2008/10/14
dead or alive ~活死剣譜~ scene8 死闘・4
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。 あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ scene8 死闘・4 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ アスラは狼狽し手も足も出せなかった、それをいいことに貴志はそれを踏 み台にして、力いっぱいヤクシャ目掛けて跳躍した。 「なんだと!」 またも予想外ことに、ヤクシャは翼を羽ばたかせ上昇しようとしたが遅き に失し、がっしりと左足をつかまれてしまった。それから、蔦をのぼるよう にして足から腰、腰から腹へとよじのぼって、剣を腹に突き立てた。 「お、おのれ!」 ヤクシャは喚いて、貴志の頭に力いっぱい拳をぶつけた。それでも踏ん張 られ、落とせもせずに、貴志にしがみつかれた重みと、剣を腹に突き立てら れたことで、鳥のように飛ぶことかなわず。地上に向かってまっさかさまに 落ちてゆく。 「馬鹿な、馬鹿な。人間ごときに……」 と言っているうちに、ふたりとも地上に叩きつけられてしまった。強い衝 撃に襲われ、目まいのするところへ、また何かが頭にぶつけられて、頭蓋を 叩き割られてしまった。 ヤクシャは屍に戻った。 ヤクシャの頭蓋を叩き割ったのは、羅彩女の軟鞭だった。 「ありがとう、彩姉さん。恩に着るよ」 仰向けに倒れ、虫の息で貴志が、そう言った。 「馬鹿なことをお言いでないよ! あたしは麻離夷さん守れなかったんだよ、 次の仇はあたしだろ、生きてあたしを……」 「それは……、気にしなくていいよ。わざとじゃないのは、わかってるから」 「だけど、だけどさ」 「気持ちは嬉しいけど、もういいよ。麻離夷が待ってる」 「え?」 虫の息の貴志に、羅彩女は今にも泣き出しそうにしながら、声をかけるが。 その耳にはあまり届いていないようだった。 「麻離夷、麻離夷。今行くから……」 消え入りそうな声でつぶやきながら、右手を天に向けて上げた。貴志は微 笑んでいた。 それから、力なく右手は倒れ。瞳は静かに閉じられた。 貴志は、なおも微笑みながら、息絶えた。 「貴志……」 羅彩女の瞳が濡れ、涙があふれ出る。水朝優も言葉もなく、麻離夷と貴志 の死を悼むより他はなく。 源龍も悲痛な思いに駆られ、その瞳に光りが増して、眼光鋭くアスラを睨 みつける。 股夫剣を握る手に力がこもり、全身から剣気がただよう。それに呼応する ように、股夫剣はきらりと光って、震えているようだ。 「ひっ」 すっかり狼狽したアスラには、さっきまでの強気はなく、ただの化け物と 成り果てていた。雑魚の屍魔どもといえば、自分たちを操っていたヤクシャ が屍にかえったことで統率をなくし、思い思いに共食いを始める始末。 そんな屍魔にもいささか生き物らしいところは残っているのか、源龍や羅 彩女らが強いと知ると近寄りもしない。 そのおかげで、面倒をかけずに屍魔は減る一方だった。 「所詮こんなもんか」 ぽそっとつぶやく水朝優。大月氏まで旅をして手に入れた秘術も、ひとつ 狂いが生じればすべてが狂ってご破算になる。奇跡などなく、結局人間の世 界の法則から飛び出すことは不可能だった。 じり、っと源龍と羅彩女はアスラに迫る。 「た、助けてくれ、死ぬのはいやだ!」 「同じことを言った人間に、お前は何をした!」 わめいて逃げようとするアスラを、叩き斬ろうと源龍が、叩き潰そうと羅 彩女が得物を手にして追いすがる。 と、何を思ったかアスラが立ち止まった。 今だ! と源龍の股夫剣と羅彩女の軟鞭が後頭部に叩きつけられる。 アスラは断末魔の悲鳴を上げて、あっけなく屍にもどった。その顔は、ど うしようもないほどの恐怖に歪んで禍々しく、醜かった。 「……?」 斃したには斃したが、相手があまりにも恐怖におののいているその様を、 源龍と羅彩女は不審に思った。そんなアスラの屍に、屍魔どもが群がり、食 ってゆく。同じように、ヤクシャの屍にも屍魔がたかる。 けったくその悪い光景だった。 源龍は忌々しく地に唾を吐き捨てる。羅彩女は目をそらす。 だが、その場から離れなかった。 新たな殺気が、この死の町を覆ってきているのを感じたからだ。 「まだいるか」 と、心を新たに得物を構えなおす。 水朝優は、 「来やがった。刑天だ……」 と忌々しそうにつぶやいた。 竜舌のような火が鎮まってゆき、かわって夜の闇が町を覆う。その闇の向 こうより、やってくる一団があった。 遠目に見れば、上半身裸の、大斧を持った巨漢を先頭にして、四人の人間 のかつぐ輿があった。その輿に、身分卑しからぬ者が乗っているようで。そ の後ろに、数名の武装した鉄甲兵が随従している。 殺気はその一団から立ちこめているようで、アスラはそれを察して金縛り にあったのかもしれない。 近づくにつれ、源龍も羅彩女も、言い知れぬ殺気に縛られるようなものを 覚えずにはいられなかった。それと同時に、先頭の大斧を持つ巨漢の姿が見 えるにつれて、溢れる殺気は身体を押し潰しそうなほどに五体をしめつけた。 「け、刑天……」 源龍、羅彩女ともに漏れる声でつぶやいた。それは古代の神話に伝わる鬼 神、刑天であった。 首がないにもかかわらず、源龍と羅彩女の頭ひとつ、いやふたつ分も飛び ぬけて背が高く。筋骨隆々とし、腹の口には禍々しい牙が生えて。まさに異 形の妖魔そのもので。周囲の空気も、ひとたび刑天に触れればたちまちのう ちに殺気に塗りこめらて。 殺気が全身の毛穴から忍び寄りそうな不快感すら感じた。 まことこれが人の手によってつくられたのだろうか。