2008/10/10
dead or alive ~活死剣譜~ scene8 死闘・2
/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ dead or alive 〜活死剣譜〜 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。 あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ scene8 死闘・2 /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 町のあちこちで火の手も上がり、火の手は夜空より降りそそぐ月光を払い のけるように、その龍舌を燃え立たせ、死の町を照らし。そこはあたかも地 獄が地上に浮かび上がったかのようだった。 いかに百戦を経た歴戦のつわものとて、この光景に胆を冷やさずにはおれ ず。貴志に羅彩女はもちろん、源龍すら身震いして震えを覚えるほどだった。 貴志は何かを踏んだ。それは変に柔らかく、何だと思ってみれば、人の手 で。慌てて後ずさるあまり、転びそうになって。 羅彩女は何かを蹴ったかと思えば、それも軟らかにしていくらかの重みも あり。見てみれば、自分と同じ年頃の女の、首のない屍で。首はどうしたの かといえば、屍魔が球で遊ぶようにしてもてあそびながら、上手そうに食し ていた。 あまりの光景に、思わず口に手を当て、空腹であったにもかかわらず中の ものを戻す始末。 幸か不幸か見慣れてしまっていた水朝優と麻離夷ではあったが、それでも 戦慄を覚えずにはいられなかった。 源龍すら、身動きひとつせず、この地獄の光景に魅入られたように呆けて いる。それでもどうにか口はようやく動かし、水朝優に語りかける。 「香澄も、こんな風に人を食っていたのか」 「いや、香澄は人は食わなかった。食わさなかったさ。俺でも人の心はある さ」 「人を食わなくても生きていけるのか、屍魔は」 「まあな。剣技も優れていたし、わざわざ人食いにする必要もなかったし、 それに……」 「それに?」 「呉王を腑抜けにした西施よろしく、項羽か劉邦に近づけさせるつもりだっ たからな。間違って近づけさせた男を食ったら、意味がないだろう」 「なるほど」 なるほどと言いつつも、源龍はけったくその悪さを感じてやまない。屍魔 が人を食うのではなく、それをつくった人間が屍魔に人を食わせていて、さ らに屍魔を人間の妾にまでしようとし、真に恐ろしきは人の心であることを、 まざまざと見せ付けられる思いだった。 「何をごちゃごちゃとくっちゃべっとる!」 どっと溢れんばかりに吼えたけるものがあった。六本腕のアスラだ。 「お、用済みの水朝優に麻離夷か。そうか、わしらに食われに来たか」 と言うと、すかさず夜空よりヤクシャがアスラのそばに降り立つと、 「助太刀、いや馳走も持って来てくれるとは、これは祝着。見れば女もいる な。では、ありがたくいただくとしよう」 源龍らは何かを言い返そうとしたが、問答無用とばかりにヤクシャは笛を 吹く。が、音はしない。それは屍魔にのみ聞こえるように細工された音無し の笛のようだった。 死肉をむさぼっていた屍魔は、見えない糸に操られるようにして、源龍ら 一行に群がってくる。それを見て、麻離夷ははっとしてヤクシャに問うた。 「彭城で香澄が言うことを聞かなくなったのは、まさか」 「左様。私はお前らの後を着け、上空からこの笛をもって、香澄をあやつっ たのよ。今さら気付いたか」 「音無しの笛は、出来ていないと趙高様は……」 「ふん、裏切り者にほんとうのことを教えると思うか。浅慮者め」 計られた。すべて見通されていた。麻離夷は打ちつけられる思いだった。 ただでさえ恐怖に打ちのめされているというのに。もう今の時点で、心は粉 微塵に砕かれたようで、思わずよろけて、貴志があわてて支える。 「ええ、ごちゃごちゃうるさいわい。助っ人など呼んでわしらを退治しに来 たんじゃろうが、返り討ちじゃわい」 アスラがわっと吼えると、屍魔たちは問答無用と一斉に飛び掛ってきた。 馬上よりそれを迎え撃とうとした源龍に羅彩女、貴志ではあったが。この 屍魔どもの鬼気に気圧されたか脚をばたつかせるばかりで、とても乗れたも のではない。 「馬から降りろ!」 咄嗟に水朝優がそれぞれの馬の手綱をとる。言われるとおり、馬が使い物 にならぬとなれば徒歩立ちでやらねばならず。馬を水朝優に預けて、源龍ら は地に飛び降る。 そこへ、アスラの激しい一撃が飛んでくる。 はっと危うくかわし、股夫剣を閃かせる。だがアスラもさるもの、これも さっと後ろへ飛びのいてへへへとうすら笑みを浮かべる。 「てめえ、その六本腕叩き斬ってやろうか」 「ふん、小僧、声が震えておるぞ」 源龍はちっと舌打ちする。図星だからだ。さすが百戦を経た源龍ではあっ たが、この世のものとも思えぬ屍魔や、屍魔のつくり上げた死の町に戦慄を 覚えっぱなしで。そんな自分にも歯噛みしていた。 (俺は強い者を求めていたのではなかったか) アスラの六本腕が握る六本の剣が、とどまることなく次から次へと襲い掛 かり。それをかわすのに、必死で手も足も出ない。今までそんなことはなか った。楚の猛将龍且を討った。その前は項羽と互角に闘った。その自分が、 屍魔には引けをとっていることが何よりも源龍の心胆を寒くした。 貴志と羅彩女は溢れんばかりに襲い来る屍魔の雑魚どもをひたすら屍にも どしてゆく。