武侠伝奇 dead or alive ~活死剣譜~   RSSを登録する

古代中国、項羽と劉邦の時代。楚漢の戦いの水面下で繰り広げられる、人と人ならぬものと、覇王との戦いを描く中華伝奇ストーリーのメルマガ小説。

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2008/09/09

dead or alive ~活死剣譜~ scene7 江湖にくだる・2

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dead or alive 〜活死剣譜〜
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戦乱の大陸、天下に覇を唱えんとする項羽と劉邦の戦い。
あるいは、求道の剣士と、屍魔として蘇った死美人と、覇王との戦い。
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scene7 江湖にくだる・2
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 しかし、極秘指令とはなんであろう。話は張良がするということだが。
 貴志は旅をしながら、今さらのように張良のもとに帰ることがためらわれ
た。屍魔や香澄のことを話して、それでおかしくなったと思われて、クビに
されて。
 かと言っても、張良の極秘指令というものが気になって仕方がない。第六
感か、どうも屍魔のことが頭をよぎっていた。
 羅彩女は源龍にべったりで、源龍の行くところ行くところについてゆく。
が、べた惚れなのか何か含んでいるのか、よくわからなかった。
 水朝優と麻離夷は、源龍たちを頼りにしているから離れるわけにはいかな
かった。それでも、こちらも第六感か、しきりと華山のことが頭をよぎった。
 まさか、張良は華山のこと調べ上げてたのであろうか。そこで、源龍を使
おうと言うのであろうか。もしそうなら、またとない絶好の機会ではないか。
と胸に、思わず淡いと苦笑いをする期待を抱いていたが。
 まさか、その通り華山に赴けと張良から言われるとは思いもせず。歓喜と
驚きを同時に覚えたのであった。
 張良に会ったのは源龍ひとりであった。あとは供のものとして、別室に控
えていた。貴志はというと、張良のみならず見知った顔に会うのもはばかり
身を隠していた。
「……。華山へ?」
「左様。そなたの剣の腕を見込んで言う、是非華山に赴いてもらいたい」
 聞けば、華山にて不穏な勢力がこの天下を伺っているという。密偵として
江湖にくだり、その真相を確かめて、討ち取って来てほしい。と源龍を手厚
く迎えた張良は、礼儀正しく華山行きの指令を伝えた。
「不穏なもの、といいますと。楚でござるか」
「否とよ。笑ってくれるな。人外の化け物よ」
「人外の化け物?」
 張良は語るも馬鹿馬鹿しいとばかりに苦笑いをする。
「左様。趙高は生きて、屍魔を飼ってこの天下を伺っておるそうな。しかも、
背に羽のあるものや腕が六本のものだの、仙女のような見目麗しき少女もあ
るそうな」 
 源龍の眉が、ぴくりと動いた。
 屍魔、少女、あのときの、香澄と初めて会ったときのことが脳裏をよぎる。
 水朝優の語っていたこととも一致する。だが、香澄は項羽と一緒になった
のではないか。それを思えば華山にはいなさそうだが、背に羽だの腕が六本
だの、水朝優から聞いたときには馬鹿馬鹿しくまともに取り合わなかったこ
とが、華山にはほんとうにあるというのなら、行ってみる価値はあるのだろ
うか?
 しかし、香澄と関係のあることなら、行かねばなるまい。
 羽だの六本腕だのも、にわかには信じられないが、もしそれがほんとうに
あるとすれば、股夫剣で叩き斬ってやるまでだ。
 張良は源龍の目が鋭くなった様を見、
「行ってくれるか。もしこれをこなせば、褒美は思いのままぞ」
 と満足したように言った。
 こうして、江湖にくだることとなった源龍は、項羽軍を前にして、広武山
を出て華山に向かわねばならないことに、やはり一抹の未練を感じずにはい
られなかった。
 思えば自分が楚を離れて戦乱の最中にもかかわらず、各地を彷徨いながら
