2008/08/23
広原盛明のつれづれ日記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2008/8/23 広原盛明のつれづれ日記 vol.123 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.hirohara.com/ ◆目次◆ つれづれ日記 ・08年7月25日:橋下予算の成立にみる大阪府議会の“醜態” (橋下知事の人物像を解剖する、その8) ・08年8月6日:「伊丹空港廃止検討」にみる “関西州知事”気取りの発言 (橋下知事の人物像を解剖する、最終回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 08年7月25日:橋下予算の成立にみる大阪府議会の“醜態” (橋下知事の人物像を解剖する、その8) 7月23日夕刊から24日朝刊にかけて、例の如く各紙の記事 を読み比べてみた。いうまでもなく23日は、大阪府議会で「橋 下リストラ予算」が採決に付される日であり、その行方が全国的 に注目されていたからだ。この日はまた、夜に京都市職労主催の 緊急学習会があって、橋下予算の行方が議論の焦点になった。参 加した組合員たちは、大阪府議会の各会派がどのような採決を下 すのか、固唾を呑んで見守っていた。 結果は惨憺たるものだ。各紙の見出しだけを拾ってみても、こと の成行きは一目瞭然だろう。「橋下知事独り勝ち」、「自公、修 正案即座賛成」、「民主、対立一転“ラブコール”」、「橋下人 気、野党なびく」、「知事の手のひら、踊る議会」、「基本給全 国最低レベル」、「私学助成も大幅後退」(読売)。 「橋下予算成立」、「知事、静かな自信」、「通すため“我慢” も」、「文化施設へ影響大きく」、「教育・福祉に大ナタ」、 「府民“痛み”これから」、「橋下改革、国の壁」、「道路・ダ ムかさむ負担金」、「税源移譲、実現は未知数」(毎日)、「橋 下知事、「人生で一番濃密だった」」、「押された議会、「物言 いにくく」」(朝日) 「修正で「府民一体改革」醸成」、「道路補修、鉄道高架化、商 店街振興、観光、事業推進欠かせぬ効率化」、「遅れ・コスト増 懸念、新施策工夫も」、「縮小均衡避けて:大阪商工会議所会 頭」、「歳出削減続けて:関西経済同友会代表幹事」(日経) 私学助成や職員人件費を中心に1100億円もの大幅歳出削減を 強行しようとする当初予算案に対して、府議会各派はこれまで 「府民に犠牲を強いる削減は認められない」などと大見得を切っ ていた。それがどうだろう。知事側が示したわずか18億円の 「譲歩」(1100億円のたった1.6%!)と引き換えに、与党の自 民・公明両党はもとより、野党の民主党までが一転して「賛成」 したのだから、もはや驚きを超えて声も出ない。 おまけに、本会議で賛成討論にまわった民主府議などは、「(知 事の改革姿勢は)わが民主党の立場と軌を一にするところであり ます。知事の自治体革命を成就するために、(共に)中央政府や 官僚と戦おうではありませんか」(読売)とまで言ったという。 いったいどこからこんな聞くに堪えない恥ずかしげもない言葉が 出てくるのか、呆れてものも言えない。さすがに議場では「節操 がない」と失笑が漏れ、傍聴席からは「ふざけるな!」と罵声が 飛んだという。私なら「変節者、恥を知れ!」と大声で叫んだに ちがいない。 これに対して橋下知事は余裕しゃくしゃくだ。削減幅を1.6% 緩和した「予算修正案」の提示に当たっては、「議会制民主主義 を実体験した。厳しいながらもやりがいのあるプロセスでした」 (朝日)と抜け抜けと言い、「短くもあり、長くもあり、39年 の人生の中で一番濃密でした」(読売)とこの間のやりとりを満 足げに振り返った。そして「100%議会を満足させるものではな かったのかもしれないが、できる限り意向を伺った。改革の方向 性に対する議会の了承をいただいた」(朝日)と胸を張ったとい う。 ここまで橋下知事を増長させたのは、いうまでもなく府議会の 腰が抜けるほどの不甲斐なさだ。