秘術をもってとはい え、今さらのように刑天の異形にアスラやヤクシャ以上の恐れを感じた。 源龍と羅彩女は、己がいかに小さな存在であるかというのを思い知らされ るようだった。 (項羽と互角に闘い、龍且を討ったこの俺が、屍魔に恐れをなすなど……) アスラとヤクシャは、正気を失った貴志の捨て身があったればこそ斃せた のだが。 刑天には、勝てるかどうか。源龍も羅彩女も、自信が持てなかった。 (無様なやつだな、俺は) と、源龍は自分をなじる。 自分は、項羽と闘うことをあれほど願っていた剣士のはずだった。どのよ うな強敵も、望むところであった、はずだ。 それが、香澄と出会ってから、おかしくなってしまったようで。 輿に乗る者は、趙高であった。反魂玉を手に持ち、周囲の状況をうかがう と、闇夜でもわかるほどに顔をゆがめ、 「おおお、おおお」 と声を震わせ呻いている。 先陣として先に華山から下りたアスラとヤクシャが斃れ、屍魔どもが統率 をなくして共食いをしている今のこの光景が信じられないらしい。 それが、目の前の人間によるものだということは、すぐに察しがついた。 「こはそもいかに。なぜに我らが屍魔の軍勢がこうも敢え無く敗れたのか」 「知れたこと!」 水朝優だった。趙高に憎悪の目を向け、怒鳴り散らす。 「生命をもてあそぶ外道の所業、それで天を治めることなど出来ぬというこ と! 自惚れの果てに、命を懸けた勇士によって屍にかえったアスラとヤク シャの無様な最後、見せてやりたかった!」 「う、うぬ。この裏切り者めが。どの面下げて……」 「ふん、この面さ!」 己を指差し、ことさらに憎悪を向ける水朝優。趙高はもちろん、付き従う 鉄甲兵たちもあまりのことにざわめいている。 華山を下りれば、アスラとヤクシャの屍魔の軍勢が下界を制圧していると、 てっきり思いきっていただけに、この動揺は大きかった。 秘術によって蘇った屍魔、とくに心魂をそそいでつくり上げて、人を超え たと思っていたアスラとヤクシャまでもが、人間の手によって斃されようと は。秦の復興夢にあらず、と華山で屍魔どもに囲まれながら趙高のいうこと を信じて耐え忍んできた日々は、なんだったのであろう。 人間の家来たちの動揺を察して、趙高はこれはいかんと気を持ち直して。 刑天を見やった。 (そうだ、まだ刑天があるではないか。また、項羽の愛妾となった香澄もあ るではないか。アスラとヤクシャが斃されたところで、何ほどのものがあろ う。屍魔など何度でも作り直せるではないか) と思うと、にわかに勇気が湧いて、 「面白し。されば刑天を同じように斃せるか否か、やってみせよ」 と言い、さっきとは打って変わって高らかと笑った。 水朝優もさっき勇ましいことを言ったのと打って変わって、歯軋りしてい た。源龍と羅彩女が刑天を前に、身動きしないことが気にかかったのだ。無 論殺気は水朝優も感じている。 趙高は鼻高々に後ろに振り向き、 「見ていよ、今に刑天が忌々しい人間どもを血祭りにあげてくれよう」 と鉄甲兵に言うと、彼らも同じように刑天に望みを託して、おおっと喊声 を上げた。 「ふん、見たところ、麻離夷と誰か死んでおるの。そこなふたりは震えてお るようじゃが、ようもまあそれでアスラとヤクシャを斃せたものよ。刑天は、 まぐれでは斃せぬぞよ」 嘲りをたっぷり含んで、趙高は源龍と羅彩女に言った。徐々に冷静さを取 り戻し、状況をよく確かめてみれば、相手も無傷ではないことがわかった。 貴志は知らず、麻離夷が死んでいたことをわかって、ざまを見よ、と気分が 良くなりもした。 続く ============================================================= 発行者:赤城康彦 http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/27/ △dead or alive 〜活死剣譜〜 本編展示URL。 メルマガ購読及び購読解除もこちらから出来ます。 購読及び購読解除の代理登録は出来かねますので、ご了承ください。 E-mail:akagiyasuhiko@hotmail.com ぜひご意見・ご感想をお寄せください。 小説の先輩、七瀬晶先生の本、只今好評発売中。 http://www.alphapolis.co.jp/book_author_profile.php?a_id=10034 上のURLで出版社での紹介ページに飛べます。 =============================================================== 当作品は配信者が以前執筆した metallic girl(http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/23/) という小説の中華伝奇風リメイクです。 またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります ので、ご注意及びご了承ください。 Copyright(C)2008 yasuhiko-akagi 無断転載、引用等を固く禁じます。 ================================================================ /-----------------------------------------------------------/ http://archive.mag2.com/0000266092/index.html 戦国を描く和風FTのメルマガ小説も配信中です。 よかったら読んでやって下さい。 /-----------------------------------------------------------/


