2008/07/14
広原盛明のつれづれ日記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2008/7/14 広原盛明のつれづれ日記 vol.121 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.hirohara.com/ ◆目次◆ つれづれ日記 ・6月13日:驚いた毎日新聞の世論調査結果 (橋下知事の人物像を解剖する、その5) ・6月27日:北九州市の生活保護行政の過酷さと惨状(1) (橋下知事の人物像を解剖する、番外編) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 6月13日:驚いた毎日新聞の世論調査結果 (橋下知事の人物像を解剖する、その5) 6月7日、8日の両日は東京都内にいた。目白の日本女子大 学で開催されていた日本人口学会に出席するためだ。8日の日 曜日、午前中のプログラムが終わった段階で学会の会場をでて、 横浜市立中央図書館へ文献を探しにいくためにJR山手線に乗っ ていたちょうどその頃、あの秋葉原での凄惨極まる事件が発生 していたのである。 事件そのもののニュースは、帰りの新幹線車内の電光ニュー スで知った。JR山手線の目白駅と秋葉原駅はそれほど離れてい ない。僅か十数分もあれば着ける距離だ。横浜に行く代わりに 秋葉原にパソコンでも見に行っていたら、ひょっとすると私が あの事件に遭遇していたかもしれない。そう思うと、背中に戦 慄の走る思いがするというものだ。 東京では、関西のニュースは余程の大事件でないとほとんど 記事にならない。しかし8日の毎日新聞東京本社版の朝刊には、 6月6日、7日の両日に大阪本社が実施した「橋下知事の財政 再建案に対する電話世論調査」の結果が大きく掲載されていた。 「橋下マター」(橋下氏に関連する事項)は、いまや「全国ニュ ース」扱いなのである。 しかし、世論調査の数字をみて心底驚いた。いや「驚愕した」 といった方が正確だろう。橋下再建案に対する大阪府民の賛否 は、なんと「賛成85%」、「反対12%」という圧倒的大差 で「賛成一色」に染まっているのである。もう少し詳しい内訳 をみると、「全面的に賛成37%」、「賛成だが一部反対48 %」、「反対だが一部賛成11%」、「全面的に反対1%」と いうもので、私のような「アンチ橋下」の意見の持主は100 人に1人、わずか「1%」の存在でしかない。 また、橋下知事に対する支持率も、「支持66%」、「不支 持6%」、「どちらともいえない27%」というもので、これ も圧倒的に高い支持率だといえる。つまり橋下再建案の中身に ついても、これを推進する橋下知事の政治姿勢についても、大 阪府民は「諸手を挙げて賛成」だというわけだ。 こんな数字を見て思い出すのは、小泉郵政選挙の頃の国民の 熱狂ぶりだろう。テレビニュースの光景では、街頭演説会では 携帯電話を持った聴衆が山のごとく集まり、カメラを向けて 「純チャン!」と黄色い声を上げていた。小泉ポスターも爆発 的に売れたという。あれから2年ほど経って、どこかの新聞の 川柳欄に「純チャン!と叫んだ私が馬鹿だった」(オバサン) という句が出ていたが、それに気付くまでに2年もかかったの だ。 小泉氏と橋下氏は随分年齢も離れているし、世代も違う。と はいえ「劇場型政治」のポピュリスト的手法で有権者を操作し ようとする点では、まるで「瓜二つ」といったところだろう。 小泉氏の場合は、郵政族議員、郵政省役人、郵便局職員を既得 権益にあぐらをかく「特権勢力」、「抵抗勢力」に仕立て上げ、 格差社会の底辺で呻吟する国民の反感を煽って一挙に民営化を 強行した。 大阪府は日本の中でもとりわけ格差社会の歪みが激しい地域 だ。日本一高いといわれる犯罪発生率やその他の否定的社会現 象の頻発がそのことを示している。府職員をはじめ府下自治体 の公務員は、その存在自体が「安定した恵まれた職種」として 羨望と妬みの的になっているのである。橋下氏はこのような庶 民感情に火を付け、これまでの財政悪化の原因を「仕事をしな い高給取りの府職員」の所為になすりつけることによって、人 件費を削ることがあたかも財政再建の「要」であるかのような 論法で世論に訴えてきた。