2008/11/15
dead or alive ~活死剣譜~ last scene 虞美人草・2
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ dead or alive 〜活死剣譜〜 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。 あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ last scene 虞美人草・2 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 城を中心にして渦巻く地の銀河乱れ、北斗七星ひときわつよく輝く。 遠く離れた小高い丘で、夜闇の中なので、はっきりと北斗七星が見えたわ けではないが、銀河を乱す凶星が現れたのはわかった。 その凶星は間違いなく香澄と項羽であろう。 銀河乱れるとともに、渦巻く怒号に銅鑼、戦鼓の響き風に乗ってやってき て、その混戦模様を物語る。 「!!」 光りと闇の渦巻いていた源龍の瞳が、かっと輝き。とっさに那二零に跨っ て、凶星を求めて疾駆した。羅彩女に回七もこれ続いた。 (香澄は、まだ生きているか) もうすぐ屍にかえるということは、知っていたが。凶星がかの七星剣であ ることを思えば、香澄はいまだ健在であるということであろう。と、源龍は 心弾ませて乱れる銀河に向かって突っ走った。 羅彩女は、自分たちが今どこに向かっているのかと思うと胆の冷える思い がしたが。ここまで源龍に着いて来たのだ、こうなればとことんまでに着い て行こうと覚悟を決めていた。 が、凶星は銀河を引っ掻き回して、それより抜け出そうとしているようだ った。 (まさか) 項羽と香澄、それに付き従う者わずかな手勢、それが地を埋め尽くすよう な大軍に殲滅させられずに逃げおおせるというのか。 項羽はもとより香澄の強さはよく心得てはいるつもりであったが、こうし て遠くから眺めてみるとその強さのほどは天井知らず。 (源龍って、ほんとおかしいよ) 羅彩女は、左腕を断たれてもなお項羽と香澄をもとめる源龍の精神構造の おかしさを、いやでも痛感せずにはおれなかった。 もっとも、 (そんな男に着いていくあたしも十分おかしいか) と思うと、変に気が楽になり、面白い気分になった。 ともあれ、凶星が銀河より抜け出すことで邪魔がずっと少なくなるのは助 かる。 源龍は那二零を疾駆させながら凶星の動きをながめ、にっと笑った。おめ おめと漢に討たれるふたりではないのはわかっていた。 なにより、求めるものを眼前にすれば源龍ならずとも心弾むを抑えられな い。 那二零も源龍の意気を読んでか、夜闇を打ち砕くかのごとくいななきも馬 蹄の響きたからかに風を打ち破りながら駆け抜ける。 凶星は銀河の中を駆けまわり、引っ掻き回すだけ引っ掻き回すと、どこへ ともなく消えて行った。凶星は、南へと消えた。 (楚へかえるのか) ここより南下すれば、楚である。 項羽のゆくところとすれば、それしかない。 楚にかえって再起を図るのか。いや、ここまで追いつめられた項羽がそこ までするとは、源龍には思えなかった。 むしろ項羽は、そして命わずかな香澄も、漢と戦って、死ぬつもりであっ たろうが。項羽と香澄があまりにも強すぎたために、死にぞこなって、成り 行きで抜け出してしまったのかもしれない。と源龍は思った。 無論その考えは外れなのだが。 「ちっ」 源龍は舌打ちする。凶星を追おうにも、やはり漢軍が道を隔ててゆくにも ゆけず。やむなく迂回して、消えた方角をたよりに、勘で追うしかなかった。 まさか源龍がそばまで来ていると知らず、韓信は項羽の決死の勢いに圧さ れた自軍を叱咤し、追撃の指揮を執ろうとする。その中にあって、 「項羽の剣は、仙女の剣だ」 という声が聞こえた。仙女、と見みまごうほどの美しさと、恐るべき剣技 をもった少女が項羽の愛妾にいて。それが仙女と言われている、ということ は耳にしてはいた。またその得物が、剣身に紫の珠を北斗の配列に埋め込ん だ剣だというこも、いま思い出した。 (項羽が仙女の剣を? どういうことだ) 仙女など、いくらなんでも大げさな、と思ってはいたが。その噂の仙女が おらず、項羽がその得物を振るっているとは、どういうことであろう。 韓信は仙女を知っている者をつかまえ、あらためてその仙女について問い ただしてみた。 「それはそれはもう、強うございましたよ。仙女剣をひと振りすれば、我が 軍の剛の者たちまちのうちに討たれてしまうありさま」 広武山でのことを、彼は語った。語りながら、思い出して身震いまでする。 それを見て韓信は、 (これはいかん) と、兵たちが想像以上に項羽と、その仙女をおそれていることを察して。 「これ以上仙女のことを口にするな。破れば、斬首だぞ」 と言い、さらに、 「項羽を討てば金千両に万戸侯の位がいただけるのだぞ。そればかり触れて 回れ!」 と剣を振り上げ檄を飛ばした。 恐怖を取り除き欲を高めるのだ。項羽を討つの機は今しかなく、これを逃 せば取り返しがつかないことになる。 理由はわからないが、幸いにして仙女は天に帰ったかおらず、項羽ひとり 仙女の剣を振るっている。剣がどのような業物であろうと、所詮はひとり。 あとの手勢はおまけのようなもので、気にかけることもない。 これが功を奏したか、次第に誰も仙女のことを口に出さないようになり。 かわって、金千両と万戸侯が異口同音に叫ばれはじめた。 漢の兵たちは恐怖を欲で覆い隠し、餓えた獣のように血眼になって項羽を 追った。しかし馬脚にまさる騅は駆け、また北斗七星きらめき血風吹かし。 たちどころのうちに逃げ失せてしまった。 それを追い、那二零、回七も駆ける。 天体はうごいて、夜闇は薄れ、空に暁。 夜闇に覆われて影絵のようだった山野の風景が、日差しによって姿をはっ きりとあらわしてきて。自分たちがどこにいるのかが、わかるようになって きた。 見事漢の大軍を突っ切った項羽は騅の脚をゆるめず、南へ南へと遮二無二 に駆けた。また騅もよくこれに応えた。 後ろにつき従うものは、なかった。皆ことごとく、漢軍によって討ち死に を遂げた。 項羽一騎、黙々と騅を駆けさせた。 やがて、長江の支流、鳥江(うこう)という河の渡し場まで来た。 この鳥江を渡れば、楚である。いや詳しくは、楚の残存地帯というべきか。 ここまで来る途中、楚を守らせていた守将の裏切りを知った。さらに己自身 に莫大な褒美がついていることも知った。 「項王よ」 川から呼びかける者がある。楚人で張義(ちょうぎ)という男であった。 男は舟に乗り、しきりに項羽に呼びかけている。 「もし来られたら、と思いお待ちしておりました。さあ、どうぞ舟にお乗り になってくださいませ。わたくしめが、向こう岸までお運びいたしまするに」 張義懸命になって、項羽に呼びかけている。楚人として、彼もまた項羽を 信奉していたし、今のすがたに漢を憎み項羽を哀れむことはなはだ大きい。 しかし、それまでひたぶるに駆けて来た項羽は、じっと張義と舟を見。ま た愛馬騅と、七星剣を見て。しばし物思いにふけったかと思うと、 「否」 と応えた。 なぜでございますか、と驚く張義に、項羽は遠くを見つめながら、笑って 語った。 「我は江南の地より兵を起こし、秦を滅ぼし覇王となるも。天意によりその 最期は近い。またこれまで我に付き従ってきた者は、ことごとく死した」 張義に、というより、天に昇ったであろう楚の将兵たちに語るような、語 り口であった。 「なるほど、川を渡り楚にかえれば、肉親の死の悲しみをこらえ皆温かく迎 えてくれよう。されど、我は恥ずかしい」 話を聞き、張義はいやな予感がし。どうぞお考え直しを、と言おうとした が、なぜか身体は震えてばかりで声が出ない。 「我に、楚の民にまみえる面目はなし」 言い終えたとき、遠くから馬蹄の響きが聞こえた。 漢の追っ手かと思われたが、違った。来るのはわずか二騎、しかも一頭は 見事な赤鹿毛の駿馬に、乗り手の剣士は隻腕。 これなん項羽を求めて追った源龍と那二零であった。少し後ろに、回七を 駆る羅彩女。 「これは、いつぞやの匹夫ではないか。