武侠伝奇 dead or alive ~活死剣譜~   RSSを登録する

古代中国、項羽と劉邦の時代。楚漢の戦いの水面下で繰り広げられる、人と人ならぬものと、覇王との戦いを描く中華伝奇ストーリーのメルマガ小説。

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2008/09/20

dead or alive ~活死剣譜~ scene7 江湖にくだる・3

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dead or alive 〜活死剣譜〜
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戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。
あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。
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scene7 江湖にくだる・3
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 空は晴れている。
 雲は思い思いの姿かたちになって青空を泳ぐ。瞳にその雲を映し出す。
 久方ぶりの江湖行。一行はそよぐ風にすら追い越されながら、馬をぱかぱ
かと歩かせてゆく。一見乱世を避けて、のんびりしているようだった。
 が、心は楽しまず。
 源龍は那二零の馬上、うつろに空を、雲を見上げて、華山へ、ゆっくりと
旅をしている。
(このまま、逃げてしまおうか)
 密命など、放っておいて、もとの江湖の一剣客にもどろうか。そう何度思
ったことか。だが、それを思うたびに、股夫剣がずしりと重くなる。
 ここで逃げれば、韓信の顔をつぶしてしまう。他は知らず、韓信にだけは
勝てない源龍であった。
 江湖にくだる、といっても密命を帯びての建前のもので。実際は漢の刺客
としたものだ。
 香澄と事を構えた以上、華山の趙高らとも戦うことになるのだろうが。そ
れを、漢の命令で遂行することになろうとは、夢にも思っていなかった。
 そんな華山への旅の途中で、水朝優が、
「しけた顔をしてやがる」
 と源龍に言う。むっとしたものの、黙って那二零を歩かせる。水朝優は舌
打ちし、眉をひそめる。彼にすれば、我の強く聞かん坊な男がしょぼくれ狼
になってしまっているのが無様に思えて、つい余計な一言でも言ってやりた
くなるのかもしれない。
 ところで、本来は羅彩女の愛馬である那二零。龍且との戦いで羅彩女は愛
馬を源龍に渡したのだが、それ以来ずっとこの組み合わせだ。羅彩女はかえ
せとも何も言わないどころか。
「ずっと乗ってな」
 と言う。これはどうしたことであろうか。
 龍且との戦いで見せたあの人馬一体ぶり。羅彩女は、自分よりも源龍の方
が那二零の本領を発揮させられると踏んだわけだが。
(あいつ、韓信に剣をもらったから頭が上がらないのか。なら、あたしもそ
れにならって……)
 と羅彩女は考えていた、など源龍は知らない。源龍は剣以外何も知らない
男であった。まさか、
(自分より強い男の女になる)
 と羅彩女が考えていたなど、この建前上の江湖行と同じように、夢にも思
わないでいた。それに加え、羅彩女自身、自らの気持ちを相手に伝えること
をしない、素直でない性質なのでなおさら気付かない。
 陽の光を受けながら、羅彩女は源龍のこの鈍感さにじらされてたまらない
思いでいた。あのとき、抵抗をやめて身を任せたのは、それがあったからな
のだが。当の源龍は知る由もなく、憎まれるのを承知で沸きすぎる血をおさ
めただけだった。
 愛憎半ばする眼差しをおくるのは、そういうわけだった。
「今宵は何の夕べぞ……」 
 羅彩女はおもむろに、うたをうたいはじめた。一同驚いて羅彩女を見る。
源龍は特にぎょっとしているようだ。
(な、なんだどうしたってんだ? いきなり越女のうたなんて)
 羅彩女は周囲がおどろくのもかまわず、うたった。源龍は、呆気にとられ
る思いで、「越女のうた」を聴いている。
「今日は何の日か、王子と同舟を得る……」
 これは昔から楚で歌われているうたで、その昔、舟に乗った楚の王子に恋
をしてしまった舟漕ぎの若い娘の切ない恋心をうたわれている。無論、源龍
は楚生まれなのでこのうたを知っている。
 突然恋の歌をうたいだした羅彩女に、貴志と麻離夷は知らずに互いを意識