それが「スピード感のあるオープン な議論」として拍手喝采を浴びたというわけだ。 このことを何よりも雄弁に物語っているのは、今回の世論調査 の項目の中で府民が「削られてもやむを得ない」と思う分野は、 「職員の人件費46%」、「建設事業33%」の2つがダント ツで1位、2位を占め、後は微々たる数字に止まっていること だろう。つまり「不要不急の土建公共事業とそれで飯を食って きた役人はもう要らない」というのが、大阪府民の率直な気持 ちだということだ。これに対して「削られるのが最も心配」な 分野は、「医療38%」、「福祉25%」、「教育21%」が 御三家だ。つまり「生活のインフラ」であり、「セイフティー ネット」である医療・福祉・教育の3分野は、「削られたら困る」 というのが府民感情なのである。 しかし考えても見たい。医療・福祉・教育サービスを担ってい るのはいったい誰なのかということだ。これらの分野での最大 支出項目は人件費なのである。医者、看護師、介護福祉士、保 育士、教員などの人件費を確保しなければ、これらの分野での 社会サービスを安定的に供給することができない。橋下再建案 の最大のトリックは、府職員の人件費削減と医療・福祉・教育 分野のサービスカットがあたかも別物であるかのような構図を 組み立て、底辺の庶民感情を煽って「公務員バッシング」を演 出して、人件費削減を再建案の中心に据えたことなのである。 残念ながら、いまの日本の政治水準では、「世紀のトリックス ター」である小泉氏や橋下氏のこのような「政治トリック」を 即座に見抜くのは難しいようだ。後期高齢者医療制度一つをとっ てみても、多くの国民は実際に年金から保険料を天引きされる までは「痛み」を感じることができなかったのである。だから 橋下再建案のトリックも、現実の「痛み」を感じるまでは見破 られることがないのかもしれない。 橋下知事の支持率では、自民・公明支持層79%、民主支持層 67%、共産支持層32%と支持政党の与野党別で比較的分散 している。しかし「府職員の人件費削減」に関しては、自民支 持層81%、公明支持層79%、民主支持層85%、共産支持 層81%と、支持政党に全く関係なく圧倒的に「賛成」側に傾 いている。このことは「反役人感情」を基礎とする「公務員 バッシング」の根がいかに深いかを示すものだ。この府民感情 と府職員の溝をいかに埋めるか、そこに橋下再建案攻略のカギ が秘められている。(続く) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 6月27日:北九州市の生活保護行政の過酷さと惨状(1) (橋下知事の人物像を解剖する、番外編) 橋下大阪府知事が6月24日、2008年度の本格予算案を発表し た。「大阪維新プログラム」と銘打った未曾有の財政リストラ 計画を若干手直ししただけでの提案だ。大阪の私学関係者やP TAなど組織始まって以来の反対大署名運動も「どこ吹く風」 と眼中になく、また府職員労働組合の徹夜交渉も無視した上で の予算案の強行上程である。 07年度予算と比べて前年度比10%減、約3330億円も削減した この予算を、橋下知事は「100点満点の出来」と自画自賛したと いう。また府財政課(長)からも、「こんな予算見たことがな い」といわれてご満悦だったらしい。さしずめ「コストカッタ ー」といわれた日産自動車ゴーン社長の「大阪府版」というと ころだろうか。 この予算案が7月府議会でそのままスンナリと通るのか、それ とも府民の総反発を恐れた自民・公明与党会派の動揺によって 修正されるのか、事態の行方は予断を許さない。しかし府議会 が予算案の生殺与奪のカギを握っている以上、今後は府会議員 への働きかけが決定的になる。大阪府民は気持ちを新たにして ぜひとも頑張ってほしいと思わずにはいられない。 ところで、今回の橋下リストラ予算で犠牲となった福祉、医 療、教育関係予算の大幅削減や人件費の過酷なカットなどに関 しては、その先例となった自治体に北九州市がある。北九州市 といえば、厚生労働省の官僚が30年近くも天下りを続けて社 会福祉行政を極度に切り詰め、国の構造改革政策の先取りをし てきた大都市として有名だ。 