一匹一匹はさほど強くないのだが、いかんせん数が多く倒して も倒してもきりがない。 馬を預かっている水朝優も片手で手綱を握りながら、片手で剣を振るい襲 い来る屍魔どもを追い払いつつ、いつの間にか夜空に上って悠々と下界を見 下ろすヤクシャを見上げて、にらみつけた。 「高みの見物か」 と、ぽそっとつぶやく。麻離夷はというと、その細腕でも持てる短刀を握 りしめて、いつの間にか貴志と手を取り合っている。彭城のときから、ふた りはこんな感じだった。 ふと、麻離夷の脳裏に、ここまでの来し方が思い浮かんだ。後にアスラに 阿修羅、ヤクシャに夜叉と字が当てられたのと同じように、言うまでもなく、 麻離夷も当て字だ。 長城のはるか向こう、はるか西方の大地で生まれた。同じ髪と目の色の部 族の集落の中で、両親や兄弟たちと静かに暮らしていたのが、部族間抗争の 争乱に巻き込まれ家族は離散し、逃げに逃げ惑った。その果てにたどり着い たのが、大月氏の国だった。 生きるために、風習や言葉の壁を越えねばならなかったが。その挙句に、 秘術すら覚えねばならなかった。あろうことか、麻離夷はある集落にかくま われたが、死人を蘇らせる秘術をこなす魔術師が村を統べる集落だった。 異邦人である麻離夷は、その魔術師に態よくこき使われる奴隷として扱わ れた。そんなときだった、水朝優が秦より不老不死の秘術なり秘薬をもとめ て、大月氏の国へ来たのは。 麻離夷はすぐさま水朝優に事情を打ち明け、救いを求めた。奴隷として魔 術師に使えていた麻離夷を、水朝優は哀れに思いつつも利用できると踏んで、 彼女を秦に連れて帰った。が、秦はすでに滅んで、趙高が華山に潜んでいる のを突き止めてから、今に至った。 (しかし……、うまく休めたもんだ) 水朝優もやはり百戦を経た勇士である。勘が働いたのだろうか、さきほど 少し休んだおかげで、体力は回復して戦うに余裕があった。無論彼としても、 死の町が出来上がっていたことは知らなかったので、自分で密かに驚いても いた。 (屍魔どもは人間と違い卑怯も糞もない。どうする) 人間にすら恥を知らず卑怯を何とも思わぬ者もある、屍魔ともなればなお さらだった。現にヤクシャなどは空を飛べるのをよいことに、屍魔どもに戦 わせるて自分は高みの見物を決め込んでいる。 アスラは源龍に挑みかかり、とどまることを知らず。六本の腕の剣はそれ ぞれが意志あるもののように、自由自在に動いては源龍を串刺しにしようと 迫ってくる。 それ以前に、いまいる死の町と、それをつくり上げた屍魔どものおぞまし さと、アスラの六本腕の姿に肝も縮み上がり股夫剣を握りしめ防戦一方だ。 貴志と羅彩女も屍魔どもを打ち払いながらも、死から蘇り死肉を食らった 化け物そのものの姿に怖気を禁じえない。 それまでの合戦など、屍魔どもとの戦いに比べればまだましであるとさえ 思えてくる。それと、貴志は香澄のことも思い浮かべた。屍魔ながらも可憐 な姿の香澄が、いま打ち払っている屍魔どもの仲間だと思うと……。 「許さない!」 突然吼える貴志。彼は今、屍魔どもの醜さに怖じるよりも、生命をもてあ そぶ所業がいかに狂っていることかと、怒りも覚えるのであった。 続く ============================================================= 発行者:赤城康彦 http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/27/ △dead or alive 〜活死剣譜〜 本編展示URL。 メルマガ購読及び購読解除もこちらから出来ます。 購読及び購読解除の代理登録は出来かねますので、ご了承ください。 E-mail:akagiyasuhiko@hotmail.com ぜひご意見・ご感想をお寄せください。 小説の先輩、七瀬晶先生の本、只今好評発売中。 http://www.alphapolis.co.jp/book_author_profile.php?a_id=10034 上のURLで出版社での紹介ページに飛べます。 =============================================================== 当作品は配信者が以前執筆した metallic girl(http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/23/) という小説の中華伝奇風リメイクです。 またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります ので、ご注意及びご了承ください。 Copyright(C)2008 yasuhiko-akagi 無断転載、引用等を固く禁じます。 ================================================================ /-----------------------------------------------------------/ http://archive.mag2.com/0000266092/index.html 戦国を描く和風FTのメルマガ小説も配信中です。 よかったら読んでやって下さい。 /-----------------------------------------------------------/