「98.4%」が本体そのものの 「微修正予算」を、自民は「我が方が求めた要望に限りなく近 い」と言い、公明は「議会の意見を汲み上げて組み立てられた修 正案と評価する」と言い、民主は「修正案を出したことは評価し ている」と手放しの評価だ。おまけに公明などは、「(論戦での 公明の)歯に着せぬ厳しい表現は、知事に対する期待と信頼の表 れ」(読売)とまで擦り寄る始末、これでは橋下知事に足元を見 られても仕方がない。 いったい彼らは、この炎天下で府庁を取り巻き、議員団室を訪 れて抗議行動を繰り広げてきた多くの府民の声をどのように受け 止めているのか。口先では同調しながら、腹の中では舌を出して いたのだろうか。議会では修正を求める発言を繰り返しながら、 その裏で「賛成できる条件を作ってほしい」と知事側に水面下交 渉をしていたのであろうか。それが「1.6%の微修正」の舞台裏 だったのであろうか。 これで橋下知事は「議会なんてチョロコイものだ」、「議員な んて甘い(バカな)ものだ」とますます自信(過信)を深めたこ とだろう。大阪の議会民主主義を「実体験」するなかで、「世論 支持率さえ高ければ、与野党会派は意のままに操れる」と思った ことだろう。すでに彼の目は次の場面に移っていて、「大阪発の 地方分権」を推進する「地域主権推進本部」なるものを庁内に設 置するのだという。「大阪維新プログラム」を予算面だけではな く、組織面でも実行しようというものだ。 これほどにまで橋下知事をのさばらせ、府議会各派を萎縮させ た原因と背景はなにか。それは公明府議の言葉に象徴される「橋 下人気」の“虚像”だ。「メディアで全国的に注目される橋下知 事の予算案を否決すれば、『抵抗勢力』と大々的に発信される。 大幅修正は最初から無理な話だった」(読売)との公明府議のホ ンネは、彼らがいかにマスメディアに支配されているかという議 員心理を示すものとして興味深い。 いまや地方議会の議員でさえも、地元有権者の意見や要求では なくマスメディアに支配される時代なのだ。議員の判断や行動が 自分の主義主張や信念にもとづいて決せられるのではなく、テレ ビ視聴率や各種世論調査によって左右される時代なのである。そ して橋下知事こそが「マスメディア時代の寵児」だというわけだ。 小泉政権が散々利用し尽くして、もはや「手垢にまみれた」と 思っていた劇場政治的な手法(ポピュリズム)が、なぜいま大阪 では有効なのだろうか。橋下知事の“虚像”を白昼のもとに暴き 出し、その醜い権力崇拝者の素顔を府民の前に明らかにする勇気 と見識を持った議員たちがなぜ増えないのだろうか。これからも その実験場としての大阪府政を、マスメディア時代を象徴する地 方政治として「オモロイことには目がない」阪神タイガースフア ンと一緒に見守っていきたい。(続く) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 08年8月6日:「伊丹空港廃止検討」にみる “関西州知事”気取りの発言 (橋下知事の人物像を解剖する、最終回) 7月31日、関西国際空港の2期島整備の予算要望のため国土 交通省や財務省などに陳情に訪れた橋下知事は、7月31日、記 者団に対して「(国会議員の方にも)伊丹空港の廃止を検討して いただきたい。そのつもりで庁内に指示を出した」と語った。彼 の眼中には、兵庫県知事や国土交通省の存在はもはや目に入らな いらしい。 伊丹空港は、読んで名の如く兵庫県伊丹市に位置している国際 空港である。兵庫県知事の意向を無視しては何一つ対応できない 空港だ。また空港の廃止権限は国にあるので、大阪府知事が「廃 止を検討する」といってもどうということにはならない。それが わかっていて、マスメディアはまたもや「橋下一流の発言」で関 係府県や地元自治体も含め議論を進めたい意向を示した、との記 事を流している。 だが私は、この発言をニュースで知った瞬間、もはや彼は“関 西州知事”気取りなのではないかとさえ感じた。