうことも聞かれる。また審判の仕事が十分に理解されていない。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  著者の実直さ、真面目さがにじみでてくるような文章だと思う。
 著者の英断に感謝したいと思うのは私だけではないだろう。





 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  サッカーが今以上に発展し、文化として認められるには、選手
 と審判の協調は不可欠である。そして、現在多くの若い世代の審
 判員が日本でのトップレフェリーを目指し日々、トレーニングと
 様々な試合に取り組んでいる。以上のようなことを考えたとき、
 私の半生を通しての経験や取り組みを伝えることは意味のあるこ
 とかもしれないと思えた。さらに、現役を引退し、インストラク
 ターとして現役審判を指導する今こそがそのチャンスでもあると
 思えた。
 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  ワールドカップで笛を吹くまで、いや、審判になるまでのさま
 ざまな紆余曲折を本書で知れば知るほど、著者には後進の指導に
 あたってほしいと願って止まないのである。










 【編集後記】

  著者は、日本の審判のレベルは、世界のトップレベルだと、自
 信を持って公言しております。

  自信があっても、実力があっても、発揮できない時、本書を読
 むと、なにかヒントがあるのかもしれません。

  というよりも、私の場合、自分に自信が持てなければ、実力ど
 ころか自分にはいったい何ができるだろうかと、懊悩してしまい
 ます。



  また、審判として世界各地を巡り、世界平和などいろんなこと
 についても述べております。

  なにか一つでも一生懸命になれることがあれば、見えてくる世
 界があるものなのですね。










  ○ 次号の本
  『股旅フットボール』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4809406954/footballreview-22



  ≪文中敬称略≫







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 ◇メルマガ名
   ~サッカーを読む(フットボール書評)~
 ◇発行周期
   月(週1回発行)
 ◇発行者
   田川正治
 ◇『サッカーを読む』ホームページ
   → http://www7a.biglobe.ne.jp/~soccer_review

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