武侠伝奇 dead or alive ~活死剣譜~   RSSを登録する

古代中国、項羽と劉邦の時代。楚漢の戦いの水面下で繰り広げられる、人と人ならぬものと、覇王との戦いを描く中華伝奇ストーリーのメルマガ小説。

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2008/10/17

dead or alive ~活死剣譜~ scene8 死闘・5

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dead or alive 〜活死剣譜〜
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戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。
あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。
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scene8 死闘・5
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 源龍と羅彩女は咄嗟に目配せしあって、素早く刑天の両側へ回る。源龍が
右側、羅彩女は左側。
 刑天は胸の目をぎらりと光らせ、まず源龍目掛けて大斧を振るった。
 ぶうん、と空(くう)が大斧に断ち切られてうなりをあげる。その力強さ
と速さは尋常ならざり、源龍股夫剣でこれを受けようとしたが、はっとして
後ろに退いた。とともに、大斧が切り裂いた空の破片が源龍の鼻っ面を撫で
てゆく。
(こいつを受けたら、剣が折れてしまう)
 たらりと、冷や汗が出た。羅彩女はすかさず軟鞭を刑天の左胸の目に打ち
つけようとするが、その目がぎらりと光るや、その巨体に合わぬ素早い動き
で大斧を咄嗟に右から左へと振るう。
「あっ」
 やばい、と羅彩女たたらを踏んで後ろに下がる。しかし遅い。大斧はもう
自分の顔面を叩き割ろうとすぐそこまで来ている。
 というとき、大斧はぴたりと一瞬動きを止め、また右に戻ってゆく。羅彩
女の危機を見た源龍が股夫剣を刑天に突き出し、見事わき腹に当てた。
 が、しかし。
「な、なんだこいつ!」
 思わず叫ぶ源龍。慌てて大斧を避け、後ろへ下がり剣を構えなおすも。さ
っきの手ごたえからの驚きも覚めやらぬ風であった。 
(剣が通じない)
 まるで刑天の肉体は鋼でできているかのようであった。
 水朝優もその様子を見て、唖然としている。アスラとヤクシャには、剣は
通じたのに。刑天には通じない。
「はっはははは! 見たか。刑天はアスラやヤクシャなどとは違うぞ! こ
れさえあれば、天下狙うも夢にあらじ。そのための生贄として、お前たちを
血祭りにあげてくれる」
 趙高は高笑いする。後ろに控える鉄甲兵たちも喚声をあげる。
 すべては、天下のために忍びがたきを忍び、耐えがたきを耐えてきたので
はないか。
 人目をしのんで、華山の洞窟にねずみのように隠れて苦心惨憺たる思いで
屍魔をつくり、ふたたびの夢を描いてきた。
 刑天、香澄をはじめとする屍魔の軍勢を跋扈させて自分を追いつめた楚漢
に鉄槌を食らわし。
 秦を復興させるのだ。
 もうそれが実現したかのように、趙高らは恍惚となってさえいた。
(冗談じゃない。こんな化け物どもにやらちまうなんて!)
 刑天は大斧を振り回し、源龍と羅彩女は逃げるのが精一杯。水朝優は、そ
れを見てただ唖然とするしかなかった。
(もはやこれまでか) 
 秦の旧臣ながら、人の心を捨てきれず麻離夷とともに一抜けをしたのだが。
結局は趙高の目論み通り天下をこんな屍魔の化け物どもの好きなように、喰
い散らかされるのか。
 おそらく刑天は項羽の武勇をもってしても、斃すのはかなうまい。
 だが、望みがないわけではない。
(香澄!)
 ちらりと、麻離夷のなきがらを見やって、水朝優は香澄を思い描いた。
 出立の直前に、麻離夷は笛を吹いた。香澄がその笛の音を聞き、何かを思
ってくれれば、あるいは。
 あのときの、項羽の少年のような心から出た「虞よ、虞よ!」という叫び。
香澄は、項羽のその叫びに魂を突き動かされたのか。西施が呉王を堕落させ
たようにはせず、漢軍に苦戦しつつも、項羽本人はいまだ壮健である。
 香澄は項羽のそばに仕えて、項羽の精神的支えとなっているのは、まず間
違いないだろう。
 人の道具としてつくられた屍魔が、ただ人の言いなりにならず、人に献身
的に仕え支えるなど。まったくの想定外のことだった。
(魂に触れられるのは、やはり魂のみか)
 思えば、長いこと香澄と接してきたが、項羽のあの叫びをあげるような心
で接したことはあったろうか。
 いや、ない。
 その強さに関わらず、アスラやヤクシャに比べてどこか脆さがあった。源
龍、貴志とはじめて会ったとき、突然頭を抑えてうずくまったりして。
 あれは失敗だったかもしれないが、むしろその失敗があったから、項羽の
心に共鳴したのかもしれない。もし香澄が完成させられた存在であったなら、
項羽の叫びもどこ吹く風。その肉体をもって堕落させただろう……。
「刑天を斬れるは、香澄のもつ七星剣のみ。あれに斬れぬものなどなしなの
でな、ゆえに香澄に持たせたのよ」
 趙高は高笑いをしながら言った。水朝優と源龍、羅彩女は、それこそ頭を
金槌で打たれた思いであった。
 七星剣は秦の始皇帝の持つ、数多の宝剣のうちのひとつで、北斗をあらわ
した紫の球光るその剣の、斬れぬものなしという業物であった。それを、趙
高は華山へ逃げ込むときに持ち去っていったのであった。しかるべき者に持