橋下氏はこのと ころ「道州制の旗手」として財界から大いに持て囃されている。 それもそうだろう。地方自治体の首長として府民の生活を守るた めに選ばれたはずの知事が、「大阪府廃止の先頭に立つ!」なん ていうのだから、地方自治を壊して自分たちの好きなように日本 を操りたい財界や国の役人が喜ばないはずがない。 「自民党をぶっ壊す!」と叫んだ小泉元首相は、自民党はぶっ 壊さないで肝心の国民生活だけは目茶苦茶にした。でも「大阪府 も伊丹空港も廃止!」を叫んでいる橋下知事は、正気かどうかは 別にして、どうやら本気で“関西州”を実現しようと考えている らしい。というよりは、その時々の気持ちと知事としての職責や 使命の区別がつかなくなり、「自分がいったい何をいっているの か」がわからなくなるような状況のなかで、それでも周囲や相手 の空気に対してだけは反応している、といった発言の繰り返しが 続いているのである。 この種の人物がまだテレビのト−クショーで喋りまくっている 間はよいが、それが選りに選って知事なんてポストに収まるから 大変なことになる。遠からずして多くの大阪府民はこのことに否 応なしに気づかされるだろうが、自治体の首長としてなぜこの種 の人物がいまの時代に登場してくるのか、大阪府民ならずとも大 いに関心があるというものである。最終回ではこのことを中心に して考えてみたい。 日本の芸能世界でよく出てくる言葉に「序破急」というキー ワードがある。物事の次第というか、ドラマの進行というか、シ ナリオの展開というか、とにかく「“序”のイントロ」があって、 次に「“破”の大転換」がきて、最後に「“急”の終局」が訪れ るという3段階の流れの作法だ。 地方自治体とりわけ都道府県の首長制度は、戦前の官選知事か ら戦後の民選知事へと劇的な変化を遂げた。戦後の地方自治制度 改革のなかでも、知事のポストは最も大きな変化を遂げた首長制 度なのである。しかし内実はそう簡単には変わらない。戦後も相 変わらず自治省(旧内務省)の官僚が自治体に天下り、それが順 繰りで知事に選ばれるような状況が続いていた。これがここでい う“序”の段階だ。 しかし1960年代後半から70年代前半にかけては、“破”の「革 新知事時代」が訪れる。戦後の高度経済成長政策が「公害列島」 といわれるまでに日本国土と国民生活を破壊するに及んで、蜷川 京都府政に引き続いて美濃部東京都政や黒田大阪府政などの革新 自治体が全国に陸続と誕生し、日本の地方自治史上はじめて住民 の立場に立つ地方政治が現実のものになったのである。 これらの革新知事はいずれも「学者知事」であり、「憲法知事」 といわれたように、少なくとも地方政治レベルでは憲法に保障さ れた「国民の健康で文化的な生活」を最大限実現しようとする 「憲法理念」に立脚した福祉政治をめざしていた。明治以来の長 い官選知事体制を打破するには、憲法理念に基づく高い思想性を 有する首長が必要だったのである。 その後、革新自治体は1980年代に至って「実務官僚知事」への 交代にともない、保守自治体へと次第に変質していくが、それで も革新地方政治の時代に確立された福祉優先の行政理念や行政手 法が乱暴に破壊されることはなかった。民意を尊重しなければ、 保守政治といえども政権を維持することは難しかったからである。 ところがどうだろう。20世紀末から21世紀の初頭にかけて、石 原東京都知事や小泉元首相のような「劇場型政治家」が突如あら われるようになった。日本の政治状況が“急”の段階へ大きく舵 を切ったのである。マスメディアを徹底的に利用して国民の世論 を操作し、政治理念や政策をまともに語ることなく、キャッチコ ピーの連発で国民をなんとなくその気にさせて合意を取り付ける という「劇場型政治」の登場である。 このことはとりもなおさず、それだけ日本政治の矛盾が深刻化 した反映でもある。これまで企業内においては終身雇用と年齢別 賃金などで労働者の忠誠心を組織し、地方政治では地方交付金や 公共事業などで保守基盤を育成してきた支配層が、もはやそのよ うな「実利」や「利権」に裏打ちされた政策や行政を展開するこ とを破棄するようになったのである。 