他の大都市ではここ20数年来全て生活保護世帯数が増えている というのに、ひとり北九州市だけが減少を続けているという異 常な状態が、ここでは「正常な状態」とされているのである。 なにしろ生活保護申請の2割しか受け付けないという「内規」 があり、それが厳重に守られている「棄民都市」なのである。 だから保護申請を断られて餓死を強いられ、数カ月後にミイラ 姿で発見されたとか、いったん保護を受けたものの「辞退」を 強いられて餓死したとか、このところ社会(行政)事件が相次 ぎ、ニューヨークタイムズの国際版(2007年10月12日)にも1 面トップで報道されるほど有名(悪名)になる始末だ。 大阪府と北九州市では府県と指定都市という機構制度上の違い はあるが、住民生活に直結する福祉・医療・教育予算の大幅カッ トがどれほど悲惨な結果をもたらすか、という点では一向に変わ らない。その過酷な行政の実態と悲惨な住民生活の結果を、6月 14日〜15日に北九州市立大学で行われた日本公共政策学会の報告 や討論で目の当たりにした。 私が参加したのは、1日目午後のセッションの「都市の貧困化 と限界コミュニティ」という分科会である。報告者は池田清氏 (下関市立大学)と楢原真二氏(北九州市立大学)、そして山 下厚生氏(北九州市教育・生涯学習研究会)の3人だった。公共 政策学会の会員でない私がこのセッションに出席したのは、コ ミュニティ政策の研究者の一人として「討論者」の役割を果た すことを要請されたからである。 「限界コミュニティ」とは、「限界集落」をもじった造語だ。 最近は「限界自治体」とか「限界地域」とかいったふうにも使 われているので、一種の流行語となっている。しかしもともと は大野晃氏(長野大学)が高知大学に在籍時代に、高知県の過 疎中山間地域の集落調査を通して作った学術用語なのである。 65歳以上の独り暮らし老人が集落人口の過半数を占め、道路 や河川の補修、冠婚葬祭などを含めて日常生活を維持していく ことが不可能になり、集落が存続していく上でもはや限界状態 に達している有様をあらわす言葉である。 「限界コミュニティ」は、このような状態が実は都市部、そ れも大都市において現われていることを告発する象徴的な言葉 として今回は用いられた。私の解釈でいえば、「(大)都市住 民における高齢・貧困・孤独の三位一体の局地的集中現象」と いうことにでもなろうか。社会福祉を極限にまで切り詰めた北 九州市においては、それが地域社会での「限界コミュニティ」 として典型的に現われているというわけだ。 報告のなかでも、北九州市立大学の楢原教授のフィールド調 査の結果が圧巻かつ衝撃的だった。学会が終わってから実際に 現場に行ってみたのだが、小倉駅から門司港よりの2つ目にJR小 森江駅という小さな駅がある。駅前広場には、第2次大戦中に 作られた「トーチカ」(防空壕)がまだ残っているという寒々 とした駅だ。そこから山側に歩いて5分、後楽町団地という老朽 化した市営住宅団地がある。5階建ての鉄筋アパートが6棟、 約200戸の小規模団地だ。ここで昨年、生活保護申請を拒否さ れた独り暮らし老人がミイラ姿で半年後に発見された。 この団地を昨年夏に調査した楢原氏によると、65歳以上の高 齢者比率は87%、平均年齢74歳、独り暮らし比率83%とい う。外から見ても至る所に空き室がある。これなら孤独死をし てミイラになっていてもわからないはずだ。住んでいる高齢者 たちは「ここは姥捨山やから」と嘆き、「わたしらはもうどう でもいいよ」と諦めているのだという。楢原氏はこの有様を 「ここは高齢者の最終処分場・終末処理場だ」と表現した。 (続く) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 本メールマガジンは、HP「広原盛明の市民フォーラム」にて 掲載された「つれづれ日記」をまとめて、 週1回配信しております。 発行:広原盛明 メールアドレス:hirohara@skyblue.ocn.co.jp URL:http://www.hirohara.com/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