たせるために。それが香澄であった。
 香澄は今、項羽を堕とすために項羽のそばにいる、と趙高は思っていた。
 水朝優は、前後左右を見回した。笛の音に誘われて、香澄がこの町まで来
ていないか。それが、一縷の望みだった。しかし、気配はなし。
「はっはは。さっきの勢いはどうした。さあもうお遊びはこれくらいにして、
さっさと刑天に殺されてしまえ」
 趙高の高笑いに答えるように、刑天は腹の口を大開けに開けて、耳を叩き
つけるような凄まじいまでの咆哮をあげ。大斧を振り上げた。
(韓信さんにもらった股夫剣が歯が立たねえとは……。くそったれめえ!)
 源龍は歯も砕けよとばかりに歯噛みをし、怒りと無念さでぶるぶると全身
を震わせ。股夫剣も同じように、無念に震えているようだった。羅彩女も軟
鞭を身構えつつ、打つ手なしで恐怖に身をすくめつつ後ずさりする。
 それを見た趙高。にやりといやらしい笑みを浮かべる。
 男でなくなった趙高は、女に対して、捻じ曲がった憎しみを抱いていた。
 ことに美しければ美しいほど、憎しみは捻じ曲がりに捻じ曲がるのである。
「刑天、まずこの女を粉々に打ち砕いてしまえ!」
 趙高が采配を振るように反魂玉をかかげると、刑天はおぞましい声で吼え
羅彩女に打ちかかった。羅彩女は恐怖にすくんで身動きが出来ず、大斧の巻
き起こす大風になぶられるがままだった。このままでは、まさしく大斧で砕
かれてしまう。
 振り上げられた大斧が羅彩女の頭上にかかげられ、今まさに振り下ろされ
ようとするとき。黒い影がさっとひと飛び、刑天の斧の横っ面に蹴りを入れ
た。
 不意打ちに斧を蹴られて、さすがの刑天もよろりとよろけた。源龍であっ
た。羅彩女ははっとして、咄嗟に遠くへと飛び逃げた。が、それを鉄甲兵が
取り囲む。とはいえ、さすが人間相手には羅彩女は強く、軟鞭を振るい、十
人を越える鉄甲兵たちを相手に一歩も退かず一戦まじえる。
 刑天には源龍が当たった。
 当たった、と言っても剣を構えつつも、大斧をかわすばかり。隙をうかが
い、胸の目、腹の口を狙うもなかなか好機を得られず。大斧巻き上げる風に
身をなぶられてばかりいる。
 強靭な肉体とて、まさか口内や眼球にまで行き届くまいと思っていたが、
やはり刑天もそれを心得えている。むしろ相手がどこを狙っているかがわか
っているため、防御もたやすく、攻めるにもさほどの遠慮なく斧を打ち込め
る。
 項羽と互角に渡り合い、龍且を討ったほどの剣豪が、ひたすら大斧の風に
なぶられるこの様を見て、水朝優は覚悟を決めねばなるまいかと歯噛みした。
 その時。
 疾風が、閃く北斗疾風となって刑天向かって駆け。
 刑天源龍をひとまず置いてこれを受け、大斧を北斗に振り上げ、ぶうんと
振り下ろす。
 北斗は紫に閃くや、大斧の脇をかすめてひらりと飛べば。
 ばっ、と刑天の肩から血が溢れ出す。
 刑天まさか我が身に傷を受けると思わず、腹の口から雄叫び上げてわめき
ちらし、大斧をぶんぶん阿呆のように振り回す。
「なんだと!」
 その場にいた人間たちはこの突然のことに驚き、目は北斗を追った。北斗
は斬りつけた刑天を踏み台にしてさらなる高みへ飛んで、家屋の屋根の上で
光り輝いていた。
「香澄!」
 源龍と水朝優が同時に叫んだ。
 月下に北斗光る、七星剣。それを手にし、夜気を含んだような黒き瞳で、
下界を月とともに見下ろす。
 なきがらとなった麻離夷と貴志を見る目は冷たくも、静かに瞳を閉じて黙
想する。ふたりに祈りを捧げているのか。
 黙想を打ち破るような雄叫びを上げ、刑天は我が身を傷つけた香澄憎しと、
その身に合わず高々と飛び上がり、大きく振りかぶって横殴りに大斧を香澄
にぶつけようとする。
 かっ、と香澄は開目し。
 切っ先を下にして七星剣を縦に構え、大斧と相対すれば。
「……!」
 やられる、剣もろとも大斧に砕かれてしまう。だれもがそう思った。だが、
その予想は裏切られ、うなる刑天の大斧は行く手をさえぎる七星剣に真っ二
つにされてゆく。
 趙高は開いた口がふさがらず、ことのなりゆきを黙って見守っていた。
 大斧の上半分が、虚しく風を切って飛び、暗闇の中へ消えてゆく。それを
見た香澄は、刑天の頭上を飛び越え家屋の屋根から跳躍し、地上へ飛び降り
ようとする。
 その先には、源龍がいた。
「なに」
 源龍は股夫剣を構え香澄にそなえたが、衣はためかせ宙舞う香澄のその姿
は、あたかも月より舞い降りた月姫か天女のようで、思わず見惚れてしまっ
た。
 その目は、冷たく刺すように源龍を見つめ。瞳の中へと吸い込まれてゆき
そうだった。
(こいつは屍魔だぞ!)
 はっ、とすんでで己を取り戻したが、咄嗟に差し出すは股夫剣でなく空い
た左手。
 香澄は狙い澄ましたかのように、その左手の掌の上に右足を乗せた。重さ
は感じず、まるで羽毛がひらりと乗っているかのようだ。

続く

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発行者:赤城康彦
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当作品は配信者が以前執筆した
metallic girl(http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/23/)
という小説の中華伝奇風リメイクです。
またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります
ので、ご注意及びご了承ください。
Copyright(C)2008 yasuhiko-akagi
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