2008/11/16
dead or alive ~活死剣譜~ last scene 虞美人草・3
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ dead or alive 〜活死剣譜〜 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。 あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ last scene 虞美人草・3 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ その無念、声に乗って天に響いた。羅彩女も、成り行きを静観しながら、 香澄が屍にかえったことを聞いて、なにか心うずくものがあった。 (あれだけ強かったのが……) 反魂玉を打ち砕き、これにより屍魔が屍にかえることは避けられぬと知っ ていても。香澄が屍にかえったことは、にわかに信じがたく。死というもの は、いかなる者であろうと避けられぬものであることを、今さらながら痛感 していた。 「匹夫、うぬは香澄と何のかかわりがある」 と項羽は問いかけた。さすれば源龍、 「剣」 と股夫剣をかかげて応える。 項羽それで察しがついた。源龍と香澄は、剣の宿敵であったという。なる ほど細腕の少女ににつかわしくない剣技に、業物の七星剣。その過去は知ら ず、香澄もまた江湖の剣客であったということか。 ではあのとき、ふるさとにかえると言ったのは、実は源龍と剣をまじえる ための旅だったのか。源龍は、そこで左腕を失ったのか。 実際は違うのだが、当たらずといえども遠からず。 「だがすでに香澄はなし。左腕の仇も討てず、俺の命も、もうゆくところは ない」 香澄すでに屍にかえる、と知り。源龍、項羽を前にして愕然。そして命の 行き場を失う心境になり。己の心は項羽よりも香澄が占めていたと、あらた めて知った。 源龍の心にあったものは、香澄と闘い、勝つか、敗れて死ぬか、そのどち らかでしかなかった。いつそうなったか、それは左腕を断たれて以来、項羽 を差し置いて、香澄は源龍の心を占めた。 だが、時の流れが、天意が、香澄を奪い去ってしまった。もう、敗れて死 すこともかなわない。源龍は、己の命の行き場を失うことになった。 「否!」 源龍の嘆きを打ち消すように、項羽は吼えた。 「我に虞より、いや、香澄より受け継いだ七星剣あり。剣に生き、剣に死す を望むならば、項羽かわって相手をいたそう」 当初と打って変わって、項羽は源龍に礼を尽くす作法をとった。虞が、香 澄が一目置くほど剣士であるということが、項羽の源龍に対する印象を変え たらしい。 「いざ」 項羽七星剣をかかげ、騅をけしかけかかってくる。 源龍、項羽かかげる七星剣の紫の珠光るのを目にし、今にもさまよわんと した己が命、そこに活路を見出した。 「おう」 項羽の掛け声に烈しく応え、口に手綱をくわえ源龍隻腕ながら股夫剣をか かげ、那二零をけしかけ、七星剣を受けて立てば。 たちまちのうちに双方より烈火ほとばしり、激闘すること十数合、剣風竜 巻を巻き起こす。 騅、那二零の二騎も乗り手の心魂乗り移り、蹄たくましく地を踏みしめ、 また力強く地を蹴り駆ける。 項羽七星剣を振るい、源龍隻腕であるとも容赦はしない。また源龍隻腕な るとも項羽の剣撃も怖じることなく、右腕一本股夫剣と同化させるがごとく 存分に振るう。 張義すでに言葉もなく、今は夢の中か、と思えるほど呆け。羅彩女固唾を 飲んで、双剣のゆくすえを見守ろうとたたずむ。 幸いにして漢兵の追っ手邪魔に来ず、ふたりはさらに十数合をかさねた。 (こいつは) 源龍、項羽振るう七星剣の剣風に触れて気付くこと。かつて項羽と刃をま じえたときは、剛の一手ですべてを叩き斬る勢いであったのが、それに柔が くわわり。剛にして柔、柔にして剛。剛柔相反する要素たくみにまじわり。 ときに裂帛の気合込めて叩きつけられる龍尾か、ときに大風巻き起こさん として羽ばたく鳳翼のごとくか。 羅彩女も、それに気付いたようだ。 「こ、これは」 ぽそっと、つぶやいた。 項羽の中で、ひとひらの剣譜がひらめいていた。その剣譜に描かれるは、 剣を舞わせる虞こと、香澄の姿であった。 垓下の城で見た、香澄の剣舞。 それは項羽に新しい剣の境地をさとらせるものだった。項羽の剣舞巻き起 こす剣風に触れて、燃え尽きようとしたその命、最後に強く輝いた。 ただ、命の火燃え尽きんとした屍魔が、己が剣技を人に託するかどうか。 香澄にあったのは、魂の共鳴のみであったのではなかったか。それがさらな る共鳴を生み、項羽に新しい剣の境地をさとらせ、項羽雷に打たれた思いに 駆られるとともに、その心にひとひらの剣譜が描かれた。 (こいつは、まるで香澄とも闘っているようだ) 源龍刃をさらにまじえて、にわかに湧き上がる歓喜。香澄屍にかえろうと も、その魂、項羽の魂とともにあり。 「源龍よ、知れ、我を殺すは天のみ」 心に香澄を描きながら、項羽雷喝一声。手綱口にくわえる源龍、歯を食い しばって股夫剣を振るうを応えとする。 闘いは一進一退。いずれの剣もきらめきやまず、剣風おさまらず。 剣まじわり火花散らすたび、項羽と源龍の魂ともに響き、共鳴し合う。騅、 那二零の二騎もまた蹄けたたましく鳴り互いの瞳にそれぞれを写し合い、眼 光するどくまじえ火花散るよう。 その激闘永遠に続かんとするか。 されどいかなるものも永遠なるはなし。 それは神の悪戯か、悪魔の業か。項羽七星剣を源龍の脳天に振り下ろし、 源龍かろうじてこれをかわせば。