山岳プロガイドによる『山歩き』からの『登山』入門 Vol.20
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山岳プロガイドによる『山歩き』からの『登山』入門 【020】2008/02/10
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今年最初のメルマガ発行です。今回は、雪山での事故や遭難についての
内容と、最近は実践する人が少なくなった冬期登攀のエッセイです。
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<<今回のお題>>
□ 登山の部 □
・アルピニズム的こころ その1
『「北アルプス大日岳の事故と事件」を読んで』
2000年3月5日、文部省(当時)登山研修所主催の大学山岳部リーダー冬山
研修会の研修中、大日岳山頂付近で巨大な雪庇が崩壊し11名が転落。研修生
の学生2名が雪崩に流されて行方不明となり、その後の捜索により5月と7月に
遺体となって発見された。結果的に、刑事裁判では「不起訴」、民事裁判で
は1億6700万で「和解」になった遭難事故(事件)で、前記報告書は「被疑者」
となった2人の登山家と支援する人々の記録ですが・・・
・アルピニズム的こころ その2
『冬壁の一日』
冬の岩壁を登るクライマーは最近少なくなりました。競技クライミングと
の違いは、落ちれば死ぬという前提です。過激にして誇り高きアルピニズム
の世界。その中でもちょっと気軽なクライミングの一日を書いてみました。
◇お知らせ◇
『山登りなんでも相談掲示板』『やっほー掲示板』『山崎日記』
□ 登山の部 □********************************************************
◇◇アルピニズム的こころ その1◇◇
『「北アルプス大日岳の事故と事件」を読んで』
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この記事はこちらで写真月の内容がご覧いただけます。
http://kangchenjunga.blog121.fc2.com/blog-date-20080108.html
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2000年3月5日、文部省(当時)登山研修所主催の大学山岳部リーダー冬山
研修会の研修中、大日岳山頂付近で巨大な雪庇が崩壊し11名が転落。研修生
の学生2名が雪崩に流されて行方不明となり、その後の捜索により5月と7月に
遺体となって発見された。
2000年4月、事故原因を明らかにし、再発防止のための方策を探るため、雪
氷学、測量学、登山など各方面の専門家の力を結集して「事故調査委員会」
が設置され、2001年2月に報告書『北アルプス大日岳遭難事故調査報告書』が
発表された。
2002年6月、所轄署である富山県警上市署は研修会の講師10名、所長、専門
職に対して事情聴取を実施。そして、主任講師であった山本一夫氏、死亡し
た2名の担当講師の高村真司氏は同年11月に業務上過失致死罪容疑で富山地方
検察庁に書類送検された。
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結果的に、刑事裁判では「不起訴」、民事裁判では1億6700万で「和解」に
なった遭難事故(事件)で、前記報告書は「被疑者」となった2人の登山家と支
援する人々の記録ですが・・・
私には、登山行為の根底にある「自己責任」や「危険に対する覚悟」とい
った登山者の主観(価値観)から出発して「偶然に起こった事実の意味」を考
えたい精神と、刑事事件として山岳遭難に司法が介入する場合の当然の方法
として事実関係の中での「過失責任の所在」を確定したい方法論とのぶつか
り合いと思えました。
「事実の意味を考えたい精神」と「事実を確定したい方法論」との摩擦が
生まれるわけですが、結論的には、司法の場では「事実を確定したい方法論」
を採用するべきであり、また同時に司法がある一定の結論を確定したからと
いって、それが事故の本質的意味を説明するものではないことを覚えておか
なければなりません。
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私自身も、現場の登山家として、やはり事故の「偶然に起こった事実の意
味」に重点をおいて主観的に考えるでしょう。したがって、考える要素は客
観的事実のみとはなりません。
大日岳周辺の地形で風下側に張り出した吹き溜まりと雪庇付近を引率して
登る場合、登山では稜線から庇のように張り出した雪庇は慎重に扱いますが、
山稜から風下側に堆積した雪の吹き溜まりは安定したものと捉えることが多
