2008/11/08
dead or alive ~活死剣譜~ scene9 覇王別姫・2
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ dead or alive 〜活死剣譜〜 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。 あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ scene9 覇王別姫・2 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 血で血を洗う追撃戦は続く。 楚の兵が道々で屍をこぼすように残していけば、それを道しるべに漢の兵 やそれに組する諸侯の連合軍が血に餓えた獣さながら追いすがって、また楚 の兵たちを食らうように討ち果たしてゆく。 楚漢の軍勢が通り過ぎたあとは、楚の兵たちの血が河をつくり屍が山をな す、悲惨な情景をかもし出してきた。項羽の奮迅あれど、それも滅びのとき をすこし遅らせるほどのものでしかなさそうだったが。 天が我を滅ぼさんとしようとも、ただ滅びを待つような優しさは、項羽は 持ち合わせてはいなかった。 大薙刀うなりをあげて、覇王項羽ひたすらに血路を切り開いてゆく。 そのときであった。 ぶつかり合う鉄甲の山や渦より、一輪の花が咲くのを見た。 (あれは) 何かの錯覚か、と思っていたが。それを見たとき、項羽の心にも花が咲い た思いであった。 「虞よ!」 項羽は叫んだ。あらん限りの声で、虞よ、と叫んだ。 「項羽さま!」 呼びかけにこたえるは、まぎれもなく、虞こと、香澄であった。 滅びをさとった戦場で、待ち人は来たり。香澄は七星剣を振るい、立ち塞 がる者たちを打ち払い、項羽のそばまでやって来た。 漢兵たちは、突然現れた少女に驚きを隠せなかった。まるで風に遊ぶ蝶々 のように戦場を駆け抜け、その紫衣、紫珠の北斗に光る七星剣は剣風を巻き 起こし、これを阻もうとするものはことごとく血煙を上げた。 戦況は、たった一人の少女の出現によって変わった。漢兵たちが、いつぞ や、項羽の代わりに漢のつわものを討ち取った少女が現れたことに驚き、恐 慌すらきたしはじめたのだ。 「仙女」 ひとりがそう言うと、次から次へと驚愕は感染してゆき、ついには、 「楚に仙女あり」 と今にも楚軍を揉み潰さんとしていた漢軍が慌てだす始末。後方で軍を指 揮していた軍師、張良は前線からのそんな驚きの声を耳にして、やはりこち らも驚きを禁じえない。 せっかくの有利な展開であったのだが、軍にほつれが生じそこから崩れて ゆく危険性があったので、やむなく、 「引け」 と命ぜざるを得なかった。軍を引かせながら、貴志に智之の言ったことを 思い出し。 仙女仙女と叫ぶ漢軍の兵たちの慌てぶりを見て。 (この世に神仙のたぐいの者は、まことにあるのか) と、それまで否定していた神や仙人というものの存在に惹かれている自分 に、驚いてもいた。ともあれ、漢はあと一歩というところまで項羽を追いつ めながら、殲滅の手を緩めた。 これに楚軍や項羽が気付かぬはずはなく。楚の将兵のひとりが、 「覇王、今です。ここから垓下(がいか)の城まで、まっしぐらにお駆けあ れ」 とうながし、項羽もうなずいた。それから、ちらりと虞こと香澄を見やっ て、手を差し伸べる。 香澄はくすりと微笑んで手を取り、項羽駆る駿馬、騅(すい)の腰の上に 飛び乗り、そのたくましい背中に身を預けた。 (私は、もうすぐ屍にかえるのだ) 項羽の背に身を預け、まっしぐらに駆ける騅の鞍上にあって、香澄は、命 の火が燃え尽きようとしているのを感じていた。 そんな香澄の出現により追いつめられた項羽と楚兵たちは、かろうじて垓 下(がいか)の城まで逃げることが出来、防戦もしやすくなった。が、しか し、窮地を脱したとは言えなかった。 城の四方八方から、漢に組する諸侯の連合軍がこれを包囲してゆく。その 中に、韓信の姿もあった。 垓下の城の外、見渡す限りの包囲網。数をかぞえるなど、そんな気も起こ らぬほど。それに対して、楚は……。 かつて三万で五十万を越える漢軍を追い散らしたことがあるとはいえ、当 時と今とではあまりにも状況が違う。 楚の兵たちは皆長年の戦いに疲れ、傷つき、そこへ漢の奇襲を食らい、か つての強さは影を潜めていた。 今こそ総攻撃をかければ、と漢の誰もが息巻いた。だがそれを止めるもの があった、韓信であった。 「楚兵侮るべからずです。追いつめられた彼らは手負いの獣となって、我が 方に甚大な被害をもたらしましょう」 と言うのである。 劉邦はあと一歩というところで水を差されたようで、苦い顔をしたが、項 羽の強さを思ったとき、韓信の言もっともなことだと思い至り、平静を取り 戻した。 連合軍は巨大なまでに膨れ上がった。だがそのほとんどが日和見で漢につ いたに過ぎず、その忠誠心はいまだ計りがたい。下手をすれば、また過日の ようなことが起こらぬとも限らない。 「ではどのようにすればよいのか」 と、問う。 韓信、斉王ながらあくまで漢の臣であると神妙に襟を正して言う。 「それがしに一計あり。まずは漢王、お聞きくださるか」 「聞こう。言え」 「されば……」 韓信、じっと漢王劉邦を見据えて静かに言う。 臣のその言、空(くう)を震わせ君の耳朶に響きわたり。 劉邦の瞳は、輝きを増した。 夜になった。 