正社員を派遣社員に変え、成果別賃金を導入し、市町村の広域 合併を強行した上で地方交付金と公共事業予算を大幅カットする。 こんな荒療治を民意を無視して平気で強行するような「新自由主 義時代」がやってきたのである。その「花形スター」が小泉元首 相であり、石原都知事であり、橋下知事だというわけだ。 だが「劇場型政治」すなわち「メディア・ポリティックス」も 辛いことは辛い。商品の中身で勝負しないで、もっぱら「コマー シャル」の出来栄えで勝負しなければならないからだ。コマー シャルにつられて買ってみたら、「宣伝と中身が違う」というこ とになりかねないので、絶えず「新商品」のコマーシャルを出し 続けなければならない。しかしこんなやり方でいつまでも国民は だませない。 革新知事はその思想性の高さと憲法理念の遵守によって評価さ れた。実務官僚知事は手堅い行財政運営能力によって評価された。 だが劇場型知事はその演技力とキャッチコピーでしか勝負できな い。賞味期間はそれほど長くないのである。だからこそ次から次 へと人の意表をつくようなギャグやジョークを連発することにな る。橋下知事のパフォーマンスは、いま現在が「絶好調」なので ある。 次号で休刊(廃刊)を迎えた朝日新聞社の月刊誌『論座』は、 2008年9月号で「大阪・宮崎に見る劇場政治の地方分権−劇場化す る地方政治」を特集している。今回は最後の最後ということなの でなかなかの力策揃いだが、なかでも石田英敬氏(東大教授、情 報学)の「〈笑う〉タレント知事とポピュリズム」という橋下知 事分析が面白い。石田氏は東国原宮崎県知事の「ゆるキャラ」と 比較して、橋下知事の特徴は「笑いの暴力」にあることを指摘す る。 その趣旨を要約すると、「もともと消費者金融大手子会社・商 工ローン会社の顧問弁護士を努めていたこのタレント弁護士は、 物議をかもす不規則発言で名をはせ、自分のメディア資本を作り 出してきた典型的なポピュリストだ。今日のテレビ番組には、 「笑い」が満ちている。しかしその笑いのある種のものは、人々 の心理の奥にある暗い欲動に結びついていることがある。彼が重 ねてきたさまざまな放言や暴言、不規則発言の類は、バラエティ ー的笑いを通して、そうした暗い欲動にサインを送るものではな いのか。私はこの橋下という人物について、その『原ファシズム』 的ともいうべき資質について重大な疑念を抱いている」というも のだ。 石田氏の橋下像に関する分析は、私の考えと全く一致する。そ れは、小泉元首相が「遊び人」の血を引き、石原都知事が青嵐会 仕込みの右翼思想の筋金入りだということと比較しても、橋下知 事が際立った異質の存在であることを示唆するものだ。それはど こかで「アウトローの世界」や「同和マフィア」とも通じる得体 の知れない不気味さを感じさせるものでもある。私はこれまで数 多くの首長や知事を真近に見てきたが、橋下氏は過去のいかなる 首長とも異質の人物であり、「キャラ」であることを充分認識し なければならないと思う。その上で今後の言動を厳しく見守るな かから、「終局」に向かってのシナリオを書く必要がある。 (終わり) なお8月後半は海外出張(インドネシア、ジョグジャカルタ一 帯)が控えており、9月上旬には北海道夕張市での研究交流集会 もあるので、日記は今回をもって8月中はお休みにします。9月上 旬には、構想を改めてみなさまにお目にかかりたいと考えていま す。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 本メールマガジンは、HP「広原盛明の市民フォーラム」にて 掲載された「つれづれ日記」をまとめて、 週1回配信しております。 発行:広原盛明 メールアドレス:hirohara@skyblue.ocn.co.jp URL:http://www.hirohara.com/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