いので、実際25〜30mであった雪庇(吹き溜まり+庇部分)を、庇部分(10m程
度)のみ危険と捉えたと思います。それに加えて、現場での天候、寒気、視界、
風速、疲労度、パートナーの状態、自分自身の心理など、これらを総合して
実感するように分析して、初めてこの事故で偶然に起こったことが私にとっ
ての意味を持ちます。
もっとも、このように主観的な意味を求める精神には、事故の原因となっ
た事実の因果関係を軽視してしまう危険性を孕んでいて、客観的に考えられ
る事まで主観によって硬直させてしまうこともあるので、その意味は、私だ
けに意味のあるものでしかありません。
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こうした考え方から、もしこの事故の原因が講師の判断ミスと言えるかと
聞かれれば、崩壊したのは庇の形状に張り出した所謂「雪庇」ではなく、そ
の根元の吹き溜まり部分から先の崩落であって、普通は安定している吹き溜
まり部分に乗ったことは「判断ミスではない。崩落は偶然であり、講師の注
意義務違反はない。」と考えます。ここでまた私は「偶然」という言葉を使
います。
登山においては「偶然」というのは理解可能なものであって、登山者は山
での偶然の出来事を受入れることが出来るし、かえってその「偶然」そのも
のに登山という行為の部分的本質を感受するのが本物の登山家とも思えます。
しかしながら司法では、「偶然」にも何らかの因果関係が求められます。法
や裁判は「偶然」を「偶然」のままでは扱うことが出来ないからであって、
これはこれで罪刑法定主義と適正手続きの点で正しい考え方といえると思い
ます。
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そうした思想の違いを際立たせる部分がありました・・・
「わたしは日頃、登山中の事故に『不可抗力はない』。事故はすべて自分
たちのミスによって、『起こるべくして、起こるものだ』と言い続けてきま
した。山に登るときはその気持ちをもちつづけて来ました。今回の事故は私
のミスによるものだと思っています。ご遺族の皆々様に、この場をお借りし
て、あらためて深くお詫び申し上げます」
事故報告会の席上で山本一夫氏のこの発言に文科省は激怒したわけですが、
むしろこれは山本一夫氏という登山家のごく自然な言葉で、人としての資質、
その人柄が端的に現われていると思います。そして、こういう人を仲間と思
いたいと感じます。
これに対して、被疑者側弁護士三野氏は指摘します・・・「あの時ああい
うことは考えられなかったとか、こういう事も出来たのではないかと、1人
の登山家として事故の真相に迫ることは」「事件=裁判では自分の過失を認
めるのだなということになり」「つっこまれてしまいます」・・・「なぜ、
どのように事故が起きたのか、今後どうすればいいのかを徹底的に議論でき
るのは」「裁判ではない」・・・
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登山としての真相究明と、手続きとしての司法捜査は、両立しないのでしょ
うか?確かに司法の場では両立しません。しかし、考えてみると、過去の事
故を清算するために「事実を確定したい方法論」と、事故から学んだことを
未来に活かすために「事実の意味を考えたい精神」とは、それぞれの場で双
方が実践されることにより活かされます。
司法手続きは終わりました。我々には、それぞれの立場でこの事故の意味
を考えるときが来ています。この本は「山岳事故における法的責任」、「大
日岳遭難事故に関わる雪庇の形成と破壊に関する考察」、「大日岳の巨大雪
庇」などの分析によって、考える材料を必要なだけ与えてくれます。さらに
十分な材料を求めるには、我々は山に戻らなければなりません。
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それにしても・・・山岳会や登山グループでリーダーがメンバーを引率す
る場合でも、もし事故が起こった場合はリーダーとしての「注意義務違反」
を問われ、場合によっては「業務上過失致死傷害罪」で告発される可能性を、
我々は認識するべき段階です。「業務上過失致死傷害罪」は親告罪(告訴がな
ければ事件にならない)ではないので、遺族や被害者の告発・告訴がなくても
立件される可能性があります。山岳会や登山グループではこの点のリスクマ
ネジメントについても、登山準備段階から現場での危険性や判断基準を文書
化し周知するなどの対応が必要でしょう。
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(^^)メールはこちらまで→ mailto:feo_fuerte_y_formal@msn.com