し。水朝優は、眉をしかめてそっぽを向き聞こえていないふりをする。
「我が心君は知らず、我が心君は知らず」
 張りのある、よく通る声であった。聴いていて、知らず心のひだに入り込
んできそうだった。源龍は呆気にとられたまま、羅彩女はうたいおえると、
それをきっとにらみつける。
(羅彩女のやつ、まさか……)
 いくら鈍い源龍でも、さすがに少しは察した。
 が、今までそういう経験のないために、どう応えればよいのかわからなか
った。
 那二零のことは感謝しているが、どうして? という思いもあって、よそ
よそしくせざるを得なかったわけだが。
(というか、それならそうと、なんで言わない?)
 乗り手の気持ちを察したか、那二零は一歩後ずさり。迫るように、羅彩女
の乗る馬は一歩進んだ。
 その時、こほん、という咳払いの声が聞こえた。
「華山にはいつ着くんだろうな」
 わざとらしく大きな声で、貴志と麻離夷に言う水朝優。ちらりと、源龍と
羅彩女を見やる。
(今はそれどころじゃない)
 乳繰り合いは、事が終わってからにしろ。という気持ちを含んで、鋭い視
線を送る。水朝優とて伊達に秦に仕えて、大月の国まで旅をしていたわけで
はなく。いざとなれば、自ら刃を振るって、幾たびかの修羅場もくぐってき
たのだ。
 刺すような視線は、百戦を経た源龍と羅彩女にも鋭いものと感じられた。
 やれやれと言いたげに源龍はため息をつき、
「羅彩女、お前には那二零を譲ってもらって感謝しているよ」
 と言うと、ぷっと頬を膨らませた羅彩女は、
「なら、その証しを見せなよ」
 と言う。
 証し、と言われて戸惑った源龍であったが、羅彩女は畳み掛けるように言
う。
「あたしの股をくぐりな」
「な、なに」
「感謝しているってなら、その証しに股をくぐりなよ。でなきゃ、那二零を
叩き殺すよ」
「お前、本気かっ!」
 源龍はたまげて、素っ頓狂な声を出し。聞いていた水朝優と貴志、麻離夷
は呆気にとられ。羅彩女はおもむろに難鞭を手にして、ぶうん、とひと振り
唸りを上げさせる。
「ふんっ。韓信から剣をもらってあんなにぺこぺこしているのが、あたしか
ら馬を譲られてもむっつり済ませて、何様のつもりだい?」
 しばらく沈思していた源龍であったが、くっ、と歯を食いしばると。
「……。わかった、わかった。言うとおりにするから、癇癪を起こすなよ」
 と言って那二零から降りて、股夫剣を羅彩女に手渡す。
「俺はともかく、この剣は一度股をくぐっているからな」
 馬上で剣を受け取ると、こくりと頷いて羅彩女は下馬し。視線も鋭く、脚
を開く。源龍はぶるぶる震えつつも、身をかがめる。股をくぐるということ
は、屈辱を意味する。例えそれが女の股であろうが、別に変な趣味もなく、
剣士として生きる源龍にしてみれば、まさにこれほどの屈辱はない。しかも
剣を預けている。もし羅彩女がその気になれば、股夫剣で源龍の尻を突くな
ど造作もない。
(ままよ)
 源龍は四つん這いになって、羅彩女の股をくぐった。これで、自分も韓信
と同じ「股夫」となったわけである。が、それが女の股となれば、当時の女
性観から見れば男の股をくぐる以上に屈辱的なことであった。
 周囲はぽかんとするあまり、言葉もない。
「ふん、まあ、よしとしてやるよ」
 羅彩女はつんつんと突くような言い草で、馬に乗り、股夫剣を源龍に投げ
てよこした。
 剣を受け取ると、無言で源龍は那二零に乗った。
 誰一人言葉を発せず、今が乱世であると思えぬほど周囲が静まり返った中
を、一同は華山目指し黙々と旅を続けた。
 それよりも、源龍のこの様はどうであろう。
 先が思いやられるというものだった。

scene7 江湖にくだる 了
scene8 死闘 へ続く

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発行者:赤城康彦
http://fuentai.blog.shinobi.jp/Category/27/
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当作品は配信者が以前執筆した
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という小説の中華伝奇風リメイクです。
またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります
ので、ご注意及びご了承ください。
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