武者修行に明け暮れたのは、剣士として項羽と戦うためではなかったのか。
 なのに、己の志とは別な方向へと向かっている今の現実に、戸惑いを隠せ
なかった。韓信は源龍を江湖の一剣客と見たが、それもまんざらではなかっ
たようだった。なぜ韓信が源龍を持て余したかと言うことも、薄々気付きな
がら、その理由までは気付けなかった。
 ようは、世間知らずであった。剣一本で、覇王と号するほどの男と戦おう
など、これほどな世間知らずもないであろう
 それに、香澄のこともあった。
 それについては、水朝優と麻離夷が、張良の従者からある話を聞き、たい
そう胆を飛ばしたものであった。
 この広武山で項羽が劉邦に一騎打ちを申し出たという。
 いわく、
「天下乱れるは我らが罪なり。ここは我らで雌雄を決し、早々にこの争乱を
終わらせようではないか」
 と、愛馬騅に打ち跨り大薙刀を携え、陣前に進み出た。
 それに対し劉邦は、
「否とよ。罪は汝にあり、我になし。漢王たるもの、なんで罪人と刃を交え
るいわれやある」
 とこれをにべもなく一蹴したのであった。
 項羽の激怒推して知るべしであった。劉邦を臆病者と散々罵り、あくまで
も対決を望んだ。そのかたわらに、いつの間にいたのかひとりの少女が剣を
たずさえ少し後ろに控えていたかと思うと、そよ風のようにすうと前に進み
出て、項羽に一礼すると。
「漢ごときにどうして項王のお手を煩わせるとこなどありましょう。ここは、
虞にお任せを」
 と言う。
 これには、今度は漢側が怒りを覚え、腕に覚えのあるものが劉邦の許しを
得て打って出た。
 虞と名乗った少女はひらりと風のように舞うや、剣光一閃とともに北斗七
星も光りを放って、血煙も舞った。
 漢兵は敢えなくも、討たれてしまい、そのかばねは馬上より転がり落ち。
楚からは喚声があがり、漢からは驚愕のどよめきが起こる。
「差し出がましいまねをし、この罪万死に値します。どうかお許しを」
 少女はこともなげに項羽に跪き。項羽はこれを責めず、誇らしげに頷き虞
の武勇をたたえた。
 その虞という少女こそ、まさしく香澄であった。
 劉邦は少女がいとも簡単に屈強の漢兵を討ち取ったことに胆をつぶした。
項羽に愛妾がいることは知っていたが、それもまた武勇に長けた女傑であろ
うとは。
 項羽の豪傑好きは知っていたが、まさかはべらす女までがそうとは。
(やつは、まさしく武神の化身じゃわい)
 これではまともにやりあって、勝てるわけがない。歯噛みしながらも、
「そこもとの武勇はよくわかった。ならば、我らは智でお相手しよう」
 といって一騎打ちの話を打ち切るしかなかった。
 香澄も項羽とともに、この広武山に来ているのだ。水朝優と麻離夷の驚き
も、ひとかたならぬものがあった。
 一騎打ちの話は、これで終わり。以後少女は後陣に下がって姿を見せず。
両軍膠着状態が続き今に至っているが、虞という少女のことは漢軍の間でも
たいそうな評判となり、項羽には仙女がついているのか、など噂に上らぬ日
はなかったという。
 それ以上に、香澄が自らを虞と名乗っていたことがさらにふたりを驚かせ
ていた。項羽が望んだことなのか、名まで改めようなど。これは、屍魔のは
ずの香澄が、ふたりの想定したことよりはるかに外れた存在であることを物
語っていた。
 死より蘇った屍魔、香澄の肉体には、いったいどのような魂が宿っている
のであろう。それは、香澄にもわからないであろう。
 秀麗にしてどこか冷めたその白面の内側では、ままならぬ己の魂に苦しん
でいるのであろうか。項羽が香澄を虞と呼んだときの、その叫び、苦しむ魂
に響くものがあったのだろか。
 だけどほんとうは、香澄は死んでいなければならない。
(結局は、邪法をもって命をもてあそんでしまったのか)
 水朝優と麻離夷は言い知れぬ罪悪感に襲われ、頭を抱えた。
 手の届く距離に、香澄がいる。
 しかし水朝優は眉をしかめながらも、
「あいつは、屍に戻るべきだ」
 と源龍とともに華山に赴き、趙高とともにつくり上げた屍魔どもを、自ら
の手で葬る意を決した。
 源龍も香澄が楚軍にいることを聞き、すぐにでも楚軍に駆けつけたい衝動
に駆られた。しかし、単騎楚軍に討ち入ったところで、何が出来るだろう。
(なんで、こんなことになる)
 見えない力にあやつられているような無気力感さえ覚え。望む対決を果た