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◇◇アルピニズム的こころ その2◇◇
『冬壁の一日』
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この記事はこちらで写真月の内容がご覧いただけます。
http://kangchenjunga.blog121.fc2.com/blog-entry-39.html
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南光河原駐車場で車を降りた時点では、まだどのルートを登るか決めてい
ない。元谷まで登って北壁全体のコンディションを見てからルートを決める
ことにしているので、とにかくクライミングの装備は全て持って行くはずが
・・・ここで大事なギアを忘れたのは事実である・・・
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元谷から北壁を眺める・・・
天候はまずまず、南岸低気圧が雪を降らせて去った後、弱い冬型の気圧配
置になっているはず。ということは午後にはガスが上がってきて風も若干強
くなる。
北を向いたそれぞれの谷筋にはたっぷりと新雪が積もっている。ここで考
えることは主に2つだ。第1に壁がガッチリと凍っているかどうか?特に別山
北壁や大屏風は、岩が緩んでしまう位に気温の高い時に登るのは危険だが、
今朝は良いコンディションに見える。第2に壁の基部までのアプローチルート
に新雪雪崩のリスクがあるかどうか?今日は規模は小さいながらもリスクが
あるように感じる。
パートナーのTとしばらく相談した結果、別山バットレス北壁の中央稜に決
める。ただしルートの開始地点までのアプローチは、普通は元谷小屋奥の尾
根の東側を登るのだが、今日はアプローチ上部で弥山尾根付近からの雪崩も
ありえるので、尾根通しを登ることにした。つまり元谷小屋から中央稜ルー
ト開始地点を目指して尾根上をラッセルすることになる。
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案の定、ラッセルは厳しい。腰までの積雪の中、急な斜面では胸までのラ
ッセルをTと2人で交替しながら進む。約2時間のアルバイトで別山バットレス
の基部に到着。改めて壁の状況を観察しながら、クライミング装備を身につ
ける。
防寒着に着替えてハーネスを装着。ハーネスのギアラックに確保用のカラ
ビナや制動器を掛けてゆく・・・なんか足りないな・・・オー、ピトン(ハー
ケン)を全部忘れた!冬壁用に買っておいたアングルピトン(氷雪の詰まった
割れ目に打ち込むV字型のハーケン)とナイフブレード(同じく幅の広い割れ目
用)各種・・・
ここでルートの状況を必死で思い出して、ピトン無しで行けるかどうか、
気持ちの上で確認。ビレイポイント(確保地点)には残置ピトンや残置ボルト
があるはずなので、登ることには問題ない。この場合心配なのは、いざ壁の
途中から撤退という時の懸垂下降や自己確保のために、それらのギアが要る
かも知れないという懸念だ。
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急な雪璧からルートを登りはじめる。隣の弥山尾根に3人パーティーが取り
付いている。我々よりも早い時間にクライミングを始めていたが、最初のピ
ッチをトップが登っているところだ。我々は開始地点から50〜60Mほど登って
中央稜のリッジ上に出たが、まだまだ上部までコンティニュアス(お互いにロ
ープで繋がっているがランニングビレイ以外の確保はしない)で登るのでスピ
ードは速い。時間を忘れて中央稜を半分ほど登ったところでしばらく休憩。
後続のTを待って、ここからはお互いを確保しながら登ることにする。
ところどころ際どい部分を乗り越えながら、2ピッチ登って核心部の凹角下
部でビレイ。雪が降っているが風はほとんどなく、ノンビリしたクライミン
グだ。凹角の岩の部分まではアイゼンの前爪を氷雪璧に蹴りこんでのスムー
ズなクライミング、ただし頼りになるランニングビレイ(中間確保)はあまり
ない。そんな状況から凹角下に入り込んで初めて埋込みボルトにランニング
ビレイをとる。浮石を慎重に確認しながら、凹角をまたぐ体勢で登ると、股
の間から急なリッジが切れ落ちているのが見える。凹角を突破して確保地点
へ。今度はTが登るために確保する。
私はガイドクライミングでも何度もここを登ってるが、Tは今日がこのルー
トの初クライミング。凹角では少し苦労していたが、さすがにベテランだけ
に安定して登ってくる。実はここから上部にも、きついオーバーハングと、
おっかないナイフリッジが待っている。
天候はまだまだ崩れてはいないが、雪と風が少しづつ強くなってきている。
隣の弥山尾根を登っているザイルパーティは、まだ我々よりも100Mくらい下