その揺れる左袖、突如の風にひらめき七星 剣を包み込む。 「う、むっ!」 それは一瞬であった。七星剣袖に巻かれ、項羽咄嗟の動きままならず。そ こに機を見た源龍、七星剣袖を切り裂きいましめより逃れようとするところ を、股夫剣うなりをあげて項羽の太い手首に迫れば。 項羽剣柄より咄嗟に手を離し、股夫剣の切り裂く風の破片を指先で感じる。 とともに、袖断ち切った七星剣宙に浮く。 「いかん」 はっとして、慌てて手につかもうとも遅きに失した。七星剣は項羽の手よ り逃れるように、落ちた。 七星剣、騅と那二零の蹄のそばで、北斗に配列された紫の珠きらめかせな がら、地に落ち着いて。刃が欠けた。 勝負あった。 が、項羽と源龍、黙して語らず、愛馬の蹄そばの七星剣を見下ろす。 源龍の揺れる左袖が風にまかれ七星剣にからみついたのは、源龍自身意図 したわけでもなく、項羽もそれはわかっていた。偶然のことであった。では、 その偶然は何によってもたらされたのか。 (これは、天の采配なるか) 項羽はすべての終わりをさとって、騅より降りて七星剣を拾い上げると。 「ふう」 と、何か気楽そうにため息をつき。 「源龍、しばし待て」 と言う項羽の顔からは、さきほどまでの覇気は失せ。気軽に友人に語りか けるような趣の顔であった。騅を引き、戸惑う張義に強く言い聞かせて、愛 馬を預けて舟に乗せ。向こう岸へと渡らせた。 舟の中でたたずむ騅は、ずっと項羽を見つめていた。が、項羽は未練を断 ち切るように背を向けた。 すると、 「さらばだ」 と言って、源龍は項羽に背を見せ遠ざかってゆくではないか。羅彩女がこ れに続く。 無欲な奴だと、項羽は源龍の背にそう語りかけると、手に握る七星剣を、 北斗に配列された紫の珠をじっと見つめて。 「俺もゆくか」 と来た道を歩いて戻り。 たったひとり、漢軍と戦い。存分に戦ったあと、自ら首を刎ねて、自害し た。 そのなきがらに、欲に憑かれた漢兵が群がって奪い合いを繰り広げた果て に、その身体は五つにちぎれたという。 七星剣はそのどさくさに紛れて、誰かが剣身を砕き、紫の珠のみ持ち去ら れて。 破片のみが残された。 そういうことがあったとも知らず、源龍は那二零を走らせる。 回七をならべて羅彩女、 「これからどうするのさ」 と問えば、源龍しばし風を感じながら沈思して、 「そうだな、長城の向こうへいくか」 と言った。 羅彩女、そりゃいいと、破顔一笑して賛同した。 ふたりの瞳は、長城の向こうに何を見ているのであろうか。 以後、源龍と羅彩女は、中原に姿を現すことはなく。 司馬遷の史記にも、その名は記されなかった。 …… かつて垓下の城であったところは、廃墟となり。風が砂埃を運んでは、巻 き上げてゆくばかり。 城壁崩れ形を成さず、家屋も柱朽ちて倒れ果て。 その廃墟のときの流れを見守るように、片隅にしずかにたたずむ、木造り の墓碑。ところどころが朽ちかけてはいるものの、虞美人墓、と刻まれてい るのが見えた。 そばに、一輪のひなげしの花が、しおらしく咲いている。 いつからか、誰がつけたのか。 墓碑に刻まれた虞美人の生まれ変わりと思ってか、そのひなげしの花は虞 美人草と呼ばれるようになり。 花の可憐に咲き誇る様から、人は墓碑の下で眠る虞美人をしのんだ。 dead or alive 〜活死剣譜〜 完 ============================================================= 発行者:赤城康彦 http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/27/ △dead or alive 〜活死剣譜〜 本編展示URL。 メルマガ購読及び購読解除もこちらから出来ます。 購読及び購読解除の代理登録は出来かねますので、ご了承ください。 E-mail:akagiyasuhiko@hotmail.com ぜひご意見・ご感想をお寄せください。 小説の先輩、七瀬晶先生の本、只今好評発売中。 http://www.alphapolis.co.jp/book_author_profile.php?a_id=10034 上のURLで出版社での紹介ページに飛べます。 =============================================================== 当作品は配信者が以前執筆した metallic girl(http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/23/) という小説の中華伝奇風リメイクです。 またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります ので、ご注意及びご了承ください。 Copyright(C)2008 yasuhiko-akagi 無断転載、引用等を固く禁じます。 ================================================================ /-----------------------------------------------------------/ http://archive.mag2.com/0000266092/index.html 戦国を描く和風FTのメルマガ小説も配信中です。 よかったら読んでやって下さい。 /-----------------------------------------------------------/