包囲軍は夜を昼にせんばかりにかがり火を焚き、月も星もない闇夜から垓 下の城の姿をすくいだす。 城壁の石淡く照らし出され、それより魂が浮かび上がって夜空に飛んでゆ きそうな趣であった。 風はなく、城壁に立つ楚、項の旗。力なくしおれる。 それでも韓信は、城の中にいまだ衰えぬ光があることをさとっていた。そ れこそ、覇王項羽であった。 (思えば……) 劉邦より作戦の一切を任されている韓信は、垓下の城を眺めながらふとふ と考えることがあった。 (源龍のやつは項羽と闘いたいがために、楚を離れて、俺のやった剣ひとつ で江湖にくだったのだな) 脳裏に浮かぶは源龍のことであった。楚軍時代から今までにかけて、心許 せる友人といえば、源龍ひとりだけであった。もし、源龍が妙な気を起こさ なければ、今ごろはあの城の中にいただろうか。 となれば、源龍も敵となったであろうか。 (否! 哀れ源龍、我が敵にあらず) 韓信はあっさりと否定した。源龍は、所詮は剣一本のみをたのみとする剣 士でしかなく、戦場において軍隊を率いる才能もなくば、帷幕にあって兵法 を練ることも知らない。ただ、剣のみの男である。 (どの道、生き延びられない人間だったのだ) 真っ暗な空を見上げた。ふうー、と長いため息をついた。 張良から聞いた、彼は密命を帯びて出向いたきり、何の音沙汰もないと。 今ごろは、どこかで、屍を野にさらしているのか。 荊通が、消えた。斉王となって間もなく、どうしてか知らないが、突然気 が狂って、失踪したのだ。しかし後から思えば、荊通の気の触れる兆候はあ ったのではないか。例えば、王になれとしきりに薦めた上に、独立せよとま で言った。もっとも、荊通の助言を聞いたのは王になるところまでで、独立 はしなかったが。 そして、源龍を遠ざけるようなことを言ったのも、そうではなかったか。 (俺は狂人の言うことを真に受けて、源龍を遠ざけてしまったのか) と自責の念に駆られもしたものだった。よもや政治参謀であったほどの男 が、そのようなことになろうとは思いもよらず。かといって、後悔先に立た ず。 斉の王となった。しかし、王となったのに、心は晴れず。今まで必死にな って死地を潜り抜けながら闘ってきて、その果てに、何があるのであろうか。 気がつけば、王の位は得ても、心許せる友はなし。 韓信はかがり火のとどかない、夜闇の向こうを見据えた。 (あの夜闇のように、何も見えぬ。俺はこれからどこへと行くのか、見えぬ) 自分は、自分でも想像のしえないほどの、大きな歴史の渦の中に飛び込ん でしまったのではないか。それはあまりにも大きくうねって、韓信ですらそ れにねじられて、どうにでも出来るものではなかった。天命、というか、そ ういった実体のないものに、どのような兵法が通用するというのか。 源龍は、荊通は、そんな自分と関わろうとしたために、こんなことになっ てしまったのだろうか。 ともあれ、もうすぐ覇王は滅ぶ。で、その先は……。 見えなかった。 「むしろ江湖の一剣客として、風任せに生きられた方が、幸せであったので はないか」 などと夜闇に語ったところで、もう後戻りはできない。 自分には、やることがある。韓信は観念して、軍務にとりかかった。 覇王生けるかぎり、力なきかに見える楚兵たちはいつでもその心を奮い立 たせて戦うことが出来る。 「その心を、完膚なきまでにくじかねばならぬ」 それこそが、この戦いに勝てるかどうかの肝要なところと、韓信は見た。 心くじければ、どのようなつわものとて剣を振るうことはかなわない。 では、何をもって心をくじくか。 韓信は配下から包囲軍の状況をくまなく聞き取り、これから遂行する作戦 について綿密な打ち合わせを行った。 続く ============================================================= 発行者:赤城康彦 http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/27/ △dead or alive 〜活死剣譜〜 本編展示URL。 メルマガ購読及び購読解除もこちらから出来ます。 購読及び購読解除の代理登録は出来かねますので、ご了承ください。 E-mail:akagiyasuhiko@hotmail.com ぜひご意見・ご感想をお寄せください。 小説の先輩、七瀬晶先生の本、只今好評発売中。 http://www.alphapolis.co.jp/book_author_profile.php?a_id=10034 上のURLで出版社での紹介ページに飛べます。 =============================================================== 当作品は配信者が以前執筆した metallic girl(http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/23/) という小説の中華伝奇風リメイクです。 またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります ので、ご注意及びご了承ください。 Copyright(C)2008 yasuhiko-akagi 無断転載、引用等を固く禁じます。 ================================================================