で苦労している。彼らは日没までにルートを登りきることが出来るだろうか
・・・
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次のピッチのオーバーハングを越えると、雪璧の傾斜がゆるくなり、やが
て右上部に別山北壁の最高点が見える。そこまで1ピッチを残してビレイ点を
作り、Tを確保。
最高点まで40M、その先は大山の頂上稜線までナイフリッジが続いているが、
これがまたいやらしい。特にナイフリッジのクライムダウンには気を遣う。
Tがトップで降りる。途中のコル(鞍部)で確保。ここからは再びコンティニュ
アスクライミングで頂上稜線を目指す。
ナイフリッジを15分ほど登って頂上稜線の雪のプラトーに出る。ここで本
日のクライミング終了。登ってきたTとガッチリ握手して、早々に装備を片付
けて下山を開始する。
風雪がいっそう強くなり、6合目の避難小屋まで下る間に顔半分の眉毛や髭
に氷が張り付く。吹雪が痛くて風上に顔を向けることは出来ない。これは冬
の大山の稜線では普通のこと。しかし弥山尾根のザイルパーティーはまだ北
壁を抜けていないと思われるので心配だ。後2時間もすれば暗くなってくる。
北壁を抜けさえすれば、頂上の避難小屋でビバーク出来るので安全だろう。
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5合目の少し上から元谷側に下降。一般ルートを歩いて降りるのが面倒なの
で、元谷まで一気に滑って降りる。非常に快適。頂上から1時間で元谷に到着。
北壁は完全にガスに覆われて、既に近づく者を拒否しているようだ。気がつ
けば、2人ともクライミングに夢中で昼飯を食べ忘れていた。それに気が付い
た途端に腹が減ってきた。
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下記のように移転しました!コメント・投稿をお待ちしています!
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\(^o^) 山登りなんでも相談掲示板 (^o^)/
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山の天候のこと、バテない登り方とか、何でも相談してください。
山岳プロガイド山崎、またはそれぞれのご相談に適した専門家が回答します。
誰でも投稿可です。プライベートな山の写真などの画像が投稿できます。
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(^_^)v 山崎日記 (^_^)v
http://kangchenjunga.blog121.fc2.com/
以前は『閑話休題』として書いていたものですが、再開しました。
週1回更新が目標です。
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◇021号掲載予定(あくまで予定)◇
・『船通山/島根県』−奥出雲の名山を残雪期に登る−
・『アルピニスト列伝−ワルテル=ボナッティ(Walter Bonatti/伊)』
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※図表が崩れて見える方は、 http://www.mag2.com/faq/mua.htm を参考に、
等幅フォントに設定してご覧ください。
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【発行者略歴】
山崎裕晶(やまさきひろあき)。1966.3.3兵庫県出身。山岳プロガイド。
アルピニスト。岡山大学山岳会会員。国内難ルート冬期登攀。ガッシャブルム
主峰(8,068m)西陵の初登攀などの海外遠征。ニュージーランドでの山岳ガイド
を経て、国内山岳ガイド多数。過去5年間のガイド登山で述べ7,000名以
上をガイド。現在も毎月約120名をガイド。
アルバム=> http://kangchenjunga.web.fc2.com/yama/history/01.htm
Eメール => mailto:feo_fuerte_y_formal@msn.com
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【発行者】山崎裕晶(やまさきひろあき)
【発行者サイト】 http://kangchenjunga.web.fc2.com/yama/
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発行しています。
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