うぬも我が首を求めんとするか」 迫る源龍に、項羽は七星剣をかかげて雷喝した。 しかし源龍黙して、足を踏ん張り那二零を疾駆させながら、残った右手で 股夫剣を抜き放ち。 刹那に那二零、騅に迫り、まじわる双剣きらめきをはなち火花を散らす。 少し離れて羅彩女、回七を止め。ふたりの闘いを見守り。張義は金縛りに あったように、船の上に棒立ちする。 「香澄はどうした」 「香澄、誰のことか」 「ぬかせ。お前が愛妾にしていた女だ。その七星剣を持っていた女だ。俺の 左腕は、香澄に断たれたのだ」 刃をまじえながら、源龍は項羽に吼える。漢軍に先を越されてはと必死の 思いで駆け、幸い項羽と巡り会えたものの、香澄がいない。だが項羽の振る うは、香澄の七星剣。 「香澄、それが虞の本当の名か」 「……?」 双方咄嗟に馬を引いて距離をとり、闘いの手を休める。 項羽も、いつぞやの匹夫が、隻腕になっていることに疑問をいだいていた が。まさか香澄、虞がそうしたなど夢にも思わない。 「項王よ、あんたは女の本当の名も知らぬまま、そばに置いていたのか」 「そうだ。彼女は、虞でいてくれた」 かつて、項羽が香澄を見初めたとき、「虞よ、虞よ」と叫んだことは覚え ている。虞というのがどういったものかは知らぬが、男女の恋にうとい源龍 でも、あらかたの予想はついた。しかし、本当の名を告げずそのまま虞でい たなど、夢にも思わなかった。 香澄はそこまで項羽に尽くしたというのか。屍魔でありながら。 「虞は、死んだ。本当の名を告げぬまま。そうか、香澄という名であったか」 項羽は、その手に握る七星剣を眺め、虞に、香澄に想いを馳せる。対して 源龍は、香澄が死んだ、屍にかえったことを告げられ、雷に打たれたような 衝撃を覚え。 しばし呆けたかと思うと、 「天は我が敵を奪った」 と、狼のように天に向かって猛々しく吼えた。 続く … 次回完結 ============================================================= 発行者:赤城康彦 http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/27/ △dead or alive 〜活死剣譜〜 本編展示URL。 メルマガ購読及び購読解除もこちらから出来ます。 購読及び購読解除の代理登録は出来かねますので、ご了承ください。 E-mail:akagiyasuhiko@hotmail.com ぜひご意見・ご感想をお寄せください。 小説の先輩、七瀬晶先生の本、只今好評発売中。 http://www.alphapolis.co.jp/book_author_profile.php?a_id=10034 上のURLで出版社での紹介ページに飛べます。 =============================================================== 当作品は配信者が以前執筆した metallic girl(http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/23/) という小説の中華伝奇風リメイクです。 またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります ので、ご注意及びご了承ください。 Copyright(C)2008 yasuhiko-akagi 無断転載、引用等を固く禁じます。 ================================================================ /-----------------------------------------------------------/ http://archive.mag2.com/0000266092/index.html 戦国を描く和風FTのメルマガ小説も配信中です。 よかったら読んでやって下さい。 /-----------------------------------------------------------/