せず、鬱屈した思いを抱えながら、華山に向かうしかなかった。
 その前に、麻離夷は笛をふところより取り出し、楚軍にも聞こえるように
笛を奏ではじめた。この笛には屍魔をあやつる効力はないが、香澄に届けと
ばかりに力の限り吹き奏で。それは漢軍を避け身を隠していた貴志にも聞こ
えた。
 貴志もまた笛の音に導かれるようにして、笛を吹き奏で始める。
 ふたつの笛の音は息もぴったりに交わりあい、楚漢両軍の将兵の耳朶に沁
み込むように流れてゆく。それは柔にして剛、静にして動、涼やかなる調べ
でありながら心熱くもさせ。春夏秋冬、四季それぞれの風に優しく肌を撫で
られるような風情があった。
 突然の笛の音に、楚漢の将兵は驚いたものの、心洗われるようなその調べ
に皆思わず聞き入る。
「ほう、これは風流な」
 丁度香澄とともにいた項羽は笛の音を耳にし、碗の注がれた酒を飲むのも
忘れて笛の音に聞き入っていた。
 猛勇をもって鳴る項羽であったが、少年のように感受性高く、風流を解す
る心を持っていた。
 香澄もまた、項羽とともに笛の音に聞き入っていた。その調べが、麻離夷
によるものだとはすぐに察しが着いた。が、もうひとつ、麻離夷の笛の音に
交わる音律は誰の手によるものなのか、貴志が麻離夷に笛の手ほどきを受け
たことを知らないので、さすがの香澄もわからない。
(華山へ)
 笛の音はまるでそう言っているようだった。
「項羽さま」
 笛の音の調べに乗って、香澄の声が項羽の耳を打った。その声音には、今
まで聞いたことのないような、何かが感じられた。
 なんだろう、と思いながらも香澄、いや虞を振り返り。
「なんだ?」
 と問えば。
「申し訳ありませんが、しばらくの間お暇をいただけないでしょうか」
 香澄は跪き、項羽に暇を乞うた。これには項羽もいささか驚き、
「いかがしたのか。もう、わしが嫌いになったのか」
 と悲しそうな眼差しを虞に送る。
「いいえ、どうして虞が項羽さまを嫌うことがありましょう。ほんとうなら、
片時とておそばを離れたくはないというのに」
「それは、わかっている。だからこそ、今もわしのそばにいてくれるのだな」
「はい。ですが……」
「ですが……、なんだ?」
「ふと、故郷が恋しくなり。しばしの間、故郷で昔を懐かしみたく存じます」
「故郷……」
 戦はいつ終わるとも知れず、項羽もふるさとの土をいつ踏めるのかわから
ない。楚漢の争い久しく、いまの広武山に陣取ってからも長い月日が経った。
時折項羽とて、少年のように故郷が恋しくなることもあった。
 いわんや、それに付き従う将兵たちもまた、故郷を懐かしがっているのは
想像に難くない。ことに女の身ならば、なおさらであろう。項羽自身、時折
に、
(米が食いたい)
 と思うことさえあった。楚は大陸でも米をよく産し、主食にしていた。
 笛の音。それは聞くものの心に、何かを訴える。その何かとは、望郷の念
なのかもしれない。と、項羽は思った。
 ちなみに、項羽と香澄の間に、肉体的なつながりはなかった。項羽の中の
少年が、香澄に内在する儚さを敏感に感じ取り。守る、というよりも己の手
でそれを壊してしまうことを恐れた。無論彼女が屍魔であることは知らず。
 虞こと、香澄の前では、項羽は十五の少年でしかなかった。
 今、目の前から、虞が立ち去ろうとしている。その恐れと哀しみを、香澄
は機敏に察し、優しく微笑んだ。
 お互いの瞳に、それぞれの姿を映し出す。
「よかろう」
 項羽は、虞の帰郷をゆるした。
 きっと必ず、己のもとに帰ってきてくれると信じて。

続く

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発行者:赤城康彦
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当作品は配信者が以前執筆した
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という小説の中華伝奇風リメイクです。
またこのストーリーはフィクションです。史実と違う場面もあります
ので、ご注意及びご了承ください。
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